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<阿多羅しい古事記>
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子供のころ皇居に監禁されると、不安感から口を噤んでいることができず、見張りの宮内庁職員や皇宮護衛官を相手に無駄話をすることがよくあった。
或る時、私の家が皇居からかなり遠方にあるので、いつも長時間、車に押し込められて来るのが厭だ、と私が言うと、職員のひとりが
「もうすぐ高速道路ができて、そんな苦労もなくなる。」
と、さも自分がその道路を造るような顔で言った。
「速くて、信号が無いんだ。自動車でないと入れないんだよ。」
しかし、その時すでに曾祖父から「山島」という言葉を教わっていた私は奇妙に思った。先祖が日本に渡来した時、この地が中国大陸のような平原ではなく、海から山がそそり立った狭小な島であることを大いに嘆いたのだ。我が家に遺されていた古文書にはそう書いてあった。
「日本は山ばかりで凸凹しているから、道路を造ると言ってもどうするの?」 子供の質問に、相手は「高いところは削ればいい、低いところは埋めたらいい。」と笑った。とんでもなく合理的な話である。山の土を削って、凹んだ場所にその土を足すと平らな道路ができる、という算数だ。
大人になってからこれを「盛土」と呼ぶことを知った。版築なのだそうだ。河べりにある土手と同じだ。しかし、盛っただけの土は長い年月を経て、少しずつ崩れてくる。 紅葉が綺麗な頃にドライブすると、ところどころ雨で土砂が流れた跡を見つける。ああ、あれがいつか聞いた「盛土」なんだな・・・と思う。出っ張ったところは削って、その土で凹んだところを埋めるんだ、そう言った男の顔はもう忘れてしまった。
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