散歩に出かける子どもたち。
子どもたちにとって外の世界は、ドキドキの連続です。
福島市の中心部から3キロ。
豊かな自然に囲まれた「さくら保育園」です。
この地域は、原発事故の直後、市内でも放射線量が比較的高いところでした。
そのため、保育園では長い間、子どもたちの散歩を控えさせていました。
園長の齋藤美智子さんです。
子どもたちが自由に自然とふれあえないことに、心を痛めていました。
さくら保育園 齋藤美智子園長
「外でいろんな刺激があって、そこに小さい子がいて、子どもの感覚・感性も広がって、豊かに育って。
太陽の下で子育てしたいと思った。」
子どもたちの活動範囲を広げたい。
原発事故から1年後、保育園では、周辺の放射線量を測り始めます。
専門家のアドバイスも受けながら、かつて散歩していた道の周辺をくまなく調べました。
子どもたちの散歩が再開されたのは、事故から2年後の秋でした。
ピンクで塗られているのが現在の散歩コース。
保護者の理解も得ながら、少しずつ子どもたちの行くことのできる範囲を広げてきました。
さくら保育園 齋藤美智子園長
「保護者向けに話をして、確認を取りながら進むので、全然簡単じゃないんだけど。」
今月(3月)、子どもたちが向かったのは除染が終わった原っぱ。
子ども
「見て!テントウムシだよ!」
子どもたちの生活に、少しずつ自然が戻ってきました。
この1年描いてきた、ザリガニやつくし。
事故後、子どもたちがはじめて捕まえたり触ったりできたものです。
4年以上の歳月がかかりました。
保護者
「外で遊ばせたほうが子どもにとってもいいだろうし、のびのびしている。」
齋藤さんには、子どもたちをどうしても連れて行きたい場所があります。
すぐ裏にある殿上山(でんじょうやま)です。
この山は去年、半年かけて除染が行われました。
しかし、専門家とも相談しましたが、線量がもう少し下がらないと子どもたちを連れて行けないと保育園では判断しています。
かつて、子どもたちの笑顔にあふれていた、近くて遠い山です。
さくら保育園 齋藤美智子園長
「あんないいところはないと思う。
(子どもたちを山に連れて行くという考えを)簡単に捨てる気にはならない。」
保育園では今も、月に一度、放射線の専門家を呼んで今後の活動について検討会を続けています。
この春、園長を退く齋藤さん。
こうした取り組みを、若い保育士たちに続けていってほしいと思っています。
保育士
「齋藤先生の大事にしているところもみんな分かっているなかで、変わりなくやっていきたい。」
原発事故を境に変わってしまった福島の子どもたちの日常。
保育園では、殿上山の除染を引き続き求めていくなど、子どもたちが自然とふれあう機会を増やしていきたいとしています。
さくら保育園 齋藤美智子園長
「当たり前の生活が戻るまで。
戻るまでっていっても終わりがないのかもしれないけれど。
終わらないね、終われない。」