消費税率の10%への引き上げを再び先送りする、その布石なのか。安倍首相自身や、首相に助言している学者らの最近の発言を聞けば、そうした見方が出るのも当然だろう。

 「国際金融経済分析会合」が始まった。内外の著名な経済学者らを招き、首相や主要閣僚が意見に耳を傾ける。5月の主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)の議長国として、経済政策のあり方を議論する際の参考にするという。

 しかし、首相が14年11月、翌年秋に決まっていた10%への消費増税の先送りと衆院解散を発表した際も、事前に有識者からの聞き取りを重ねていた事実を誰もが思い出すのではないか。

 そこに、最近の言動が重なる。消費増税について、首相は「リーマン・ショックや東日本大震災級の事態が発生しない限り、予定通り引き上げる」と繰り返してきたが、先月下旬の国会答弁で「世界経済の大幅な収縮が起こっているか、専門的な見地の分析も踏まえ、その時の政治判断で決める」と加えた。

 その後、首相自身は元の発言に戻したものの、分析会合でまず意見を述べたノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ・米コロンビア大教授は、世界経済の弱さを強調し、消費増税の見送りを進言した。

 リーマン・ショック並みの経済混乱に見舞われたら、増税の延期は当然だ。海外経済に不透明感が漂うのも事実である。

 しかし、現状は「リーマン級」にはほど遠い。消費増税は予定通り実施するべきだ。

 なぜ消費増税が必要なのか。

 私たち、今を生きる世代は様々な社会保障サービスを受けているが、財源が全く足らず、多額の国債発行でまかなっている。自らへの給付を支えるために負担を増やし、将来世代へのつけ回しを少しでも減らす。同時に、子育て支援など不十分な分野を充実させていく財源も確保する。それが「社会保障と税の一体改革」だったはずだ。

 首相は、自らの発言に責任を持ってほしい。14年秋の記者会見で、その後の基本姿勢として「(消費増税を)再び延期はしないと断言する」と語ったではないか。経済状況次第で増税延期に道を開く「景気条項」を消費増税法から削除するよう命じたのも、その決意の表れではなかったのか。

 近づく参院選を意識し、さらには衆院解散の時期を探ることが最優先なのだろうか。足元の株価に一喜一憂し、目先の対応を繰り返しても、日本経済の真の再生にはつながらない。