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 朝日新聞が14日付朝刊1面で「川内原発周辺の放射線量計 避難基準値 半数測れず」と報じた記事について、原子力規制委員会の田中俊一委員長は16日の定例会で「立地自治体や周辺の方たちに無用な不安をあおりたてたという意味で犯罪的」と発言した。規制委の報道官は朝日新聞に取材の経緯を説明するよう求めた。

 この記事は、運転中の九州電力川内原発(鹿児島県)の5~30キロ圏に設置されたモニタリングポスト48台のうち22台が毎時80マイクロシーベルトまでしか測れず、事故後すぐに住民を避難させる判断の指標となる毎時500マイクロを測定できないことなどを指摘したもの。

 田中委員長は「半分測れるとか、測れないとかが問題ではない。我々がモニタリングによって(避難を)判断するために必要十分かどうかだ」と強調した。

 記事について規制委は15日夕、「誤解を生じるおそれがある」としてホームページで見解を公表。低線量を精度よく測れる線量計と高線量まで測れる線量計を組み合わせて配置することで、避難を判断できる仕組みが「整備されている」とした。一方で、「緊急時モニタリングの体制は継続的に充実していくことが重要であると認識している」とした。

 また規制委は、記事にある原子力規制庁のコメントについて、「職員が言ったことではないことが書かれている」として事実関係の説明を求めている。

 この記事は自治体の避難態勢が少しでも充実することを目指して掲載したもので、朝日新聞は「当該記事については複数回、原子力規制庁幹部に取材を重ねたものです」とのコメントを出した。

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 朝日新聞は、原発事故で放射線量が急上昇した場合に5~30キロ圏の住民をすぐに避難させる大切な指標になると考え、毎時500マイクロを測定できる設備が配備されているかどうかに注目した。

 東京電力福島第一原発事故後、国は原子力災害対策指針を改定した。原発から5キロ圏は大事故が起きたら即時に避難し、5~30キロ圏はまず屋内退避したうえで、ポストで測った放射線量の値をみて避難させるかを国が判断することにした。毎時20マイクロが1日続いたら1週間以内に、毎時500マイクロに達したらすぐに避難することになった。

 朝日新聞は今年に入り、住民の避難対策を義務づけられた21道府県に5~30キロ圏のポストの設置状況を聞いた。川内原発がある鹿児島県を除く20道府県は、すでに設置したものと計画中のものも含め、すべての地点か、ほとんどの地点で毎時500マイクロまで測れるようにしていた。

 自治体の担当者たちは「福島の事故では高い放射線量の地域が広範囲に広がった。毎時500マイクロまで測れるのは当然」「500マイクロまできちんと測れるようにすることが県民の安心・安全につながる」と話した。

 自治体からこうした声が出るのは、福島第一原発の事故があったからだ。数キロ離れた地点で放射線量は大きく異なることがあり、車で移動しながらの放射線量の測定も当初はガソリン不足などでうまくできなかった。地震などとの複合災害では、道路が寸断されるなどして測定機器を運べなくなる可能性もある。

 川内原発5~30キロ圏の48台のポストは、地区ごとに避難の判断基準とするためのものと位置づけられている。川内原発について、原子力規制庁の担当者は今月の取材で、再稼働前の2014年に国が原発周辺の避難態勢を「了承」した際に、規制庁の当時の部長が鹿児島県にモニタリング態勢の拡充を強く要望していたことを明かした。また規制庁は、モニタリング態勢の現状について、全国の原発周辺のポストの設置状況や性能を調査中だ。