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Think outside the box

Unus pro omnibus, omnes pro uno

保育士が低給与になる必然

人口・少子化 政治・歴史・社会

「保育士の給与はなぜ低いのか」についての“識者”の説明です。

www.asahi.com

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厚生労働省などが保育士の賃金を調べていますが、13年の調査では、保育士の賃金は月額20万7400円。これは公立も私立も含めた統計なので、もっと低い人もいます。全産業の月額平均29万5700円を大きく下回ります。幼稚園教員は21万9600円で、小学校教員は33万1600円です。保育士を教育の職員としてみている国では学校教員との給与格差はありませんが、日本は福祉職なので、格差が大きいと言えます。それに『ただ子どもと遊んでいるだけ』という保育士に対する誤解もあります」

外国の保育士は日本よりも金銭的に恵まれているようですが、果たしてそうでしょうか。アメリカの"childcare worker"の年収の中央値は、全職種の中央値の55%に過ぎません(平均値では46%)。

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Childcare workerは、賃金が最低のグループに含まれます。

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公的保育が充実している北欧のスウェーデンでも、childcare workerは賃金が最低の職種の一つです(公立と民間はほぼ同水準)。

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アメリカと同じく、小学校や幼稚園の教師と比べても、大きな賃金格差があります。

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デンマークでも同じです。

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海外でも保育は低賃金職ということです。

アメリカでもスウェーデンでも、他の低賃金職にはバーテンダー、レジ係、コック、ウェイター・ウェイトレス、清掃員、介護士などがありますが、これらは途上国からの移民が多く働く職種です。

移民の時代

移民の時代

移民や彼らの子どもたちの多大な貢献がなければ、誰が我々のオフィスを掃除し、ゴミを回収し、家を建て、ビルの清掃を引き受けるのであろうか。自動車の組み立てや造船現場はどうなるのであろうか。誰が大型スーパー・マーケットのレジ係や小規模店舗の店番を引き継ぐのであろうか。誰が我々のレストランの厨房を切り盛りするのであろうか。[…]さらには、誰が我々の子どもの面倒を見るのであろうか。また、我々の病人の看護や、在宅であろうが、高齢者施設であろうが、高齢者の世話をするのは誰であろうか。

また、少し古いデータになりますが、アメリカの"National Longitudinal Survey of Youth 1997"によると、12・13歳の女の子の5割強が働いたことがあり、その仕事の9割弱が"babysitting"です。*1

最近の保育所不足騒動に乗じて「保育士の給与を全職種の平均並みに引き上げよ*2」とポジショントークを展開する論者もいるようですが、「移民や子供にもできる仕事」=「高度な技能や知識が不要で参入が容易な仕事」が全体平均になることは(まず)ありません。

保育士が低賃金になってしまうもう一つの理由は、保育園の役割が本来の福祉から乖離して、バリキャリ女の自己実現のサポートにシフトしてきたことです。

保育に欠ける子どもの保育を行い、その健全な心身の発達を図ることを目的とする児童福祉施設であり、入所する子どもの最善の利益を考慮し、その福祉を積極的に増進することに最もふさわしい生活の場でなければならない。*3

結婚の条件 (朝日文庫 お 26-3)

結婚の条件 (朝日文庫 お 26-3)

二人の認識が一致したのは、総合職に就いても、女は結婚相手に経済的に依存して、自分は「生活のためではなく、自己実現のための」仕事を目指す生き物だということであった。「女は真面目に働きたいなんて思ってませんよ。しんどい仕事は男にさせて、自分は上澄みを吸って生きていこうとするんですよ。結婚と仕事と、要するにいいとこどりですよ」と、彼女ははっきりとそう言い、私もその点に関しては全く同意見なのであった。*4

「女の社会進出=女の稼得労働=女が輝く」という観念は、育児を「女が輝くことを妨げる“負”の仕事」とする観念に結びつきます。また、キャリアとカネの追求(≒輝く)のために育児をアウトソースすることが「権利」であるとする観念は、必然的に「保育サービスは水道水のように安く・潤沢に提供されるべき」という観念に結びつきます。キャリアとカネを追求する「輝く女」が増えるほど、「低級な仕事」に従事する労働者(多くは女)も増えざるを得ないわけです。低級な仕事なので、低賃金になることは不可避です。

なぜフランスでは子どもが増えるのか -フランス女性のライフスタイル (講談社現代新書)

なぜフランスでは子どもが増えるのか -フランス女性のライフスタイル (講談社現代新書)

かつての「社交」に「仕事」が代わった現在、一度は消えた「乳母」が復活して、高学歴高収入の母親たちを支えている。今日の「乳母」は、乳をやったりはしないが、出産後間もなく職場復帰していく女性の子どもたちの世話をしているのである。

女の社会進出先進国のスウェーデンの女が海外に移住すると、家事や育児という"dirty work"を途上国出身のメイドに丸投げして、自分は自己実現に勤しむ、という報告もありますが、これが「女が輝く」ことの裏面と言えます。

保育所不足を巡る騒ぎからは、リベラルな強者が弱者の味方を装いつつ、弱者を踏み台にして自分たちの利益をさらに増やそうとする意図が感じられます。

補足①

保育士の給与の財源としては、老後を他人の子供に頼ることになる無子の人々に負担させることがフリーライド対策として合理的ではあります。しかし、急増する無子の人々の相当数が、上野千鶴子のような無子を選んだ経済強者ではなく、結婚することもできない弱者と見られます。この点を考慮すると、結婚して子供もいる「勝ち組」のために無子の「負け組」に負担を求めることは難しいでしょう。

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補足②

president.jp

社会学者の古市憲寿氏は「今保育園に入所している人を無償化するには消費税1%分かかるという試算がある。だが、子供が大人になれば納税するから、結果的にすべての人に公平にメリットがある」と断言する。

www.huffingtonpost.jp

――「保育園義務教育化」は、実現されるべきだと思いますか?

個人的にはそう思います。

「女が輝く」とは、家庭で子育てしたい母親から子供を取り上げて保育所に送り込むことのようです。

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*1:昔の日本でも、子供に下の子供の面倒を見させることはよくあることでした。

*2:⇒そのために(自分たちの懐が潤うように)多額の税金を投入せよ。

*3:厚生労働省保育所保育指針」

*4:[引用者注]男の大半は「輝く」ために働いているのではなく、自分や家族を養うために働いているのではないでしょうか。