前出のブルームバーグも、オランダ大手金融機関の香港在勤エコノミストの「当局の試みは完全な失敗だった。それが投資家の信頼感の大幅低下を招いている」というコメントを紹介している。
習政権が昨年までしきりに強調していた「人民元の国際通貨化」についてもにわかに雲行きが怪しくなった。
昨年11月に国際通貨基金(IMF)は人民元を特別引き出し権(SDR)の構成銘柄に採用すると決定した。今年10月には組み入れが始まり、名実ともに国際通貨になる。
しかし、今年の全国人民代表大会(全人代)の政府活動報告で、李克強首相は、人民元について「相場の市場メカニズムを引き続き整備し、合理的な均衡水準での安定を維持する」と言及するにとどめた。前年の報告で「人民元レートの上下方向への変動の柔軟性を高める」「人民元の交換性を徐々に実現し、人民元の国際化を拡大する」として、グローバル決済の充実などの方針を打ち出していたのと比べるとずいぶんそっけない。
「人民元は“自由に取引できない国際通貨”という矛盾した存在になっている。全人代に向けて事実上の人民元切り上げを行っている」と上念氏は実情を明かす。
“経済大国”のメンツを保とうとして裏目に出る習指導部の失政が明らかになった形だ。ブルームバーグの前出の記事では「国有企業改革から人民元取引の一段の自由化容認まで習主席が幅広い課題に取り組む中で、今後もこうした政策上の失敗が起きるリスクがあることも示唆している」と警鐘を鳴らした。
上念氏は、中国の政治体制が根本的な矛盾を抱えているため、事態の打開は困難とみる。
「市場経済は多くの人が自由な活動をすることで発展するもので、国が成長産業や投資先を決めてもうまくゆくはずがない。そもそも経済的な自由は政治的な自由とほぼ同義なので、共産党の一党独裁体制では不可能だ。国有企業改革も共産党内部の利権も絡むので手つかずに終わるところも出てくるだろう」