テリオンの小説入門
キャラクターのアイデンティティとプロフィール
キャラクターのアイデンティティとプロフィール
はい、今回はキャラクターのアイデンティティとプロフィールについてです。
前に紹介した魅力的なキャラクターの作り方に通じる内容だと私は思い込んでいます。
皆さんはアイデンティティ、という言葉を聞いたことがあるかと思います。
心理学用語では自己同一性と呼ばれ、一言で言い表すのは難しいですが……「Aという人間がAであることの証明」とでも言えばいいでしょうかね。
IDカードのIDもこのアイデンティティ(identity)から来ているらしく、その人が何者であるのかを証明するためのカード、という意味になります。
さて、なんでいきなり小難しい心理学の論文みたいな切り出しで始めたかというと……このアイデンティティの考察とは【そのキャラって名前違うだけで他の作品のキャラと何が違うの?】と呼ばれることを防ぐためです。
意外とこのアイデンティティが出来てない生徒多いんです。
アニメやマンガであれば、外見という視覚的効果を加えることができるのでまだマシですが、文字でしか表現することができない小説のキャラクターとは、とにかくこのアイデンティティの証明が難しいです。
例えば――黒髪黒目、高校2年生、ゲーム好き、異世界に飛ばされて勇者やってます。
主人公を証明するための判断材料がたったこれだけしかない場合、個性的と断言できますか?
ではそのキャラに【アイデンティティ】が見出せているかどうかの判断基準は実は意外と簡単なんです。
「あなたはどういう人間ですか?」
貴方の作ったキャラクターに対しこの質問を投げかけ、しっかり答えられるかどうか。
回答するだけなら簡単ですが……大抵の人は名前、年齢、性別、身長、体重、出身地、趣味や特技、通っている学校までです。
残念ながらこれらは【アイデンティティ】ではなく個人情報【プロフィール】です。
この質問に対し、個人情報の紹介だけで終わってしまうようでは、ただ個人情報を貼り付けただけの、何の顔も持たないお人形さんと化している可能性が高いです。
より【アイデンティティ】を明確にさせたいなら、キャラクターを記憶喪失にでもしてみましょう。
名前を含む一切の個人情報を頭の中から消滅させてください。
その上で、そのキャラクターには何が残っているのか。
すべての個人情報を失ってなお、何かをしようと動くのであれば、それこそが【アイデンティティ】となる要素です。
なお、何もできないというのも、実は回答として成立します。
この場合は、先ほど挙げた個人情報のどこかに、そのキャラクターの【アイデンティティ】となる部分が存在していたんです。
仮にどこかの王様だったのであれば、そのキャラクターは【王であること】が自分のすべてだったのだ、という結論になる。
何もできないなりの根拠があるのであれば、それも立派な【アイデンティティ】なのです。
さて、この【アイデンティティ】の確立、できているようで意外とできていない。
【アイデンティティ】構築のヒントとして、いくつかキャラクターに持たせてみてほしいものがあります。
・尊敬する人物
・好きな言葉(座右の銘)
・こだわり
以上の3つです。できれば全部はっきりと答えられるように持って欲しいです。
まず、尊敬する人物。
昔の偉人であったり、親や先生、学校の先輩なんかでもいいだろう。
尊敬や憧れという心の動きは、実は【アイデンティティ】の構築に凄まじい影響を与えてるのです。
自分が理想としている生き方【~~になりたい】【~~でありたい】という意識に直結するので、【○○だったらどうするんだろう?】といった自分への問いかけがすんなりとできるようになるはずです。
例えばファンタジー物で幼い頃助けてくれた騎士に憧れる少年であれば、旅の途中、村が盗賊に襲われている→特に村を助ける理由などない、危ないし逃げた方が安全→だがあの騎士だったら絶対に助けるだろう、あの人のようになりたい! だからら戦う!!
こういう意識付けが可能となり、キャラクターに明確な【思想】という名の【個性】を与えることができます。
で、このアイデンティティの中では主人公を助けた実際の騎士がどんな人物であるかはさほど問題ではなく、【主人公の中にある騎士の人物像】と自分の意識を照らし合わせることができればいいだけです。
好きな言葉(座右の銘)は、おそらく一番分かりやすい。
割とお手軽にできる【アイデンティティ】確認法なので、設定したらその言葉を念頭にキャラクターを動かせば魅力的に見えるのではないでしょうか?
そしてこだわり。
誰に何と言われようと、かたくなに譲ることができないもの。
別にこれは何だっていいのだ。
目玉焼きにはソース派だとか、きのこの山よりたけのこの里派だとか、お風呂に入ったらまず頭から洗うだとか、好きな武器を選べるなら剣より銃だとか。
このこだわりに何かしらの理由を求める必要はまったくありません。「いいじゃない、好きなんだから」で結構なものばかりです。
ここまでの内容でお気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが……実はこれらの要素は、会社や学校の面接で出てくるような質問ばかりです。
実のところ、冒頭の「あなたはどういう人間ですか?」という質問に、キャラクター自身ははっきり答えられなくても構いません。ただし、そのキャラクターに役割を与えて行動させる作者は、はっきりと答えてあげれるほどの認識を持ってください。
ここにおける面接とは、「小説の世界」という名の会社に入社希望のキャラクターを作者が面接し、適切な仕事(つまり役割)を割り振るための質疑応答です。
さて、自分は確固たる【アイデンティティ】を持っているという意識とは、私なりに言うと「~~をする(しない)と、自分は自分でいられない」といったレベルの【個性】があるかどうかです。
騎士に憧れる少年であれば、騎士道に照らしあわせて行動したりするでしょう。もしくは「騎士道大原則ひとーつ!」なんて叫んでいるかもしれません。
ある程度キャラの方向性を固めたい場合、特に主人公格には何かしら人格の芯となるレベルの【個性】がひとつあった方が断然いいです。【意地】や【信念】と言い換えても構わないし、より簡潔に述べるなら【自分の考えや行動に責任を持つ】という意識です。
学院の授業で講師が口酸っぱく注意していたのが
【とかく主人公の行動や思考の方針をなんとなくにするな】です。
昨今のなろうテンプレに割り当てるなら
【なんとなく】旅に出た。
【なんとなく】ドラゴンをやっつけた。
【なんとなく】奴隷を解放した。
キャラクターの思考や行動の基盤となり得るものがないと、ありとあらゆるアクションに【動機】というものが見出せません。
誰かに頼まれたからやりました、では【動機】を他人に丸投げしていることになります。
何かしらのイベントが起きてからでないとまともに行動できない【受動的】主人公は、大抵この構図に落ちいっていると思います。
注意事項として、コレが駄目というわけではありません。
しっかりとした【アイデンティティ】を確立できていない未熟な若者としての主人公なら、自分の意思表示がはっきりしないというのはかえって現実的です。
【アイデンティティ】がしっかりした大人に助けられたり、その背中を見て【僕もそうなりたい】という成長というイベントを挟むことが出来ます。
最後に貴方のキャラクターに質問です。
「貴方はどういう人間ですか?」