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 身に覚えのない万引きの非行歴を理由に私立高校への推薦を断られ、後に自殺した中学3年の男子生徒は、救えなかったのか。1年生当時の「冤罪(えんざい)」はどうつくられたのか。周囲はなぜそれに気づけなかったのか。救済の機会は、何度もあった。

 昨年11月半ば、広島県府中町の町立府中緑ケ丘中学校。校舎2階の教室前の廊下で、担任の女性教諭は男子生徒と向き合った。

 (担任)「万引きがありますね」(男子生徒)「えっ」(担任)「3年ではなく、1年の時だよ」(男子生徒)「あっ、はい」

 学校の調査報告書は担任の証言をもとにやりとりを再現した。担任は2年前の誤った生徒指導記録をふまえ男子生徒が万引きをしていたと思い込み、このやりとりで認めたと受け止めたという。12月まですべて教室前の廊下で行われた5回の面談で、誤認が改まることはなかった。

 このころ、学校は3年時に万引きなどの触法行為があれば私学に推薦しないという基準をさらに厳しくし、入学以降の触法行為に広げた。担任は生徒の1、2年時の触法行為の確認を指示されていた。

 しかしいつどこで、何をしたかという事実確認は親にもしなかった。学年主任も本人確認で済むと考えていた。「自分の思いが言えない生徒がいるとは考えていなかった」と、報告書は記す。

 進路について話し合う三者懇談が予定されていた12月8日朝、最後の面談があった。

 (男子生徒)「3年になってからガラスを割っているので専願が受けられないと伝えたら、親が怒っている」(担任)「そうでないよね、万引きだよ」。男子生徒から万引きを否定する発言がなかったとして、担任は「大丈夫。保護者と一緒に考えよう」と面談を終えた。

 夕方の三者懇談に男子生徒は姿を現さなかった。両親は初めて息子に万引きの記録があると聞かされた。帰宅すると、自ら命を絶った息子が倒れていた。