これまでの放送
メニュー
毎週 月-木曜 放送 総合 午後7時30分-午後7時56分 [再放送] 毎週火-金曜 総合 午前1時00分-午前1時26分(月-木曜深夜)

これまでの放送

No.3782
2016年3月15日(火)放送
“仕事がない世界”がやってくる!?

人間が手を加えず、3Dプリンターが作り上げる自動車。
手書きの文字を代筆してくれるロボット。
私たちの仕事の半分が、機械に置き換わるかもしれません。
仕事が奪われたと抗議するアメリカのタクシー会社の社員たち。

タクシー運転手
「タクシー業界はめちゃくちゃになった。」

脅威だとしているのは、スマートフォンのアプリを使って一般のドライバーと乗客を結び付ける新たなサービスです。
さらに、人間に代わってホームページをデザインする人工知能まで登場。
これまで人間にしかできないと思われてきた仕事も、機械に置き換わろうとしています。

シンギュラリティ大学 ポール・サフォー教授
「5年後、10年後に自分の仕事がなくなることは当たり前になる。」

こうした将来を見据えて、欧米では、働かなくても収入を保障する制度まで検討されています。

エノ・シュミットさん
「デジタル化した時代には、新しい収入のあり方が求められています。」

仕事がない世界で私たちはどう生きていくのか、考えます。

IT使った新サービス 失われる既存の仕事

今、全米各地でタクシー会社の従業員によるデモが頻発しています。
IT技術を使った新たな輸送サービスが、自分たちの仕事を奪っていると抗議しているのです。

タクシー運転手
「収入は半分近くになってしまった。」

タクシー運転手
「タクシー業界はめちゃくちゃになってしまったよ。」

タクシー業界と競合する新たなサービスで働いているのは、一般のドライバー。
仕事で使うのは自分の車です。
車を走らせること数分。



ストロイ・モイドさん
「おっ、きた。」

スマートフォンを通じて仕事の依頼が届きました。



ストロイ・モイドさん
「キャロラインさんですか?
どうぞ。」

運転手と乗客を結び付けるのは、スマートフォンのアプリ。
乗車する場所や行き先も、アプリを通じてドライバーに伝えられます。

IT技術を媒介に需要と供給を結び付けるサービスは、「オンデマンドエコノミー」と呼ばれています。





料金はタクシーに比べて1割ほど安く設定。
サービスを運営する会社は、その一部を手数料として受け取ります。




利用客
「アプリで車をすぐに見つけられるから便利です。
料金も安いですしね。」



ストロイ・モイドさん
「20分で14ドルの収入ですよ。」




車とスマートフォンさえあれば始められるこの仕事。
しかし、保険やガソリンなどの経費はすべて自己負担です。

サンフランシスコにある業界最大手の企業です。
創業僅か7年で、企業価値は7兆円を超したと報じられています。




一方、サンフランシスコでは、市内最大手のタクシー会社が破産申請する事態となりました。
ドライバーをはじめ事務職の職員など、およそ1,200人の雇用が脅かされています。
急成長するオンデマンドエコノミー。
しかし、従来の企業のように安定した雇用を生み出していないという指摘もあります。

全米3都市で宅配サービスを展開する会社です。
配達をするのは、自家用車を持ち込む一般のドライバーです。




オフィスはこの1部屋のみです。





正社員は僅か12人。
アプリのプログラマーやウェブのデザイナー、そして営業担当者だけです。
既存の業者のような車の配車係や経理、従業員の管理を行う総務などの社員はいません。
アプリを使うことで、少ない要員で運営が可能となり、競争力につながっています。

宅配サービス会社 CEO サンダー・アデルさん
「重視しているのは、使いやすいソフトを作り、効率的なシステムを築き上げること。
爆発的な成長のカギはそこにあります。」


オンデマンドエコノミーで収入を得たことがある人は、全米で4,500万人。
その半数以上が18歳から34歳の若者です。




2年前に失業し、正社員の仕事を探している34歳の女性です。
時給16ドルの買い物代行サービスが生活の支えです。
仕事は数時間しか見つからない日も少なくありません。


イブ・ペーナさん
「最低賃金よりは稼ぐことができるけど、物価が高い街なので、生活は本当に厳しいです。」




こうしたオンデマンドエコノミーの仕事も、近い将来、人工知能を使った自動運転などの新たなテクノロジーで置き換えられると専門家は予測しています。



シンギュラリティ大学 ポール・サフォー教授
「5年、10年後には自分の仕事がなくなることが当たり前になります。
爆発的な変化が続いていくでしょう。
今起きている革命の前では、企業のトップでさえ無関係ではいられないのです。」

“仕事がない世界” 背景には何が
ゲスト広井良典さん(千葉大学法政経学部教授)

●これまでは生産性と同時に雇用の数も同じように上がってきたが、2000年あたりからは様子が変わってきて、今後は大幅に雇用の数が減るのではといわれている 何が起きている?

これまでは結局、生産性が上がると確かに人手が少なくて済むようになるわけですから、そのかぎりでは人手は余るわけですけども、その分、新たな需要が発生して、そちらにまた労働力が移って、全体として経済成長も並行して進んでいく、ある種の好循環があったわけですね。

ところが今は、これだけものがあふれる時代になって、人々の需要というか、消費ももうほとんど飽和してきているので、そういう中で生産性だけが上がっていくと、その分、人手が少なくていいということで労働力が余る、失業が生じる。
加えて、インターネットとかAIの技術が進んだことで、そういう状況が非常に顕在化しているという、そういう時代状況だと思います。

●アメリカではオンデマンド経済というものが生まれ、新たに起業した会社が急成長している 雇用の受け皿としては、失われる雇用を十分に吸収できないということになる?

確かにこの「オンデマンドエコノミー」というのは、新しい可能性もあると思いますので、光と影といいますか、両面考えていく必要があると思うんですけれども、やはりそれほど新たな雇用を生み出すわけでもない。
むしろ生産性が上がって、人手がいらなくなる部分のほうが大きかったり、それから新たに生まれる雇用といっても、先ほどの映像にもありますように、かなり不安定であったり、いろんな保障という面でも問題が大きいということで、なかなかそこはかなり問題が大きいと思います。
(一部の人が成功する、高額の所得を得るということになる?)
そうですね。
結局、生産性が上がって、少ない労働力で生産ができると。
そうなると、まさにその少ない労働力、そこに富が集中して、多くの人が失業して、そこで結果として格差が広がっていくという、こういう状況がかなり進みつつあるというふうにいえると思います。

(そのニーズのある仕事は、どちらかというと低賃金とされている仕事が多くなる傾向?)
そうですね。
ですから、まさにそういう状況で生産性の上昇が必ずしも全体の豊かさにつながらなくて、かえって格差とか低賃金を増やしているというような、そういう状況が今、出てきていると思います。

収入守りながら勤務時間を短縮

北欧のスウェーデンです。
25歳未満の失業率は20.4%にも上っています。
こうした中、社員の収入を減らすことなく、仕事を分け合い、成果を上げる企業があります。

自動車整備工場 社長
「工場の拡大や設備投資をしたわけではありません。
6時間勤務によって競争力を伸ばしたのです。」



この自動車の整備工場では、給料を下げることなく、勤務時間を8時間から6時間に減らしました。
そして、営業時間を12時間に延ばし新たに20人を雇用して2交代制にしました。




人件費は増加したものの、社員の作業スピードが上がるなど、顧客の満足度が向上。
利益は2年連続で、前の年より25%も上がりました。




収入を守りながら仕事を分け合う取り組みは、自治体でも始まっています。
北部のウメオ市が運営する高齢者住宅です。
去年(2015年)11月から、准看護師の勤務時間を8時間から6時間に減らす実験を行っています。


准看護師
「じゃあ帰るね、バイバイ。」




准看護師
「6時間勤務になり、家でしっかり休んでから出勤できるようになりました。
効率も上がり、利用者と話す時間も増えました。」



勤務のシフトをカバーするため新たに6人を雇用。
1年間の費用、およそ7,500万円は市が負担します。




人件費は増えますが、職員の負担を軽くすることで、これまで多かった残業手当や病気による欠勤などのコストを削減できると見込んでいます。
さらに、雇用が増えることで失業手当の削減や税収の増加も期待しています。


施設責任者 ビョーン・ハンマルさん
「行政に求められているのは、より多くの人に仕事に就いてもらうことです。
より多くの施設や関連団体に6時間勤務を広げられれば、確実に失業率の低下につながるはずです。」

働かなくても生きられる社会を

スイスでは、さらに先を見据えた議論が始まっています。

街なかを走る1台の車。
「ベーシックインカム」と書かれています。




ベーシックインカムとは、国や自治体などが、働く・働いていないにかかわらず、すべての人に毎月必要最低限の生活費を支給する制度です。




4年前、ベーシックインカムの導入を求める署名活動を始めたエノ・シュミットさんです。





12万人を超える署名を集めたことで、今年(2016年)6月に国民投票が行われることになりました。
シュミットさんは、成人1人当たり毎月およそ30万円、未成年には7万円を支給するよう訴えています。


市民
「やむを得ず長い間失業している人にはベーシックインカムが必要です。」

市民
「心に病気を抱えていて働けない人もいますから、良いアイデアです。」

国民投票で賛成票が過半数を超えるなどすれば、連邦議会はベーシックインカムの導入に向けた法整備を行うよう求められます。

エノ・シュミットさん 「あと20年で雇用は半分になりますよ。
みなさん、どうするつもりですか?」

シュミットさんは、年間およそ25兆円の財源の4分の3を税金で、残り4分の1は社会保障費の見直しで捻出できるとしています。




しかし、勉強会に参加した人たちからは、増税により働く人の負担が増すのではないかと懸念する声が上がりました。

参加者
「財源は税金ですか?
私たちに余裕はありませんよ。」

働こうとする人が誰もいなくなるのではないかという意見もありました。

参加者
「ベーシックインンカムをもらったら、私は働かないでしょう。」

これまでのところ、反対する意見が多いのが現実です。
しかしシュミットさんは、収入のために働くという前提自体を考え直す必要があるといいます。

エノ・シュミットさん
「いま私たちは、これまでの資本主義からテクノロジーの時代への過渡期にいます。
新たな時代に求められているのは、新しい収入のあり方なのです。」

どう生きる? “仕事がない世界”

●スウェーデンでは失業率が高く、仕事を分け合うため労働時間を1日8時間から6時間へと減らしたが、給料は同じだけもらえる 普通は下がると思うが?

これはある意味、考え方はシンプルで、生産性が上がって、これまで8時間かかってたことが6時間でできるようになったと。
したがって、その生産性が上がった分は、もう労働時間は少なくていいわけですから、残る時間は余暇に回して、生産もこれまでと同じで、賃金も同じということで、極めてある意味ではシンプルな考え方、それが全体の生活の豊かさというか、それにもつながっていくという、ある種の新しい社会的な合意ということになってくると思います。

●高齢者の施設でも、雇用を増やして、その増やした分を自治体がサポートしていたが?

これは、そもそも生産性というものをどう考えるかということがポイントだと思うんですけども、これまでの生産性というのは、労働生産性という、少ない労働でたくさん生産を上げると。
ところが今は、今日見てきましたように、労働力が余って失業が生じていると。

だからこれからの時代は、環境効率性という考え方がありますけれども、むしろ人はどんどん使うと、逆に今、資源が足りない時代ですから、自然資源とか環境負荷は抑えて、人はむしろ積極的に使う。
そういう見方からすると、福祉とか介護とか、そういった領域というのは、むしろ生産性が高いという、そういう新しい見方につながってくるわけで、それを促すためにまた公的な政策でバックアップしていくという、そういう新しい流れだと思います。

●スイスでは「ベーシックインカム」について国民投票で判断が問われることになるが、これは資本主義といえる?

これは一見、とっぴなアイデアのように見えるんですが、これまでの資本主義の流れを振り返ると、ある種、必然的に浮かび上がってくる方向のようにもいえるかと思うんですが。

こちら、400年ぐらいの資本主義の流れを大きく見た場合に、最初は東インド会社とかが1600年ごろ出来て、資本主義の勃興期、このとき今の「生活保護」に当たる制度が出来たと。
(困窮した人たちに生活保護を?)
そうですね。
お金をあとで配る。
それから産業革命が起こって、そこで今度は「社会保険」という形が生まれてきて、さらに世界大恐慌が起こって、今度はケインズが、政府が公共事業とか社会保障を拡充して雇用そのものを作っていくと。
これ何が示されてるかというと、資本主義が進化していく中で、それに順次、いわば修正が加えられてきたと。
より積極的な形で公的部門が介入して、資本主義を修正しながらなんとか成長を維持してきた。
それが今日の話の、さらにITやAI技術で、より根本的な一方で失業が増えて、成長もままならぬという状況になってきて、かなり資本主義の400年の流れの根本的な転換期に来て、そこで出てきているのがベーシックインカムということになると思います。
(資本主義を維持していくうえでは、あらかじめみんなが生活できるだけのお金を配るということが議論されるようになった?)
そうですね。
これ、見ますとおもしろいことに、いわば事後的な対応から、だんだん前倒しの対応に変化してるんですね。
(問題が生じる前に?)
そうですね。
生活保護、社会保険、雇用創出、もう最初からお金を給付することで、より人々が自由になって経済にもプラスになる、平等も実現されるという、そういう考え方だと思います。

●「賃金」と「働くこと」、この関係はどうなっていく?

おもしろいことに、このお金に換算できない価値といいますか、お金に換算できないような働くことへのモチベーションみたいな、それが資本主義が進化していった結果として、ある意味で資本主義と矛盾するような要素が出てきていて、それをどう発展させていくかと。
あと、日本は人口減少社会ということで、世界の中で、新しい社会のモデルといいますか、それを率先して示していくようなポジションにもあるので、これまでとはかなり違う根本的に新しい発想で考えていく必要があるのではないかと思います。

▲このページトップに戻る