目次
- 小津安二郎の芸術に再挑戦
- ストーリーは平凡です
- 小津安二郎監督は理想の親を描いたのだと思う
- 熱海の旅館がうるさくて、見ている私もイライラした
- 「いやァ とうとう宿無しになってしもうたぁ・・・」
- 周吉もとみも、戦死した2男の妻をやさしく気遣う
- 30年前と今回の違い
小津安二郎の芸術に再挑戦
30年前にテレビで放送された小津作品を録画して観たけれども、その凄さを理解できなかったということは、今までにも書きました。
傑作娯楽映画を選んで上映する「午前十時の映画祭」。大きなスクリーンで小津安二郎監督の「東京物語」を観るチャンスがありましたので、市川コルトンプラザに行ってみてきました。(2016/03/05(土)~03/18(金):市川コルトンプラザの上映スケジュール)
「秋刀魚の味」は凄かったけれども、「東京物語」はそれほどでもないんじゃないか、そう思いながら座席に座りました。
場所は前後左右のど真ん中。どの座席からも音響、映像が良く見えるように映画館を作ろうとすると、真ん中が一番よくなるのは必然ではないかと考えているからです。
それで、結果は凄かった。
「いやァ とうとう宿無しになってしもうたぁ・・・」
このセリフが出てくる中盤から、ずっと涙を流しながら観ていました。すすり泣いている声もところどころから聞こえてきました。
良さが分からないかも知れないと心配して、 『「東京物語」と小津安二郎 なぜ世界はベスト1に選んだのか』を読みましたが、関係ありません。この本に書いてあることと私の感じたことは微妙にずれているんじゃないかと思います。
どこにどう感動したのか書いてみます。
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ストーリーは平凡です
簡単にあらすじを紹介します。
- 尾道で公務員を定年退職した笠智衆さん演ずる平山周吉(70?)と東山千栄子さん演ずる妻のとみ(68)。
二人は東京に住んでいる子供たちの家を訪ねます。
後半に教育課長をしてたというセリフがありますから、県か市の職員だったのでしょう。
子どもは5人。山村聰さん演ずる長男は東京で小さな開業医をしています。杉村春子さん演ずる長女の志げは美容室を経営。
次男は8年前に戦死していて、その妻・紀子を原節子さんが演じています。
大阪にいる3男は国鉄に勤めるサラリーマン。一番下の京子は周平と一緒に住んでいて尾道の小学校教員をしています。 - 東京にいっても長男も長女も毎日仕事が忙しくて両親を東京見物に連れていくこともできません。
- そこで二人は両親に「熱海に行ってゆっくり休んでほしい」と言います。せっかく子どもたちに会いにきたの熱海へ。しかし、両親たちは「そうかぁ、忙しくて大変だなぁ」という雰囲気で熱海にいきます。
- しかし、熱海に行っても宿がうるさくてゆっくり眠ることも出来ません。昔の旅館ですから、襖でしきられているくらいです。宴会やらマージャンの音が聞こえるのです。
- 二人は東京に戻ってしまいます。
戻った長女の美容院では組合の寄り合いがあると言います。
「いやァ とうとう宿無しんなってしもうたぁ・・・」
妻のとみは戦死した2男の妻、紀子のアパートへ。周吉は旧友と飲みに行きます。 -
周吉は旧友との酒が進んで酔っ払い、警官に送ってもらって帰ります。
妻のとみは紀子に、再婚した方がいいと勧めるが、紀子は今のままが良いと言います。 -
二人は、尾道にかえります。しかし、とみの具合が悪くなって危篤。子供たちは駆けつけますが、妻のとみは亡くなってしまいます。
-
葬式が終わると杉村春子さん演ずる長女が「形見が欲しい」と言い、葬式が終わると東京に帰ってしまいます。
-
紀子が帰る日。周吉は亡くなった妻と同じように紀子に再婚を勧めます。周吉は妻の形見の懐中時計を渡します。
-
紀子が帰った尾道の家で周吉が一人のこされ、うちわを扇いでいるシーンで終わります。
「東京物語 - Tokyo Story -」:詳しいストーリーがあります。
小津安二郎監督は理想の親を描いたのだと思う
小津安二郎監督が描いたのは親の優しさ。笠智衆さん演ずる平山周吉(70?)と東山千栄子さん演ずる妻のとみ(68)の子ども見守るやさしさには心を打たれます。
その原因はどこでしょう。
映画を見始まってすぐに気が付くのが、平山周吉、妻のとみ、2男の妻の紀子、この三人の歯を見せたやさしい笑顔です。優しくカメラに向かった話しかけるのですね。他の登場人物は歯をみせた笑顔はほとんどないのですが、いつもにこやかに話しています。
笠智衆さんは優しい日本のお父さん、お爺さん。そして、東山千栄子さんは日本の優しいお母さん、おばあさん。ぴったりあてはまります。
小さいときに母の実家に行ったとき、「よく来たな」と喜んで、ご馳走をつくってくれたり、お小遣いをくれたおじいさん、おばあさんの優しさに通じます。ゆったりと笑顔で包んでくれます。
あのイメージ。平山周吉と妻のとみは、小津安二郎監督の理想のお父さん、お母さんなんだと思います。
熱海の旅館がうるさくて、見ている私もイライラした
開業医になった長男は忙しく、美容院を経営で忙しい長女の提案で、周吉ととみは熱海の旅館で過ごすことになります。そこは防音設備のあるような個室ではなく、マージャンを楽しむ男たち、宴会の音楽も聞こえてきます。
平山周吉と妻のとみは、うるさいくてなかなか寝付けません。
しかし、苦情を言う訳でもないのです。ただ黙ってそのうるささを受け入れます。
そんな周吉のことも、妻のとみことも関係なくマージャンに没頭する男たち、宴会、芸者たちの姿を私はイライラして見ていました。
ずっと画面から私に微笑んでくれていた笠智衆さんと東山千栄子さんをすっかり応援したい気持ちになっていたからだと思います。
そして、翌日。平山周吉と妻のとみは東京へ帰ることにするのです。
海辺の堤防で。
「お前はよう寝とったよ」
「わたしも寝られんで」
ここでとみが立ち上がるときふらっとします。
「よう寝られなんだからじゃろう」
尾道の言葉だからでしょうか優しさが伝わったきます。
「いやァ とうとう宿無しになってしもうたぁ・・・」
美容院の長女は急に帰って来られて困ります。組合の寄り合いがあるので、周吉たちは泊まれないのです。
そこで、とみは戦死した2男の妻のところへいき、周吉は旧友のところへ行くことにします。
そのとき周吉が言うのが、「いやァ とうとう宿無しになってしもうたぁ・・・」と言うセリフです。
子どもを訪ねて東京に来たけれども、東京見物の案内もされず、泊まる場所もない。だけれども、淡々と受け入れて子どもを恨むでも小言を言うでもないんですね。子どもたちが忙しいのは良くわかると理解を示すんです。
子どもたちには子ども生活があり、自分たちを構えないのは仕方のないこと。子どもたちのことを思うのですね。往診で忙しい長男、組合の寄り合いの場所にもなる長女を誇りに思っているのかもしれません。
この親の優しさに心を打たれます。それが親というもの。それが世界に通用するのは当たり前のことだ。だから、世界一の映画なんです。
ここから後は、ずっと涙を流しながら見ていました。
周吉もとみも、戦死した2男の妻をやさしく気遣う
子どもたちが生活に追われ、親を大切にできないのは仕方のないこと。それで映画が終ってしまっては救われません。
そこで登場するのが、次男の妻・紀子です。
妻のとみは紀子に、再婚した方がいいと勧めます。
紀子は今のままが良いと言います。
ここでも二人は笑顔を浮かべながら、静かに話します。東山千栄子さんの紀子を思う気持ちが伝わってきます。
紀子は周吉ととみを東京見物に案内します。
尾道でとみが倒れます。
周吉は「治るよ・・・治る治る ・・・治るさァ・・・」と意識のないとみに声をかけます。もう、駄目かも知れないと思っているのか知れません。
妻を励ますような言葉というより、自分に諦めなさいと言っているような言葉でもあります。
とみは亡くなります。
紀子が帰る日。周吉は亡くなった妻と同じように紀子に再婚を勧めます。周吉は妻の形見の懐中時計を渡します。
30年前と今回の違い
今回見たのは 「東京物語 ニューデジタルリマスター」です。YouTubeの予告を見てください。デジタルで処理した画像はきれいで表情がよく分かります。
この映画は笑顔がとても大切で、それをじっくり感じることが出来たのか大きな違いでしょう。 30年前は小さなテレビ、今回は多きなスクリーンですからね。
それと、やっぱり自分が年齢を重ねたことでしょうか。
自分が親の気持ちがいたいほどわかるようになったの大きな違いです。
2012年、「東京物語」は世界の映画監督358人が選ぶ「Directors’ 10 Greatest Films of All Time」で1位になっています。
みなさん、ぜひ、世界一の映画を味わってください。
デジタル修復された大きなスクリーンの綺麗な画像なら、きっとだれでも感動すると思います。
いい映画を見ると人生得します!