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時代を超えて登場した大滝詠一のニュー・アルバム『DEBUT AGAIN(デビュー・アゲイン)』の驚き

2016.03.18

はっぴいえんど解散からソロとなった大滝詠一が日本で初めてのミュージシャンズ・レーベル、ナイアガラを設立したのは1974年9月のことだった。

そして自らのプロデュースによって創りあげたナイアガラ・サウンドの集大成として、1978年8月25日にはベスト・アルバムが発売された。

雑誌『ヤング・ギター』誌上で行われた読者投票の結果をもとに選曲されたアルバムには、大滝詠一の音楽を聴いたことがない人が出会う“初めての”アルバムになってほしい、そんな思いが込められて『DEBUT(デビュー)』と名付けられた。
そこに収められたのはオリジナル・ヴァージョンではなく、全曲がリメイクやリミックス、ライブ・ヴァージョンというやや変則的なもので、ベストであると同時にセルフ・カヴァーのニュアンスもあった。

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それから32年の歳月を経て登場するのが『DEBUT AGAIN(デビュー・アゲイン)』、大滝詠一名義のアルバムとしては『EACH TIME』以来となる作品だ。

ソニー・ミュージックの公式サイトでは『A LONG VACATION』『EACH TIME』に続く「奇跡のニューアルバム」として、ソニー移籍後に出す第3の「オリジナルアルバム」として扱うことになった。

収録作品の多くは2013年12月30日に大滝が急逝してしまった後になってから、関係者によるナイアガラレコードの遺品を整理していく過程で発見されたマスターテープがもとにになっている。

大滝詠一は身内や関係者にもそのマスターテープの存在を明かしてはいなかったので、それらの音源の録音が遺されていた理由はまったく不明だ。
しかし音源がきちんとマスターテープ化されていたことから、「レコーディングスタジオで本格的に録音されたものであることは間違いない」と判断された。

大滝は生前に、ファンからの要望が多かったセルフ・カヴァーについて、山下達郎のラジオ番組「サンデーソングブック」に出演した際(2003年1月12日)に、次のように語っていた。

山下:「セルフ・カヴァーなんて、死んでもいやでしょ?」
大滝:「いやだね。こればっかりは。トリビュートはいいよ。というか、カヴァーはみんなにやってほしいけど」
山下:「人に書いた曲カヴァーだったらまだいいけど、自分が1回出した曲をりレコするのは‥」
大滝:「もうだって、ほら、もうやるだけやったもの、そういうのは」
山下:「(笑)」
大滝:「自慢じゃないけど、『デビュー』 と称したベストだとかさ。あれ、セルフ・カヴァーだよ」
山下:「確かにそう、元祖セルフ・カヴァー!」


こう言っていたにもかかわらず、他のアーティストへの提供曲やプロデュース作品を、大滝自身が歌ったヴァージョンがしっかり残されていたのである。
しかもそれらは80年代を席巻したあのナイアガラ・サウンドそのものだった。

滝の音は 絶えて久しく なりぬれど
名こそ流れて なほ聞こえけれ


万葉集に残された和歌と同じく、大きな滝の音楽は新たに生まれることはなくとも、ナイアガラの音楽は今もしっかり聞こえているし、未来にも‥‥。

大滝詠一が残した素晴らしい楽曲の数々はいつまでも色褪せることなく、サウンドのクォリティの高さとともに時を超えて聴かれていくに違いない。

(注)タイトル画像は井出情児の写真です。

なおTAP the POPでは『DEBUT AGAIN(デビュー・アゲイン)』のうち、4曲のコラムをお読みいただけます。

[DISC:1]
1. 熱き心に
憧れの人、小林旭に大瀧詠一が渾身の力を振り絞って作った「熱き心に」
2. うれしい予感
3. 快盗ルビイ
4. 星空のサーカス
5. Tシャツに口紅
6. 探偵物語
7. すこしだけ やさしく
8. 夏のリビエラ ~Summer Night in Riviera~
9. 風立ちぬ
大瀧詠一が奇想天外なヘッドフォン・コンサートでセルフカバーした松田聖子の「風立ちぬ」
10. 夢で逢えたら(Strings Mix)
大瀧詠一の「夢で逢えたら」が、日本のスタンダードに至るまでの道

[DISC:2]
1. 私の天竺
エノケンから高田渡や大瀧詠一、高田漣にまで受け継がれている「私の青空」
2. 陽気に行こうぜ~恋にしびれて(2015 村松2世登場! version)
3. Tall Tall Trees ~ Nothing Can Stop Me
4. 針切じいさんのロケン・ロール

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