2016.03.17 15:00
2016年3月16日にレーベルのこれまでの活動の集大成として「TREKKIE TRAX THE BEST 2012-2015」をリリースした、渋谷発のインディペンデントなネットレーベル・TREKKIE TRAX。ネットレーベル黎明期に、数多のレーベルが登場し消えていく中で、なぜTREKKIE TRAXは成功できたのか。前編では、結成から現在に至るまでのTREKKIE TRAXの軌跡を振り返り、その全貌を明らかにしていく。
【写真左より】Carpainter(Taimei)、andrew、futatsuki
渋谷から世界に打って出るインディペンデントな音楽レーベル・TREKKIE TRAX。レーベルの中心メンバーを担うのは、futatsuki、Taimei(a.k.a Carpainter)、andrewと、現在はアメリカを中心に活躍するTaimeiの兄・Seimeiの4人だ。
TREKKIE TRAXは主に若手のトラックメイカーによる純粋なクラブ・ミュージックのリリースを行い続けてきたレーベルで、とりわけダブステップ、ジューク、トラップなどの低音を強調したベース・ミュージックジャンルの日本における先駆的レーベル。
彼らはどのように出会い、TREKKIE TRAXの結成に至ったのだろうか。
2012年初頭、まだ各メンバーが10代だったころ秋葉原のBar&イベントスペース・aki85(2012年6月に閉店)で開催された「U20」という20歳未満限定のDJイベントや、同じく20歳未満の出演者によって開催された「Sabaco Teenage Riot」にメンバーが集ったのが結成のきっかけだ。
その後、2012年は各々が現場でDJをしつつも、各メンバーのリリースが徐々に増えていく。Seimei & Taimei名義による「Everlasting」や、ベース・ミュージックコンピレーション「XYZ EP」などのリリースだ。現場でTREKKIE TRAXがレーベルとしてパーティーを始めたのは2012年末だという。
☆Taku Takahashi氏が主宰するインターネットラジオ「block.fm」内の番組「Rewind!!!」
2013年に入り、Carpainter名義でマルチネ・レコーズから「Double Rainbow」をリリース、そして2013年の大きな転機となるのが、「TOYOTA ROCK FESTIVAL 2013」への出演と、インターネットラジオ・block.fmで番組「Rewind!!!」を持つようになったことだ。
その頃、block.fmでも同世代のHyperjuiceやSEXY808(Licaxxx & Redcompass)などのトラックメイカーが番組を持つようになり、レーベル単体ではなく、ベース・ミュージックシーンとしての盛り上がりを感じさせる流れが起きつつあった。
2014年に入ると、イギリス・ロンドンのダブステップレーベル「Hyperdub」の10周年パーティーに呼ばれたり、イギリス・グラスゴーのベース・ミュージックの新世代たちのレーベル「LuckyMe」と契約したObey Cityの日本ツアー最終公演でHyperJuice & LEF!!!CREW!!!相手にサウンドクラッシュ(編集部注:出演者が曲を交互に掛け合い、ステージ上で勝負をすること)を行ったりと、一気に現場での露出が増えていく。しかし、レーベルの知名度が上がっていく中で、Seimeiが留学のために渡米することになる。
2014年には2周年パーティーをデイ&オールナイトの通しで開催するなど、大掛かりなイベントを何度か開催したTREKKIE TRAXだが、2014年をこう振り返る。
そして2015年に入り、ベース・ミュージックシーンはさらなる盛り上がりを見せる。そんな中、TREKKIE TRAXを大きく育てるためにはどうしたらいいのか。メンバーはブランディングを意識し、レーベルでの楽曲リリースと現場でのパーティーの循環について考えるようになる。
12/24、1/1にリリースされたAMUNOA、Masayoshi limoriのEP(引用元:block.fm)
2014年末から2015年にかけての、Masayoshi limoriとAMUNOAの楽曲リリースもTREKKIE TRAXにとっての転機のひとつとなった。「この音はTREKKIE TRAXっぽくない」といった議論が出つつも、今まで手をつけてこなかった、きらびやかで"未来感のある"シンセサウンドや独特のボイスサンプルを使うFuture Bassという音楽ジャンルをTREKKIE TRAXは貪欲に取り入れていく。
Carpainter初の全国流通盤「Out of Resistance」
その後、2015年6月にCarpainterによる初の全国流通盤「Out of Resistance」をリリース。他にも、アメリカ発の音楽配信サイト・iTunesやbeatportでの楽曲配信を展開した。iTunesやbeatportを通じて、日本だけでなく世界に音楽を届ける。そしてCDを通じて今までリーチできなかった層に音楽を届ける。実はこの2つの目的以外にも、TREKKIE TRAXが新しい形で楽曲をリリースした理由が存在する。
CDのリリース後はレーベルとしての活動を意識し、国内ツアーも積極的に行っていった。渋谷でシーンをつくってきたTREKKIE TRAXは国内ツアーで何を感じたのか。
TREKKIE TRAXの勢いは国内だけで留まることを知らない。2015年には、オーストラリアを拠点にするラジオDJ/プロデューサー・Nina Las Vegasや、Lucky Meに所属するJoseph Marinettiなどの海外アーティストの招致も手がけている。なぜTREKKIE TRAXは海外アーティストの招致を行うようになったのだろうか。
海外アーティストの注目が日本に集まる背景には、ULTRA JAPANを筆頭に日本でも規模の大きいクラブ・ミュージックのフェスが増えてきていることが挙げられる。しかし、そこでTREKKIE TRAXが直面した問題がふたつある。ひとつ目はエージェントとの調整だ。「呼びたいアーティストと仲が良いから、日本に来てください」というだけでは実現が難しく、インディペンデントなレーベルだけで対応するのが難しい部分だ。
ふたつ目は、TREKKIE TRAXが開くパーティーの規模の限界が200人程度なので、呼べたとしてもペイできるアーティストが必然的に限られてしまうことだ。なので仲介役として大きなクラブにつなぎ、面白いアーティストを招致できたらと語ってくれた。
その一方で、兄弟名義でのSeimei & Taimeiの中国・韓国ツアーや、Masayoshi Iimoriのアメリカツアーなど、海外への進出にも力を入れている。そして3月15日には、音楽や映画、テクノロジーの祭典であるSXSWのJAPAN HOUSEにSeimeiが出演。パフォーマンスを終えたばかりのSeimeiから特別にコメントを貰った。
2016年に入り、楽曲のリリースが海外メディアに定期的に取り上げられるようになったり、海外アーティストの楽曲をレーベルからリリースしたりと、新しい展開を見せるTREKKIE TRAX。記事後編では、ベスト盤に込めた思いや今の日本のクラブシーンが抱える課題、そして今後の展望まで話を掘り下げていく。
1994年生まれ。『SENSORS』や『greenz.jp』で執筆の他、複数の媒体で編集に携わる。慶應義塾大学在籍中で、大学ではデザイン思考を専攻。高校時代にDJをはじめ、「U20」への出演や「Sabaco Teenage Riot」の主宰を通じて、結成前のTREKKIE TRAXメンバーと知り合う。
写真:永田 大祐