2016年03月18日

◆ 保育園への補助金を廃止せよ

 保育園への補助金を廃止するといい。そうすれば、保育園の不足は一挙に解決する。

 ──

 保育園の不足を解決するには、どうすればいいか? 保育園への補助金を増やせ、という意見が多い。たとえば、これ。
  → 政府が待機児童対策で困っているようなので、具体策を出してみた

 しかし、その逆に、保育園への補助金を減らす方がいい。できれば、補助金を完全廃止するといい。
 「そんなことをしたら、保育園はますます足りなくなる!」
 と思う人が多いだろうが、さにあらず。ここは逆転の発想が成立するのだ。(嘘みたいだけど本当だ。)
 以下、説明しよう。

 ──

 そもそも、大切なのは、保育士の給与を上げることだ。一方、保育士の給与と補助金は別のことだ。ここを理解することが大切だ。保育士の給与を上げることが大切なのであって、補助金を上げることが大切なのではない。両者を混同してはならない。

 これに対して、「両者を一致させればいい」という見解もある。たとえば、上記リンクには、こうある。
 「特別処遇改善加算」によって、保育士給与を月平均8〜10万円程引き上げます。
 なお、経営側のみを潤す結果にならないように、 保育士給与にダイレクトに繋がるよう、実際に支払った給与と紐付けることに留意します。

 「特別処遇改善加算」という補助金を増やして、それを保育士の給与に結びつける、という発想だ。
 なるほど、これなら、この加算分の補助金は無駄にはならない。しかし、これでは、既存の補助金が無駄になっている点は放置される。ここが駄目だ。

 ──

 現在の制度の難点は、何か? 補助金が無駄になっていることだ。補助金が足りないのではない。補助金が無駄になっているせいで、補助金が保育士に回っていないのだ。
 具体的に言おう。認可保育園では、補助金の投入額は、不足しているどころか、大幅過剰というありさまだ。
 東京都では、私立認可保育園で約30万円、公立では約50万円を、0歳児1人当たりの保育費用として毎月補助しています。
( → 認可外だからこそ充実の保育が実現
 0歳児では、園児1人にかかる費用が411,324円なのに対して、保護者は平均19,084円のみ支払えばよい。残りの392,240円は、板橋区が補助金として出している。
( → 保育士の給料はなぜ安いのか #保育士辞めたの私だ

 つまり、園児1人あたり、毎月 30〜50万円も補助金を投入している。これで、不足しているはずがない。補助金は、不足しているどころか、大幅に過剰だと言える。
( ※ その金を親に渡す方が、はるかにマシだ。)

 これほど補助金が過剰なのに、保育士の給与が低いのはなぜか? その理由こそ、探るべきだろう。(その理由を放置して、補助金をやたらと投入しても、効果はろくにあるまい。)
 では、その理由は? 上記ページに書いてある。
 人件費を浮かせた金はどこへ行くのか。
 保育所運営費の余剰金は、基本は次年度繰り越しになるが、法人本部の運営費などに充てることもできる。
 A社では、市外の他園に資金移動をしている(つまり、本来は人件費に充てられるべき運営費が、他の市などで保育園を全国展開してさらに利益を出すための原資になっている)。
 さらに、人件費率43.4%のC社に至っては、保育園運営費で1億400万円もの投資有価証券を購入している。
 年収200万以下という激安価格で保育士をこき使い、浮いた金(しかも税金)を会社の好きなように使っているのだ。
( → 保育士の給料はなぜ安いのか #保育士辞めたの私だ

 こういう目的外使用のほかに、金を内部留保の形で溜め込んでいる。
 会計検査院が全国の6500の保育所を調査したところ、724の保育所が運営費の30%超(105億)を使わずに保有していた。
 つまり、保育園は福祉施設ではなく利益を得るための施設に変化してきて、規制緩和で児童数を増やして収入(補助金)を得るが、必要な人件費は払わない、という構図が生まれてきているのだ。
( → 保育士の給料はなぜ安いのか #保育士辞めたの私だ

 さて。こうして貯め込んだ金は、どこへ行くのか? もちろん、私腹だ。
 保育園経営が“利権化”している面もある。補助金事業で公的側面が強いにもかかわらず、後任の理事長も自ら決めることができる。現在では、二代目、三代目と、後を継いでいる保育園も多い。一族を職員として雇うことも多い。
 さらに、社会福祉法人の理事長は給与額を自分で決めることができる。こうして「合法的に私腹を肥やす」(認可保育園関係者)のだ。
( → 『週刊ダイヤモンド』編集部 清水量介[孫引き]

 つまり、保育士の給与を引き下げて、金をたっぷり貯め込んだあとは、その金を身内と自分への給与の形で、たっぷりと私腹を肥やすわけだ。
 さらには、他地域の事業を開拓するための資金に流用して、「将来の利益回収の投資」という形で、別の形で貯金することもしているわけだ。(株式投資するか、国債投資するか、そんな感じ。そのための投入資金として、自分の経営する保育所の金を流用するわけ。)

 では、こういうひどい公金流用の理由は、何か? もちろん、補助金が過剰であることだ。毎月 30〜50万円という過剰な補助金を投入すれば、そこで公金流用が起こるのは当然のことだ。
 このような公金流用システムを放置していることが、保育士の給与が低いことの根源的な理由だ。ここを放置して、いくら補助金を増やしても、穴のあいたバケツに水を入れるのも同然だ。ただの無駄。

 ──

 では、どうすればいいか? 穴のあいたバケツの穴を修理するべきか? いや、そんなことをしたら、制度改正やら監査やら、莫大な手間がかかる。まったく手間の無駄だ。
 もっと簡単な方法がある。穴のあいたバケツを使わないことだ。要するに、ここには水を入れないことだ。
 それはどういうことか? 保育園への補助金を一切廃止することだ。それが、「穴のあいたバケツに水を入れない」ということに相当する。

 というわけで、「補助金を全面廃止する」ということが、保育園不足を解決することの基本となる。

 ──

 では、そのあとは、どうするか? 簡単だ。保育園に補助金を出すかわりに、園児の親に給付金を払えばいい。(ただし無税扱い。)
 現状では、認可保育園で毎月 30〜50万円を払っている。認可外保育園では、数万円を払っている。両者の平均ぐらいの額として、1人あたり 15万円という数字を出しておこう。(仮の数字だが。なお、この数字には、児童手当を含む。育休給付金 のケースも含めて考える。)
 この 15万円という金額を、園児の親に給付金として払えばいい。(金額は一律。所得によって変動しない。ここが重要。)
 
 すると、どうなるか? 園児の親は、次の二つの選択肢を得る。
  ・ 毎月 15万円をもらって、自分で育てる。
  ・ 毎月 15万円前後を払って、認可外保育園に入る。

 そのどちらでもいい。通常、次のようになるはずだ。
  ・ 低賃金の母親は、毎月 15万円をもらって、自分で保育する。
  ・ 高賃金の母親は、毎月 15万円前後を払って、認可外保育園に入る。

 低賃金の母親ならば、毎月 15万円ぐらいの所得で、そこから、税金や社会保険料などを取られて、手元には 12万円ぐらいしか残らない。これじゃ、馬鹿馬鹿しい。だったら、自宅で育児した方がマシだろう。だから、自宅で育児をする。
 高賃金の母親ならば、毎月 15万円ぐらいの金を払っても、自分のキャリアを継続することを望むだろう。そもそも、毎月 15万円ぐらいの金を払っても、懐が痛むわけではない。国からもらった金を、そのまま保育園に回すだけだ。損も得もしない。だから、毎月 15万円ぐらいの金を払って、認可外保育園に入るだろう。

 全体的には、現状よりも、「自分で育児をする」という人が増えるはずだ。特に低所得者で、そういう道を選ぶ人が増えるはずだ。
 結果的に、保育園の入園希望者の総数は減る。つまり、需要は減少する。そのせいで、供給不足の問題は解決して、保育園は供給過剰となる。

 供給過剰となれば、保育園はたがいに競争する。
  ・ サービスを向上する。(保育士を増やす)
  ・ 料金を下げる ( 15万円でなく 14万円にします )

 こういうふうに、競争が起こる。競争に敗れた保育園は、客が来なくて、赤字倒産する。競争に勝った保育園は、サービスを向上させるために、保育士を増やしたり、保育士の給与を上げたりする。一方で、自分の私腹を肥やすことはできなくなる。
 
 結果的に、保育士も、親も、どちらも幸福になり、その反面で、保育園の経営者が私腹を肥やすことはできなくなる。
 めでたしめでたし。
( ※ この方法は、「私腹を肥やす状況を放置する」という案とは違う。ここに注意。)

 ──

 まとめ。

 補助金は、足りないのではなく、過剰である。
 その莫大な補助金は、保育士の給与には回らず、経営者の私腹を肥やすことに回る。
 この問題を解決するには、補助金を完全に廃止するといい。
 かわりにその金を、児童の親に渡せばいい。(毎月 15万円)
 毎月 15万円をもらった親は、次の二つから選択する。
  ・ 金をもらって、自分で育児する。
  ・ もらった金を払って、認可外保育園に入る。
 低所得者の親は、自分で育児するようになる。
 需要が減るので、保育園不足は一挙に解決する。
 供給過剰となって、保育園では競争が起こる。
 保育園のサービスは向上し、料金は下がる。
 保育園の経営者が私腹を肥やすことはできなくなる。
 あえて私腹を肥やそうとする保育園は、客が来なくて、倒産する。
 かくて、あらゆる問題は、一挙に解決する。
 (保育士の給与の安い保育園は倒産するので、保育士の給与は上がる。)

  ※ 現状では、保育士の給与の安い保育園は倒産しない。
    供給不足のせいで、劣悪な保育所にも客は来るからだ。



 [ 付記1 ]
 本項の提案は、「保育バウチャー」という提案によく似ている。
  → 保育バウチャー(池田信夫)
 まあ、それでもいいのだが、次の二点で異なる。
  ・ 保育するかわりに、自分で育てれば、給付金をもらえる。
  ・ 保育の場合、券のかわりに、無税の給付金を使う。

 券を使うか、現金を使うかは、手続き上の問題なので、どっちでも同じことだ。どっちでもいい。論点とはならない。
 大事なのは、「保育園に金を渡すのではなく、親に金を渡す」ということだ。さらに、「親はその金を自分で受け取ることもできる」ということだ。
 後者のことがあるので、券よりも現金の方がいいだろう。(少なくとも、自分で育てる道を取った親には。)
     ※ 池田信夫は、市場原理主義を取るのならば、バウチャーなんていう公的制度のかわりに、現金を選べば良かったのだ。この問題は、市場原理で解決するのだから、市場原理を貫徹して、現金という道を取れば良かったのだ。
     なのに、フリードマンなんかにかぶれているから、市場原理を貫徹できずに、バウチャーなんていう公営制度みたいなものを採用する。情けない。どうしてもっと市場原理を信じないのか? 

 [ 付記2 ]
 低賃金と高賃金で事情が異なる、という点については、前に言及した。そちらを参照。
  → 育休と比較優位
  → 保育所不足の完全解決 の (2)

 [ 付記3 ]
 コメント欄( Dawn さん)で教わったが、米国では
 「保育園への補助金などなしで、ほぼすべて私立の保育園です。保育料は0歳児で月16万ぐらい。周りはみんな共働きで高い保育料払ってますね」
 とのことだ。
 つまり、政府が何もしなければ(補助金も出さなければ)、状況は改善する、ということだ。
 ちなみに日本では、週 24時間労働で月収 10万円というパートが標準的だ。(時給は約 1000円。労働時間が少ないのは、130万円の控除限度のせい)。
 しかし、残業込みで週48時間労働なら、パートでさえ月収 20万円となる。月 16万の保育料を払うことは十分に可能だ。
 要するに、米国のように政府が何もしなければ、保育所不足の問題もなくなり、母親はちゃんと働くことができる。
 一方、日本では、補助金を出すという余計なことをするから、保育所不足の問題が生じる。保育所が必要のない人までが保育所に殺到するから、真に必要な人に保育所が行き渡らない。
 補助金は、問題を解決するというよりは、問題発生の元凶だとすら言える。「保育士の賃金が安い」という問題も、この元凶(補助金があること)から発生する副産物だ、とも言えるだろう。
 
 
posted by 管理人 at 23:56 | Comment(5) | 一般(雑学)4 このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事へのコメント
なかなか妙案ですね。経営者が私腹を肥やすほど経済は沈静化する傾向が生じると思うので、黒田バズーカよりも強力な手段になりそうです。
Posted by 京都の人 at 2016年03月19日 00:41
0歳児を保育園に預けている給料約10万のパートの30代の女に「もし保育園に預けないで自分で育てたら10万貰えるなら、家で面倒見る?」って実際に聞いたことがあります。
すると、彼女は「10万ならいらない、預けて働く」と言いました。
一瞬、えっ?お金の心配せず、子供と沢山触れ合えるじゃないか!子どもだって赤ん坊の時ぐらいママと一緒にいたほうがいいだろうに!っと思いましたが「働いてさえいれば、社会とのつながりは保てるし、それに働くことを止めてしまうと、いざ働こうと思った時に働けなくなる方が怖い(バカにすんな!)」と言われてしまいました。
私には彼女が本気でそう思って言ったのか、もしくは、0歳を預けていることに引け目を感じて反発してそう言ったのかがわからなかったのですが、難しいですね。
Posted by IT関係者 at 2016年03月19日 02:51
米国在住の者です。

米国ニューヨーク州(Cityでなく郊外)ですが、保育園への補助金などなしで、ほぼすべて私立の保育園です。保育料は0歳児で月16万ぐらい、2歳児以上で月10万ぐらいです。3歳児ぐらいだと教育学科の学士または修士を持つ保育士(というより先生?多分給料も割ともらってる)と補助に着くただの保育士(多分給料も安い)で分業してる感じです。質が悪いと感じたことはないです。周りはみんな共働きで高い保育料払ってますね。

低所得者層保護に保育園への支払いに限定された給付金があるみたいですが詳しくありません。中高所得者層は税金で保育料の控除あるけど微々たるものです。

0歳児に月30万の補助って、1人の保育士が3人見るなら90万補助+保育料で100万?儲かりそうですね。補助金なしで保育料16万x3=48万で保育士に30万払えないの?

ちなみにニューヨーク州は障害者教育補助は充実していて0〜2歳児は週5回ほど専門の資格を持った人が家庭へ訪問して療育、3〜5歳児からは障害者健常者混じった専門保育園で送り迎えのバス付き。しかも全部無料です。これには一人月30万以上の補助金出てると思います。
Posted by Dawn at 2016年03月19日 03:29
> 10万ならいらない、預けて働く

 それは当然でしょうね。認可保育園に入れるなら、
  ・ 約10万円の給料をもらえる
  ・ 働く時間は週24時間だけ。(3日分)
  ・ 2〜3万円の保育料を払うだけでいい
  ・ 30〜50万の補助金投入効果のサービスを受ける

 労働は半人分で、受けるサービスは2人分。ならば、働く方がお得です。

 一方、私の案は、
  ・ 働かずに もらえる額は 15万円。
  ・ 働いて 預ける保育料も 15万円。
 どちらが得だということもありません。単純にライフスタイルしだい。通常、低所得者と高所得者で異なります。月収 10万円の人が、15万円を払うというのは、まず考えられません。(その 15万円は国からもらえるとしても。)
Posted by 管理人 at 2016年03月19日 07:12
 最後に [ 付記3 ] を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2016年03月19日 07:34
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