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野球賭博問題に揺れるプロ野球

3月18日 21時9分

竹中侑毅記者

プロ野球の開幕が3月25日に迫るなか、球界が大きく揺れています。
去年10月に発覚した巨人の選手による野球賭博問題は、3月に入って新たに4人目の関与が明らかになり、再び調査が始まりました。さらに、試合前の円陣で声出しを担当した選手に、ほかの選手が祝儀として現金を出すなどの慣習が7つの球団で行われていたことも分かりました。
夢や希望を与えるべきプロ野球選手の倫理観が今、問われています。
スポーツニュース部、野球担当の竹中侑毅記者が解説します。

3選手で終わらなかった野球賭博

今月8日の夜、巨人が緊急の記者会見を行いました。発表したのは、プロ5年目、中継ぎとして活躍する高木京介投手の野球賭博への関与でした。新たに4人目の関与が明らかになったことで、巨人は、渡辺恒雄最高顧問、白石興二郎オーナー、桃井恒和球団会長のトップ3が責任を取って辞任する事態となりました。

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巨人の選手による野球賭博問題は去年10月に発覚しました。プロ10年目の福田聡志元投手が2015年8月から9月にかけて、巨人の試合を含むおよそ10試合で野球賭博をしていたと球団が発表しました。その後、プロ野球の熊崎勝彦コミッショナーの指示で調査が始まりました。元選手が提出した携帯電話から削除されたメールやLINEアプリの履歴などを復元して調べた結果、7年目の笠原将生元投手がおととし4月以降にプロ野球の20試合から30試合、松本竜也元投手がおととし6月以降に十数試合で賭けをしていたことが分かりました。相手は野球賭博の常習者で、3人はいずれも無期失格処分となり、巨人には1000万円の制裁金が科せられました。
野球賭博で処分が行われたのは、昭和44年に当時の西鉄の選手が暴力団が関係する野球賭博に関わり、自分のチームが負けるようにプレーする八百長を行っていたことが発覚したのをきっかけに、複数の選手がプロ野球界からの永久追放処分を受けた黒い霧事件以来、およそ半世紀ぶりのことでした。しかし、去年秋の調査報告書では「重要な関係者から十分な聴取の協力が得られず、組織的全体像までを明らかにできているものではない」とするなど、全容を解明したとは言えないものでした。結果として、高木投手の関与を見抜くことができなかったのです。

再調査はどこまで進む?

高木投手の関与が明らかになったことで、3月10日から再び調査が始まりました。熊崎コミッショナーは「許される範囲で徹底した調査をし、不正を徹底してあぶり出す」と強い決意を見せています。
しかし、その道のりは平たんとは言えません。調査は警察や検察の捜査と違って、任意で行うしかないからです。
応じてもらうためには相手の同意が必要です。調査委員会では、巨人で広がった野球賭博問題で中心的な存在だったとみている笠原元投手と、笠原元投手の賭博の相手だった飲食店経営者の2人を全容解明の「キーマン」と考えています。このうち飲食店経営者は、去年秋の調査にもほとんど応じず、組織的全体像を明らかにできなかった大きな要因になりました。再び始まった調査に対しても、弁護士を通して協力を断ってきたということです。
熊崎コミッショナーは「粘り強く働きかけていく」と引き続き協力を求めていく姿勢を打ち出していますが、効果的な手を打てていないのが現状です。

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一方、笠原元投手は、高木投手の関与が明らかになった直後は調査への協力を拒んでいましたが、現在は、交渉ができる段階まで進んだということです。
シーズン開幕が迫るなかで、「キーマン」への調査を進め、球界を揺るがす野球賭博問題の全容解明につなげることができるのか、正念場を迎えています。

問われる倫理観

野球賭博問題とともに、プロ野球で続けられてきた「慣習」も問われています。試合前の円陣で声出しを担当した選手に、祝儀として他の選手が現金を出すなどの慣習は、3月14日に巨人が公表してから、15日に阪神と西武、16日にはソフトバンク、17日には広島、楽天、ロッテが相次いで発表しました。実に12球団のうち、半数以上の7球団で行われていたことになります。

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さらに円陣の慣習以外にも、守備練習でミスをした選手から罰金を集め、懇親会費や寄付金に充てていたことが明らかになった球団もあります。
こうした慣習は、野球賭博とは違って野球協約に違反する行為ではありません。しかし、なぜ野球賭博問題が起きたかを考えると見過ごすことはできません。
野球賭博問題の調査報告書では、ロッカールームで行われていた現金を賭けたトランプやマージャンに加え、こうした慣習も野球賭博につながった背景にあると指摘しています。無期失格処分を受けた選手のうち1人も「賭けが日常的に行われていたので、野球賭博をすることにも何か壁を越えるような感じはなかった」と話しているのです。

信頼を取り戻すために

プロ野球ではことし1月、熊崎コミッショナーが12球団に対して、賭博に当たるかどうかを問わず、野球に関する現金のやり取りを行わないように指導の徹底を求める異例の通達を出しました。こうした慣習は今は行われていませんが、シーズン開幕が迫るなか、セ・リーグが17日に、パ・リーグが18日に緊急の理事会を開きました。各球団からは、慣習も野球賭博の温床となるおそれがあるという意見が出され、両リーグともに行わないことを改めて確認しました。
また、野球賭博の再発防止に向けては、日本野球機構や選手会などが各球団で研修会を行ったり、球団によっては独自の対策委員会を設けたりするなど、動きも加速しています。
プロ野球選手は、夢や希望を与える存在でなければなりません。ファンの信頼を一刻も早く取り戻すためにも、倫理観が問われています。


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