ドイツのメルケル首相が国内3州で実施された地方選で勢いを失っていることは、みんなが認めている。同地方選では、同氏率いる保守系与党・キリスト教民主同盟(CDU)が退潮し、同国の有権者が欧州移民危機への対処を巡って、同氏に根強い不安を抱えていることを示した。
しかし、メルケル氏は、首相の座を守るために戦いつつ、もう一つの政治的な現実に胸をなで下ろすことができる。つまり、11年におよぶ首相としての同氏に挑む、有望な対抗馬が見当たらないのだ。
■過去15年で十数人の対抗馬消える
たとえ同氏の統治力に陰りが見えたとしても、CDUの議員の多くは依然として、来年の議会選挙の勝者となれる可能性が高いのはメルケル氏だとみている。
また、議員らは、最も厳しい信任投票となり得る2017年の3州の連邦議会(下院)選を前に意気盛んで、既成政党の弱体化に固執する大衆政党「ドイツのための選択肢」に対して勝利を諦めたくないと考えている。
メルケル氏もまた、過去15年におよそ十数人の潜在的対抗馬が消えていったという事実に助けられてもいる。そのうちの数人は少なからずメルケル氏の世話になっている。ベルリン自由大学の政治学の教授、オスカー・ニーダーメイヤー氏は「メルケル氏は、権力を維持することに非常に慎重だ。誰も同氏の脅威とならないことを確実にしている」という。
メルケル氏に次いでCDUで最高権力を持つ人物は、辛口の財務相ショイブレ氏だ。かつてはコール元首相の後継者に任命された同氏は、00年に金融スキャンダルで後退を余儀なくされ、メルケル氏にCDUの党首の座を許してしまった。複数のCDUの議員は、ショイブレ氏がまだその件に憤慨しているというが、ほとんどの人は73歳の同氏が次期首相としては高齢過ぎると認めている。
CDUの姉妹政党で、バイエルン州を地盤とするキリスト教社会同盟(CSU)党首であるゼーホーファー氏は、メルケル氏の保守主義に対する批判を主導し、大きなニュースになった。しかし、同氏はメルケル氏にとって部外者にすぎない。66歳のゼーホーファー氏は既に引退の意向を表明している。
一方、62歳のデメジエール内相は、勢いの衰えるメルケル氏の後任に自身がなれる確率は「低い」とみている。
経験豊かな閣僚である同氏は15年秋、難民危機で政治的統制力を発揮できず、メルケル氏が自身の参謀をこの問題解決全体の統括者に置いたことで屈辱を受けるはめになった。
こうした状況の中、57歳のフォンデアライエン国防相や、43歳のクレックナーCDU副議長など、若い世代にも余地が残される。
両氏は、CDUの同僚議員に存在感を見せつけている。フォンデアライエン氏は非常に行動力にあふれ、クレックナー氏は見たところ、苦もなく人気を集めている。