●やっぱり大切なのは、人間関係なのでは……
2016年3月14日~18日(現地時間)、アメリカ・サンフランシスコ モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターの技術交流を目的とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2016が開催。初日の3月14日に、何とも刺激的なタイトルの講演が行われた。その名もずばり“You Don't need a f---ing publisher”。いわゆる“4レターワード”が盛り込まれた、そのものずばり、“パブリッシャーなんていらない”という講演のスピーカーは、インディーゲーム専門のパブリッシャーであるDevolver Digital(デボルバー・デジタル)社のパートナーであるナイジェル・ローリー氏。講演名から想像されるように、パブリッシャー不要論かと思いきや、そのじつは「ビジネスの正しい進めかたを知らないパブリッシャーとうっかり契約してしまわないようにするにはどうすればいいか?」を語るセッション。要は、Devolver Digitalは“ビジネスの正しい進めかたを知っています”という高度なアピールでもあったわけです。「セッション名はミスリードになってしまっているかもしれませんが……」と前置きしつつ、ローリー氏の講演はスタートした。
ちなみに、直前に行われた『Downwell』は、海外ではDevolver Digitalがパブリッシャーを担当しており、そのつながりでもっぴん氏は引き続き壇上に留まっていたのでした。
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※『Downwell』の開発秘話をもっぴん氏が語る “ガンブーツ”のアイデアはいかにして磨き上げられたか
冒頭でローリー氏は、「実際のところ、我々のもとには、開発者から本当にたくさんの売り込みがあります。ですが、この業界にはいいパブリッシャーから悪いパブリッシャーまで、じつにさまざまな人たちがいます。そこで今日は、「開発者は契約を結ぶ前に、パブリッシャーにどういう質問をすべきか」を講演したいと思います」と本セッションの趣旨を説明。
ローリー氏は、開発者が全身全霊をかけて取り組んだ自分のゲームがリリース間近の状態を、某有名アクション・アドベンチャーゲームでの、これから壮大な冒険に出るまえの状態になぞらえ、「主人公はおじいちゃんから剣をもらうわけですが、質問ひとつせずに剣を受け取ります。当然必要なのは剣だけではないし、おじいちゃんが主人公の集める宝石の何割をピンはねするかもしらないわけですが、主人公は質問しないからわからない」といって会場を笑わせる。つまり、何が言いたいかというと、「最初にきちんと質問することが大事」だということ。
というわけで、ローリー氏は改めてパブリッシャーと開発者の歴史を説明。ゲームの歴史の始まりから、パブリッシャーは欠かせない存在でありながら、いつのまにか開発者から嫌われる存在に。デジタル配信が生まれると、開発者はそちらに飛びついたのがいい証拠。そのため、パブリッシャーもデジタル配信を受け入れ、大量のゲームがリリースされるようになり、大量のインディーゲームパブリッシャーが生まれるようになったと、ローリー氏は言う。
そしていまや、パブリッシャーのほかにもローカライズのための会社やテストプレイの会社など、さまざまな関連企業が関わるようになった。とあるデータによると、いまやインディーゲームパブリッシャーは55000社(!)以上に及ぶという。
では、パブリッシャーは何をしてくれるのか? ここで大事なのは、自分たち(開発者)が何を求めているかを知ること。「だって、必要だと思っていないことにお金をかけられても、誰も幸せにならないですし、そもそも自分の希望を認識しておくことは大事ですからね」とローリー氏。
一方で、わきまえておかないといけない認識は、“理論的には、パブリッシャーがやることはすべて開発者にもできる”ということ。まあ、この世にセルフパブリッシングでゲームをリリースする開発者が多数存在するのが、そのなによりの証拠と言える。となると、“パブリッシャーの存在意義”が問われるわけですが、「それは、開発者よりも効率的に業務が行えるという点にあります」とローリー氏は語る。たとえば、『Downwell』のもっぴん氏がDevolver Digitalと手を組んだのも、もっぴん氏は「自分自身でPRなどをやるよりも、Devolver Digitalにお願いして、自身はゲームの開発に集中したほうがいいや」と思ったからだとか。
さて、パブリッシャーの仕事といえば、PRやイベントなどのマーケティングを筆頭に多岐にわたる。とはいえ、パブリッシャーの役割も昔とは変わってきており、昔は、「俺がSteamに上げてやる」と言えば十分だったものが、いまはそれだけだと価値がない。ストアのいい場所に載せてもらえたり、Steamのプロモーションに含めてもらえたりするかなど、開発者が自分でやるよりも売上に好影響が出るかどうかを確認すべきだという。「クルマを購入するときを考えてみるといいです」とローリー氏。「タイヤが4つあって、ハンドルもついています。ここからあそこまで走れますよ! って言われても、“それはわかっているよ!”という感じでしょう(笑)。そのパブリッシャーのウリは何なのかを知りたいわけです」。ここできちんと質問できるかが、しょうもないパブリッシャーを見分けるための分かれ目になるという。
また、開発者はそのパブリッシャーと過去に仕事をした別の開発者と話しをすべきだとローリー氏は言う。「どんな点がよかったか、どんな点が悪かったかを聞くことが大事です。大成功を収めた開発者よりも、ふつうの開発者に話をきいたほうがいいです」(ローリー氏)。
そのうえで、パートナー選びに関しては、「クリエイティビティと情熱があるところを選びましょう」とローリー氏は忠告する。いまの時代に大切になるのは、マーケティングや配信について、創造性を発揮してくれるところ。これは、パブリッシャーのYouTubeチャンネルやWebサイトを見ればてきめんにわかるので、「手間を惜しまないように!」と、ローリー氏は忠告する。
“創造性に富んだマーケティング”の例でいうと、Devolver Digitalがパブリッシングを手掛けた『Hotline Miami』。同作では、ゲーム内でへんてこな電話がかかってくるというギミックがあったので、その番号を実際に確保して、プレスリリースやSNSで拡散。その結果、4000件もの留守番電話と600件のテキストメッセージが入っていたという。「もちろん、トレーラーにお金をかけるのも大事ですが、費用はほとんどかけずに、クリエイティビティを発揮してくれるところがいいですよね」とローリー氏。
さらには、「主人公は開発者だと考えるパブリッシャーと組もう」と、開発者を立ててくれるパブリッシャーを推薦する。
とはいえ、畢竟けっきょく大切なのは人間関係。これは何にでも当てはまることだと思うが、「好き嫌いは別にしても、嫌なことでも正直に言い合えること」が大事だと、ローリー氏は強調する。気をつかってモノが言えないのはダメで、「お互いにバカ正直にモノが言える関係を大切にしたい」とローリー氏。人間関係ともなると、なかなかに遠慮してしまうのが人情というものだが、いいコンテンツをしっかりと売ろうと思ったら、遠慮は不要ということだろうか。
最後に、ローリー氏が「よくある問題を避けるために……」ということでピックアップしたのが、IPの大切さ。「とにかくIPは売るな」とローリー氏は強調。「IPは開発者の財産です。そのタイトルだけでなく、スタジオの評判にもつながります」とローリー氏。そして、「契約でも譲るな!」とコメント。“たぶんそうだろう”という推測はなくして、明確に具体例を示してもらえという。さらには、「開発チームが外注と契約するときは、その契約内容を自分の責任でちゃんと見直すこと」、「自社はもちろん、パブリッシャーの経営が健全かどうか、ちゃんと意識すること。契約したあとに夜逃げされるとひどいことになるから」といった、ある種生臭いアドバイスも……。
55000もパブリッシャーが存在するのであれば、当然のことその質は千差万別。自分が心血を注いだコンテンツを、信頼できるところに任せたいというのは人情なわけで……。(縁やタイミングもあるかとは思いますが)、とにかく質問をして、人を見抜く目は磨いたほうがよさそうです。