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【社会】

繰り返される「指導死」 広島・中3自殺 公表から1週間

 広島県府中町の中学三年の男子生徒=当時(15)=が、万引したとの誤った記録に基づいた進路指導を受けた後に自殺した問題は、町教委が公表してから十五日で一週間が過ぎた。教師の指導により肉体的、精神的に追い詰められた自殺は「指導死」と呼ばれ、全国で起きている。学校側の対応のまずさから、裁判に持ち込まれるケースも後を絶たない。 (浅井弘美)

 「子どもがたくさん死ななければ、学校や社会は変わらないのか」

 十六年前、中学二年だった次男を亡くした大貫隆志さん(59)=東京都=が、声を落とす。次男は学校で菓子を食べたことを教師からとがめられ、自宅マンションから飛び降りた。

 大貫さんは「指導死」の言葉を定義し、子どもを失った親たちでつくる「『指導死』親の会」の代表世話人として、二〇〇八年から学校問題の対策を求めてきた。広島の問題では「息子と同じ指導死で、学校内のパワハラ、児童虐待にほかならない。新たな遺族に出会うのがつらい」と話す。

 遺族となった親たちは子どもを失った悲しみを背負うと同時に真相究明に乗り出すことになるが、情報を隠す学校もあり、二重の苦しみを味わうという。

 広島県東広島市で一二年十月、市立中学二年の男子生徒=当時(14)=が教師にしかられた後、公園で自殺したケースでは、生徒らへの学校側のアンケートを遺族が開示請求したが、市教委は拒否。市教委設置の第三者委員会は「自殺の予見性は困難」と結論づける報告書をまとめた。

 遺族は市側に再調査を求めたが応じず、昨年六月に提訴。父親(46)は「学校や教委から十分な開示情報がない。第三者委からは遺族の質問に回答する義務はないとも言われた」と憤る。

 札幌市で一三年三月、道立高校一年の男子生徒=当時(16)=が教師から叱責(しっせき)され自殺したケースでは、在校生のアンケート結果を遺族に知らせなかった。遺族は道教委に開示を求めたが「原本は廃棄した」と説明され、対応に限界を感じた今年三月、提訴に踏み切った。母親(48)は「動けば動くほど傷つく。提訴しか情報を知るすべがない」と訴える。

 教育評論家武田さち子さん(57)の調査によると、指導死とみられる事案(未遂含む)は一九八九年以降、六十一件。今回の広島のように誤った事実に基づく「冤罪(えんざい)型」は十一件含まれる。

 武田さんは「指導死は教師の指導の在り方が問われるため、学校へのダメージが大きく、いじめ問題以上に教師が事実を隠そうとする。遺族は裁判で真実を知るしかなく教師側の問題として調査を進める必要がある」と話している。

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◆「誰かに話して」「学校が世界じゃない」

 「友達でも、近所のおじさんでも、親戚のお姉ちゃんでもいい。悩み抜く前に誰かに話せば、ふっと心が楽になるから」

 「尾木ママ」こと教育評論家の尾木直樹さんは十五日、本紙の取材に応じ、教師の指導に傷ついたり、いじめを受けたりして、死を選ぼうかと悩む子どもたちへ「一人で悩まないで、今の気持ちを誰かに話してほしい」と語り掛けた。

 尾木さんは中学と高校で二十二年間、教師を務めた。「中学三年は進路の悩みもある。進路からは逃げることが難しいから、きつい」と指摘。「思い通りいかなくても、それが全てじゃない。どんなことでも周りに相談してみて」と話す。

 新潟青陵大学大学院の碓井真史教授(社会心理学)も「もし今、自殺を考えている子がいるなら、理由はなんでもいい。とりあえず今日は止めよう」と呼び掛ける。「学校だけが世界じゃない。孤独を感じているかもしれないけど、一歩外に出ると、世界中のほとんどは君の味方だ。愚痴をこぼしていい」

 一方、教師など大人には「指導する場合は、まず子どもの話を聞くことが大事。説教が子どもを追い込むことがあると自覚してほしい」と注文した。

 

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