2016年03月14日

義憤:商標も魍魎跋扈の時代 − 「小説家になろう」事件


news:「小説家になろう」名称アウト 山形で19年続く講座、大阪の企業に商標
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160311-00000241-yamagata-l06

弁理士によるコラム: 「小説家になろう」商標問題:長年使っている商標を他人が登録してしまった場合どうすればよいか?
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kuriharakiyoshi/20160314-00055414/

というニュースがあった。ちょっと思うことがあったので、雑談として書いておこう。

実はたまたま1ヶ月ほど前に、問題となっている「小説家になろう」という小説投稿サイトを見つけていた。

2月13日付のメモが残っていたので、ちょうど1ヶ月前の話しだ。

この時、はじめて気付いたのだが、存外と小説投稿サイトというのは多いようだ。

技術的には単なる掲示板の文字数が多いヤツに見えた。

今や廃れてしまったと思われていた掲示板も切り口を変えれば、けっこうウケたりするもんなんだなあと思って感心したのを覚えている。

それとは別に、こうも思った。
ふーむ。こんなくだらないサイトがそんなにウケるんなら俺もひとつやってみるか、
とも。

ちなみに、これは余談だが、この手のサイトはSEO的に高評価を受けやすい。
理由は、ページビューが増えやすいことと、
もうひとつは、もし本当にオリジナルの小説なら、コンテンツが充実していることになるからだ。ついでに言うと、小説である以上、長文になりやすいと言うのもメリットだ。

で、どうもオタク向けのビジネスを展開しているようだと感じた。
そして、そうであれば成り立つのだろう、とも。


で、商標を取っていることにも当然に気付いていた。
なぜならば、「小説家になろう」「ヒナプロジェクト」「ラブノベ」「書報」「タテ書き小説ネット」「みてみん」(※ロゴ)「えぱれっと」は株式会社ヒナプロジェクト(以下、当社)の登録商標です。とバコーンと書いてあったからだ。

で、特許だけでなく商標も持っている俺としては、深夜だったせいもあって、気が向いて調べてみたわけだ。

すると・・・。
小説家になろう
標準文字商標 登録5554691
9,16,35,38,
41 電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,書籍の制作,技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,放送番組の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)
41A01 41A03 41C02 41D01 41E04 41E05 41F06
42 サーバの貸与,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供,デザインの考案,電子計算機用プログラムの設計・作成又は保守

くらいが気になるところだったが、それ以外にもかなり多くの類を取っていた。
上記の41とか42とかが、第41類などと呼ばれる商品区分と言うやつだ(ちょっと解説)。

で、そのとき思ったことが、なんでこんなにムダに登録してるんだろうか?
ということだったのだ。

少なくとも俺だったら、こんな無駄な取り方はしない。

で、今回の事件だ。

最初にアタマに思い浮かんだのは、パテントパイレーツだ。

パテントトロールと言った方が分かりやすいかもしれない。
いや、どっちもほとんど知られていないかもしれない。

パイレーツは海賊のことだし、トロールはヨーロッパの昔話に出てくる小鬼のことだ。

ご存じない方のほうが圧倒的に多そうなので、少し説明しておくと、
パテントパイレーツとは、
自らは使用するつもりのない特許を取得して、
ライセンスを持ちかける会社のことだ。

これだけだと、まっとうなビジネス、つまり使っていない特許をただ寝かせておくのももったいないから、ライセンスしようとしただけだ、とも受け取れるのだが、ことはそんなにマトモじゃない。

ちなみに、この手の事件で有名なやつは、
日本だとプロバイダーの課金システムのビジネスモデル特許を取った会社が、
ISP各社に特許使用料を請求したのが有名だ。
90年代の話だ。

ただ、この頃はまだパテントパイレーツなるものは、厳密に言えばまだ登場していない時代で、
これと言った裁判にもならなかった記憶がある。

そう。パテントパイレーツのやり口とは、
ライセンス請求できそうな特許を買い取って、
裁判を吹っかけるのだ。

そして、裁判の費用、時間、労力、精神的な打撃を考えれば、ライセンスした方が妥当だという落としどころにもっていく。

要するにやり口としては、
グリーンメイラーと同様(グリーンメイラーとは、株を買占め高値で買い取らせることを目的とした業者だ。有名なのはブーン・ピケンズだと思う)のやり口なワケだから、忌み嫌われている。
それがパテントパイレーツ(もしくはパテントトロール)だ。

で、それと同じことが商標でも起こったと思ったし、
商標更新料が安くなった結果、早晩起こるだろうと言われていたことだったのだ。

こういう事件は本当に腹が立つ。
さっさと名称変更した講座事務局の対応もへたれだが、
やっぱり商標権者のヒナプロジェクトの方が腹が立つ。

理由は濫用だと思うからだ。

そもそも小説投稿サイトと小説の書き方講座(小説家養成講座であってもよい)とは、
商標上の区分が違う。
この件について、前述の弁理士氏が言及していないところが、これまた腹立つ。

つまり、ヒナプロジェクトが直接関係ない区分の商標を取ったから法的根拠を持つに至ったに過ぎなかったわけだ。

ちなみに、商標自体は、現時点で使用していなくても、将来使うつもりがあれば商標出願自体には問題がないし、また登録されても違法ではない。
もちろん、これは区分ごとに判断されるものだ。

要するに、ヒナプロジェクトは実際にはやっていないビジネスの分野(講座のこと)の商標を取って、既にその事業をやっていた会社(正確には会社かどうかはわからないのだが)に対して差し止め請求したということだ。

これが権利の濫用でなくてなんだというのだ!

ついでに言うと、俺はサッカーは観ない。

実は学生の頃はサッカーやってたのだが、ワードカップが日本に来て以来、何もかも変わった。

さて。
ワールドカップは、実は大阪の衣料品メーカーが商標を持っている。
それに対して、FIFAワールドカップは、長年に渡って!
商標を奪おうとしているのだ。

この会社は株式会社ワ−ルドカツプという会社なのだが、もともとの会社名はワールドカップではなかった。
超巨大資本であるFIFAワールドカップからの度重なる嫌がらせ(もちろん法的な嫌がらせなのだが)に対抗する際に、少しでも負けにくいようにと会社名変更したものと推察される。

そもそも、超巨大資本でありながら、ライセンスを受ける等の穏便な解決策ではなく、
奪おうとするとは何事だ!!

ここに他人事ながら、激怒しているのだ。

考えても見てほしい。超巨大資本が零細とは言わないものの普通の国内企業の権利を奪おうとして訴訟をガンガン仕掛けてきた時に、対抗できるものかどうか。

そんなのは弱い者いじめ以外の何ものでもない。
ついでに言うと、日本ではそこまで行っていないが、アメリカ辺りだと、裁判は資本力のあるほうが勝つことになっている。

そういう団体がやっているから、俺はサッカーを観なくなったのだ。

アップルがアイホンのライセンスを受けることによって解決したのとは大違いだ。
(アイホンはもともと、インターホン専業メーカーが持っていた商標だ)
こういう解決の仕方は妥当かつ平和的で非常に評価できる。
(もっともアイホンの場合は、商標を奪おうなんてしたら、徹底抗戦しただろうこと疑いないが)

なお、無効審判の請求等に対して、まともな判断をし続けた特許庁に対しても、内心賛辞を送っているものである(個人的に)。

で、この話しはやっぱり10年以上前の話しで、たぶんマスコミがこの件を報道しなくなったのも、超巨大資本FIFAから圧力か、あるいは戦時中から御用報道しかして来なかったマスコミ体質が巨大クライアントに対して勝手におもんばかったのかは知らないが、
けっきょくこうした理由で、マスコミは報道しなくなり、またサッカーファンもFIFAが弱い者いじめが大好きな団体だなどということを知らないままだったのだ。

で、むかつきながら調べてみると、
FIFAワールドカップは、
「FIFA WORLD CUP」という商標を
これまら軒並み取ったようだ。

軒並みの意味は、大量の区分にまたがってと言う意味だ。
9類なんて関係ないだろう。
えげつない団体だ。
(実は「家庭用テレビゲームおもちゃ,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD−ROM」だった)

さて。
そんなわけで。「小説家になろう」の件に戻ると、
まったく斗うことなく一気に白旗を掲げた講座主催者側のへたれっぷりにも反吐が出るが、
やっぱり、
ヒナプロジェクトがえげつなくもやりすぎだったと思う。

それと、特許にしろ商標にしろ、嫌がらせと言うのは多い分野だ。
気弱な人間はこういう分野には、関係しない方がいい人生を送れるだろう。

ああ、ひさびさに相当アタマに来ながら書いたわ。

以下、出典。


news:「小説家になろう」名称アウト 山形で19年続く講座、大阪の企業に商標
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160311-00000241-yamagata-l06


 第一線で活躍している作家や編集者を招き、山形市で開かれている「小説家(ライター)になろう講座」が19年間使用してきた名称の変更を迫られていることが10日、分かった。小説投稿サイトの名称として「小説家になろう」が3年前に商標登録され、商標権を持つ大阪の企業から使用差し止めを求められているためだ。

 同講座は1997年、直木賞作家の高橋義夫さん(山形市)を講師にスタートし、現在は文芸評論家の池上冬樹さん(同)が世話人を務め、毎月開催。講座はこれまで、柚月裕子さん、深町秋生さん、壇上志保さん、黒木あるじさん、吉村龍一さんといった多彩な作家を輩出している。

 講座事務局によると、小説投稿サイトを運営する「ヒナプロジェクト」(大阪府枚方市)が2013年に「小説家になろう」を商標登録。今月に入り使用差し止め通知が文書で届き、その後、事務局が名称の商標登録を初めて確認した。

 講座は16年度から新たな名称で再スタートし、新名称は商標登録する予定。池上さんは「名称は変えざるをえなくなったが講座は続く。16年度の講師も日本一豪華な顔ぶれになったので期待してほしい」と話している。

山形新聞社


弁理士によるコラム: 「小説家になろう」商標問題:長年使っている商標を他人が登録してしまった場合どうすればよいか?
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kuriharakiyoshi/20160314-00055414/

「"小説家になろう"名称アウト 山形で19年続く講座、大阪の企業に商標」というニュースがありました。

山形市で開かれている「小説家(ライター)になろう講座」が19年間使用してきた名称の変更を迫られていることが10日、分かった。小説投稿サイトの名称として「小説家になろう」が3年前に商標登録され、商標権を持つ大阪の企業から使用差し止めを求められているためだ。

ということだそうです。twitterでのご指名もありましたので解説することにいたします。

一般に、長年使っていた商標を他人が商標登録してしまうケースはよくあります(不正の目的で出願される「勝手出願」のケースもあれば偶然のケースもあります、今回の件は特に不正目的という感じはしません)。特許法と異なり、商標法には新規性という概念はありませんので、既にある言葉や、他人が使っている商標だからと言って登録できないということはありません。

では、自分が長年使っていた商標を他人に商標登録されて、しかも、警告書送付等されてしまった場合にはどうすればよいのでしょうか?

他人の出願より先にこちらが使用しており消費者に「広く認識」されている状態になっていれば、権利行使(差止め等)を防ぐことはできます。いわゆる先使用権(商標法32条)です。これも特許の場合とは異なり、先に使用していただけではだめで「先に使用」+「広く認識」の両方が必要です。

第三十二条 他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際(略)現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。(略)

この「広く認識」がどれくらいのレベルなら裁判で認められるのかについては、弁理士会会報の記事が参考になります。長期間(10年〜20年以上)使用されており(全国とまでは行かなくとも)都道府県レベルで知られていれば先使用権が認められる可能性が高いようです。ということで、今回の件では、19年にわたり使用されており、少なくとも山形県では知られている状況であったので、先使用権を主張すれば認められた可能性はあったと思います。もちろん、裁判に持ち込むのは大変なので、商標の使用をやめるという選択肢も合理的ではあります。

なお、先使用権の主張だけではなく、4条1項10号を理由に無効審判を請求することも可能です。ただし、現時点ではなく、出願および登録査定の時点で「広く認識」されていたことが必要ですし、登録から5年を経過するとこれを理由にしては無効審判を請求することはできなくなります(除斥期間(一種の時効))。

第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。(略)

十 他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

(略)

なお、法文上は「広く認識」で同じですが、判例上は無効審判よりも先使用権の方が認められやすい傾向があるようです。

さらに、このケースでは「小説家になろう」が、商標として機能するかという問題もあります。仮にセミナーの名称が「小説家育成講座」であって、それのポスター等に「小説家になろう」というキャッチフレーズが付いているといったような使用形態であったとするならば、「小説家になろう」は商標的使用ではないと主張することもできたでしょうが、この件では、「小説家になろう」という名称のセミナーを長年にわたり繰り返し実施していたようなので、この主張は認められにくいと思います。

また、キャッチフレーズとして認識される商標は審査時に識別力がないとして拒絶理由通知が出されることがありますが、いったん登録されてしまうとこれを理由に無効にするのは困難です。

講座事務局ははセミナーの名称を変更し、新名称は商標登録出願するそうです。ポジショントークを承知で言いますが、この手の問題に対する最良の方法は先に商標登録出願しておくことです。五輪エンブレムのようにあらゆる使用形態を排除するために広範囲で出願すると結構な費用がかかりますが、自分が提供する商品(役務)だけを抑えるのであればそれほど費用はかかりません(4月1日より商標登録料が約30%値下げになることもあり総額5万円くらいで登録可能です)ので保険として検討すべきでしょう。

posted by ユニブロ at 23:32 | 東京 ☔ | Comment(0) | TrackBack(0) | 特許・商標関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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