【コラム】「Brexit」ならロンドンへの大攻勢は必至-ギルバート
2016/03/18 07:03 JST
(ブルームバーグ):欧州の金融の中心としてのロンドンの地位がどうなるかが、英国の欧州連合(EU)離脱(「Brexit」)の是非を議論する上で重要な要素だ。6月23日の国民投票が離脱を決める結果に終われば、ロンドンのライバル都市はトレーディングのビジネスを奪おうとするだろう。この攻勢の激しさを過小評価してはならない。
パブ経営の英JDウェザースプーンのティム・マーティン会長は離脱派で、先週の決算資料に添付した書簡で英国とEUの「友好的な離婚」の可能性が高いとの見方を示した。しかしこれは楽観的に過ぎる公算が大きい。特にドイツとフランスは他のEU加盟国の離脱追随を防ごうとするだろうから、友好的に対応するということはあり得ない。金融は英経済の輝かしい分野であり、これを奪えば見せしめになる。
世界の外国為替取引の40%余りがロンドンで行われる。金利スワップでは取引のほぼ半分、欧州の株取引の約3分の1がロンドンの金融街シティーを舞台としている。しかも英国はユーロ建ての取引と決済でも、その中心がユーロ圏にシフトしていくのを阻止することに成功している。だがBrexitとなれば、この状況は持続できないかもしれない。
EU内の「有志」10カ国が証券取引に課税するトービン税の導入にこぎ着けた場合、ロンドンにはプラスに働くかもしれない。しかし、EUが国境によって分断されない単一の資本市場の構築に成功した場合、中小規模の企業は株式や債券を発行して資金を調達でき、間接金融への依存は減る。そうなると、ロンドンがパリやフランクフルトからビジネスを引き寄せられる方法は考えづらい。
Brexit後の欧州の金融取引は、ロンドン一極集中から複数の都市に分散されるようになるのではないか。ドイツ取引所はロンドン証券取引所との合併で合意しており、実現すれば欧州最大の株式取引所となる。ユーロ建ての株取引がフランクフルトに移ることは想像に難くない。スワップの決済所としては世界最大になるので、これもフランクフルトへの流れを加速させるだろう。
欧州の社債の引き受けで最大手は英銀HSBCホールディングスだが、同行はロンドンからの本部移転を検討したことがあるし、EU離脱ならバンカー1000人をパリに異動させる方針も示している。HSBCの社債引き受け350億ユーロ(約4兆4000億円)にフランスのBNPパリバとソシエテ・ジェネラルを加えると、債券市場での企業の調達の約2割がフランスで行われることになる。
ジャンミシェル・ポール氏は昨年10月のブルームバーグ・ビューへの寄稿で、Brexitの場合、ルクセンブルクが意外に強力なロンドンの競争相手になるだろうとの見方を示した。しかし私はパリが第一の挑戦者になると思う。ドイツ銀行のこのところの苦境を考えると、ドイツ当局がフランクフルトの投資銀行業界の拡大に熱心だとは考えにくい。
欧州トレーディングの将来的な勢力図は、英国がEUと離婚すると決まった場合に制定される規則に左右される。フランスがこの機会を生かし、ユーロ建ての証券取引をユーロ圏内で監督する規則を成立させれば、フランスが新しい欧州における金融の中心の座をめぐる争いで勝者となり得るだろう。
原題:London Could Lose Euro Trading If U.K. Leaves EU: Mark Gilbert(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:ロンドン Mark Gilbert magilbert@bloomberg.net
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更新日時: 2016/03/18 07:03 JST