テリオンの小説入門 起承転結用教材「鬼斬り師大神命の退魔録」起


 20XX年春、某県某市とあるベッドタウンで猟奇的な事件が起きた。

 被害者は現在判明している人数で二十名、被害者の遺体に同じ特徴があるので事件対策本部は連続殺人事件を視野に入れて犯人捜索が行われていた。


 その特徴とは、殺された被害者の体から両目がまるで巨大な手のようなもので抉り取られていた事。


 それ以外には一切手がかりなし、唯一つ街で囁かれている都市伝説を除いて……


 夜23時、学生服の少女は足早に路地を歩いていた。


「やだなぁ……バイトが長引いて、こんな時間になるなんて」


 連続殺人事件が起きている為夜の人通りはほとんどない、少女は徐に学生鞄から携帯電話を取りだし、慣れた手つきでメモリーから友人の電話番号を呼び出していた。


「あ、もしもし加奈子? バイトが長引いて……ごめんね、家まで電話付き合って」


 一人の怖さを紛らわす為に家路まで友人と電話で喋って帰ろうとした。


「うん……事件のせいで人通りが無くて、えっ……都市伝説?」

『今ネットでみつけたんだけど、今ニュースでやってる連続殺人事件に基づいた都市伝説があるの……』


 電話の向こうの相手はバイト帰りの友人が怖がる様子が面白いのか、そのまま都市伝説の内容を話す。


『んとね、夜一人で歩いていると、目の前に白い猫が現れるんだって。それでね……その白い猫には顔が無いんだって!』

「んもう、やだやめてよぉ!」


 バイト帰りの少女は怖がってやめるように何度も催促した。だが、その催促が加奈子と呼ばれた少女を愉快にさせたのか更に続きを話そうとする。


―――……ニヤァアア……―――


 どこからとも無く猫の鳴き声が聞こえた、バイト帰りの少女はびくりと体をこわばらせて驚き、足を止めてキョロキョロと声の主を探して周囲を見回す。


『ん、どうしたの?』

「今……猫の鳴き声が……加奈子が変な事言うから余計怖く……」


「なったじゃない」と彼女は続けていえなかった。

 ふと……足元に視線を落としたら……


 それはそこにいた。


 …………顔の無い、白い猫が。


「ね……ねぇ、白い猫に出会ったらどうしたらいいの、ねえ!もしもし!!」


 キコン、キコンと電波の状況が悪くなっているを事を知らせるアラーム音が電話から響いた。

 バイト帰りの少女は自分に言い聞かせる。そんなはずはないと……

 なぜならここは街の中である、地下街や山奥のような電波の届きにくい場所ではないはずなのに……


「ねっ……ねえ、加奈子……今……今っ私の足元に顔の無い白猫がいるのっ! ……このあとどうしたらいいのっ! どうしたら私助かるの!?」


 泣き叫びながら電話越しの友人に助けを求める、通話口からは友人の声は聞こえない。

 代わりに………


『かーごめ、かごめ、籠の中の鳥はー』


 何故かカゴメカゴメのわらしべ歌が流れている。


『後ろの正面だぁれ?』


「えっ!?」


『後ろの正面だぁれ?』


 急に電話から声が聞こえた、先ほど話していた加奈子の声ではない、もっと幼い子供の声だった。


『後ろの正面だぁれ?』


 子供は同じ言葉を繰り返す、少女はパニックに陥っていた、今すぐ走り出して逃げ出したい、だが恐怖で脚が石にになったように動かない。


『後ろの正面だぁれ?』


 また電話口から同じ言葉が聞こえる、少女は勇気を出しておそるおそる振り返る。


 「ひいっ!?」


 振り返った先にいたのは、少女の背後にいたのは……。


―――カシャン……ドサッ!―――


 何か硬いものが落ちる音が響いた、続いて人が倒れるような音がした


『もしもし!聞こえてる!? もしも、【後ろの正面誰?】と言われても振り向いちゃ駄目よ!  ねえ……聞こえてる? お願いだからっ、返事してぇぇぇ!!!』


 加奈子と呼ばれる女性のの悲痛な叫びはもう二度と少女の耳には届かなかった、彼女は21人目の犠牲者となってしまったのだから……。