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ECB“追加緩和でユーロ高”は日銀失策の二の舞か

村田雅志 [ブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジスト]
2016年3月15日
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ECBが大幅な追加緩和を決定
それにもかかわらずユーロは上昇

今回はドラギマジック不発か?
Photo:AP/AFLO

 欧州中央銀行(ECB)は、3月10日の定例理事会で追加の金融緩和策を決定した。一連の報道などを見る限り、市場関係者によるこの措置に対する評価は高くなく、ユーロは追加緩和が決まったにもかかわらず対ドル中心に上昇した。

 しかし、こうした動きは短期的なものと思われ、ユーロ圏のインフレ加速やさらなるECB追加緩和観測を背景に、ユーロは下落基調が続くとみられる。

 今回の追加緩和の内容は、ECB自らが「包括的」と称するように、多岐にわたるものであった。ここでは、政策金利の引き下げ(利下げ)、資産買入プログラム(いわゆるQE)の拡充、新しいターゲット型資金供給(TLTRO II)の導入、の3つに整理してみよう。

(1)政策金利の引き下げ
マイナス金利拡大以外にもサプライズの利下げ

 今回の追加緩和では、中銀預金金利が10ベーシスポイント(bp)引き下げられ、マイナス0.30%からマイナス0.40%とされた。さらに、前回理事会では据え置かれた主要レポ金利と中銀貸出金利も5bp引き下げられ、主要レポ金利がゼロ%、中銀貸出金利が0.25%となった(注参照)。

 事前の市場予想では、中銀預金金利だけが10~25bp程度引き下げられるとみられていたため、市場関係者にはサプライズとなった。なお、ドラギ総裁の会見声明(以下、声明)では「政策金利は資産買入プログラムの継続期間を越えて、現状もしくはそれよりも低い水準に留まる」と明記され、いわゆるフォワードガイダンスも強化された。

(注)ECBは金融政策として以下4つの金利を操作する。
●EONIA(Euro Over Night Index Average:ユーロ圏無担保翌日物平均金利)…ECBの誘導目標金利。ただし、日米と異なり、EONIAの誘導目標を明示的に設定しているわけではない。ECBは以下で説明する限界貸付ファシリティ金利と預金ファシリティ金利を調整することで、EONIAを誘導する。
●リファイナンス金利(主要レポ金利)…1週間物の資金供給オペ(Main Refinancing Operation:MROと呼ばれる)の最低入札金利。
●限界貸付ファシリティ金利(中銀貸出金利)…金融機関が市場から資金を調達的できない場合にECBから借り入れる際に適用される翌日物金利。EONIAの上限になる。
●預金ファシリティ金利(中銀預金金利)…金融機関がECBに預ける際に適用される翌日物金利。EONIAの下限となる。

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村田雅志 [ブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジスト]

むらた・まさし/東京工業大学工学修士、コロンビア大学MIA、政策研究大学院大学博士課程単位取得退学。三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)で日本経済の分析業務を担当後、ヘッジファンドを運営するGCIグループにチーフエコノミストとして移籍。2010年に米国で最古かつ最大手のプライベート・バンクであるブラウン・ブラザーズ・ハリマンに移籍、現職。通貨ストラテジストとして、ドル、ユーロなどの主要通貨、新興国通貨に関する調査・分析結果をグローバル市場で運用する機関投資家に提供している。著書に『名門外資系アナリストが実践している為替のルール 』、『ドル腐食時代の資産防衛』など。


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