2016.03.15 19:00
ミュージック・フィルム・インタラクティブの祭典「SXSW」。初日に基調講演を行ったオバマ大統領の次に最も大きな注目を浴びたのが「ロボットと殺人者の目(The Eyes of Robots and Murderers)」と題されたセッションだ。登壇したのは最新作『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』で監督・脚本・製作を務めたJ・J・エイブラムス。映画・ドラマの人気作を連発し続け、世界のエンターテイメントの先端を走るJ・Jがテクノロジーとストーリーテリングの関係性を語った。
■SXSW 2016 レポート
#1【SXSW 2016】オバマ大統領らが語った "21世紀型の生き方"
#2【SXSW 2016】スタンフォードのフューチャリストによる「人工知能と仕事」
#3【SXSW 2016】自動運転車が初めて起こした事故から、Googleが得た教訓
【登壇者、左から】モデレーターのピーター・カフカ氏(Peter Kafka)、J・J・エイブラムス氏(J.J. Abrams)、アンドリュー・ジャレッキー氏(Andrew Jarecki)
『アルマゲドン』の脚本に始まり、世界で人気を博したドラマシリーズ『LOST』、最近では『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の監督・脚本・製作を務めたJ・J・エイブラムス。アメリカにおいてこれまで数多くの人気ドラマ・映画を手がけてきた彼の名前を知らない人は少ない。事実、SXSWの数あるセッションの中でもその人気ぶりは際立っており、約2時間前から列ができ始め、会場も2,000人以上のオーディエンスの熱気に包まれた。
会場は超満員でJ・J・エイブラムスが壇上に上がると大歓声が上がった。
共に壇上に上がったアンドリュー・ジャレッキーは昨年HBOで放送された『ザ・ジンクス』の監督を務めた人物で、J・Jとも数十年来の親交があるのだという。セッションの冒頭ではJ・Jがエグゼクティブ・プロデューサーを務める未公開作『ウェストワールド』のティザーが会場にいるオーディエンス限定で先行公開された。
二人のトークはテクノロジーとストーリーテリングの関係を中心に進められていく。
スター・ウォーズの最新作『フォースの覚醒』は全世界の興行収入が20億ドル(2月時点)を突破。1作目のエピソード4『新たなる希望』(1977年公開)から約40年が経過する中で、社会の変化と共に映像技術も発展を遂げた。大人気シリーズの製作指揮をとる重大任務を与えられたJ・J・エイブラムスは今作を例に取りながら、映像テクノロジーが進化とストーリーテリングの関係性をどのように考えていけばいいのかという点を話してくれた。
J・J・エイブラムス氏(J.J. Abrams):自身の制作会社Bad Robot Productionsを拠点に映画やテレビドラマを作り続けている。
『フォースの覚醒』には旧作と同様に様々な宇宙人たちが登場するが、少なくとも筆者にはチューイも含め何十年も前のキャラクターと比較したときの飛躍は感じなかった。飛行シーンなどにしても同様で、旧作の完成度が高いこともあるだろうが、本作では意図的に技術を抑えようとしていたことが窺える。
さらに意外なのは『フォースの覚醒』の10分間はJ・Jが所有するBad Robotのインハウス・スタジオで撮影されたのだといい、膨大なコストをかけることなく小規模なセットでもできることを発見したのだとか。
この日J・Jと共に登壇したジャレッキー氏は、実在のセレブが実は連続殺人鬼だった事件を追ったドキュメンタリー『ザ・ジンクス』(2015年)の監督としても知られる。J・Jがフィクションのキャラクターに対して感情移入をいかにさせるのかについて語ったのに対し、ジャレッキー氏は人間ではあるが殺人鬼という共感しにくいキャラクターを主題に作品を作っている。
今回のセッションの冒頭では、J・Jもエグゼクティブ・プロデューサーとして参加しているHBOの新シリーズ『ウェストワールド(Westworld)』のティザー映像も限定公開された。
ティザーの中で登場する白く無機質な骨格を持つロボットは一見、非人間的であるがストーリーが進行するにつれそうしたロボットにも共感を覚えたり、感情が揺さぶられたりするというのだ。『スター・ウォーズ』においてもBB-8のような極めてメカニックな筐体のロボットに対しても、その中に"キャラクター"を見出し、共に旅をしているような感覚を惹起させる。
これはまさしく今回のSXSWにも日本人としては唯一のFeatured Speakerとして参加していた世界的に有名なロボット工学者で大阪大学教授の石黒浩氏も主張していたことだ。つまり、外見・声・動きなど人間を構成しているとされる複数の感覚(モダリティ)が備わっているだけで感情移入には十分なのである。ディスカッションは映像技術のみならず、私たちの生活に溶け込んでいるスマートフォンと映画の関係性にも踏み込んでいく。
スマートフォンやタブレットのような小型デバイスを一人が一台持つことが当たり前になったことに加え、映像ストリーミングサービスが一般化したことで小型スクリーンで映画を観賞する人が増えてきた。
自身もスマートフォンで動画を見ることがあるというが、やはり映像の作り手にとって自らが魂を込めて作った作品が小さいスクリーンで観賞されるのは悪夢のようだとJ・Jはいう。
自身も作り手であることから大きなスクリーンで映画を見てほしいとの考えを示す一方で、スマホの最大の利点は映画作りを始めたばかりの人にとってあるのではないかと話を続ける。
あらゆるテクノロジーがその閾値を超えつつある。最たるものはシンギュラリティの議論であろう。その中で、テクノロジーに求められつつある役割は元来人間に備わっている人間性や社会性をいかに喚起・拡張するのか?というようなものへ変化しつつあるように感じられる。『ロボットと殺人者の目』と題された今回のセッションでは、異なるアプローチ(主題)でありながら、人間の感情を揺さぶるものは何か?という二人の映画作りに通底した同一の命題が追求されていたように思われる。
SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。『SENSORS』や『WIRED.jp』などで編集者/ライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。東京大学大学院学際情報学府にてメディア論を研究。最近は「人工知能」にアンテナを張っています。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh