Lemaitre, A. L., Luyat, M., & Lafargue, G. (2016). Individuals with pronounced schizotypal traits are particularly successful in tickling themselves. Consciousness & Cognition, 41, 64-71. doi:10.1016/j.concog.2016.02.005.
フランスのリール第3大学心理学教室:交流、テンポ、情動、認知?(Univ. Lille, EA 4072 – PSITEC – Psychologie: Interactions, Temps, Émotions, Cognition)の研究者による論文です。
397名の大学生が統合失調型パーソナリティ質問紙(Schizotypy Personality Questionnaire:SPQ)から抜粋した7項目の質問によるスクリーニングを受けました。397名からSPQ得点が高かった人40名と低かった40名を抜粋し、SPQの全質問に回答してもらいました。このうち、SPQの標準化データとの比較から得点が最も高かった健常者27名(女性17名,平均年齢23歳)と低かった健常者27名(女性16名,平均年齢23歳)が実験に参加しました。年齢にも利き手にも群間差は検出されませんでした。
*利き手はエディンバラ利き手テスト(Edinburgh Handedness Inventory,EHI)で評価。
SPQで統合失調型を臨床閾値未満の統合失調症の陽性症状(認知・知覚)、陰性症状(対人関係)、解体症状(破瓜型に相当)の3次元で評価。その他に、一般集団被影響体験評定尺度(Scale for Assessment of Passivity Experiences in the General Population,SAPE-GP)で被影響体験の頻度を評定。被影響体験とは、たとえば外の何者かによって自分の思考や行為が制御されているという感覚のことです。「自分の考えが他人に抜きとられる(考想奪取)」や「他人の考えが自分に入れられる(考想吹入)」といった体験が被影響体験にあたります。
実験装置:テーブルに固定した木製フレームの上に横棒(レール)を渡した装置を使用。レールにより、被験者の前腕につけた絵筆の毛の先端を水平に移動させることが可能となりました。手の先から肘へあるいは肘から手の先の方向に絵筆を動かせる仕掛けでした。絵筆を動かせた長さは最大で6 cm。また、バーチャルメトロノームで1分間に45回の拍子をきざみました。
実験手続き:目をマスクで覆った状態で実験し、視覚の影響を排除。利き手じゃない方の腕の袖をひじまでまくり上げ、前腕を実験装置の中に水平に置きました。実験条件は以下の3通り。
1.自己くすぐり:被験者が自分の利き手で非利き手の前腕の上をメトロノームの音に合わせて絵筆を動かし、こちょこちょ。メトロノームの音は実験者も被験者も聞ける状態。
2.予測可能な外的くすぐり:メトロノームの音に合わせて実験者が被験者の前腕をこちょこちょ。メトロノームの音は実験者も被験者も聞ける状態。
3.予測不能な外的くすぐり:予測可能な外的くすぐりと実験手続きは大体一緒。しかし、メトロノームの音を聞けるのは実験者だけで被験者には聞こえませんでした(→被験者にはくすぐりリズムの予測が難しい)。メトロノームの音を実験者だけに聞かせるためヘッドフォンを使用。
それぞれの試行終了後にどれだけくすぐったかったかを11件法で評価。
実験の結果、統合失調症傾向の高い群と低い群とで平均くすぐり感覚は有意に異なりませんでした。全体的に、くすぐったく感じる順に予測不能な外的くすぐり・予測可能な外的くすぐり>自己くすぐりとなりました。
自己くすぐり条件では、統合失調症傾向が低い群よりも統合失調症傾向が高い群の方がくすぐり感覚が高くなりました。統合失調症傾向が低い群ではくすぐり知覚が高い順に予測不能な外的くすぐり・予測可能な外的くすぐり>自己くすぐりだったのに対し、統合失調症傾向が高い群ではくすぐり条件による差が検出されませんでした。
一方、予測不能な外的くすぐり条件と予測可能な外的くすぐり条件では統合失調症傾向の高低による有意差が検出されませんでした。
普通は自分でこちょこちょすると他者がするよりもくすぐったく感じないはずですし、データもそのことを示しています。しかし、本実験から、統合失調症傾向が高いと自分でこちょこちょしても他者にされるのと同じくらいくすぐったく感じると言えます。このことは論文のグラフを見れば分かりやすいですが、ここで掲載するのは控えます。
最後に、自分でこちょこちょすることによるくすぐり知覚の減退の程度と統合失調型パーソナリティ質問紙(SPQ)や一般集団被影響体験評定尺度(SAPE-GP)の得点の間の相関関係を解析しました。その結果、統合失調症傾向が低い群では何の相関関係も有意になりませんでした。しかし、統合失調症傾向が高い群ではSPQの認知知覚因子が高いほど、自分でこちょこちょしてもくすぐり知覚が弱くなりにくい結果となりました(r = -.58)。認知知覚因子の下位尺度の内、特に異常な知覚体験(unusual perceptual experiences)と疑り深さ(suspiciousness)の相関係数が有意でそれぞれ-.44、-.56となりました。また、被影響体験頻度が多いほど、自分でこちょこちょしてもくすぐり知覚が弱くなりにくくなりました(r = -.41)。
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