【世界に冠たる・唯一無二の日本の皇室制度を批判することは,不届ききわまる?】
【保育所もろくに整備・提供できない『この日本は「死ね」!』といわれた安倍晋三君の周章狼狽ぶり】
①「国連委が皇室典範見直し要求 日本抗議で記述削除 」(『日本経済新聞』2016年3月9日夕刊)
この皇室関連の記事を読んで奇異に感じたことがある。日本の天皇・天皇制に関する世の中(世界中の全域も含めたこの世)において,「皇室のあり方に関する批判が出てきてはいけない」みたいな日本政府の反応が現象している。この異様にまでに過剰な反応が露呈させられていた。ともかく,この記事を以下に引用する。なお,記事の引用部分につづく補注がいちいち長文である点を,事前に断わってもおく。
--菅 義偉官房長官は〔2016年3月〕9日午前の記者会見で,国連女子差別撤廃委員会の日本に関する最終見解に関し,当初案は男系男子による皇位継承を定めた皇室典範の見直しを求めていたことを明らかにした。政府が抗議して削除を求め,最終的に削られた。菅氏は「皇位継承のあり方は,女子に対する差別を目的としていない。皇室典範をとりあげるのはまったく適当ではない」と指摘した。
補注)この菅 義偉の反発ぶりは尋常ではない。つぎに関連する議論を詳しくおこないたい。
a) 「皇位継承のあり方は,女子に対する差別を目的としていない」から「皇室典範をとりあげるのはまったく適当ではない」などといえる立場については,いったい,いかなる根拠・理由で断言的にそういえるのかと,根本から問うておく必要がある。世の中のあらゆる問題に対して「批判していけない対象」などありえない。ましてや皇室は聖域ではない。
日本国憲法に定められて実在している天皇制度は,この憲法が1947年5月3日に施行されてから,いままでも継続してきた。だが,その制度の中身についてみれば,皇室典範は敗戦を境にみても実は,戦前とほとんどなにも変わらぬ中身を現在まで維持し,準用されてきた。
男系の天皇しか認めない皇室典範の決まりが女性差別でないとしたら,それでは,いったいなんであるのか? むずかしく考えずとも「男女差別である事実」は,いとも簡単に,ただちに諒解できるというほかない。
こういうきわめて単純でもある「男女差別の天皇・天皇制」があるからこそ,かえって菅 義偉はいきり立ったかのように「皇室典範をとりあげるのはまったく適当ではない」というふうに,つまり「まったく没論理の感情的な反発心」むきだしの批難を繰りだしていた。
b) 敗戦したのちの大日本帝国を占領・統治したGHQの総大将ダグラス・マッカーサーは,明治憲法を改定させるに当たって,裏舞台からこう指示していた。
GHQの民政局長コートニー・ホイットニー(Courtney Whitney)に対して,GHQ草案(マッカーサー草案)の起草作業を指示したさい,1946年2月3日の時点で「マッカーサー三原則」(「マッカーサー・ノート」)と呼ばれる基本条件を付けていた。
★-1「天皇は,国家の元首の地位にある」
(The Emperor is at the head of the State)
★-2「国家の主権的権利としての戦争を放棄する」
(War as a sovereign right of the nation is abolished)
★-3「日本の封建制度は,廃止される」
(The feudal system of Japan will cease)
GHQ(アメリカ)は,日本の天皇制を維持しながらこの敗戦国を早期に安定化させておくことが,第2次大戦後の「対共産圏戦略としても至上命令」と位置づけていた。したがって,天皇裕仁は東京裁判に出廷しないで済まされ,彼の戦争犯罪は追及されず,免罪(免訴)されていた。つまり,簡潔にとらえて表現すれば,昭和天皇は命拾いしていた。
敗戦後,駐日アメリカ日本大使を務めたエドウィン・ライシャワーは,太平洋戦争が始まった翌年の早い時期においてすでに,日本の天皇は「操り人形(puppet)」と使いこなすアメリカ側の必要性を唱えていた。この事実については,本ブログ内のつぎの註記の記述を参照してもほしい。
註記)2014年08月22日「ヒトラーの狂気・ヒロヒトの正気」。
さらに,天皇制を廃止する方途は採用されなかった。これは,GHQの占領政策やその後における日本支配(今日までつづく米日軍事同盟関係にも端的に観取できるように)にとって,好ましくない効果をもたらす可能性のある「日本に対する措置」を避けていたからである。第9条との《組み》で置かれた第1条から第8条は,天皇・制度に関する法規・条項である事実を,しごく当たりまえに・自然に受けとめて解釈する必要がある。
とくに前段のうちの★-3の条件は「封建制」の廃止であったゆえ,天皇制じたいを含んでいて当然であった。ところが,そういう扱いにはならなかった。「マッカーサー三原則」(「マッカーサー・ノート」)に淵源し,固有であった,そのもっとも奇妙な基本的な矛盾点は,第2次大戦後におけるアメリカ帝国主義体制による世界覇権の政治目的に関連させられた結果,あくまでも2義的な派生問題に位置づけられることになった。
要するに,敗戦した大日本帝国における天皇・天皇制は,占領軍によって「お目こぼし」的にその存続を許されていた。ただし,敗戦後における「上からの民主化」が妥協しえない最低線の一環として,華族制は解体されていた。
しかし結局,天皇制度は残置され,しかも,明治憲法下に「《古代》妄想的に創造されていた」この反封建制度を運用するための「皇室典範」は,GHQの占領政策における精査の網に引っかかることがなかった。いわば,皇室にとってはそうした〈僥倖〉もあって,「皇室典範」はそのまま,21世紀のいままで濫用されつづける,それこそ旧態依然の化石的な皇室内用の法律として生き延びてきた。
c)「皇室典範」とはなにか?
皇室に関する基本法典である。1989〔明治22〕年2月11日に発布され,1890〔明治23〕年11月29日に施行されたのが大日本帝国憲法である。そして,この憲法と並んで日本の根幹をなす法典とみなされたのが,1889年2月11日,同時に制定されたこの皇室典範であった。
この皇室典範は「皇室自律主義」のたてまえを踏まえていたゆえ,その制定や改正に関して国民や帝国議会は,いっさい「関与できないもの」とされてきた。
敗戦後,この皇室典範に対してGHQは手出しをすることがなく,明治時代のままで,敗戦後における日本の政治社会,新憲法が公布・施行された世の中のなかでも,天皇・天皇制を運用していくための法律として,ほぼそのまま利用(活用)されてきた。ここに至ってもなんらかの問題点・矛盾性は発生していなかったと観察するほうが,むしろ問題があり過ぎる。
『知恵蔵 2015』の解説は,皇室典範をこう記述している。それは,皇室制度の基本を定めた法律(1947年施行)であり,
(1) 皇位継承, (2) 皇族, (3) 摂政,
(4) 成年,敬称,即位の礼,大喪の礼,皇統譜及び陵墓,
(5) 皇室会議の各章
からなる。戦前の旧典範(1889年制定)から,大嘗祭(だいじょうさい)など神道儀礼の規定が削除されるなど簡略化されたが,骨格は踏襲している。その旧典範は,欽定(きんてい:⇒「君主〔天皇〕の命令によって制定すること」)の最高法規であって,国会の関与が許されなかった。
だが,戦後の典範は一般の法律となった。皇位継承者を男系の男子に限る継承ルールの変更についても,国会で改正をすれば可能との意見が多数である。 (岩井克己 朝日新聞記者 / 2008年)
註記)以上 c) については,https://kotobank.jp/word/皇室典範-62197 参照。
いまどき,時代がかった決まりである「皇位継承者を男系の男子に限る継承ルール」が,日本国内ではまだ正々堂々と通用している。つまり,皇室典範の封建遺制的な法律規定が,当然の内容・中身であるかのように観念されている。
まともな近現代的な政治感覚,いいかえれば民主主義の根本精神に照らせば,皇統の連綿性を維持・保守するための政治的な観念と
出所)右側画像は,http://minkara.carview.co.jp/userid/162864/blog/30597837/
ところが,天皇制や皇室問題のことがらになると,突如というか,問答無用的な態度でもって「これでいいのだ!!」という認識が押しだされてくる。日本には,1985年に制定,1986年に施行された男女雇用機会均等法がある。この法律は,職場における男女の差別を禁止し,募集・採用・昇給・昇進・教育訓練・定年・退職・解雇などの面で男女とも平等に扱うことを定めている。
しかし,この男女雇用機会均等法は制定当初,ざる法に近い性格を余儀なくされていた。そこでその後,1997年に一部改正され,女性保護のために設けられていた時間外や休日労働,深夜業務などの規制を撤廃したり,さらには,セクシャル・ハラスメント防止のため,事業主に対して雇用上の管理を義務づけていた。
--ここで話の筋を,冒頭に参照した記事の引用に戻したい(↓)。
政府関係者によると,当初案は,日本が女性天皇を認めていないことに懸念を表明したうえで,皇室典範を改正するよう勧告していたという。〔これに対して〕政府はジュネーブの日本政府代表部を通じて「国民から支持されている皇室制度について十分な議論がないままとりあげるのは不適切だ」と同委に反論。
菅氏は記者会見で「記述を削除するよう強く要請した」。「審査過程でいっさいとりあげられていないのに最終見解にとりあげる手続上の問題もあった」と述べた。国連委の最終報告をめぐっては,旧日本軍による従軍慰安婦問題での日本の対応が不十分と指摘し,日本政府が8日に「きわめて遺憾だ」と同委に抗議した経緯がある。
補注) その続きの議論。以上の記事引用に関してさらにこの補注としての論及をくわえておきたい。
a)「国民から支持されている皇室制度」なのであれば,批判の余地はない。天皇・天皇制が無条件で文句なしに,日本の政治社会における誰にとっても,絶対的に好ましい・必要不可欠の政治制度だといえるのだとしたら,日本国の内部だけにあっては,そのうちに〈男女差別〉〔天皇位を受けつげるのは男系だという規定〕を含む皇室典範(明治時代に古代史を真似て創っていた法律)が,これからも永遠に通用していくことになるのか?
ここではいろいろな問題が関連して出てくる。まだ王制を残存させている国々では,王位を継承させる場合,男女の区別(差別)をしていない国も多くある。「資料3-1 諸外国における王位継承制度の例(概要)」という関連の資料がある。この資料のうちつぎの頁を画像で紹介しておく。( ↓ 画面 クリックで 拡大・可)
出所)http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kousitu/dai4/4siryou3.pdf
これをみるかぎり,まともな先進国における各国の王制においては,いちおう「男女平等」の王位継承(長子優先)を決めている。そうではなく,男系を維持している国々の場合では,先進国ウンヌン以前の民主主義国家体制そのものに関する政治問題が立ちはだかっている。注意したいのは,タイ王国でも「1974 女子も可」と付記されている点である。
そもそも現実は「欧州の先進国」にもまだ「王制が残存している」。問題にするのであれば,こちらの事実こそが,大本からの大きな論点であるはずである。イギリスに王様(女王様)がいるのだが,民主主義を発展させてきた「この国に王制がある」というのでは,民主主義の体裁としてはいまひとつ,かっこうがつかない面をかかえているというほかない。だが,ユナイテッド・キングダムである自国の体制を,イギリスは誇っている。この事実はよく考えてみるまでもなく,イギリスはずいぶん変な国だということにあいなる。
b) さて,日本が「イギリス」と呼ぶ国は,もとは,イングランド王国・スコットランド王国・ウェールズ王国・アイルランド王国〔の北の部分〕に分かれていた。すなわち,それぞれに王国があり,そられの王が統治していた。そのうち,イングランド王の勢力が強く
出所)画像は,http://www.ses-london.com/ukmap.html
その後,宗教問題で紛争が絶えず,アイルランドの南部が「アイルランド共和国」として独立した。現在は,イングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランド4国が,イングランド王エリザベス2世を国王に戴く「同君連合」の国家体制をかまえている。
なお,イギリスの正式名称は “United Kingdom of Great Britain. and Northern Ireland” 「グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国」であり,「ユナイテッドキングダム」と略称している。
イギリス人,それも平均的な英国人である人びとに「イギリスは民主主義国家体制」としては,欧州でも代表的な国であるから,このような王制は廃止すべきではないかと意見してみればよい。どう反応してくるか?(おそらくムキになって起りだす人が多くいる)
ここでは,国連が男女差別の問題に絡めて,各国における王制の問題にまで口出しすることの意味は,いったいなにかという論点を再考してみる余地もある。
②「国際世論形成 課題あらわ 政府,国連委対応に苦慮『皇室典範見直し』抗議し削除,価値観・文化 理解乏しく」(『日本経済新聞』2016年3月10日朝刊)
この記事は ① に紹介してとりあげた日本経済新聞記事の,そのまた続編のような記事であった。皇位継承の問題まで国連女子差別撤廃委員会に口出しされた日本は,観たところでは「うろたえ,とまどっては,反発していた」。つぎにその記事を引用する。
国連女子差別撤廃委員会が〔2016年3月〕7日に公表した日本に関する最終見解をめぐり,日本政府が対応に苦慮している。男系男子の皇位継承を定める皇室典範を女性差別とする内容や,従軍慰安婦問題で「加害者の訴追」を勧告する部分は抗議して削除した。だが,慰安婦問題への厳しい言及は,公式文書として残りつづける。国際世論をつくるうえでの日本の課題があらためて浮かび上がった。
今回の女子差別撤廃委員会は2月15日から3月4日までジュネーブで開かれた。委員会は「女子差別撤廃条約」が守られているかどうか定期的に締約国を審査しており,今回は日本やハイチ,スウェーデンなど8カ国が対象となった。
審査は,まず各国政府が改善状況についての報告書を提出し,各国の市民団体なども報告書や質問案を出す。委員会はこれにもとづき質問を各国政府に出し,各国は回答を提出する。最後にジュネーブで審議がある。各国の委員は自国の審査にはくわわれない決まりだ。
日本の審議が開かれたのは2月16日。日本の代表団は外務省や法務省,厚生労働省など約20人の官僚で構成した。局長や課長級が通例だが,外務省は今回,慰安婦問題をにらみ次官級の杉山晋輔外務審議官を派遣した。
慰安婦問題でも。--それでも結果は予想以上に厳しいものだった。慰安婦問題では「最終的解決への努力」を求めた7年前の委員会見解よりも厳しい言葉が並んだ。政府内に衝撃が走ったのは4日に事前に示された最終見解案の中身。皇室典範を「女性差別だ」とする内容が入っていた。
「そんな話はどこにもなかった」。関係者はあわてた。政府はすぐに「皇室典範は日本の歴史や伝統に根ざしたもの」と抗議。委員会の審議でまったくとりあげられず,日本が説明する余地がなかったことも主張し,最終見解から削除させた。
なぜ日本の外交は後手に回ったのか。政府内ではとりまとめ役の委員会主査が中国人の民間女性だったことを指摘する声もある。政府関係者は「共産党とつながる人物。中国による情報戦の一環だろう」と勘ぐる。
市民団体の声。--委員会が市民団体らの声に大きく左右される性質も背景にある。委員は審議のかたわら個別に市民団体などにヒアリングをしており,皇室の話は「そこで耳打ちされた可能性がある」(外務省関係者)。国連の議論に積極的に参加する市民団体らの認識不足は日本にとって深刻な課題といえる。
補注)ここに登場する「市民団体」(日本のものと理解しておくが)に “大きく左右される” 国連委員会の立場じたいに,なにやら特定の問題があるかのような書き方である。だが,日本経済新聞の筆法は「市民団体」を若干ながらでも,敵視しているごとき印象がないとはいえない。その意味では,記事の論旨が公正・中立の報道に徹しているとはいえない。
委員会の見解は,夫婦同姓や女性の再婚禁止期間などの民法規定も差別的だとした。女性や少女への性暴力を促すゲームや漫画の販売禁止も勧告した。これらは7年前の見解にも入っていた。
補注)「夫婦同姓や女性の再婚禁止期間などの民法規定も差別的だ」という見解(指摘)は,まっとうな指摘である。夫婦同姓に関する民法は一言でいってのけるが,完全に時代遅れだと断定できる。2015年12月17日の『朝日新聞』社説はこう論説していた。
婚姻や家族のあり方は時代とともに変わるものである。国の制度は現実に合っているか。個人を尊ぶ社会を築くためには,不断の見直しが欠かせない。この社説は,以上につづけていわく「新たな時代の民法はどうあるべきか,国会は真剣に論議を進めるべきである」。そして,〈憲法の番人の役割は〉〈国際的な流れをみよ〉〈女性に強いられる壁〉という小見出しをかかげて,さらに論説していた。
明治時代から続く民法の2つの規定をめぐり,最高裁が昨日判決を出した。問われたのは,憲法が定める「個人の尊重」と「両性の平等」に合うかどうかである。結婚すると夫婦どちらかの姓を選ばなければならないとする750条について,合理性を認め,合憲とした。
男女の役割などが多様化し,家族像が大きく変化しているなか,この判決は時代に逆行する判断といわざるをえない。夫婦別姓を認めないことで,多くの不平等が生まれている現実を直視しているのか疑問である。一方,女性だけに離婚後6カ月は再婚できないと定める733条がある。これについては,100日を超える部分が男女平等に反し,違憲だとした。
いずれの規定も1898〔明治31〕年施行の明治民法で定められた。戦後,基本的人権の尊重をうたった日本国憲法のもとで新しい民法ができたが,2つの規定はそのまま残り,120年近く続いてきた。
再婚禁止規定は,生まれてくる子どもの父親が誰かという混乱を防ぐためにつくられた。しかし,医学が発達し,DNA型鑑定で親子関係がわかる時代を迎え,女性にだけ再婚禁止を課す根拠は揺らいでいた。やっと禁止期間を短くすることは,司法による一定のチェック機能が働いたといえるが,それでも,いまの時代に規定じたいが必要なのかとの議論も残る。
朝日新聞のこの社説,さすがに「姓をもたない皇族」に関する民法的な問題(当然のこと,皇室典範に関する話題となるもの)などは,問題外であった。だが,そこまで言及するのであれば,皇室に関する家族関係に関する類似の論点も,確実に意識したうえでの議論とならざるをえないはずである。
つぎには,この ② の最初に引用した記事本文における「続きの一段落」をさらに紹介しておく。
漫画やアニメは日本の競争力ある産業だ。児童ポルノなどは取締まるべきだが,毎回,日本のコンテンツが女性差別の代表例かのようにとりあげられることは,慰安婦問題に悩む日本には大きなマイナスだ。「国際社会にわが国の考え方,立場,現状を理解されるように努力したい」。菅 義偉官房長官は9日の記者会見で強調した。なお,同じ『日本経済新聞』の記事から借りて,以下の2点 イ) ロ) に関する解説も聞いておきたい。
イ) 国連女子差別撤廃委員会とは,1981年に発効した「女子差別撤廃条約」の進捗状況を確認するために設置された。189の締約国が委員会の審査対象で,23人の委員は締約国から選んだ「十分な能力を有する個人資格の専門家」で構成する。任期は4年で,日本からは弁護士の林 陽子氏が委員長として参加している。年間20~25カ国を審査する。日本の審査は2009年以来7年ぶり。
ロ) 価値観・文化で理解乏しく,問われる戦略的発信。--国連加盟から60年。日本は第2次世界大戦で失った国際的地位を回復するためにも国連重視の外交を展開してきた。拠出金の額は米国に次ぐ第2位。アフリカ支援や国連平和維持活動(PKO)などの貢献にも力を入れ,表の場では発言権獲得へ努力を重ねてきた。
だが,価値観や文化を理解してもらう「ソフトパワー」の面では出遅れた。国連の議論や米国などの政府・議会を動かすのは結局世論だ。慰安婦問題では歴史認識だけでなく「いまの日本も女性差別に甘い」とのイメージも不利となっている。もちろん委員会の誤った認識への反論や抗議は必要だ。だが,それだけでは差別撤廃に非協力的と受け止められたり,削除したとのニュースでかえって誤った事項を印象づけてしまう恐れもある。
日本にも国際世論形成の実践例はある。さまざまな場で,唯一の被爆国の立場を粘り強く訴えてきた。国連総会では毎年,日本が提出する核兵器廃絶決議が圧倒的多数で採択されている。女性の人権問題や日本人の価値観で国際社会の理解をえられれば,外交上の利点は大きい。積極的なイメージづくりと防御とをどう両立させるか。戦略的な発信が求められている。(以上,引用段落)
とはいっても,日本国における関連の「考え方,立場,現状を理解されるように努力したい」と強調したところで,これには,もとよりおのずと限界・制約があった。結局,明治の時代からの皇室問題の絡みが,現代日本の女子差別撤廃問題を考えるさい「おおきな躓きの石」になっている。
③「『初動ミス』,与党も苦言 『保育園落ちた』ブログめぐる首相答弁」(『朝日新聞』2016年3月11日朝刊4面)「日本死ね」発言の波紋
「保育園落ちた日本死ね!!!」と題した匿名のブログをめぐり,与党内から,安倍晋三首相の当初の対応を疑問視する声が上がっている。首相は夏の参院選をにらんで「1億総活躍社会」をか
出所)右側画像資料は,http://www.yomiuri.co.jp/politics/20160310-OYT1T50001.html
「(ブログへの)対応もそうだけれど,最初からぱっとやっておけばトラブルは起こらないんですよ。あとさきをみきわめる能力を,みなさんよく身につけておいてください」。伊吹文明元衆院議長は3月10日,自民党二階派の会合で首相に苦言を呈した。
出所)https://www.yamaoshiori.jp/
2月29日の衆院予算委員会で民主党の山尾志桜里氏がブログをとりあげたさい,安倍首相は「実際に起こっているのか確認しようがない。これ以上,議論しようがない」と答えたのを念頭に置いたものだ。
3月10日の政府与党連絡会議で,公明党の山口那津男代表が「切実な国民の声に丁寧な対応をしていく必要がある」と注文。自民の閣僚経験者も「初動を誤った。首相の答弁がはねつけるような印象を与え(待機児童問題に)火を着けた」と指摘した。
与党内からこうした声が出るのは,自民党内に苦い記憶があるからだ。第1次安倍政権では「消えた年金」など年金記録問題への対応が後手に回り,2007年の参院選で惨敗。当時の閣僚の1人は「国民に身近な問題だという認識が薄く対応が遅れた」と悔しがった。
補注)安倍晋三君は〈子どもを儲けていない〉から,今回のように反応したとはいえないものの,もともと「弱い立場に居る人びとの生活感覚」から相当に遠い場所に立っていた政治家であることは間違いない。
昨日(3月14日),某テレビ局の放送中にこういう話題が出ていたが,保育所の問題に関連するそれである。10年の経験のある保育士の月給手取りが18万1千円で,6年の経験者は12万円(?)とかであった。また「フルタイムで働く保育士の給与は,24歳2年目で手取り約11万4000円,28歳6年目で手取り約14万円」というネット上の実例説明もみつかる 註記)。これでは保育士の資格取得を志望する人を減らしてしまう原因を提供するほかない。
註記)https://news.careerconnection.jp/?p=18226
a) 保育士になる関連事情の説明:その1
幼稚園教員免許をとった通学制の同級生の話。保育士免許をとるのにまた通学制にいった人がいた。その人の費用を考えたら,200万円は使っているのではないか。同じ学校に再入学したので,割引してもらったとしても,100万円は使う。その人は入学してからがんばって2年ですぐに取得したが。幼小免許がとれる学科と,幼保資格がとれる学科に分かれていたので,その人は幼小卒業後に幼保に入学していた。
註記)http://blog.goo.ne.jp/kimidorina/e/4974179291d4959455535550b1336221
b) 保育士になる関連事情の説明:その2(必要な学歴・教職課程)
◇-1 4年制大学の保育士養成課程で所定の単位を取得し,卒業する。
◇-2 短大の保育士養成課程で所定の単位を取得し,卒業する。
◇-3 専門(専修)学校の保育士養成過程で所定の単位を取得し,卒業する。
◇-4 上記以外の養成施設の保育士養成過程で所定の単位を取得し,卒業する。
以上のように,保育士養成過程で所定の単位を取得し,卒業すれば,保育士試験に合格しなくても,保育士の資格を取得することができる。ただし,4年生大学以外の場合,昼間の学校は「2年間」,夜間,通信の場合は「3年間」の養成過程を受けなければならない。
註記)http://www.hoiku-shi.com/001/
そうして保育士になれても,30歳代になっても月給手取りが20万円に満たないのでは,そのなり手が不足する。施設としての保育所(保育園)も不足して当然。
★「保育園落ちた日本死ね!」女性の叫びが話題…
なぜ日本は保育所不足なのか ★
=『保育園落ちた日本死ね!!!』(より,以下を引用)=
なぜ日本は保育所不足なのか ★
=『保育園落ちた日本死ね!!!』(より,以下を引用)=
何なんだよ日本。一億総活躍社会じゃねーのかよ。
昨日見事に保育園落ちたわ。どうすんだよ私活躍出来ねーじゃねーか。
言葉は過激だが,心からの悲痛な叫びと怒りが伝わってくるこの文章。匿名ブログに投稿された,とある女性の文章が話題になっていた。投稿者の女性は子どもを保育園に預け,仕事に復帰しようと考えていた。しかし,入園審査に落ちてしまった,という内容であった。
現在,日本の共働き世帯の割合は,約60%。今後もさらに増加していく,といわれている。共働き世帯の増加により,当然保育所への申しこみは年々増加している。しかし問題は,保育所の数がそれにみあうほど増えていないというところにある。
イ) なぜ,日本は『保育所不足』なのか? 「足りないなら,増やせばいいのでは?」「日本は少子化なのに増やせないの?」そう思う方も多いと思う。では,なぜ足りていない保育所を増やそうとしないのか。
そこには, “深刻的な保育士不足” といった理由があった。保育士は,日本の国家資格をとらなければならない重要な仕事。しかし仕事内容に対し,給与が低すぎることが長年問題になっている。厚生労働省によると,保育士の賃金は月額約21万円。勤務する場所によって賃金は大きく異なるので,なかには月給15万円の方もいる。
そういった賃金でこなす仕事の内容は,非常にハードなもの。子どもの命を預かるだけではなく,延長保育や親の意見への対応なども求められる。結果,保育士を辞めて戻ってこない『隠れ保育士』が国内に約57万人存在している。
ロ) 新しく設立することが難しい。「では,新しい保育所を作ろう!」と,そう思っても,簡単に増やすことはできない。国に認められた『許可保育所』を作るには,国が決めた基準を満たさなければならない。しかし,その内容はなかなかハードルが高い。
※-1 児童ひとりに必要な面積が,3.3平方メートル必要
※-2 定員は60人以上
この条件が満たすためのスペースを確保するのは大変難しい。また,最近では「声がうるさい」「給食が臭い」など,保育所への苦情が多く寄せられている。こうした理由で,建物が密集している都心で保育所を増設することが困難になっている。
ハ) 保育所不足に対し,悲痛な叫びをあげる母親たち-妻が仕事に復帰できない-。保育や教育へ使う税金を『家族関係社会支出』という。しかし日本は『家族関係社会支出』の予算が非常に低く,先進国の中では最低レベルである。
いまや保育園に入ることのできない『待機児童』の数は,厚生労働省によると2014年の時点で約43,184人にも上っている。この事態を改善すべく『私たちにできることはいったいなになのか』を考え,実際に声を上げることが大切である。
註記)http://grapee.jp/143614
『保育園落ちた日本死ね!!!』が国会において,民主党の山尾志桜里が質問の材料にとりあげたとき,安倍晋三みずからが率先して答えた内容は,以上のごとき保育問題に対する無理解を実証するものであった。
出生率の目標を 1.8にしたなどと宣伝していたのは,どこの国の,どの首相だったか? 子どもを産んだあとも働く女性たちには,ぜひとも必須である保育所の問題であった。なにをかいわんやの,この首相と自民党閣僚・議員たちである。「まったく理解がなっていなかった」。
「3・11」で原発事故を起こした東京電力に政府が投入してきた血税はすでに約12兆円。その東日本大震災復興工事に投入している莫大な国家予算は使い切れないでいる。以下のような事実を挙げておく。
とくに東日本大震災の復興予算は,2013年までの3年間に計上した約25兆円のうち,5兆円も使われずに放置状態(国庫に残ったまま)となっていたとが判明していた。さらに約3兆円の復興予算が「不用」と判断されていた。〔だいぶ前段のほうから記事の本文に戻る→〕 くわえて政権は,今夏の衆参同日選も視野に火種の一掃を進める最中だ。甘利 明・前経済再生相の現金授受問題は辞任で幕引きを図った。米軍普天間飛行場の移設をめぐる沖縄県との訴訟合戦では,裁判所の和解案を受け入れ,沖縄との対立を一時棚上げした。そんななかで子育て世代を中心に保育サービスの不足に対する不満が拡大すれば,こうした戦略が狂うことになる。
その原因は人手不足等で作業が遅れていることで,復興作業が遅れていることを示している。だが。ただ,国が自治体などに支出した「執行済み」の約20兆円についても,少なくとも約4兆円は実際には使われていなかった事実があり,予算の使い道にも疑問の声が相次いでいた。
註記)http://saigaijyouhou.com/blog-entry-5768.html 参照。
安倍首相は3月10日,政府与党連絡会議で「地域によってはなかなか(保育所に)入れない実態がある。早急に対策にとり組みたい」と表明。自民,公明両党は作業チームを立ち上げる。
一方,2月29日の衆院予算委で「ちゃんと(ブログを)書いた本人を確認したのか」などとヤジを飛ばした自民党の平沢勝栄衆院議員は10日の党の会合で「ブログに『死ね』という言葉が出てきて,表現には違和感を覚えている」と述べた。
出所)https://citydiver.net/words/21/21604/4151/img/21323
もじっていっておくと「夢を平澤勝栄に 希望を安倍晋三に」
ということになり,ほとんどブラック・ユーモア風の文句。
もじっていっておくと「夢を平澤勝栄に 希望を安倍晋三に」
ということになり,ほとんどブラック・ユーモア風の文句。
--平澤勝栄は直後に以上の発言を謝まらざるをえなくなっていた。それはさておき,天皇制という《日本的な問題》の枠内における「女性差別の問題」からはじまった本日の記述は,保育所問題に飛び火していた。
しかし,飛び火したといっても同じ家のなかにある燃え草に引火したに過ぎない。皇室内における「女性の地位の問題」は(「皇族の彼女ら」が別格である扱いを受けてはいても),日本社会全体における「女性の問題全般」をたしかに示唆するものも含んでいる。
だが,皇室にあっては,保育所問題は逆に「ねーじゃねーか」であった。
④『保育園落ちた 日本死ね』というコトバの意味
a) そういえば先週土曜日3月12日の『朝日新聞』朝刊「天声人語」,題名「もっと保育園を作れ」は,こう語っていた。
社会学者の上野千鶴子さんには数々の名言があると,前に小欄で書いた。この度,その名言集が出版され,驚くと同時に喜んだ。『上野千鶴子のサバイバル語録』。「いまを生きる女たちに,もしかしたら役に立つかもしれないことば」が並ぶ。
▼ 語録という性格上,文脈を離れて自由に引くことをお許しいただく。たと例えばこれ。〈男は言葉を産み,女はいのちを産む,ですって? とんでもない。いまや女は,子どもを産み,コトバも産む〉。まさに最近も,ひとつの痛烈な言葉が産まれ,風を起こした。
▼ 「保育園落ちた日本死ね!!!」と題する匿名のブログだ。もっと保育園を作れという訴えがネット上で瞬く間に広がった。荒っぽい口ぶりに批判もあったが,母親らのあいだで共感する声が響き合った。それほど怒りは深いのだ,と。
▼ 民主党の山尾志桜里(しおり)衆院議員がとりあげたのに対し,安倍首相は「実際に起こっているのかどうか」と冷淡だった。ならば「実際」の窮状を伝えようじゃないかと,保育の充実を求める署名運動も起こった。
▼ 子育てと仕事の間で悩む女性からの風当たりに驚いたのだろうか。自民党は昨日(3月11日)になって,待機児童問題の緊急対策チームを作った。ネット上の「声なき声」への目配りも強化するという。独り言のような書きこみが政治権力を動かした。
▼ 上野さんの語録から,もうひとつ引用しよう。〈コトバは,現実ではない。むしろ,コトバが現実をつくる〉。保育をめぐる今回のいきさつをずばりいい当てる名言である。
--安倍晋三政治(内政・外交)の観念性を実証するひとつの題材が,保育所問題を通じて露出させられたとみてよい。この首相は徹底的に,庶民(国民・市民・住民・庶民)を頭から舐めてかかっている。
ところで,7月に予定されている参議院選挙を控えて,改憲の論議を「控える」という作戦らしいが,ホンネ(爪)をかくした《アベリスクの政治》に,国民たちが欺されていいわけがない。
保育所問題も「日本死ね!!!」と罵倒されでもしなければ,格別に対応する政治をするつもりなど,もともとありえなかったのが,安倍晋三のアベコベミクス=本来的な性格であった。
1億総活躍社会だとかいっても,これに逆行する政治をいままで一貫して実施してきたのが,安倍晋三の内政・外交である。いまさら,口先だけで1億などといった,切りだけいいけれども,かえって疎漏だらけのこの数字をもてあそぶのは,たいがいにすべきである。日本の人口は1億2千7百万人であるはず……。もちろん,いつかは1億人になるが……。
b) 最後に紹介する以下の文章は,『朝日新聞』が3月12・13日に実施した世論調査の引用,その一部分である。
政権の経済政策などには厳しい評価が並んだ。安倍政権になってから景気が回復したという実感があるか尋ねると,
「実感がある」17%に対し,
「実感がない」76%。
安倍首相の経済政策が賃金や雇用が増えることに結びついていると思うか問うと,
「結びついている」24%が,
「そうは思わない」62%を大きく下回った。
安倍首相の子育て支援政策には,
「期待できる」 26%に対し、
「期待できない」は58%。
2013年5月の全国世論調査で同じ質問をしたさいには,
「期待できる」 43%,
「期待できない」37%。
この3年弱で期待度は下降している。
東日本大震災の復興に対する安倍政権の取り組みには,
「評価する」 40%,
「評価しない」43%
と拮抗。原発政策に福島第1原発事故の教訓が生かされていると思うかとの問いには,
「生かされている」 23%が
「生かされていない」60%を下回った。
--要は,アベノミクスはもうダメと受けとめられ,雇用問題もさっぱりでなっていないと理解されている。子育て支援も空振り同然だし(『日本死ね!!』とまで非難されていた),原発再稼働に絡む質問への回答でいうと,安倍晋三の政治は全然評価されていない。
なかでもとくに原発再稼働反対は,これまでもずっと国民の過半数の意見でありつづけてきたにもかかわらず,この首相は〔原子力村の村長のつもりか〕先頭に立ち,再稼働へ向けて指揮をしている。この人,トンデモそのものである日本国総理大臣。
以上について『朝日新聞』の世論調査だからという向きの人は,そのうち公表される各紙の世論調査からも,上のような調査結果に反する世論がどの程度に出てくるか関心をもっているはずである。
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