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高校教科書の検定 新基準で教科書会社が修正も
3月18日 12時17分

高校教科書の検定 新基準で教科書会社が修正も
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来年4月から使われる高校の教科書の検定が行われ、地理歴史、公民では、国の新たな検定基準が初めて適用されて南京事件などの記述に合わせて5件、改訂された指針に基づき領土に関する記述に22件の修正を求める意見が付き、教科書会社が修正しました。最近の社会の動きも数多く登場し、集団的自衛権の行使容認についての記述は、現代社会と政治・経済のすべての教科書に盛り込まれています。
今回の検定は、来年4月から主に高校1年生が使うすべての必修教科の教科書が対象となり、18日に開かれた文部科学省の審議会で259点が合格しました。
このうち地理歴史、公民では、おととし告示された国の新たな検定基準が初めて適用され、南京事件で日本軍が殺害した中国人の人数や、関東大震災の混乱の中で殺害された朝鮮人の人数などについて、「通説的な見解がないことが明示されていない」という意見が付いたほか、日本の戦後補償の記述に「政府の統一的な見解に基づいた記述がされていない」という意見が付きました。
修正を求めるこれら合わせて5件の意見を受け、教科書会社は、日本史の教科書の該当する部分を修正しました。
また、領土に関する教育を充実させる必要があるとして、おととし改訂された教科書作成などの指針「学習指導要領の解説書」に基づき、現代社会などの教科書で、尖閣諸島や竹島、それに北方領土の記述に合わせて22件の意見が付き、教科書会社は修正しました。領土を巡る記述は、これまでの1.6倍に増えています。
新しい教科書には最近の社会の動きや話題も数多く登場し、集団的自衛権の行使容認についての記述は、現代社会と政治・経済のすべての教科書に盛り込まれています。
この中では、「第9条の実質的な改変」という見出しに「生徒が誤解するおそれのある表現だ」と意見が付いて、教科書会社は、これを「自衛隊の海外派遣」とするなど、合わせて5件の意見を受けて修正しました。
このほか、いわゆる性的マイノリティーの人たちを示す「LGBT」や、「ブラック企業」ということばが初めて登場しています。
新しい教科書は、ことし6月以降、各地で公開され、8月末までにどの教科書を使うか決める採択が行われます。

文科相「適切な検定だった」

今回の教科書検定について、馳文部科学大臣は「新しい基準に基づいて適切に検定が行われ、バランスのよい教科書になったと思う。領土や集団的自衛権についても盛り込まれており、18歳で選挙権を得ることになるので、政治に対する知識や教養を高めてもらいたい」と述べました。

専門家「正常化の方向」「政府の意向に沿った記述」

今回の検定について、現代史の研究者の秦郁彦さんは「教科書は生徒の能力や経験に見合った中立的な立場から書くべきだが、自分の歴史観や解釈を押しつけようという立場の執筆者が少なくない。今回の検定では説が分かれているときには異説も記すようになっており、正常化の方向に向かっている」と指摘しました。そのうえで、「政府が言っていることは知識として知っておくべきで、多面的・多角的に歴史をみていく習慣を、高校生のころから身につけることが大切だ。活字文化が廃れていくなか、逆に教科書の役割は重くなっており、きちんとした検定が重要だ」と話しています。

流通経済大学の植村秀樹教授は「本来、教科書検定というのは、不適切な記述を修正して適切な記述にすることが目的のはずだが、今はいわば、政府の意向に沿った記述を書かせる検定という方向に進んでいっているように思える。多様性や柔軟性が失われてくるのではないか」と指摘しています。そのうえで、「国際化が進んで子どもたちは将来、海外にも出ていくので、日本の政府の立場、あるいは外国の政府の立場や主張など、さまざまな立場、見解をバランスよく記述するのが教科書のあるべき姿だ」と話しています。

教科書会社 検定をどう感じた?

新しい検定基準などが適用された「地理歴史」「公民」の教科書を作成した8社に、今回の検定をどう感じたか取材しました。
5社は「前回と変わらない」と答え、2社は「やや厳しくなったと感じた」、1社は「やや緩和したと感じた」と答えました。「やや厳しくなったと感じた」と答えたうち、1社は「通説が定まっていない事柄については、新たな基準を意識して複数の数字を載せたつもりだったが、『本文に書いてはだめだ』と修正を求められた」と話していました。
もう1社は「領土や政府の立場を巡る記述について厳しくなったと感じた。教科書は基本的なことを教える部分と、それを基に生徒に考えさせる部分があり、政府の考えとそうでない考えを両方提示したいのだが、政府の立場を丁寧に記すと、スペースの関係で考えさせる項目は絞らざるをえなくなる」という声も聞かれました。
「やや緩和したと感じた」という1社は、「意見がひとつも付かずに合格した教科書があるなど、全体的に意見が少なかった」としています。
取材の中ではほかにも「検定によって子どもたちに届けたい教科書になったかと言われれば、そうではないが、教科書である以上はしかたがない。18歳選挙権や大学入試改革など、教育現場の現実に対応できる教科書にすることのほうが検定に向き合うよりも切実だ」という指摘もありました。

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