人工知能 使いこなせる大局観を
毎日新聞
予想を覆す人工知能(AI)の勝利だった。世界トップ級の棋士に5番勝負を挑んだ米グーグル傘下の囲碁ソフト「アルファ碁」が、3連勝で決着をつけた。
囲碁はチェスや将棋に比べ局面の変化の数が桁違いに多く、AIが勝つのはまだ10年先と言われていた。深層学習と呼ばれる手法を使い、人間のように直感で状況を判断して打ち手を探る「大局観」を、AIが身につけたことが大きいという。
こうした技術は、自動車の自動運転や病気の診断などさまざまな分野への応用が可能で、社会の大変革をもたらす力を秘めている。一方で、AIの急速な進歩で人間の仕事が奪われたり、人間が支配されたりしないかという心配の声も聞く。
だが、科学技術の進展は止められない。人類は発明を重ねながら進歩を遂げてきた。AIについても、リスクを見据えつつ、上手に使いこなす大局観の構築が求められている。
最近のAI技術の進展は著しい。コンピューターの処理速度が増し、インターネットなどから巨大なデータを簡単に入手できるようになったことが背景にある。アルファ碁も、プロ棋士の過去の対局を大量に入力し、碁石がどのような配置だと勝率が高いかを自ら学習させた。
簡易なAIは、私たちに身近なものになりつつある。スマートフォンに搭載されている音声対話システムはその一つだ。作家・星新一の短編のデータを基にAIに「新作」を書かせる芸術系の研究もある。
政府は今年1月に閣議決定した第5期科学技術基本計画で、AIの研究開発強化を打ち出したが、現状では欧米勢が先行している。日本が得意とするロボット技術などと組み合わせることで、AI技術の可能性を広げてもらいたい。
野村総合研究所などの推計では、国内の労働人口の半数は10〜20年後にAIやロボットで置き換え可能だという。日本はこれから少子高齢化が進んでいく。労働力不足を補う点でAI技術は有効だ。ただし、人間の創造性を向上させる教育なども併せて充実する必要がある。
AIの能力が高まり、2045年ごろには全人類の知能を上回るという予測がある。AIは人間同様の意識を持ち、自己進化を遂げ、人類の脅威となるという。英国の著名な宇宙物理学者、ホーキング博士もその危険性を警告している。
AI研究者の多くはこうした脅威論を否定する。だが、AIの活用範囲が広がることは確実だ。例えば、軍事利用は進むだろう。AIの進歩を人類への朗報とするためにも、活用範囲や活用する上での倫理的な問題を、今から議論しておくべきだ。