黒田日銀総裁:効果フルに分かるまで待つ必要ない-追加緩和で (1)
2016/03/15 19:35 JST
(ブルームバーグ):日本銀行の黒田東彦総裁は15日の金融政策決定会合後の記者会見で、マイナス金利政策の効果が波及までには「ある程度期間がかかる」とする一方で、「その効果がフルに分かるまで常に待っていなければいけないというものでもない」と述べ、必要ならいつでも追加緩和に踏み切る姿勢を明確にした。
黒田総裁は決定から2カ月弱が経ったマイナス金利について、貸し出しの基準となる金利や住宅ローン金利ははっきり低下した一方で、預金金利の低下幅は極めて小幅にとどまっているとして、「家計部門にとっても全体的としてプラスの効果を持つ」と指摘。景気や物価に良い影響を発揮してきた量的・質的緩和をさらに強化するものであり、「国民各層にとって幅広くプラスの影響をもたらす」と述べた。
国際金融市場はマイナス金利導入後も動揺が続いていたとしながらも、最近は「やや落ち着き」を取り戻していると指摘。マイナス金利のプラス効果が波及するには「ある程度の期間はかかるとは思うが、従来の量的・質的緩和が効果を持ってきたように、今回のマイナス金利付き量的・質的緩和も実体経済にプラスの影響をもたらす」と語った。
欧州中央銀行(ECB)は10日、マイナス金利の拡大を柱とする追加緩和に踏み切ったが、ドラギ総裁が一段と利下げする公算は小さいと述べたこともあって、マイナス金利の引き下げに打ち止め感が強まっている。
黒田総裁は「具体的に経済・物価のリスク要因を点検して、物価目標の実現に必要なことが起こった場合、当然その状況を十分見て、量、質、金利の3つの適切な組み合わせを考えて行う。何か特定のものを事前に考えて、決め打ちすることはない」と述べた。効果が確認される前に追加緩和に踏み切ることもあり得るのか、という質問には「常に金融政策の効果については一定のタイムラグがあると言われているが、そういうものがあるからと言って、その効果がフルに分かるまで常に待っていなければいけないというものでもない」と語った。
日銀は同日の決定会合後に公表した声明で、「必要な場合には、量・質・金利の3つの次元で、追加的な金融緩和措置を講じる」と表明したが、1月の決定時の声明にあった「今後、必要な場合、さらに金利を引き下げる」という文言は使わなかった。その理由について問われた黒田総裁は「恐らくマイナス金利が初めてで、新しく金利という次元を入れたので、念のために断ったのだと思う。私どもの考え方は全く変わっていない」と語った。
MRFで陳情日銀は同日の金融政策決定会合で、証券売買の決済口座に使われるMRF(マネー・リザーブ・ファンド)をマイナス金利の適用除外とした。理由について黒田総裁は「MRFは基本的に個人の株式投資など証券取引において決済機能を持っており、個人の証券取引の便宜という面では非常に重要な役割を担っている」ことを挙げた。
就任以来3回の金融緩和で一部とはいえ内容を撤回したのは初めて。マイナス金利導入時から措置を取らなかった理由について総裁は、何らかの影響が出た場合「どのような対応が必要かも考慮していた」と述べ、マイナス金利適用後に業界団体などからから多様な陳情や意見があり、「そうした方々と十分議論した上で適切な対応をした」と説明。目的はマイナス金利付き量的・質的緩和のより円滑な実施であり、「撤回したとかそういうものでは全くない」と述べた。
国民に不評でも日銀が必要だと判断したらマイナス金利を引き下げるのか、という質問には「初めての経験なのでさまざまな声があるのは認識している」としながらも、「金利面では政策効果が既に表れており、今後、実体経済や物価にも波及する」と言明。その評価も「ポジティブなものとして定まっていくと考えている」と述べた。
増税のリスクを言う立場にない2017年4月に予定される消費増税に関して、見送りリスクへの言及が従来より少ない理由を問われ、経済への影響は14年4月の増税時の「半分強くらい」との見方を繰り返す一方で、「引き上げない場合のリスクうんぬんについては特に私から申し上げる立場にない」と述べた。14年9月4日の会見では、当初15年10月から予定されていた消費増税が行われない場合、仮に政府の財政健全化の意思や努力に市場から疑念を持たれるような事態が起これば、「政府・ 日銀としても対応のしようがないということにもなりかねない」などと指摘していた。
日銀は決定会合で、1月末に導入を決めた0.1%のマイナス金利による金融緩和政策を7対2の賛成多数で決定した。ゼロ金利適用のマクロ加算残高の3カ月ごとの見直しも決め、景気認識は「基調としては緩やかな回復が続いている」と「基調としては」を追加して下方修正した。
野村証券の桑原真樹エコノミストは、注目点は景気認識だったとして「久々に下方修正というこことでいいと思う。全体としても、若干弱めの判断だ」と述べた。これは追加緩和の理由になるとして「将来の追加緩和の可能性が高まったと言えるだろう」と指摘した。ブルームバーグのエコノミスト調査(8-10日)では、日銀は7月までに追加緩和に踏み切るとの見方が大勢だった。
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更新日時: 2016/03/15 19:35 JST