相川俊英の地方自治“腰砕け”通信記
【第128回】 2015年2月17日 相川俊英 [ジャーナリスト]

ゾロゾロ出てくる税金「過大徴収」の深い闇

実際の事務を執り行うのは生身の人間
つくばみらい市のあってはならないミス

あってはならない大ミスが発覚したつくばみらい市

 この世にミスを絶対しない人間など、1人として存在しない。どんなに細心の注意を払っていても信じられないような間違いをしでかしてしまうものだ。だからこそ、ミスすることを前提に水際で防ぐ様々な手立てを講じておく必要がある。それでも、ミスを根絶することは不可能だ。それが人間の宿命と言える。

 かくいう筆者も、これまで人に知られたくないような恥ずかしい間違いを重ねてきた。忘れられぬ痛恨のミスと言えば、人物写真の取り違えである。記事の中に隣り合った県の知事おふたりの顔写真を添付したのだが、伝達ミスにより取り違えて掲載してしまったことがある。

 2人の知事はともに中央官庁出身で、容貌や雰囲気が似ていた。極めて地味な点も共通していて、2人とも地元メディア以外に取り上げられることはめったになかった。記者会見や個別取材の場に出てくることも少なく、県民以外で2人の顔写真を見てそれが誰なのかわかる人は、ごく限られていた。

 それで、両知事の顔写真をあえて並べて掲載することにした。もちろん、写真を取り違えたりしないように注意を払った。ところが、情報伝達が不十分だったのか、顔写真と知事名を逆にして掲載してしまったのである。あってはならない重大ミスの発生を知り、茫然自失となった。すでに掲載誌は店頭に並んでおり、取り返しのつかない事態になった。

 大慌てで朝一便の飛行機に飛び乗り、両県庁をお詫びして回った。申し開きができるはずもなく、ひたすら平身低頭して謝罪したのである。そして、恥じ入りながら帰京した。読者からもお叱りや問い合わせ、苦情の電話が寄せられると覚悟していたが、なぜか、そうした電話は1本もこなかった。

 こうした、穴があったら入ってしまいたいほどのミスを続けてきたので、行政がミスを犯したからと言って、「けしからん!」とすぐに金切り声を張り上げるようなことはしない。行政といえども、実際の事務を執り行っているのは生身の人間である。うっかりミスが組織内で見過ごされてしまい、そのまま外に出てしまうことも起こり得る。

「行政は絶対に間違いをしないし、してはならない」と無謬性を求めるのは、いささか酷である。行政が何らかのミスをしたからと言って、それだけで激しく責め立てるのはどうかと思う。

 ミスを犯した原因と事後処理の仕方などをしっかり検証した上で、声をあげるべきである。職務怠慢でミスを犯したり、それを誤魔化したり、隠蔽したり、そのまま放置していたら、怒りの炎を燃やすべきだ。

「どこでどう間違ったのかはっきりしませんが、あってはならないミスです。市民の皆様にご迷惑をおかけしましたこと、本当に申し訳なく思っております」

 平身低頭して語るのは、茨城県つくばみらい市の税務課長。市が長年見過ごしていた前代未聞の大ミスに恐縮至極だった。

 つくばみらい市は、2006年3月に旧伊奈町と旧谷和原村が合併して誕生した。県西部に位置し、都心から40キロ圏内にある。市内を「つくばエクスプレス」が走り、秋葉原駅まで最速で40分で結んでいる。こうした利便性からベットタウンとしての開発が続き、人口は増加。現在、約4万9000人になっている。

123件の住宅用地を適用外に
固定資産税などの過大な徴収

 そんな勢いのあるつくばみらい市で、とんでもない不祥事が発覚した。市が固定資産税などの課税を誤り、軽減措置を適用せずに過大に徴収していたのである。市が今年1月27日に公表したところによると、過大徴収していたのは市内の住宅用地123件(その後売買などにより対象者は140人に)で、経緯は次の通りだった。

 住宅施策の一環として、住宅用地の固定資産税などを軽減する特例措置が1973年から設けられている。200平方メートル以下の小規模住宅用地の場合、固定資産税を算出する際の課税標準額を6分の1に引き下げ、200平方メートルを超える分(特例措置の対象面積は家屋の床面積の10倍まで)については3分の1に軽減する、というものだ。

 この特例措置はあらゆる住宅用地に適用されることになっているが、つくばみらい市は間違って、123件の住宅用地を適用外にしていたことが判明した。つまり、本来の課税額を上回る税金を徴収していたのである。その額は、徴税 データが保存されている2004年度から2014年度までの11年間で、6154万5800円(固定資産税と都市計画税の合計値)。さらに国民健康保険税が338万8800円なので、総計で約6493万円に上る。

 税金を余分に取られた住民は140人なので、単純計算で1人あたり約46万円となる。過大徴収された側にすれば、うっかりミスだと言って笑って許せるような金額ではない。ではなぜ、こうした重大ミスが生じてしまったのか。つくばみらい市の担当者は、3つの要因を挙げていた。

重大ミスが生じた「3つの要因」
端緒となった法務局からの通知

 まずは家屋担当と土地担当の連携不足。2つ目が、電算入力の漏れや入力ミス。そして3つ目として、電算入力後の確認体制不備を挙げていた。要は、人為的なポカミスの積み重ねというのである。

 過大徴収は、合併前の旧伊奈町と旧谷和原村のそれぞれで起きていた。当時、2町村の税務担当者は4、5人しかいなかった。そんな地域で宅地開発が急速に進み、担当者の仕事量はいっぺんに膨らんだ。

 しかし人員は変わらず、事務処理に追われてダブルチェックする体制もつくれなかったという。もっとも、過大徴収ミスは2町村が合併してつくばみらい市になってからも、新たに発生していた。

 それではどういう経緯であってはならないミスが判明したのか。端緒となったのは、法務局からの通知だった。

 住宅用地に分筆や合筆の変更があると、法務局から自治体にその通知が入る。ごく通常の業務連絡である。そうした通知を昨年5月中旬に受けたつくばみらい市の担当者は、変更のあった課税対象物件の調査を実施した。これもまた、ごく普通の日常業務ある。

 担当者が課税対象物件の画地を確認するため周辺の土地も調べたところ、驚愕の事実にぶつかったのだ。特例措置が正しく適用されていない土地が数筆見つかり、大騒ぎとなったのである。

 課税の誤り、それも過大徴収という重大ミスに市は大慌てとなり、市内全域を緊急調査することになった。その結果、123件もの過大徴収が判明したというのが事の次第である。偶然が重なって長年見過ごされてきた重大ミスが判明したのであって、それまでは誰1人として気付かずにいたのである。なんとも恐ろしいことではないか。

 余分に税金を取られていた住民たちが怒り心頭となるのも、当然だ。「人間はミスを犯すものだ」と寛恕することは難しい。行政への信頼を大きく損なう、前代未聞の大失態と言える。

 つくばみらい市は過大徴収していた140人に対し、市長の謝罪文を郵送したほか、担当職員が個別訪問して謝罪と説明を行っている。また、取りすぎた税金の還付の作業も進めている。還付総額は、2004年度からの11年分の過大徴収額約6493万円に還付加算金(利息分)約1199万円が加わり、約7692万円になるという。

証拠がない限り還付対象にできない?
ゾロゾロ出てくる課題徴収の深い闇

 だが、被害にあった住民にとってはどうにも納得しにくいものとなっていた。過大徴収は徴税データが保存されている2004年の前から発生していたが、それ以前については納付書などの証拠がない限り、還付対象にできないとされたからだ。全くあずかり知らぬうちに税金を余分に取られていた住民にとって、踏んだり蹴ったりの話となっている。

 被害に遭わなかった一般住民にとっても、納得しにくい点がある。過大徴収により市が支払うことになった還付加算金である。これは、市がきちんと課税事務を行っていたら、発生しなかったはずの支出である。それを住民の税金で賄うのは、いささか筋が違うのではないかという思いである。

 さらにもう1点、どうしても拭えぬ疑念が生れてしまう。それは、果たして固定資産税などの過大徴収ミスはつくばみらい市だけなのだろうかというものだ。

 それで調べてみたところ、同じように固定資産税などを過大徴収していた事例がゾロゾロと出てきた。いずれもつくばみらい市のような宅地開発が続く、都心近郊のベットタウンの自治体である。埼玉県新座市や加須市、兵庫県加古川市や大阪府四条畷市などだ。行政も間違いを犯すものだと認識し、課税ミスされていないか、ご自分で確認してみた方が良いかもしれない。