認知症の一種、アルツハイマー病の初期に失われた記憶を脳の神経細胞を働かせて取り戻すことにマウスで成功したと、理化学研究所の利根川進・脳科学総合研究センター長らのチームが英科学誌の電子版に発表した。
アルツハイマー病の初期症状の「物忘れ」が生じる仕組みの解明につながる成果。利根川氏は「患者は記憶を正しく形成できないのではなく、思い出せないだけかもしれない」と話している。
チームは人の若年性アルツハイマー病の家系で見つかった遺伝子の変異をマウスに組み込み、物忘れの症状があるマウスをつくった。箱に入れ、電気刺激を与えて恐怖を体験させ、そのとき働いた脳の神経細胞に目印を付けた。
マウスは1日後には恐怖を忘れていた。さらに1日後、別の箱に入れ、脳に光を当てて目印の神経細胞を働かせた結果、電気刺激はないのにすくんで動かなくなった。恐怖の記憶は失われずに保存されており、神経細胞の働きでよみがえったとチームは判断した。
一度忘れた後でも、繰り返し光を当てて、この神経細胞を働かせ続けると、2日たっても箱に入れると体をすくませた。神経細胞の働きによって神経回路のつながりが強まり、記憶を思い出しやすくなったとみられる。〔共同〕