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コンビニエンスストアの「サンクス」でアルバイトとして働く埼玉県の高校3年生の男子生徒が、労働組合を通じて、店の運営会社と「賃金支払いは1分単位」とすることを柱とする労働協約を結んだことが、ニュースで取り上げられていた。

■悪質な労基法違反は改めさせて当然
報道によると、当該コンビニエンスストアでは、職務に不可欠なユニフォームへの着替えの時間を労働時間に組み込んでいなかったり、15分未満の早出や残業を意図的に切り捨てるような形でタイムカードを切らせたりしていたようである。

このような労務管理の方法は、法的には明らかに間違っており、社会保険労務士である私としても、仮に顧問先で同様な労務管理が行われたいたとしたら、直ちに改善に向けたアドバイスに着手するであろう。

■1分単位で残業代を支払うなら、トイレに行っても減給が筋
だが、その最善の解決方法が「1分単位で残業代を払うという労使協定を結ぶこと」だったのか、という点に関しては、私は違和感がある。

確かに、法律上は「残業代は1分単位で支払う」というのが正しい解釈である。

だが、労働者側も、それを会社に求めるならば、自分の働き方を今一度振り返ってほしい。

勤務時間の途中に、トイレに行きたくなることはないだろうか。

勤務時間の途中に、社員同士でちょっとした雑談などをすることはないだろうか。

勤務時間の途中に、飲み物を飲んだり、小腹を満たすためにパンやお菓子などをつまんだりすることはないだろうか。

勤務時間の途中にタバコを一服することが許されている職場もあるのではないだろうか。

会社は、これらのような、勤務時間中のちょっとした「ロスタイム」に対し、1分単位で減給をしていますか、ということである。

「魚心あれば、水心」という表現があるよう、会社もある程度大目に見ている部分もあるのだから、労働者側も、少し広い心を持っていただけば、それでプラスマイナスゼロではないだろうか。

もし、私が今回問題となったコンビニ運営会社の経営者であったならば、本人や労働組合に対して、「1分単位で残業代を支払う労使協定を結ぶのは構わないが、逆にこれからは、トイレに行った時間も水を飲んだ時間も、1分単位で減給しますけど、それでも良いですか?」と問いかけるであろう。

■1分単位の残業代は職場の交流も奪う
現実的に、定時に直ちに業務が終わったとしても、タイムカードのところへ歩いていったり、ちょっとした挨拶を交わしたりしていると、1分や2分はどうしても経過してしまう。

もし、何が何でも1分単位で残業代を支払わなければならないという職場になったならば、「お疲れ様でした」とか「この後宜しくお願いします」といったような、温かい言葉を交わす時間も惜しんで、タイムカードのレコーダーへダッシュしなければならないであろう。

少なくとも、私はそのような職場で働きたくはない。

なお、労基署の立入調査や、雇用に関する助成金の支給審査においても、タイムカードが18時1分で切られているのに、1分の残業代が支払われていないから支払なさい、という指導があったという話は、少なくとも私は聞いたことがない。

■労働協約を結んだ高校生は成長の機会を失った
それに、私は、この労働協約を結んだ高校生は、職業人として成長するチャンスを失ってしまったのではないかと思い、非常に残念なことだと感じている。

というのも、その日の勤務が終わった後、上司や先輩が、「今日はこういうところが良かったね」とか「こういうところを直すともっと良くなるよ」とかアドバイスをしようと思っても、「あ、この子には1分単位で残業代を払わなければいけないから、残業代を払ってまで教えてあげる義理はないな」と考え、上司や先輩からの貴重なフィードバックが得られなくなってしまうかもしれないからだ。

本来なら、お金を払ってでも教えを請わなければならないところを、上司や先輩はタダで教えてくれるかもしれないのに、そのチャンスを棒に振ってしまうのは、あまりにも勿体ない。

■労働協約を結んで本人の手取りが増えるとは限らない
また、金銭的な意味でも、1分単位の残業代の労使協定を結んだからといって、本人の手取りが必ずしも増えるわけではないと私は考える。

会社の経営体力を踏まえ、支払うことができる総人件費は限られているのであるから、「ない袖は振れない」ということになり、どこかで調整がかかるのである。

たとえば、残業代が1分単位で支払われるようになるかわり、昇給の取りやめや延期、シフトの削減などで人件費が調整されるという構図が考えられよう。

シフトが削減されたら、これまでよりも少ない人数で店を回さなければならないということにもつながるので、労働者1人あたりの負荷も増えるという顛末になりかねない。

■総括
今回の、「1分単位で残業代を支払う」という労働協約を結んだことは教科書的には正解かもしれない。

だが、実務的な意味では、ここまで私が述べてきたような観点も踏まえた上で、本当に労働者本人にとっても、最良の解決法だったのだろうか、ということである。

冒頭で述べたよう、明らかに労働基準法に違反する労使慣行は、中止させるべきである。

だが、それ以外の部分については、話し合いで円満に落としどころを見つけたりとかすることはできなかったのだろうか。

「15分にならないよう14分でタイムカードを切らせる」というような、確信的なものや悪質なものに絞って問題視し、多少のイレギュラーがあることは労使でお互いに認め合うことが、円滑な職場運営につながるのではないだろうか。

《参考記事》
■社会保険の未加入企業は「逃げ切り」ができるのか? 榊 裕葵
http://aoi-hrc.com/shakaihoken-mikanyuu
■社員を1人でも雇ったら就業規則を作成すべき理由 榊 裕葵
http://aoi-hrc.com/blog/shuugyoukisoku-sakusei/
■独立するなら学びたい、AKB48のキャリアウーマン岩佐美咲の仕事術 榊 裕葵
http://sharescafe.net/47686063-20160201.html
■軽井沢スキーバス転落事故。国が本気にならなければ悲劇は繰り返される。榊 裕葵
http://sharescafe.net/47553437-20160118.html
■東名阪高速バス事故、11日連続勤務は合法という驚き 榊 裕葵
http://sharescafe.net/45556859-20150715.html

あおいヒューマンリソースコンサルティング代表
特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵


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