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アベノミクス主力エンジン失速、春闘ベアが昨年比大幅減 

トヨタ社長が経営の「潮目変わる」と指摘、中小企業を含めた全体のベアは0.5%未満に留まる

2016年3月16日(水)20時02分

3月16日、政府・日銀が期待していた今年の春闘は、自動車・電機など大手メーカーのベースアップが昨年水準を大幅に下回り、中小企業を含めた全体のベアは、0.5%未満にとどまる公算が大きくなった。世界経済の先行きが怪しくなってきたことが大きく作用している。写真は都内で1月撮影(2016年 ロイター/Yuya Shino)

 政府・日銀が期待していた今年の春闘は、自動車・電機など大手メーカーのベースアップが昨年水準を大幅に下回り、中小企業を含めた全体のベアは、0.5%未満にとどまる公算が大きくなった。世界経済の先行きが怪しくなってきたことが大きく作用している。

 海外からも期待外れとの声が浮上。来年4月の消費増税を前にアベノミクスは、賃金・消費の主力エンジンが失速する危機に直面しそうだ。

トヨタ社長、経営の「潮目変わる」と指摘

 春闘のリード役、トヨタ自動車<7203.T>のベアは1500円。昨年の37.5%にとどまり、3年間で最も低い水準にとどまった。ホンダ<7267.T>は同36.7%の1100円、日産自動車<7201.T>は満額回答だったものの同60%の3000円だった。

 日立製作所<6501.T>などの電機大手は、昨年の50%となる1500円で妥結。一方、2年分をセットで決める鉄鋼大手は、前回14年春闘と比べ25%増の2500円となった。

 一方、トヨタなど自動車大手では、一時金の満額回答が相次いだ。トヨタは年間7.1カ月、ホンダが同5.1カ月と、好調だった15年度の業績をボーナスで反映させたかたちだ。

 今年のベアに関し、昨年比で50%以下の企業が多かった背景として、年明け以降の世界的な株価下落や円高、その背後にある世界経済の先行き懸念がある。トヨタの豊田章男社長は労使協議の場で「為替の動向も含め、経営を取り巻く環境の、いわゆる『潮目が変わった』とも言える」と指摘した。

労使協調の低ベア

 先行きに懸念を抱いたのは、経営者だけでない。先進国で最も「経営の先行きに敏感」と指摘される日本の労働組合が、要求段階で昨年の50%水準に「切り下げ」を断行したことも大きく影響した。

 中小機械金属産業の労組(JAM)の宮本礼一・JAM会長は「現在の経済環境は、昨年より厳しい。また、物価がゼロ%程度となっている環境も踏まえた」と、内情を打ち明けた。

 連合のまとめでは、昨年のベースアップ分(明確にわかる組合分)はおよそ0.7%。労組関係者の中では、今年のベア上昇率は、昨年をはるかに下回りそうだとの見通しが広がっている。

IMFの批判

 このような「労使協調」の低ベア春闘に対し、海外からは厳しい目が注がれている。国際通貨基金(IMF)のアジア太平洋局は14日、リポートの中で日本の春闘を取り上げ「日本では賃金交渉は活発とは言い難い状態。トヨタ労組の要求は、昨年の半分にとどまるなど全体では賃上げ要求はわずか0.5%程度にしかならない」と分析。

 そのうえで「アベノミクスでは金融政策の矢がインフレ期待を2%に引き上げ、賃金上昇とインフレがともに起こるメカニズムを作ることを目指した。だが、その役割を果たすことができていない」と指摘した。

 実は日本政府の内部でも、IMFの指摘するような懸念がくすぶり続けている。ある政府関係者によると、早い時期から今春闘でベースアップが昨年を下回りそうだと予測していた。

 その関係者は「主要国の一員なのに、日本企業は賃上げもまともにできないのかと、そろそろ海外から圧力をかけてもらいたいと思っている」と語っていた。

 その後に出てきたIMFリポート。春闘の流れに影響を与えるには「遅すぎたタイミング」だったが、国際機関の厳しい目を意識させることにはつながった。

 政府内にあるいらだちは、2つの数字で説明ができる。1つは昨年12月末に355兆円に積み上がった企業の内部留保。過去最高水準を更新し続けているのに対し、人件費の総額は、過去10年で一進一退を繰り返し、トレンドとしては横ばいにとどまっている。

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