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なぜ「囲碁」だったのか。なぜ「10年かかる」と言われていたのか──AlphaGo前日譚

グーグル傘下のDeepMindが開発した囲碁AI「AlphaGo」は、見事に人類を凌駕した。しかしつい最近まで、AIは棋士に勝てない、そしてブレイクスルーには10年を待たねばならないと言われていた。かつて「囲碁」という名のミステリーに挑んだフランス製のAI「Crazy Stone」の戦いを記したドキュメントから、いま、AIが加速させていく未来を読み解くことができる。

 
 
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PHOTOGRAPHS BY TAKASHI OSATO
TEXT BY ALAN LEVINOVITZ
TRANSLATION BY TAKESHI HIGUCHI

3月15日、「Google DeepMind Challenge Match」の全5局が終わり、人工知能は人類に4対1で勝ち越すという結果となった。囲碁AI「AlphaGo」(アルファ碁)を生み出したDeepMindのCEO、デミス・ハサビス(写真左)と、イ・セドル九段。REUTERS/AFLO

囲碁というゲームにおいて、こんなにも早く人工知能(AI)が人を下す未来など、誰も信じていなかった。AI研究者もコンピューター開発者も口を揃えて言っていた。「そんな未来が実現するには、少なくとも10年はかかるはずだ」と。

その認識が、2016年3月9日、あっさりと更新された。最強棋士の名を欲しいままにするイ・セドル九段と、DeepMindの開発したAI「AlphaGo」(アルファ碁)が5度にわたって対局した「Google DeepMind Challenge Match」。終わってみれば、実に4対1でAlphaGoが勝ち越すという結果に終わったのだ。

では、なぜ「囲碁」だったのか。なぜ囲碁がAIにとってのグランドチャレンジであり、10年の歳月がかかるはずだと言われていたのか。『WIRED』では、その軌跡をたどるにふさわしいドキュメントを紹介する。

以下、2015年12月1日発売の『WIRED』日本版Vol.20より、全文を転載する。

レミ・クーロン(左)と彼のコンピュータープログラム「Crazy Stone」と、依田紀基九段による対局の様子。

東京。レミ・クーロンは回転式のデスクチェアに座り、背中を丸めて使い込まれたMacBookと向き合っている。いまだかつて機械がなしえなかったことを達成したいと願いながら。

悲願達成にはあと10年ほどかかるかもしれない。しかしその長い道のりは、ここ日本の電気通信大学から始まっている。会場は華やかな雰囲気とは程遠い──木目を模したパネル張りの壁と、明るすぎる蛍光灯のみすぼらしい会議室。それでも会場は活況を呈している。観客たちは部屋の角に吊るされた古いプロジェクタースクリーンの前に集まり、やつれたカメラクルーが解説者2名による実況ネット中継の準備をしている。

クーロンは昨年の大会と同じタートルネックのセーターを着て、同じ薄い縁なしの眼鏡をかけ、トーナメントの次なる対戦相手シモン・ヴィエノの隣に座っている──シャイで控えめなフランス人のヴィエノは、まるでクーロンをそのまま若くしたかのように見える。

2人は向き合って座っているのではない。彼らの視線は、互いの前に置かれたそれぞれのコンピューターに向けられている。クーロンが手がけるソフトウェアの名は「Crazy Stone」(彼はこのソフトウェアで7年前から参加している)、そして対するはヴィエノと日本人のパートナー池田心のプログラム「Nomitan」。

Crazy StoneとNomitanが対決するのは囲碁だ。両者のパソコン画面には19×19の格子が描かれた碁盤が映っている。縦横の直線の交差部分に、白と黒の碁石が置かれていく。

この対決に勝ち、決勝戦へ進めば、日本の一流棋士への挑戦権が与えられる。大きなハンデなしに、人間の一流棋士に勝った機械はいまだかつて存在しない。たとえ人間対機械の対決に進めたとしても、Crazy Stoneがその歴史を塗り替える見込みはないが、クーロンは自身のプログラムがどこまで進化したか、確認したいと考えていたのだった。

 
 
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