相川俊英の地方自治“腰砕け”通信記
【第129回】 2015年2月24日 相川俊英 [ジャーナリスト]

自治体を揺るがす「トンデモ課税ミス」の惨状

つくばみらい市だけではない?
取材で明るみに出たトンデモ課税ミス

固定資産税のとんでもない過大徴収ミスが発覚した新座市

 前回(連載第128回)、ある自治体がうっかりミスで固定資産税を長年過大に徴収していた事例を紹介した。住宅用地への軽減措置を適用し忘れたという「前代未聞」のミスで、余計に税を取り立てられていた住民にすれば、腹立たしい限りであろう。取材に応じた担当課長はひたすら平身低頭し、身を縮めながらことの顛末を語った。「あってはならない重大なミス」だと恥じていた。

 だが、取材を進めるうちに仰天の実態が見えてきた。行政側の不手際による税金の取り過ぎは、「あってはならない重大なミス」であるだけでなく、「よくあるミス」というべきものだった。固定資産税などの取り過ぎはよその自治体でも起きていて、むしろそう珍しい不祥事ではなかったのである。

 なかには、前回のつくばみらい市のケースを上回るトンデモナイ事案もあった。取材していて、「上には上があるものだな」と奇妙な感慨にふけってしまったのである。

「現在、固定資産の全件調査を実施していまして、3月末までに完了させる予定です。なぜミスが起きたのか、それを特定することは難しくてできません」

 こう語るのは、埼玉県新座市の資産税課長だ。新座市でも昨年夏、固定資産税などの過大徴収が発覚して大騒動となっている。こちらもつくばみらい市と同様、小規模住宅用地に認められている軽減特例を一部で適用せずに課税していたのである。

 新座市は現在、市内全ての土地(6万5955筆)を対象に確認作業を実施している。作業は2月中旬時点で95%まで進捗しており、これまでに338件の過大徴収ミスが判明した。市は、土地への課税ミスは最終的に450件ほどに上ると見ている。

 新座市のケースも固定資産税のよくある過大徴収ミスと言えるが、こちらはやや複雑な事情を抱えていた。そもそも、ミス発覚の端緒が極めて異例なものだった。

 2013年10月、新座市で築27年ほどの小さな民家が公売にかけられた。この家に住む住民が長年、固定資産税や市民税、県民税などを滞納していたため、市は差し押さえていた土地や家屋を売却することにしたのである。夫婦が滞納していた地方税の総額は約800万円で、このうち約6割が延滞金(年率14.6%、2014年1月から9.2%に)だった。

 こうして、100平方メートルの土地に建てられた木造2階建て民家が公売にかけられ、不動産業者によって落札された。住民は、長年住み慣れた家を追い出されることになった。まるで高利の延滞金に追い立てられて家を失ったようなものだった。

「あり得ないミス」が発覚した新座市
3000件の建物で固定資産税の過大徴収

 ここまでは、おそらくどこにでもあるような話であろう。だが、公売物件を落札した業者の行動が事態を急転させた。購入した土地家屋の固定資産税などの調査を新座市に求め、その結果、過大徴収のミスが判明したのである。市は新築当初(1986年)から軽減特例を適用せずに、固定資産税を課税し続けていたのである。たとえば、2013年度は本来、年額4万3000円のところを11万9200円に間違えていた。

 あってはならない課税ミスの発覚に仰天した新座市は、持ち家を失ってアパートに転居していた夫婦に謝罪し、20年前の1994年まで遡って取り過ぎた固定資産税や延滞金など約240万円を返還した。

 新座市はこの事案をきっかけに、市内の固定資産の全件調査に乗り出すことになった。昨年7月に固定資産税調査特別班を編成し、市内の約6万6000筆の土地と約4万5000棟の建物を一件ずつ、確認する作業に着手した。

 そうした全件調査を進める中で、想定外の新たな重大ミスが判明した。土地だけではなく、建物に関しても過大徴収ミスがあることがわかったのである。その数、なんと3000件。しかも「通常はあり得ないミスで、担当者なら当然わかっていることを誤っていた。原因は正直、わかりません」(資産税課)という。

 新座市で新たに判明した固定資産税の過大徴収ミスは、増築家屋に対する課税についてだった。部屋などを増築した場合、本来は当初の建物部分と増築部分を分けて課税額を計算することになっている。ところが、新座市はなぜか増築分を当初建築分と合算し、なおかつ、当初建築時に遡って増築分を加算して評価額を算出していた。これにより物価上昇期のため、過大徴収が発生したというのである。

 こうした増築家屋の過大徴収は、1970年から1984年の期間に集中しており、1件当たり平均で年間3700円の固定資産税が取り過ぎとなった。該当する増築家屋が約3000件と非常に多いため、市が対象者に返還する金額は億を超えることになるという。

 新座市は土地と建物の両方で、固定資産税の課税ミスを長年、続けていたことになる。そうした重大ミスの発覚はいくつもの偶然がたまたま重なったことによるもので、奇跡に近かった。市の担当者はそれまで、誰1人として重大ミスに気づかなかったのである。現在も全件調査中のため、確定値ではないが、市が納税者に返還する金は加算金と合わせて約8億4000万円に上る見込みだという。

 内訳は、土地の還付金(取り過ぎた税金の返還分)が約3億6000万円、加算金(利息で、利率は1.9%から5%)が約1億6000万円、家屋の還付金が約2億2000万円、加算金が約1億円である。年間の予算規模が約500億円の新座市にとって、課税ミスによる想定外となる約8億4000万円の支出は、大きな打撃となるのではないか。税金を取られ過ぎた住民はもとより、直接被害に遭わなかった住民に対しても、お詫びの言葉だけで済むような話ではないだろう。

意図的な課税・徴収ミスもあり得る?
税金の過大徴収に揺れる全国の自治体

 新座市の一件は、埼玉県内の自治体関係者を慌てさせたようだ。「うちは大丈夫か?」と不安になり、あわてて確認作業に入った自治体もあった。そして、不安が的中してしまったところもあった。

 たとえば、埼玉県加須市である。今年2月10日に「住宅用地に対する課税標準の特例措置の適用誤りについて」発表している。課税データや航空写真、現地調査などによる確認作業を行ったところ、36件の適用誤りが判明したという。市は対象者にお詫びするとともに、速やかに還付の手続きを行っていくことを明らかにした。加須市は誤りの原因を、「特例措置を適用すべき土地の電算システムへの入力ミス」としている。

 こうした自治体の税をめぐる人為的なミスの実例を知ると、こんな疑問が湧いてこないだろうか。人為的なミスで税を過大に課してしまったケースがあるのなら、その逆も起こり得るのではないか。さらには人為的なミス、つまり過失ではなく、意図的に課税や徴収に手を加えるような悪質なケースはないのだろうか、という疑問である。

 つまり、自治体の税担当者らによる課税・徴税での不正行為である。次回は、この点についてレポートしたい。特定の住民に対する「税のおめこぼし」の驚きの実態を明らかにしたい。