旧日本軍の従軍慰安婦問題・日本の夫婦同姓・マタハラ…女性差別撤廃、国連委が勧告

 

国連が慰安婦を「性奴隷制」と指摘

 

 

委員会を代表して記者会見したジャハン委員(バングラデシュ)は慰安婦問題の日韓合意に言及し、「我々の最終見解は(慰安婦問題を)まだ解決されていない問題だと見なしている」と発言。日韓合意に元慰安婦たちが関与し、その意向が反映されるべきだとの考えを示した。

 

 

2016年3月7日、国連の女性差別撤廃委員会(Committee on the Elimination of Discrimination against Women:CEDAW)はジュネーブで、2月16日に開かれた対日審査会合に関する(今回も)厳しい内容を盛り込んだ14頁・57項目の「最終見解(総括所見)」を公表した。

 

勧告の骨子

 

Ø  慰安婦問題では、被害者の権利を認識し、補償や公的な謝罪、尊厳の回復を含む、完全で効果的な癒やしと償いを提供する。日韓合意の履行にあたり、被害者の意向を十分に考慮する

Ø  女性だけの再婚禁止期間の廃止、選択的夫婦別姓の採用など、民法の改正

Ø  妊娠・出産に関わるハラスメントを含む雇用差別、職場でのセクハラを禁止し、防ぐための法整備をする

Ø  2020年に指導的地位に占める女性の割合を30%にするための効果的な手段を確保する

Ø  女性差別的なポルノやゲーム、アニメなどの規制

 

「慰安婦」問題に関する勧告の要旨

 

*  本件に関しては前回の本委員会の最終見解、その他数多くの条約機関、人権理事会等での勧告が出ている。委員会は締約国の問題解決のための努力、最近のものでは昨年12月28日の日韓合意に留意するが、上述の諸機関からの勧告を履行していないこと、および締約国が人権侵害がなされたとされる時期が条約批准前であることを理由に、本問題が委員会の管轄外であるとの立場を取っていることは遺憾に思う。

*  委員会は

Ø  (a)「慰安婦」に関する責任に関して発言する政治家が増えていること、日韓合意が被害者を中心に据えたアプローチを採用していないこと

Ø  (b)何人かの「慰安婦」は締約国による深刻な人権侵害被害についての責任を公的に認められずに死亡していること

Ø  (c)他の国の「慰安婦」被害者に対する国際人権法上の義務を締約国が言明していないこと

Ø  (d)締約国が教科書から慰安婦に関する記述を削除したこと−を、遺憾に思う。

 

*  委員会は前回の最終見解の勧告を繰り返すとともに「慰安婦」問題が第2次大戦中に締約国の軍隊により遂行された深刻な人権侵害であり被害者に影響を与え続けていると考える。したがって委員会は時的管轄により本問題に言及することが妨げられることはないと考え、締約国に以下を勧告する。

Ø  (a)締約国の指導者や政治家が、慰安婦の被害者を再びトラウマに陥れるような発言をしないよう確保すること

Ø  (b)被害者の救済の権利を疑問の余地なく認め、金銭賠償・満足(回復)の措置・公式謝罪・リハビリテーションのためのサービスを含む完全かつ効果的な賠償を提供すること

Ø  (c)日韓合意を履行する際、被害者の立場に正当な考慮を払い、彼女たちの真実・正義・賠償への権利を確保すること

Ø  (d)「慰安婦」問題を適切に教科書に反映し、歴史的事実が客観的に学生や一般の人々に提供されるようにすること

Ø  (e)次回の定期報告書において、被害者の真実・正義・賠償の権利を確保するために行った協議その他の措置についての情報を提供すること。

 

 

慰安婦問題には約1ページが割かれ、前回の勧告より分量が増え詳細でかる具体的な記述になった旧日本軍の従軍慰安婦問題について、日本政府の取り組みはなお不十分と指摘。日韓合意を実行に移す際には元慰安婦の意見に十分配慮するよう日本政府に勧告した。

 

 委員会は2009年最終見解の前回会合で、元慰安婦らへの賠償や加害者の訴追などを含む慰安婦問題の「持続的な解決」を探る努力をするよう日本政府に勧告していたが、今回の最終見解は日本がこうした以前(過去)の勧告を依然として実行していないとして「遺憾の意」を示したうえで、被害者への補償や加害者の訴追など、前回の勧告を繰り返し、日本政府が「被害者の権利を認識し、完全で効果的な癒やしと償いを適切な形で提供する」ことなどを求めた。

 

今回の勧告には、「以前の勧告」との表現が約10カ所も盛り込まれており、過去の勧告が実行されていないことに対する委員会の懸念が表れた形となった。

 

 「最終的かつ不可逆的に慰安婦問題を解決した」とする2015年末の日韓合意については「元慰安婦らを中心としたアプローチを完全には取っていない」と指摘、「日本政府は合意を履行する過程で、犠牲者や生存者の主張を受け入れ、真実、正義、償いを求める権利」を保障し、彼女らの立場に寄り添った解決を目指すよう求めるなど、日本政府の姿勢に注文をつけた。

 

 日本が教科書に慰安婦関連の内容を削除したことに関しても、一般市民が分かるように復活させることを注文したうえで、「一部の元慰安婦ハルモニ(お婆さん)たちは、彼女らが体験した酷い人権違反行為に対し、日本政府に公式の責任を認められないまま死亡しており、日本は教科書から慰安婦問題を削除した。日本政府は慰安婦問題を教科書に載せ、客観的かつ歴史的な事実をより多くの学生や一般の人が分かるよう保障せよ」とした。さらに「治癒のための犠牲者の権利を認め、公式的な謝罪と犠牲者が満足できる完全かつ効果的な賠償と補償も提供しなければならない」「次の審議報告書に犠牲者や生存者の権利を保障するため、どのような措置を取ったのか報告せよ」と要求した。

 

 慰安婦問題の責任をめぐる最近の「指導者や当局者が責任を軽くみる発言をし、被害者に再び心的な傷を負わせるような行為を控えるべき」といった新たな勧告も盛り込まれた。

 

 また、2015年成立した「女性活躍推進法」のほか、待遇改善に向けた14年の「パートタイム労働法」の改正など、前回2009年の勧告以降の取り組みを評価する一方、夫婦同姓や再婚禁止期間など民法の規定について改正を求め、「過去の勧告が十分に実行されていない」と厳しく指摘した。

 

 2015年12月に最高裁が「合憲」とした「夫婦同姓」については、「実際には女性に夫の姓を強制している」と指摘し、改正を求めた。

 

 6カ月の「再婚禁止期間」について、最高裁が「100日を超える部分」を違憲とした判断についても、「女性に対してだけ、特定の期間の再婚を禁じている」として、なお改善を求めた。

 

 また妊娠・出産に関わるハラスメント(マタハラ)を含む雇用差別や職場でのセクハラを禁じ、防止する法的措置を整えるよう求めた。国会議員や企業の管理職など、指導的な地位を占める女性を20年までに30%以上にすることも求めた。

 

 さらに、日本が、慰安婦問題は女性差別撤廃条約を締結した以前に起きたために委員会が取り上げるべきではないと主張していることについても、「遺憾に思う」とした。

 

女性差別撤廃委員会が扱うテーマは、差別に関する法整備から女性への各種暴力、漫画も含むポルノ規制、人身売買、売春、雇用、アイヌや在日コリアンなどマイノリティーの問題など広範囲に及んでおり、各国政府は、男女差別の解消と平等の実現を求めた女性差別撤廃条約に基づいて、達成状況を報告する。審査は、日本が1985年に批准した女性差別撤廃条約に基づくもので、勧告を受けた後の改善状況を調べるため、数年ごとに開かれ、日本は2009年以来5回目。

 

ただ日本は、1985年に条約を批准したが、勧告については、法的拘束力を否定する立場をとっている。

 

委員会は、世界23カ国の弁護士ら専門家で構成されている。委員長は日本の林陽子弁護士(2015年2月〜。日本人として初めて)だが、出身国の審査には携わらないことになっている。この日の最終見解は、日本を含む7カ国について触れた。

 

 2月にあった今回の対日審査では、オーストリアの委員が「何が(慰安婦の)被害者中心のアプローチになり得るのか」「加害者の訴追や、歴史教科書掲載の必要性といった過去の国連機関の勧告をどう実行に移すのか」と質問した。

 

これに対し、日本政府代表の杉山晋輔・外務審議官は、日韓合意の内容や、「日本政府が発見した資料の中では、いわゆる『強制連行』を確認できるものはなかった」といった立場を強調して説明した。

 

結婚可能年齢が男性18歳、女性16歳と差があることや、女性のみに課されている再婚禁止期間について、委員から「差別的だとされていないのは驚くことだ」などの批判が出た。また、公職機関における女性の少なさについても、批判的な意見が多く出た。

 

 勧告の中で特に改善が急がれ、2年以内の報告提出を求める「フォローアップ」項目の一つに、民法改正が再度盛り込まれた。

 

(2016年3月9日配信『毎日新聞』)

 

 また以前の最終見解では国会議員など指導的な地位にある公職者による「性差別発言」など、「言葉の暴力」を禁じるように求めているが、今回も改善の取り組みについて質問が出た。

 

 これに対して、日本政府の代表の内閣府男女共同参画局の武川恵子局長は「性差別的な発言であるという批判を浴びるものについて、社会的に容認されないという空気が強くなってきているのは喜ばしいと思う」と答えた。

 

 一方、日本の人権団体などで作る「日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク(JNNC)」の永井よし子共同代表は、対日審査後の記者会見で「我々からみれば、政府の回答は木で鼻をくくったよう」と話した。

 

 元軍縮大使で、かつて国連委員会で慰安婦問題に関わった美根慶樹・平和外交研究所代表は「国連委員会が慰安婦問題について質問したのは、日本政府と強制連行の有無を論争したかったからではなく、問題解決に対する姿勢を知りたかったからだ。ことさら強制性の有無に焦点を当て、否定する杉山氏の説明は『日本は責任逃れをする意図があるのでは』という疑念を生じさせかねない危ういものだ」と話す。

 

日本政府は7日、ジュネーブ国連代表部を通じて同委に口頭で遺憾の意を申し入れ、抗議した。

 

菅義偉官房長官は3月8日の記者会見で、国連の女性差別撤廃委員会が最終見解で慰安婦問題に対する日本政府の取り組みが不十分と指摘したことについて「(2015年末の)日韓合意を批判するなど政府の説明を十分踏まえていない。極めて遺憾で受け入れられない」と批判した。

 菅氏は「日韓外相間で合意し、両首脳が確認したものだ。潘基文(バン・キムン)国連事務総長らも歓迎しており、国際社会の受け止めと大きくかけ離れている」と反論。合意について「両政府が誠実に実行に移すことが極めて大事だ」と改めて強調した。外務省幹部も見解について「指摘は的外れだ」と不満を漏らした。

 菅氏は、同委が杉山氏の説明を受けて、慰安婦について「性奴隷」の用語を使わず、「慰安婦」の表現に統一した点を指摘し、「事実関係や政府の取り組みはしっかり説明できた」と強調した。

 

 公明党の山口那津男代表は「これは日韓の基本的な問題で、昨年末に合意したものだ」と述べ、日韓間の問題であることを強調した。

 

おおさか維新の会の馬場伸幸幹事長は「日韓が直接話して解決策を決定した。国連の一セクションで批判するのは的外れだ」と述べた。

 

維新の党の今井雅人幹事長は会見で「被害者に納得してもらうかを丁寧にやらないと勧告に応えられない。合意に従い対応することが必要だ」と述べた。 

 

 民間団体「慰安婦の真実国民運動(加瀬英明代表)は8日、政府に対し、最終見解に強く反論することを求める要望書を提出した。

 

 また「最終見解」は、優生保護政策で障害を理由に不妊手術を受けさせられた人への補償についても日本政府に勧告した。国内の女性障害者や支援者は最終見解を歓迎し、政府に履行を求めている。

 最終見解は「不良な子孫の出生防止」として障害者らの不妊手術を認めていた旧優生保護法下、約1万6500人が本人の意思によらず手術を受けさせられたとされるのに、政府が補償や謝罪をしていないことを問題視した。「実態を調べ加害者を訴追し、全ての被害者に法的な救済や補償を提供する」よう勧告した。

 

 当事者団体「DPI女性障害者ネットワーク(東京都)のメンバーはスイスで、委員会の2月16日の審査を傍聴した。神戸市の視覚障害者、藤原久美子さん(52)は自身が医師に妊娠中絶を勧められた経験を踏まえ、今も月経や妊娠、出産を周囲から疎まれる女性障害者がいることなどを委員らに説明した。

 

 この問題で国連組織が補償を具体的に勧告するのは1998年の人権委員会以来。優生保護法は1996年に母体保護法に改正され障害者に関する規定は削除されたが、その後も子宮摘出などの例はあるという。

 

 DPI女性障害者ネットワークは、3月21日(月・祝)14時〜17時ハートピア京都・第5会議室で、ジュネーブ報告会「障害女性がジュネーブへ飛んだ!草の根の声よ、国連に響け!」を開催チラシ

 

 

 なお、最終見解案に皇位継承権が男系男子の皇族だけにあるのは女性への差別だとして、皇室典範の改正を求める勧告を盛り込んでいたが、日本側は駐ジュネーブ代表部を通じて強く抗議し、削除を要請したことから、発表された最終見解からは皇室典範に関する記述は削除された。

 

 日本側に提示された最終見解案は「委員会は既存の差別的な規定に関するこれまでの勧告に対応がされていないことを遺憾に思う」と前置きし、「特に懸念を有している」として「皇室典範に男系男子の皇族のみに皇位継承権が継承されるとの規定を有している」と挙げた。その上で、母方の系統に天皇を持つ女系の女子にも「皇位継承が可能となるよう皇室典範を改正すべきだ」と勧告していた。

 

 

女子差別撤廃委員会

 

設立

国連総会によって1979年に採択され、1981年9月3日に発効した「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(女子差別撤廃条約)」実施に関する進捗状況を検討するため、同条約第17条に基づき設置され、1982年4月、同委員会委員の第1回選出が行われた。

 

機能

(1)毎年会合を開き、締約国が提出する報告(同条約の履行のために取った立法上、司法上、行政上の措置等に関するもの)を検討すること(会合は年3回開催〈2,7,10月頃〉、於:ジュネーブの国連欧州本部)。

(2)委員会の活動を経済社会理事会を通じて国連総会に報告すること。

(3)締約国から得た情報及び情報の検討に基づく提案及び一般的な性格を有する勧告を行うこと。

 

構成

(1)締約国により選ばれた、徳望が高くかつ同条約の対象とされる分野において十分な能力を有する23人の個人資格の専門家により構成(我が国からは、現在、林陽子弁護士が委員として参加。2015年2月からは委員長を務める。)。

(2)委員は同条約の締約国会合で行われる選挙により選出され、任期は4年(2年毎に委員の半数を改選)。

(3)委員の国籍(2016年)

トルコ、ペルー、フランス、カタール、キューバ、ジャマイカ、フィンランド、アルジェリア、エジプト、ガーナ、レバノン、イスラエル、日本、オーストリア、バングラデシュ、リトアニア、グルジア、ナイジェリア、モーリシャス、ブラジル、イタリア、スイス、中国

 

 

 

 

国連が慰安婦を「性奴隷制」と指摘

 

2016年3月10日、慰安婦問題を巡って、国連は人権理事会で元慰安婦を「日本軍による性奴隷制度を生き延びた女性たち」だと指摘した。

国連のゼイド・フセイン人権高等弁務官は、スイスのジュネーブで開かれている人権理事会の各国の人権状況に関する年次報告の演説で、元慰安婦について「第2次世界大戦中の日本軍による性奴隷制度を生き延びた女性たち」だと述べた。

さらに、慰安婦問題を巡る2016年12月の日韓両政府の合意について、「元慰安婦自身から疑問の声が出ていることが非常に重大だ」としたうえで、「勇気と尊厳を持った女性たちに手を差し伸べることが根本的に重要だ」と述べ、元慰安婦から理解を得られるよう両政府に求める見解を示した。

 

これに対してジュネーブ国際機関日本政府代表部の嘉治美佐子大使は、日韓両政府の合意について「元慰安婦の名誉を回復し、傷を癒やすためのもので、合意は、最終的かつ不可逆的に解決するという意味だ」としたうえで、「性奴隷制度という表現は事実に基づいていない」と直後の発言機会で反論した。国代表も「元慰安婦の名誉を回復するためのもの」と述べた。

 

また、この日の理事会では、中国が「日本はアジア諸国で10万人の慰安婦を集めた」と発言したが、嘉治大使はこの点についても「中国側が示した数字は正しくない」と反論した。

 

菅義偉官房長官も11日の記者会見で「国際社会の受け止め方と大きく懸け離れており、極めて遺憾だ」と述べ、ゼイド氏に日本政府として抗議する考えも示した。

 

一方、拷問に関する特別報告者メンデス氏(アルゼンチン)ら国連の専門家グループも3月11日、人権問題などの専門家らによる声明を発表し、慰安婦を「性奴隷」と表現したうえで、「日韓両政府の合意は元慰安婦の要求を満たしていない」と批判。「元慰安婦が長く待ち望んでいる謝罪はまだこれからだ」「十分な賠償とともに、日本政府や軍のすべての責任を認めたあいまいでない公式の謝罪が、被害者の権利を守り維持することになる」などと指摘した。