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十四話 村へ
俺は集めた代表らに今後の事を話していく。
明日にでも俺はここを出る事を告げると、多少動揺しているが前々から何度も言っていた事なので、納得はしてくれている様だ。
力があるとは言え彼らから見ても子供の俺が、人間の群れの中に帰ると言う事は、当たり前の考え方なのだろう。老ゴブや老コボルトが渋るゴブ太君を説得してくれている。
この会議の議題だが、まず俺が抜けた後のこの群れのボスの問題だ。これはゴブ太君に頼むことにした。存在進化をしてボーク君を抜き一番力を持った存在になった彼であれば安心して任せることが出来る。
この件に関しては誰も文句は無いらしく、ボーク君もゴブ太君も黙って聞いていた。
次の議題だが、今回キャスをこの会議に残したのは、人の常識をちゃんと認識しておく必要があるからだ。
キャスの話を聞く限り、ゴブリン達亜人は人にとって討伐対象であり、実際に村の周辺の森に現れると即時退治されると言う。それも当然で、放って置けば増えてしまうし、増えて数を増やせば村へ襲撃をして来るからだ。
それに関しては俺は何とも思わない。俺はこの群れの奴らだけが特別なのであって、他のゴブリンやオークなど、どうでもいいからだ。放って置けばこちらに攻めてくる奴らに慈悲など必要無い。
討伐に関しても何も思わないのは、人に害を与えるならば人間だろうが亜人だろうが、やられて当たり前だと思っているからだ。
人間の間だって犯罪者に対しては容赦はしないだろう。地球の中でも日本は緩かったのだろうが、海外じゃ射殺何て普通に行われている。まあ、犯罪者が銃を所有してるっていう問題もあるから一様には言え無いかもしれないが。
キャスの話ではこの世界でも犯罪者は殺しても問題ないらしい。
ただ、人間が組織する団体の討伐には冒険者だけでは無く、国の人間が同行するとの事だ。冒険者に治安維持を全て任すとかあり得ないし当然だろう。
なので、この群れがこれ以上南下する事は止めておけと釘を刺しておく。また、人に関しては縄張りに入った奴は排除しても良いが出来る限り戦うなとお願いした。
群れを抜ける俺が言うのもおかしいな話なんだが、善処してくれるようなので安心した。俺だってこいつ等を襲ってきた奴らならどうでもいいが、迷い込んできた奴まで死ぬのは嫌なのだから。
ただ、キャスが言うには今は空白地が出来たから来れたが、本来こんな場所に来れる奴は上級冒険者位らしいので、油断せずに駄目なら直ぐに逃げるべきだと忠告してくれた。
とは言っても、上級冒険者が深く森に入るメリットが無いので殆どありえないと言う。何故なら、上級冒険者が態々ゴブリンやオーク退治にこれほど深く入って来ないからだ。
上級冒険者は来ず、中級以下の冒険者には危険なこの場所は案外亜人にとっていい場所なのかもしれない。いや、亜人同士で争ってるからそうとも言えないのか?
縄張りに関しては、南には伸ばさない事になったが、当分はこの支配地域を広げる事はしないと言っている。東に行ってもゴブリン達にとっては余りいい土地では無いので、広げるとしたら西になるとの事だ。俺が抜けた後の話だしその辺は勝手にやってくれればいいと思う。
数も大分減ってしまっているので、広い縄張りを使って産めや増やせや状態になるのだろう。
それ程多くも無い議題だったが、話し合いは終了して解散する事になった。
今日の夜は群れの皆が総出で、キマイラ討伐と仲間の弔いを兼ねて宴会になった。
とは言っても、酒は無いし肉とキノコの炒め物とパンが精いっぱいの贅沢だ。もしここにデザートなんてあったらフルコースになっちゃうから大変な事になるね。
俺の隣に陣取ったゴブ太君が、甲斐甲斐しく俺の世話をしてくれる。進化をして俺以上に強くなってる気がするのだが、未だに俺を慕ってくれている様だ。
ゴブ太君の姿を見た老ゴブ曰く、主人と慕う者を持つゴブリンが進化する姿らしい。それを聞けば納得なのだが、何故ここまで尽くしてくれるのかと聞けば、命を助けられ、群れを助け、広大な縄張りまで手に入れられたのだから、慕わない理由が無いとの事だ。
命を助けたのは、元は言えば俺がナイフ投げたんだけど良いのかな?
とはいえ、他は俺はちゃんと貢献したし、認めて貰えてるならいいか。
俺は今後の群れの事や偶には遊びに来ると言うと、ゴブ太君は水を飲みながら泣いていた。今度来るときは酒でも持ってきてやろう。
宴会も終わり、小屋に戻るとポッポは目を覚ましており、薄くだが目を開けてこちらを見ている。俺は息を飲み込みポッポに駆け寄り話しかける。
「ポッポ! 大丈夫か?」
弱弱しくだが俺に「大丈夫なんだから」と、健気に答えてくれる。
ポーションで既に傷口は塞がっているのだが、体の欠損からか相当体力を消耗して様でまだ苦しそうだ。
彼女が居なければ俺は死んでいた可能性が高い。僅かな時間だがキマイラに立ち向かい時間を稼いでくれたからこそ、ゴブリン達は間に合ったのだ。
あの場で誰が一番活躍したかなんて、どうでもいい事ではあるが、俺にとっての命の恩人はポッポが一番かも知れない。
それだけに羽が無くなっている事実に、やり切れない気持ちが一杯になり何も言えなくなるが、そんな俺の姿を見たポッポは「主人を守れてよかったのよ?」なんて能天気な事を言ってくる。
はぁ……、怪我したポッポに気遣われるとか俺駄目すぎるだろ。
俺はダメ元でキャスに体の欠損を直す方法は無いのかと尋ねると、意外な事にあると言う。
「鳥に出来るかは分からないけど、最高位の神官様が人の体を治せるわね。無くなった腕を取り戻した人の話は聞いたことがあるわ。だけど、順番待ちで数年またされるらしいし、普通の市民じゃ相手にされないんじゃないかしら」
なるほど、方法自体は有るんだな。ポーションが人にも亜人に動物にも効くのであれば望みはある。
以下、ダイジェスト
キャスから聞いたポッポちゃんを回復する手段は、難しいことが分かった。治す方法まだ分からないが、何時の日かポッポちゃんの翼を取り戻すと決心した。
亜人の集落を出て一週間近く移動すると、やっと森を抜けることが出来た。道中、キャスと様々な話しをして、村についたらどうするかなどを話し合う。
見えた村は、壁に囲まれたのどかそうな村だ。
コリーンちゃんとキャスが帰ってきたことで、村の人達が大勢集まり出迎えてくれた。
涙の再会はいいのだが、俺の事を説明することになったキャスは、出迎えてくれた母親にびびったのか、中々説明が出来なかった。
そこに現れたのは、村の村長。キャスは俺の手を取り、その場から逃げるように駆け出したのだった。
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