ニューヨーク・タイムズ
2016年3月11日18時03分
<その夜>
アフガニスタンに投入された米海軍特殊部隊SEALの隊長(中佐)ジョブ・W・プライス(42)にとっては、それが最後の夜となった。部隊の「SEALチーム4」では、隊員たちが「呪われた配備」と呼ぶほど雰囲気が悪化していた。
その夜、プライスは、待ち伏せ攻撃で失った下士官の正式な死亡報告書に承認の署名をした。さらに、部隊の参謀が、米軍の前哨基地をアフガン側に引き渡す計画書を作り上げると、いつになく感情を込めて謝辞を述べた。
2012年12月21日の夜。隊長の机の上に、隊長の拳銃が置いてあったのを副隊長は覚えている。そんなところに銃を置くことは、これまではなかった。隊長が自室に戻ると、いつもその机の上にあった9歳のまな娘の写真がなくなっていた。はいていたズボンのポケットには、米軍基地の近くで起きた爆発で死んだアフガン人少女についての報告書が入っていた。
翌朝、アフガン側の将軍と会う約束だったのに、姿を見せなかった。このため、部下は食堂やシャワー室を捜し、隊長の居室を開けた。ベッドの寝袋に入ったままだった。手には銃が、ベッドの下には大きな血だまりがあった。
衝撃的なできごとだった。SEALで自殺者が出ることはまれだった。戦闘地域に展開しているときはもっとまれで、選び抜かれた人材しかなることができないこの特殊部隊の将校では、前例がなかった。
SEALのアフガンでの任務はほどなく終了した。この国にSEALが展開するようになってほぼ10年。プライスは、50人目の、そして、最後のSEALの犠牲者となった。
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朝日新聞国際報道部
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