春闘はきのう大手企業が賃上げ回答を労働組合に伝える一斉回答日を迎えた。賃金体系を底上げするベースアップ(ベア)では、鉄鋼大手のように前回より積み上げたところもあったが、総じて多くの企業が慎重だった。自動車や電機は3年連続のベア実施とはいえ、水準は昨年より低かった。

 やむをえない面もある。世界経済の低迷で経営の先行きが楽観できないからだ。

 また、ベアだけで春闘の成果を判断しにくくなっている。いまや業界や企業によって業容はかなり違うし、働き方も多様だ。主要業界の大企業の正社員のベアが、そのまま全体に波及するとは限らない。

 問題はこうした控えめなベアの結果生みだされた原資が、大きな構造問題を解決する力に振り向けられるかどうかだろう。ベアを抑制しても企業が利益をためこむばかりでは困る。

 ここ10年ほど、大企業と中小企業、正社員と非正規社員との間の賃金格差が以前より広がっている。その是正が急務だ。その点、連合が分配のあり方に目を向け、「底上げ春闘」を掲げたのはうなずける。

 それには企業が総人件費を増やし、非正規社員にも適切に分配することが求められる。いまや労働者の4割を占める非正規労働者の待遇の底上げなくして経済の好循環はありえない。

 下請け企業が適正な賃金が支払えるよう、過度に厳しい取引条件を求めない、といった努力も必要になる。自動車総連は今回、自動車産業の裾野に広がる取引先の中堅・中小企業での労働条件の底上げを唱えている。新しい春闘の流れを示す試みとして評価したい。

 とはいえ、今春闘で非正規の賃金改善を要求した労組は、2月末時点で全体の5%にも満たない。もっと労使が協力して、春闘を非正規の賃上げを進める場として活用する必要があるのではないか。

 安倍政権が賃上げを企業に求めていることから「官製春闘」とも言われる。しかし、賃金水準は本来、企業が労使間交渉で決めるべきものだ。政権が介入することで、政府にしかできない中長期的な課題から国民の目をそらせてしまわないか。

 政権が取り組むべきは雇用や労働の質の向上のために制度を整えることだ。「同一労働同一賃金」を実現し、最低賃金を引きあげ、長時間労働を減らすことである。春闘の議論を機に、政労使がそれぞれの立場でそういう構造問題に本気で取り組んでいってほしい。