日本の証券会社が、東証に上場する株式には信じられないほどの価値があると個人投資家を説得しきれないまま数週間がたった。日銀によるマイナス金利政策という魔法が効き始めているにもかかわらずだ。そんな中、証券会社を落胆させるようなあらたな声が聞こえ始めた。日本の個人投資家がインドネシア株に押し寄せているというのだ。
かわいそうな証券会社にとって最もいらだたしいのは、日本人が安倍晋三首相のアベノミクスの代わりに、インドネシアのジョコ大統領の成長戦略を大いに買っているという皮肉な側面ではない。ましてや、マイナス金利政策に混乱した投資家がリスクをいとわず海外に利回りを求めに行くという、この政策の広い意味での特異性でもない。事実いま、足元の日本には利回りを得られる機会が豊富に転がっている。日本の市場には、株価純資産倍率で1倍を切るという十分な利回りを誇る上場株が53%もあるという豊富さだ。
証券会社をいらだたせているのは、どうやら真の勝者は日本の典型的な個人投資家「ミセス・ワタナベ」であるべきときなのに、それなしでも日本株式会社がマイナス金利政策導入後に成果を上げつつあるということのようだ。しかし、果たしてそうなのだろうか?
米ゴールドマン・サックスによると、自社株買いが年初来、爆発的に増えている。2016年2月までの2カ月間で、東証1部に上場する128社が総額2兆1000億円の自社株買いを発表した。これは前年同期比で248%増加したことになる。このことから2つの見方ができる。日本の企業が自社株がいかに割安かということに気づいた。もしくは企業統治という言葉をうのみにして、自己資本利益率(ROE)を上げようと決断したか、だ。
■ミセス・ワタナベ、ジャカルタを向く
しかし、3つ目の見方もある。それは、ミセス・ワタナベが(様々な理由から)世界最大級の投資ファンドの運用担当者と同様の行動をとっていることを示唆する見方だ。ファンドマネジャーを対象とした米バンクオブアメリカ・メリルリンチの最近の調査によると、09年以降最高となる実に16%の機関投資家が、配当と自社株買いによる総還元性向が高すぎると回答している。
株主配分を上げるという行動は、主に米国の企業では一般的だが、それでは、もしミセス・ワタナベが日本についてこっそりと、ファンドマネジャーと同様の結論を下していたとしたらどうだろうか。つまり、企業は投資家に対して寛容になって自社株買いをしている、もしくは割安だから反応したというわけではなく、単に資金の振り向け先として他に良い候補がなかったからという結論だ。もしそうだとしたら、そしてアベノミクスが日本株式会社の中でリスクを取らせることに失敗していたとしたら、ミセス・ワタナベがジャカルタに目を向け始めるのも理にかなっているのかもしれない。
By Leo Lewis
(2016年3月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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