看護学生が実習で病棟に来た時、困ることが多いのは、技術や知識不足もありますが、患者さんとの会話です。挨拶をしたものの、次に話をどう切り出したら良いものか、会話が続かなかったり、患者さんの本当の悩みや辛さにきづけなかったり…
患者さんとの会話の進め方、言葉の意味を考えてみましょう。何気ない会話の中にも、患者さんの気持ちを引き出すポイントがあるものです。看護学生だけでなく、看護師の仕事に携わる人は勿論、多くのビジネスパーソンにとっても役に立つ、会話術・質問力の簡単なポイントをお伝えします。
より良い看護に繋がる会話のポイントは3つ
看護学生が来るのを楽しみにして、積極的に話しかけてくれる患者さんもいますが、病気で気分が落ち込んで、何を聞いても反応のない患者さんもいます。
患者さんが病院生活をどのように感じているのか、何に悩んでいるのかを、何気ない普段の会話から受け止めることが、看護の仕事の重要な要因です。そのための会話のポイントは
- オープンクエスチョン
- 言葉に隠された意味を考える
- 言葉の変化を見逃さない
の3つです。
話の切り出し方・進め方ポイントはオープンクエスチョン
オープンクエスチョンとは、聞いたことに対し、「はい」または「いいえ」で答えられない質問のことを言います。答えが、「はい」か「いいえ」となるのがクローズドクエスチョン。
ぎこちなくなりがちな、初対面の会話。看護学生が実習にきて、患者さんと会話をしようとするときにしがちなのが、患者さんから話を引き出せない、クローズドクエスチョンをしてしまうことです。
オープンクエスチョンの例
例えば、入院して1週間が過ぎた患者さんに
「入院して1週間ですね」と聞いてしまうと「はい」とか「そうです」と言ったYesの答えしか返ってきません。そこで会話が途切れてしまう。
カルテを見れば、患者さんの基本的な情報は解りますが
「入院してどのくらい経っていますか」と聞けば、「一週間だよ」と患者さんの言葉を引き出せます。
「入院中の生活はどうですか」などと続ければ、困っていることや、つらいこと、嬉しかったことなどを患者さんの言葉で答えてくれるはずです。
オープンクエスチョンは、患者さんが、自分の言葉で話せるきっかけとなる会話を投げかけることです。
「通路側のベッドで、夜中の人の出入りが気になってよく眠れない」「汗がよく出るので、身体を拭きたい」など患者さんの困っていることなどを聞き出せれば、次にどうすればよいのか対処することもできます。
生活行動に関する会話
看護の仕事は、患者さんの「生活」を見る視点が欠かせません。生活行動に関する会話はし易いです。入院前にはどんな風に一日を過ごしていたのか、などをお聞きすると、仕事のことやペットのこと、趣味のことなど、いろいろな会話に繋がります。
患者さんのひととなり、入院中の生活についての悩みなどを、会話を通して捉えることで、より良い看護、治療につなげることが可能となります。
看護学生は知識や技術はまだまだ未熟です。しかし、ベテランになるに連れ置き去りになりがちな、看護師の仕事の原点とも言える、患者さんに寄り添う気持ちにあふれています。一生懸命さは必ず患者さんに伝わり、看護学生が好きな患者さんも多い。
言葉に隠された意味を考える
看護師の仕事は、毎日の患者さんのお世話を中心に多岐に渡ります。一番患者さんと密な関係を築く存在とも言えるので、患者さんのちょっとした変化をいち早く捉え、適切な対処をすることが求められます。
患者さんとの何気ない日常会話のなかにも、看護のヒントはたくさん隠れています。患者さんの言葉を言葉通りに受け取るだけでなく、どんな気持ちなのかまで考えることも大切。
「別に」の理由
「どうしたら今日の体調を聞けるんだろう?」何を問いかけても、「別に」しか言わない患者さんもいます。何を考えているのかいないのか、痛みや困ったこともないのだろうか、と思っても、ルーティンの看護だけで、ついそのままにしてしまいがちな患者さんのタイプです。
この「別に」に込められた患者さんの思いには、実は2通りあるのです。
- 単純に話をしたくないタイミング そっとしておいて欲しかった
- どう答えたら良いかわからなかった
話をしたくない
この状況である場合は、いったんその場を離れたほうが良いこともあります。
- 病状について、医師からあまり良くない話を聞かされた
- 気分がすぐれなかった
- 疲れていて眠りたかった
- ありがたくないお見舞客が来ていた
などなど、その理由はたくさんあるでしょう。
言葉以外の様子をとらえ、今は話をしないほうが良いと思ったら、「又後でよりますね」と言った声掛けをして、部屋をでましょう。頃合いを見計らって様子を見に再訪することも忘れてはいけません。
どう答えたら良いかわからなかった
この場合は、問いかけが適切でないことが多いです。例えば
「お加減はいかがですか」と聞かれた場合、
- 体が辛く考えるのもしんどくて「別に」ですませてしまう
- 漠然とした言葉で聞かれたので、具体的にどう答えれば良いか悩んだ
ということが考えられます。
この場合、単に具合を尋ねるのではなく、具体的に患者さんの苦痛を捉えて聞いてみることです。
例えば、足がむくんでつらい方には、足をさすりながら、「足の痛みはどうですか。クッションをもう一ついれましょうか」などと聞いてみましょう。患者さんも、自分の状態を話しやすく、会話も進みます。
患者さんの苦しみを気づき、思いやり、寄り添って、声をかけるようにしてください。
言葉の変化を見逃さない~ある高齢の女性の場合
「おはようございます」と声をかけても返事はなし。全身に疼痛が有り、身体をベッドの中で縮めるようにじっとしているだけでした。担当になった新人ナースは、なんとか反応を引き出そうと毎日声をかけ続けましたが、口にだすのは
「痛い」、「苦しい」「死にたい」の3つだけです。
違う言葉が返ってきた
病室の窓から見えるさくらが5部咲きで、お天気も良かったので窓をあけ「さくらが咲き始めましたよ」と声をかけたところ、患者さんはチラともみずに、
「そんなこと、私には関係ないわ」
そう言われた新人ナースは、患者さんの態度にいささか腹を立てたそうです。そして、この話を同僚ナースに話した所、
「スゴイじゃない!やったわね」というのです。
そうです、今まで3つの言葉しか言わなかった患者さんが、違う言葉を言ったのです。初めて問いかけに反応してくれたのです。
言葉の意味を考える
この患者さんの言葉を、じっくり考えてみると、自分の身体の苦痛以外に感心がない、ということが理解できました。今までは、日常の看護のルーティンをこなしているだけで、患者さんが一日中集中して考えている、苦痛の緩和に対する積極的なケアがなされていなかったことに、思い当たりました。
患者さんの心を閉ざしている最大の関心事、関節痛や身動きできない苦痛を癒すことが必要だったのです。
苦痛緩和ケアを実施
この患者さんにとって、一番必要なケアが何かがわかったことで、以後新人ナースや他の病棟ナースも、彼女の苦痛を緩和させるようなケアを心がけていたのです。
すると患者さんの表情もだんだん和み、ある日、「おしっこが漏れているようだけど」と自分の方から話しかけてきました。留置カテーテルを挿入していましたので、局所を確認しましたが、漏れている様子はありません。
もしかしたら、尿意を感じるようになってきたのでは、と担当医師にしばらく留置カテーテルを抜いたままにできないか頼み、様子を見ることに。
その後患者さんは、便器での排尿が可能になり、日に日に明るさを取り戻して、周りの人のことを気遣ったり、笑顔を見せたり、周りを笑わせるようにまでなりました。
粘り強い声掛けと気づきがもたらしたもの
これは、反応が無くても声をかけ続けた、新人ナースの粘り強い働きかけ、そして同僚ナースが、患者さんの言葉の変化の気づきが、一人の患者さんの心を開き、入院生活を明るく送れるようになった例です。
違う言葉を発した時、期待していた言葉ではなかったために、指摘されなければ見逃してしまう変化でした。あの時、言葉の変化をキャッチできなかったら、患者さんがここまで明るくなることはなかったかもしれません。
まとめ
看護師の仕事は、患者さんの病院での日常生活のお世話。患者さんと一番密接な関係に有り、ちょっとした変化にも一番気づきやすい立場にいます。
看護学生が実習で病棟にやってくると、一番戸惑うのが患者さんとどのように会話をしたら良いのかということ。会話のポイントは3つ、
- オープンクエスチョン
- 言葉に隠された意味を考える
- 言葉の変化を見逃さない
です。
実習の段階で患者さんとうまく話ができず、自信をなくして看護師は辞めたい、と思ってしまう看護学生もいます。しかし、患者さんとの出会いこそ、看護の醍醐味でもあります。
患者さんの状況を受け止め、悩みやつらいことに寄り添い、ちょっとした変化を見逃さないコミュニケーション、会話術、質問力を磨けば、例え看護師を辞め転職したとしても、どこに言っても通用するはずです。
「ナースのひとりごと」~今日も1ページ