〜IS機竜の世界に迷い込んだ夏〜 作:厄災の剣帝
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やっときましたセシリア編!!
前に言った通り総当たりします。
それでは本編どうぞ!
蒼い雫と全能竜前に言った通り総当たりします。
それでは本編どうぞ!
「あら、逃げずに来ましたのね」
「逃げる理由はないからな」
《ゼウス・カイザー》を纏ったイチカが自分の下に接近してくるのを見て、セシリアはふふんと鼻を鳴らす。
優雅に腰に手を当てた姿の彼女が纏うのは、鮮やかな青色の機体《ブルー・ティアーズ》。その外見は、特徴的なフィン・アーマー4枚を背に従え、操縦者と合わせて何処か気高さすら感じさせる。その手には67口径特殊レーザーライフル《スターライトmkⅢ》が握られていた。
「ふん、随分と鈍重そうなISですわね。ちゃんと戦えるのかしら?」
「どこぞの雫よりは早い」
イチカの《ゼウス・カイザー》に限らず、装甲機竜はISより一回りほど大きい。操縦者を中心に据え、ISのものより遥かに巨大な手足を持つ姿を見れば、彼女の侮蔑の込められた疑問ももっともだろう。
だが、装甲機竜もISも兵器であり、決して着衣やアクセサリーの類ではない。姿形など些末な事。必要なのは、純粋な戦闘力とそれを使いこなす技量。
加えてセシリアは己の勝利を確信して慢心し切っている。自分の力を何一つ疑わず、未だに女は男より強いという妄言に囚われている。戦場において自信があるのは良い事だが、それも行き過ぎると思考を鈍らせる枷でしかない。
「最後のチャンスをあげますわ。私が一方的な勝利は揺ぎ無きもの。敗者になる貴方に慈悲を差し上げます。今ここで謝るというのでしたら、特別に許してあげない事もなくってよ?」
そう言って彼女は目元を細めながら笑みを浮かべる。口では降伏を促しているが、その内には闘志の炎が滾っている事だろう。
対するイチカも当然従う気はない。彼は長剣《神聖剣》を構えながら、彼女に冷笑で返す。
「ふっ……。もう少し言葉の勉強をした方が良いぞ? それはチャンスじゃなくて、無条件降伏って言うんだ」
「ッ! 残念ですわ。それなら―――」
直後、セシリアの握るライフルの銃口に光が集束する。
ブー!! と開戦の合図であるブザーが鳴ったのはほぼ同時だった。
「お別れですわね!!」
開始直後に仕掛けられた光速の先制攻撃。ライフルから発射されたレーザーはイチカの頭部へと直進していき、―――首を傾げるだけで回避される。
「なっ!? 避けた……!」
「最初から銃口向けられてたのに、避けない馬鹿がいるのか?」
その声は驚くほど至近距離で聞こえた。自分の攻撃が回避された事にセシリアが驚愕している隙を突き、イチカがその懐に入り込んだのだ。
「速―――……ッ!?」
回避も防御も間に合わなかった。交差するような剣閃が見えたと思った瞬間、彼女の身体は吹き飛ばされていた。
それでいてイチカは決して追撃の手を緩めず、宙を舞う彼女に追い着くと再び斬撃を放ち、《ブルー・ティアーズ》のシールドエネルギーを奪い、アリーナの地面へと叩き落す。
更にその後を追って斬りかかろうとするイチカだったが、直後に戦場で培った勘が脳裏で警鐘を鳴らす。
危険と判断して離脱したところ、彼の真横から一条の閃光が飛来した。
「もう油断しませんわ! 全力で貴方を落とします!!」
発射元に視線を向けると、そこで浮遊していたのは蒼いビット。
しかも1基だけではなく、別の場所にも同じものが3基が浮かんでおり、その全てがイチカに銃口を向けている。
「これが《ブルー・ティアーズ》が第3世代型ISを冠する所以……イギリスが開発した第3世代兵器《ブルー・ティアーズ》ですわ!」
「名前が同じで、こんがらがりそうなんだが……」
思わず突っ込みを入れるイチカを無視し、蒼い機体で再び飛翔してくるセシリアの目には憤怒と憎悪の光が宿っていた。
ここまで男であるイチカにいいようにされた事が気に食わないようだが、戦場において女尊男卑の思想など何の役にも立たない事をイチカは知っている。
戦場ではある意味で誰しも平等であり、兵士の数と質、戦略と運、そして―――誇りによって勝者と敗者に分けられるのだから。
「さぁ、踊りなさい! 私、セシリア・オルコットと《ブルー・ティアーズ》の奏でる円舞曲で!!」
「俺は荒っぽいダンスに身体が慣れてるんだ。スローテンポは勘弁してくれよ!!」
4つのビットが意思を持つかの様に動き回る中、長剣を握る混沌をもたらす神竜もまた牙を剥く。
………
……
…
「あれがラルグリス君のISですか……。普通のISに比べる大分大きいですね」
「ああ。だが、それでいて鈍重ではない。一体どんな性能
スペック
をしてるんだ、あの機体は」
ピット内の通信管制室に設けられた巨大モニターで、千冬達は2人の試合模様を注視していた。
真耶の興味はイチカの神装機竜《ゼウス・カイザー》の異質さに向いていたが、言葉とは裏腹に千冬の視線は彼の戦いぶりに注がれている。
自身が現役の頃でも感じる事はなかった、相手を倒す事に全力を注いだ鋭い戦意。とても初心者の持つ気迫とは思えない。
だが、千冬がイチカを気にかけている理由はそれだけではない。
(アイツと私は初対面のはずだ。だが、アイツの顔は……イチカを思い出させる)
彼の名前だけを最初聞いた時はもしやと思ったが、そんな事あるはずがない。彼女のもう一人の弟―――織斑イチカは死んだのだ。
2年前、モンド・グロッソにて無事に2連覇を成し遂げて心躍らせていた千冬を待っていたのは、信じられない、信じたくない凶報。
自分の連覇阻止を目論んだ組織と、自分の連覇を望んだ日本政府。2つの陣営の思惑が歪んだ方向に交わった結果、イチカは誘拐された。情報を提供してくれたドイツ軍と共に直ぐに誘拐犯が潜伏しているという廃工場に向かったものの、其処は既にもぬけの殻。
そんな中で彼女が見付けてしまったのは、服の切れ端と夥しい量の血痕。前者は見間違えるはずもなく試合前に一夏が着ていたものであり、血痕のDNAを調べてみても、それが彼女の弟のものだと証明された。
(遺体こそ見つからなかったが、あの量では生きてる可能性は低いと医者は言っていた。だが、もし……もしも本当に……)
弟の死を何時までも受け入れられないが故の愚かしい考えだとも思うが、どうしても『有り得ない』と一言で断じる事が出来ない。
思考の渦に呑み込まれて碌な思考もままならない中、突如隣に立っていた真耶の驚愕の声で現実に引き戻される。
「……えっ? 嘘……でも、こんな事って……!」
「? どうかされました、山田先生?」
「そ、それが……何かの間違いかもしれないんですけど……ラルグリス君のISはSEがあるのに絶対防御が働いていません!!」
尚も信じられないという表情のまま告げられた真耶の言葉に、千冬は思わず息を呑んだ。
…
……
………
降り注ぐレーザーの嵐と、絶え間なく振るわれる斬撃。
遥か上空で繰り広げられる2人の攻防に、試合を観戦していた誰もが息を呑んだ。女尊男卑の思想に染まったイチカを敵視していた生徒達ですら驚愕を隠せない。
相手は代表候補生。勿論国家代表と比較すれば劣るだろうが、学生の基準で言えば追いつく事が難しいエリート中のエリート。
にも拘らず、イチカはセシリアと互角に、それどころか彼女を上回るほどの実力で渡り合っていた。
四方をビットで囲めばレーザーが放たれる寸前でその場を離脱し、真正面から斬りかかってきた相手にライフルで迎撃すれば剣で弾かれる。
「レーザーを斬るなんて……! 何なんですの、貴方は!?」
「主に忠誠を誓う、しがない従者さ!」
幾ら銃口から弾道を予測する事が出来ようと、光速で飛来するレーザーを剣一本で迎え撃つなど人間業とは思えない。
初心者であるはずの一夏にいいようにされている事実にセシリアが苛立ちを覚えていると、突如管制室から千冬の怒声が飛び込んできた。
『ラルグリス! 試合は中止だ! お前のISには絶対防御が働いていない! その状態では、下手をすれば死ぬぞ!』
「なッ!?」
絶対防御が発動しない。それはつまり、搭乗者の生命を護る絶対防御がない事を意味している。
一発でもレーザーが直撃すれば、装甲は飴細工のように溶け、一夏の命を容易く奪う事だろう。
(まさか、欠陥機……!?)
慌ててビットへの射撃命令を取り消したセシリアだったが、
「それが―――どうした!?」
千冬の制止の声を無視したイチカが瞬時に距離を詰め、彼女を天空へと弾き飛ばした。
尚も試合を続ける意思を見せ、肉迫してくるイチカにセシリアは信じられないものを見るような目を向ける。
「あ、貴方……死ぬのが怖くありませんの!?」
「死ぬのは当然怖いさ。だが、決闘っていうのはそういうものだろ? あまり詳しくないが、昔は助命を禁じる法令もあったらしいじゃないか」
それに、と背翼から粒子を放出させながら一夏と《ゼウス・カイザー》は天を舞う。
「恐怖に背を向け、縮こまっていたんじゃ、何一つ変えられない! 俺にとって前に踏み出す覚悟の前では、死への恐怖なんて些末な事!主はどれほど強大な敵を前にしても、絶望的な状況に追い込まれようと、大切なものの為に戦う覚悟が揺らぐ事はなかった!!」
帝国復権を望む反乱軍に傭兵組織『竜匪賊』、幻神獣、終焉神獣。ルクスを筆頭とした者達が参加した戦いは、どれも命を賭けて挑まなければならないものだった。
特に国一つを滅ぼす力を有する終焉神獣の相手など、絶対に真正面から斬り合いたいものではない。だが、護りたいと思った者達の為に戦う覚悟をしたルクスは、決してその剣を止める事はなかった。
「それはお前もだろ、セシリア・オルコット! お前もまたそれだけの覚悟を決めたから、遺産を狙う腹黒い連中を一人で相手取ってきたんだろ!?」
「ッ! 貴方、何故それを……!?」
「言っただろ、学園の有名どころは調べたって。その程度の事は直ぐに分かる」
話しながらも決して剣を止める腕を、進む為の背翼の操作を休める事はない。
だが、相手を殺してしまうかもしれないという疑念があるからか、その攻撃に対してセシリアは回避行動のみを取り続けていた。
「その技術にしてもそうだ! 頭部を狙った正確な射撃に、4つのビット操作。誰にも嘗められないよう血反吐を吐くような研鑽を積んだからこそ、その証として《ブルー・ティアーズ》を手に入れたんだろ!?」
実際、彼女の実力は先程まで自分に見せていたものに留まらないだろう。それでも負ける気などないが、ここまで差が現れている原因は一つ。
慢心と油断。代表候補性という立場と男が下等であるという思想が、彼女の本来の実力を下げてしまっている。
「お前がどんな思想を持っていようと俺には関係ない! だが、それだけの力を持ってるのに、他人を見下す事しか出来ないっていうのは宝の持ち腐れも良いところだ!」
「知ったふうな口を―――利かないでください!!」
バシュンッ!! と一方的に言葉を発していたイチカに向け、セシリアの持つライフルの銃口が火を噴いた。
(しまった……!)
自分の事などネット上に載っている情報でしか知らないくせに。全てが分かっているかのような一夏の口ぶりに彼女は苛立ちを覚え、つい引き金を引いてしまった。
セシリア自身も意図せず発砲した為、前兆がなかった攻撃に一夏の反応が僅かに遅れる。
絶対防御が働かない状態では彼の身体を貫く事は必然。熱線に晒されそうなったイチカからセシリアが目を背けた直後、―――パァン!! と《ゼウス・カイザー》の腕がレーザーを受け止める。
「う、受け止めたッ……!?」
確実に相手を貫くと思われた攻撃が不発に終わった事に、セシリアは安堵と疑問が混じった声を漏らす。
対して一夏は、そんな彼女に向けて今しがた攻撃を止めた腕を掲げてみせた。
「《暮桜》の単一使用 ≪零落白夜≫これは知っているだろう?」
「やっぱり恐ろしい能力ですわね……。ですが、強者の余裕ですか? そんな重要な事を敵に教えるなど」
「勿論、此処が戦場だって言うならそんな事はしないさ。だが、これはあくまで決闘。一方的に殴るのはフェアじゃない」
そして彼は、掲げていた腕を手の甲が下になるように反転させ、挑発するように指を曲げる。
「さぁそろそろ終わりにしよう。セシリア・オルコット。」
「良いでしょう、イチカ・エインフォルク・ラルグリス。貴方の全力……私の全力で叩き潰して差し上げますわ!」
ISの能力により相手が傷を負う事はないと判断したセシリアは、再びビットも交えて心置きなく狙撃に専念する。
対する一夏も負けてはいない。エネルギー兵装には絶対の耐性があると思われる《零落白夜》だが、当然人が扱う以上、搭乗者の意識がある中でしかその神装は発動しない。障壁は主の命の危機に応じて自動展開されるが、それでも強度に限界はある。セシリアは神装が自動発生するものと思って攻撃しているだろう。だが、それで良い。
互いに全力を以て挑まなければ、恐らくはこの戦いに深い遺恨を残してしまう。
「貴方は確か主に仕えていると言っていましたわね! でしたら貴方も、所詮は私が今まで戦ってきた女性に頭を下げるだけの男達と同じですわ!」
「生憎、俺はご機嫌取りの為に頭を下げてる訳じゃない! 主には、それだけの魅力があるから忠誠を示すんだ!」
自分の存在を認めてくれ、自分を家族として迎えてくれようとした。
そして今尚、理想の国を造る為に戦い続ける事を決めた彼の主―――ルクス・アーカディア。
「頂きに立つ者としての威厳も、統治する者としての尊大さもない! だが、常に民を思い、彼等の為に戦う覚悟を決めた主は―――誰よりも王に相応しい!」
迫り来るレーザーの嵐を切り伏せた後、チラリと一夏は旋回するビット4基を視線で追う。片手で数えられる程度の相手など、絶え間なく襲い掛かってくるリーズシャルテが操る16基の《空挺要塞》に比べれば可愛いものだ。
イチカは今まで溜めに溜めていたエネルギーを特殊武装でもある背翼《赤熱狂翼》へと回し、―――ドバンッ! と爆音を撒き散らしながら超加速を決行し、通りすがり様に1基のビットを破壊する。
「ビットを墜とすなんて!? しかも、先程までより速い……!!」
「散々撃ち込んできてくれたからな。そのエネルギーを全部推進装置に回せば、一時的にあのくらいの速度は出せるさ」
その後もビットとライフルの狙撃を受ける度に、爆発的な加速を見せる。
ある意味では自分が振るった刃が自分に返ってきているような光景。2基目のビットが墜ちる姿を見ながら、セシリアは戦慄する。
「オルコット! 今のお前には世界はどう見えてる!? 下等な男が地に伏せる姿か、高慢な女が世界を統べる姿か!
だが、その独善的な考えを捨て、視界を、可能性を広げてもう一度世界を見てみろ!」」
更に残る2基さえもイチカは破壊し、残ったのはセシリアのみ。
最後にもう一度超加速を発動させて彼女の下へと移動しようとした時、―――カシュン! と《ブルー・ティアーズ》の腰部から広がる、スカート状のアーマーの突起が外れる。
「ッ! これは……!?」
「掛かりましたわね! 《ブルー・ティアーズ》は6基ありましてよ!!」
放たれたのは先程までのレーザー射撃を行うビットではなく、『弾道型』。エネルギーの半減と吸収を行う《反旗の逆鱗》では対処する事の出来ない攻撃。
既にセシリアへと肉迫する一夏では回避行動も間に合わず、誰もがその奇襲は成功すると思った。
だが、
ーーー≪支配者の神域≫
とある金髪の巨乳騎士団長の神装を使った
「そんな、完全に虚を突いたはずなのに……!?」
「例え虚を突かれようが、0.01秒で体勢を立て直して喰らいつく。従者である俺が、主より先に地に伏せるなんてあってはならないからな!」
揺るがぬ忠誠心を示しながら、一夏はこの戦いに幕を下ろす為に剣を掲げる。
奇襲にも動じずに対応された事で驚愕していたセシリアは、ようやく自分が致命的な隙を見せている事に気が付き後ろを向きライフルを構えるが、神速がそれを追い抜く。
欠かす事なく修練を積んできた、イチカにとっては最も信頼出来る神速制御による一撃が、セシリアを切り捨てた。
「きゃぁああああああああああッ!!?」
ガッシャアァァァン!! と彼女の悲鳴と共に硝子が割れた様な音が響き、《ブルー・ティアーズ》のシールドエネルギー残量が0を刻んだ。
『試合終了。勝者:イチカ・エインフォルク・ラルグリス』
管制室がアナウンスが勝者を告げた直後、わぁッ!! とアリーナの至る所から歓声が湧き上がる。
中には試合前に侮蔑の視線をイチカに向けていた者もいたが、今は驚嘆に目を見開き、それでいて素晴らしいものを見た事を示すように微笑んでいた。
そんな好奇の視線を受けながら彼は降下し、≪ゼウス・カイザー≫を解除して地面に仰向けに倒れるセシリアに近付く。
「まさか、この私が……あそこまで一方的に負けてしまうなんて……」
「男より女が強いのは当然、代表候補生だから強くて当然……慢心は心を曇らせ、成長を妨げる」
「……っ」
彼の言う通りだとセシリアは悟った。だが、その慢心の結果がこれだ。
「オルコット女氏、確かにお前は強い。とても同い年だとは思えない。だが、今のお前は完璧じゃない。故にその成長もまた完成していない」
完璧と言われれば聞こえは良いが、それは同時に『成長の余地がない』事を示している。
これ以上はなく、知恵も努力も才能も立ち入る隙がない為、創造の余地すらない。つまり完璧とは、絶望と同義。
その事実を暗に告げたイチカは、倒れている彼女に向け右手を差し出す。
「何時か、今より成長したお前を見せてくれ。俺は何時までも、主の為に研鑽を欠かさずに待ってる」
「ふふっ。主の為に研鑽を続ける、ですか……。貴方のような男性にそこまで思われるなんて、その主様は幸せ者ですわね」
「それは俺もだ。あの人に忠誠を誓える事が、俺にとって至上の喜びだ」
此処にはいないルクスへの忠誠を示すように、イチカは左手を胸に当てる。
彼が選んだ道を安全に進めるよう、自分達従者は持てる全てを振るう。例え其処が荒れ果てた茨道であろうと、刃が絶えず迫る修羅の道だろうと。
『ラルグリス、お前の機体の事で話がある。管制室まで来い』
思考を遮るように響き渡ったスピーカー越しの千冬の声に、陶酔に浸っていたイチカは忌々しげに舌打ちする。
「……分かりました。でも、元々の予定に従うなら、この後は織斑春斗とクルルシファーの試合になるはずだが?」
『話し合いにどれだけの時間を費やすかは分からんからな。30分ほど小休憩を挟んだ後、織斑兄とエインフォルクで試合をしてもらう。クルルシファー、それで構わないか?』
問題ないわ。とクルルシファーの了承も取れ、それを確認したイチカは管制室へと足を進めようとする。
その直前で、セシリアが彼の背中に声を掛けた。
「あ、あの、私、今よりもっと強くなってみせますわ! そして貴方に並ぶIS操縦者になってみせます!!」
「そこは俺に勝つって言った方が格好良いと思うが……ああ、待ってるよ」
次第に小さくなっていく背中を、セシリアは熱の籠もった瞳で見つめながら自分もピットに戻っていった。
「ラルグリス、何故命令を無視した?」
管制室に辿り着いたイチカを待っていたのは、何処か怒気を孕んだ千冬の声だった。
だが、対するイチカは優美な、それでいて小馬鹿にしたような印象を与える微笑みを向ける。
「決闘の場に立つ当人同士が了承したので、外野に口出しされる筋合いはないかな? と思いまして」
「大有りだ。これはIS学園だけの問題ではない、下手をすれば世界に関わる問題になるかもしれないんだぞ!!」
「何を今更。既に男性操縦者という世界的混乱が巻き起こってるんだ。好きに混乱すれば良いさ」
元々この世界は偉大な姉を頂きに立たせる為に自分を捨てたのだ。幻神獣については今の自分が生きる世界の問題である為に引き受けるが、自分から生じた社会問題など知った事ではない。 一切聞き耳を持たないイチカに千冬も苛立ちを覚え、わしゃわしゃ! と髪を掻く。
「……兎に角、お前のISは少しだけ預からせてもらうぞ」
「残念だが、貴方達に渡すつもりはない」
「お前はこの学園の人間だ。生徒である教師の言う事には従ってもらう」
「ハッ! 教師風情に本人の意思を無視する権利があったとは驚きだ」
彼女の言葉を鼻で笑った後、イチカは管制室の出口へと足を向ける。当然機攻殻剣を渡しはしない。
「おい、ラル……!」
「どうしても調べたければウチの会社と交渉してください。もっとも、企業秘密をそう簡単に教えてくれるとは思えないが」
というよりも、企業秘密云々の前にその会社は束が作った秘密の多い会社で調べることが出来ないが。
「では、今度こそ失礼しま……」
「ま、待て!」
今度の制止の声は何故か震えが混じっており、先程とは異なる言葉にイチカの足が止まる。
チラリ、と肩越しに視線だけ向けると、何かに対して疑念を抱いているような、瞳を揺らした千冬の姿があった。
「その、お前は……お前は本当は……」
しどろもどろになりながら彼女が語りかけてきた事に、ピクリ……! とイチカの片眉が吊り上る。
彼女の言わんとしている事を察し、それ以上は語らせまいとイチカは声を上げようとして―――わぁあああああああッ!! と観客席から生徒達の歓声が聞こえてきた。
「あ……」
「熱気は最高潮みたいだな。これが終わったら次は俺の試合がまたあるし、俺はもう行く」
その言葉を最後にイチカは背を向け、管制室から足早に去って行った。
嘗ての姉との決別を暗に示すかのように。
「逃げる理由はないからな」
《ゼウス・カイザー》を纏ったイチカが自分の下に接近してくるのを見て、セシリアはふふんと鼻を鳴らす。
優雅に腰に手を当てた姿の彼女が纏うのは、鮮やかな青色の機体《ブルー・ティアーズ》。その外見は、特徴的なフィン・アーマー4枚を背に従え、操縦者と合わせて何処か気高さすら感じさせる。その手には67口径特殊レーザーライフル《スターライトmkⅢ》が握られていた。
「ふん、随分と鈍重そうなISですわね。ちゃんと戦えるのかしら?」
「どこぞの雫よりは早い」
イチカの《ゼウス・カイザー》に限らず、装甲機竜はISより一回りほど大きい。操縦者を中心に据え、ISのものより遥かに巨大な手足を持つ姿を見れば、彼女の侮蔑の込められた疑問ももっともだろう。
だが、装甲機竜もISも兵器であり、決して着衣やアクセサリーの類ではない。姿形など些末な事。必要なのは、純粋な戦闘力とそれを使いこなす技量。
加えてセシリアは己の勝利を確信して慢心し切っている。自分の力を何一つ疑わず、未だに女は男より強いという妄言に囚われている。戦場において自信があるのは良い事だが、それも行き過ぎると思考を鈍らせる枷でしかない。
「最後のチャンスをあげますわ。私が一方的な勝利は揺ぎ無きもの。敗者になる貴方に慈悲を差し上げます。今ここで謝るというのでしたら、特別に許してあげない事もなくってよ?」
そう言って彼女は目元を細めながら笑みを浮かべる。口では降伏を促しているが、その内には闘志の炎が滾っている事だろう。
対するイチカも当然従う気はない。彼は長剣《神聖剣》を構えながら、彼女に冷笑で返す。
「ふっ……。もう少し言葉の勉強をした方が良いぞ? それはチャンスじゃなくて、無条件降伏って言うんだ」
「ッ! 残念ですわ。それなら―――」
直後、セシリアの握るライフルの銃口に光が集束する。
ブー!! と開戦の合図であるブザーが鳴ったのはほぼ同時だった。
「お別れですわね!!」
開始直後に仕掛けられた光速の先制攻撃。ライフルから発射されたレーザーはイチカの頭部へと直進していき、―――首を傾げるだけで回避される。
「なっ!? 避けた……!」
「最初から銃口向けられてたのに、避けない馬鹿がいるのか?」
その声は驚くほど至近距離で聞こえた。自分の攻撃が回避された事にセシリアが驚愕している隙を突き、イチカがその懐に入り込んだのだ。
「速―――……ッ!?」
回避も防御も間に合わなかった。交差するような剣閃が見えたと思った瞬間、彼女の身体は吹き飛ばされていた。
それでいてイチカは決して追撃の手を緩めず、宙を舞う彼女に追い着くと再び斬撃を放ち、《ブルー・ティアーズ》のシールドエネルギーを奪い、アリーナの地面へと叩き落す。
更にその後を追って斬りかかろうとするイチカだったが、直後に戦場で培った勘が脳裏で警鐘を鳴らす。
危険と判断して離脱したところ、彼の真横から一条の閃光が飛来した。
「もう油断しませんわ! 全力で貴方を落とします!!」
発射元に視線を向けると、そこで浮遊していたのは蒼いビット。
しかも1基だけではなく、別の場所にも同じものが3基が浮かんでおり、その全てがイチカに銃口を向けている。
「これが《ブルー・ティアーズ》が第3世代型ISを冠する所以……イギリスが開発した第3世代兵器《ブルー・ティアーズ》ですわ!」
「名前が同じで、こんがらがりそうなんだが……」
思わず突っ込みを入れるイチカを無視し、蒼い機体で再び飛翔してくるセシリアの目には憤怒と憎悪の光が宿っていた。
ここまで男であるイチカにいいようにされた事が気に食わないようだが、戦場において女尊男卑の思想など何の役にも立たない事をイチカは知っている。
戦場ではある意味で誰しも平等であり、兵士の数と質、戦略と運、そして―――誇りによって勝者と敗者に分けられるのだから。
「さぁ、踊りなさい! 私、セシリア・オルコットと《ブルー・ティアーズ》の奏でる円舞曲で!!」
「俺は荒っぽいダンスに身体が慣れてるんだ。スローテンポは勘弁してくれよ!!」
4つのビットが意思を持つかの様に動き回る中、長剣を握る混沌をもたらす神竜もまた牙を剥く。
………
……
…
「あれがラルグリス君のISですか……。普通のISに比べる大分大きいですね」
「ああ。だが、それでいて鈍重ではない。一体どんな性能
スペック
をしてるんだ、あの機体は」
ピット内の通信管制室に設けられた巨大モニターで、千冬達は2人の試合模様を注視していた。
真耶の興味はイチカの神装機竜《ゼウス・カイザー》の異質さに向いていたが、言葉とは裏腹に千冬の視線は彼の戦いぶりに注がれている。
自身が現役の頃でも感じる事はなかった、相手を倒す事に全力を注いだ鋭い戦意。とても初心者の持つ気迫とは思えない。
だが、千冬がイチカを気にかけている理由はそれだけではない。
(アイツと私は初対面のはずだ。だが、アイツの顔は……イチカを思い出させる)
彼の名前だけを最初聞いた時はもしやと思ったが、そんな事あるはずがない。彼女のもう一人の弟―――織斑イチカは死んだのだ。
2年前、モンド・グロッソにて無事に2連覇を成し遂げて心躍らせていた千冬を待っていたのは、信じられない、信じたくない凶報。
自分の連覇阻止を目論んだ組織と、自分の連覇を望んだ日本政府。2つの陣営の思惑が歪んだ方向に交わった結果、イチカは誘拐された。情報を提供してくれたドイツ軍と共に直ぐに誘拐犯が潜伏しているという廃工場に向かったものの、其処は既にもぬけの殻。
そんな中で彼女が見付けてしまったのは、服の切れ端と夥しい量の血痕。前者は見間違えるはずもなく試合前に一夏が着ていたものであり、血痕のDNAを調べてみても、それが彼女の弟のものだと証明された。
(遺体こそ見つからなかったが、あの量では生きてる可能性は低いと医者は言っていた。だが、もし……もしも本当に……)
弟の死を何時までも受け入れられないが故の愚かしい考えだとも思うが、どうしても『有り得ない』と一言で断じる事が出来ない。
思考の渦に呑み込まれて碌な思考もままならない中、突如隣に立っていた真耶の驚愕の声で現実に引き戻される。
「……えっ? 嘘……でも、こんな事って……!」
「? どうかされました、山田先生?」
「そ、それが……何かの間違いかもしれないんですけど……ラルグリス君のISはSEがあるのに絶対防御が働いていません!!」
尚も信じられないという表情のまま告げられた真耶の言葉に、千冬は思わず息を呑んだ。
…
……
………
降り注ぐレーザーの嵐と、絶え間なく振るわれる斬撃。
遥か上空で繰り広げられる2人の攻防に、試合を観戦していた誰もが息を呑んだ。女尊男卑の思想に染まったイチカを敵視していた生徒達ですら驚愕を隠せない。
相手は代表候補生。勿論国家代表と比較すれば劣るだろうが、学生の基準で言えば追いつく事が難しいエリート中のエリート。
にも拘らず、イチカはセシリアと互角に、それどころか彼女を上回るほどの実力で渡り合っていた。
四方をビットで囲めばレーザーが放たれる寸前でその場を離脱し、真正面から斬りかかってきた相手にライフルで迎撃すれば剣で弾かれる。
「レーザーを斬るなんて……! 何なんですの、貴方は!?」
「主に忠誠を誓う、しがない従者さ!」
幾ら銃口から弾道を予測する事が出来ようと、光速で飛来するレーザーを剣一本で迎え撃つなど人間業とは思えない。
初心者であるはずの一夏にいいようにされている事実にセシリアが苛立ちを覚えていると、突如管制室から千冬の怒声が飛び込んできた。
『ラルグリス! 試合は中止だ! お前のISには絶対防御が働いていない! その状態では、下手をすれば死ぬぞ!』
「なッ!?」
絶対防御が発動しない。それはつまり、搭乗者の生命を護る絶対防御がない事を意味している。
一発でもレーザーが直撃すれば、装甲は飴細工のように溶け、一夏の命を容易く奪う事だろう。
(まさか、欠陥機……!?)
慌ててビットへの射撃命令を取り消したセシリアだったが、
「それが―――どうした!?」
千冬の制止の声を無視したイチカが瞬時に距離を詰め、彼女を天空へと弾き飛ばした。
尚も試合を続ける意思を見せ、肉迫してくるイチカにセシリアは信じられないものを見るような目を向ける。
「あ、貴方……死ぬのが怖くありませんの!?」
「死ぬのは当然怖いさ。だが、決闘っていうのはそういうものだろ? あまり詳しくないが、昔は助命を禁じる法令もあったらしいじゃないか」
それに、と背翼から粒子を放出させながら一夏と《ゼウス・カイザー》は天を舞う。
「恐怖に背を向け、縮こまっていたんじゃ、何一つ変えられない! 俺にとって前に踏み出す覚悟の前では、死への恐怖なんて些末な事!主はどれほど強大な敵を前にしても、絶望的な状況に追い込まれようと、大切なものの為に戦う覚悟が揺らぐ事はなかった!!」
帝国復権を望む反乱軍に傭兵組織『竜匪賊』、幻神獣、終焉神獣。ルクスを筆頭とした者達が参加した戦いは、どれも命を賭けて挑まなければならないものだった。
特に国一つを滅ぼす力を有する終焉神獣の相手など、絶対に真正面から斬り合いたいものではない。だが、護りたいと思った者達の為に戦う覚悟をしたルクスは、決してその剣を止める事はなかった。
「それはお前もだろ、セシリア・オルコット! お前もまたそれだけの覚悟を決めたから、遺産を狙う腹黒い連中を一人で相手取ってきたんだろ!?」
「ッ! 貴方、何故それを……!?」
「言っただろ、学園の有名どころは調べたって。その程度の事は直ぐに分かる」
話しながらも決して剣を止める腕を、進む為の背翼の操作を休める事はない。
だが、相手を殺してしまうかもしれないという疑念があるからか、その攻撃に対してセシリアは回避行動のみを取り続けていた。
「その技術にしてもそうだ! 頭部を狙った正確な射撃に、4つのビット操作。誰にも嘗められないよう血反吐を吐くような研鑽を積んだからこそ、その証として《ブルー・ティアーズ》を手に入れたんだろ!?」
実際、彼女の実力は先程まで自分に見せていたものに留まらないだろう。それでも負ける気などないが、ここまで差が現れている原因は一つ。
慢心と油断。代表候補性という立場と男が下等であるという思想が、彼女の本来の実力を下げてしまっている。
「お前がどんな思想を持っていようと俺には関係ない! だが、それだけの力を持ってるのに、他人を見下す事しか出来ないっていうのは宝の持ち腐れも良いところだ!」
「知ったふうな口を―――利かないでください!!」
バシュンッ!! と一方的に言葉を発していたイチカに向け、セシリアの持つライフルの銃口が火を噴いた。
(しまった……!)
自分の事などネット上に載っている情報でしか知らないくせに。全てが分かっているかのような一夏の口ぶりに彼女は苛立ちを覚え、つい引き金を引いてしまった。
セシリア自身も意図せず発砲した為、前兆がなかった攻撃に一夏の反応が僅かに遅れる。
絶対防御が働かない状態では彼の身体を貫く事は必然。熱線に晒されそうなったイチカからセシリアが目を背けた直後、―――パァン!! と《ゼウス・カイザー》の腕がレーザーを受け止める。
「う、受け止めたッ……!?」
確実に相手を貫くと思われた攻撃が不発に終わった事に、セシリアは安堵と疑問が混じった声を漏らす。
対して一夏は、そんな彼女に向けて今しがた攻撃を止めた腕を掲げてみせた。
「《暮桜》の単一使用 ≪零落白夜≫これは知っているだろう?」
「やっぱり恐ろしい能力ですわね……。ですが、強者の余裕ですか? そんな重要な事を敵に教えるなど」
「勿論、此処が戦場だって言うならそんな事はしないさ。だが、これはあくまで決闘。一方的に殴るのはフェアじゃない」
そして彼は、掲げていた腕を手の甲が下になるように反転させ、挑発するように指を曲げる。
「さぁそろそろ終わりにしよう。セシリア・オルコット。」
「良いでしょう、イチカ・エインフォルク・ラルグリス。貴方の全力……私の全力で叩き潰して差し上げますわ!」
ISの能力により相手が傷を負う事はないと判断したセシリアは、再びビットも交えて心置きなく狙撃に専念する。
対する一夏も負けてはいない。エネルギー兵装には絶対の耐性があると思われる《零落白夜》だが、当然人が扱う以上、搭乗者の意識がある中でしかその神装は発動しない。障壁は主の命の危機に応じて自動展開されるが、それでも強度に限界はある。セシリアは神装が自動発生するものと思って攻撃しているだろう。だが、それで良い。
互いに全力を以て挑まなければ、恐らくはこの戦いに深い遺恨を残してしまう。
「貴方は確か主に仕えていると言っていましたわね! でしたら貴方も、所詮は私が今まで戦ってきた女性に頭を下げるだけの男達と同じですわ!」
「生憎、俺はご機嫌取りの為に頭を下げてる訳じゃない! 主には、それだけの魅力があるから忠誠を示すんだ!」
自分の存在を認めてくれ、自分を家族として迎えてくれようとした。
そして今尚、理想の国を造る為に戦い続ける事を決めた彼の主―――ルクス・アーカディア。
「頂きに立つ者としての威厳も、統治する者としての尊大さもない! だが、常に民を思い、彼等の為に戦う覚悟を決めた主は―――誰よりも王に相応しい!」
迫り来るレーザーの嵐を切り伏せた後、チラリと一夏は旋回するビット4基を視線で追う。片手で数えられる程度の相手など、絶え間なく襲い掛かってくるリーズシャルテが操る16基の《空挺要塞》に比べれば可愛いものだ。
イチカは今まで溜めに溜めていたエネルギーを特殊武装でもある背翼《赤熱狂翼》へと回し、―――ドバンッ! と爆音を撒き散らしながら超加速を決行し、通りすがり様に1基のビットを破壊する。
「ビットを墜とすなんて!? しかも、先程までより速い……!!」
「散々撃ち込んできてくれたからな。そのエネルギーを全部推進装置に回せば、一時的にあのくらいの速度は出せるさ」
その後もビットとライフルの狙撃を受ける度に、爆発的な加速を見せる。
ある意味では自分が振るった刃が自分に返ってきているような光景。2基目のビットが墜ちる姿を見ながら、セシリアは戦慄する。
「オルコット! 今のお前には世界はどう見えてる!? 下等な男が地に伏せる姿か、高慢な女が世界を統べる姿か!
だが、その独善的な考えを捨て、視界を、可能性を広げてもう一度世界を見てみろ!」」
更に残る2基さえもイチカは破壊し、残ったのはセシリアのみ。
最後にもう一度超加速を発動させて彼女の下へと移動しようとした時、―――カシュン! と《ブルー・ティアーズ》の腰部から広がる、スカート状のアーマーの突起が外れる。
「ッ! これは……!?」
「掛かりましたわね! 《ブルー・ティアーズ》は6基ありましてよ!!」
放たれたのは先程までのレーザー射撃を行うビットではなく、『弾道型』。エネルギーの半減と吸収を行う《反旗の逆鱗》では対処する事の出来ない攻撃。
既にセシリアへと肉迫する一夏では回避行動も間に合わず、誰もがその奇襲は成功すると思った。
だが、
ーーー≪支配者の神域≫
とある金髪の巨乳騎士団長の神装を使った
「そんな、完全に虚を突いたはずなのに……!?」
「例え虚を突かれようが、0.01秒で体勢を立て直して喰らいつく。従者である俺が、主より先に地に伏せるなんてあってはならないからな!」
揺るがぬ忠誠心を示しながら、一夏はこの戦いに幕を下ろす為に剣を掲げる。
奇襲にも動じずに対応された事で驚愕していたセシリアは、ようやく自分が致命的な隙を見せている事に気が付き後ろを向きライフルを構えるが、神速がそれを追い抜く。
欠かす事なく修練を積んできた、イチカにとっては最も信頼出来る神速制御による一撃が、セシリアを切り捨てた。
「きゃぁああああああああああッ!!?」
ガッシャアァァァン!! と彼女の悲鳴と共に硝子が割れた様な音が響き、《ブルー・ティアーズ》のシールドエネルギー残量が0を刻んだ。
『試合終了。勝者:イチカ・エインフォルク・ラルグリス』
管制室がアナウンスが勝者を告げた直後、わぁッ!! とアリーナの至る所から歓声が湧き上がる。
中には試合前に侮蔑の視線をイチカに向けていた者もいたが、今は驚嘆に目を見開き、それでいて素晴らしいものを見た事を示すように微笑んでいた。
そんな好奇の視線を受けながら彼は降下し、≪ゼウス・カイザー≫を解除して地面に仰向けに倒れるセシリアに近付く。
「まさか、この私が……あそこまで一方的に負けてしまうなんて……」
「男より女が強いのは当然、代表候補生だから強くて当然……慢心は心を曇らせ、成長を妨げる」
「……っ」
彼の言う通りだとセシリアは悟った。だが、その慢心の結果がこれだ。
「オルコット女氏、確かにお前は強い。とても同い年だとは思えない。だが、今のお前は完璧じゃない。故にその成長もまた完成していない」
完璧と言われれば聞こえは良いが、それは同時に『成長の余地がない』事を示している。
これ以上はなく、知恵も努力も才能も立ち入る隙がない為、創造の余地すらない。つまり完璧とは、絶望と同義。
その事実を暗に告げたイチカは、倒れている彼女に向け右手を差し出す。
「何時か、今より成長したお前を見せてくれ。俺は何時までも、主の為に研鑽を欠かさずに待ってる」
「ふふっ。主の為に研鑽を続ける、ですか……。貴方のような男性にそこまで思われるなんて、その主様は幸せ者ですわね」
「それは俺もだ。あの人に忠誠を誓える事が、俺にとって至上の喜びだ」
此処にはいないルクスへの忠誠を示すように、イチカは左手を胸に当てる。
彼が選んだ道を安全に進めるよう、自分達従者は持てる全てを振るう。例え其処が荒れ果てた茨道であろうと、刃が絶えず迫る修羅の道だろうと。
『ラルグリス、お前の機体の事で話がある。管制室まで来い』
思考を遮るように響き渡ったスピーカー越しの千冬の声に、陶酔に浸っていたイチカは忌々しげに舌打ちする。
「……分かりました。でも、元々の予定に従うなら、この後は織斑春斗とクルルシファーの試合になるはずだが?」
『話し合いにどれだけの時間を費やすかは分からんからな。30分ほど小休憩を挟んだ後、織斑兄とエインフォルクで試合をしてもらう。クルルシファー、それで構わないか?』
問題ないわ。とクルルシファーの了承も取れ、それを確認したイチカは管制室へと足を進めようとする。
その直前で、セシリアが彼の背中に声を掛けた。
「あ、あの、私、今よりもっと強くなってみせますわ! そして貴方に並ぶIS操縦者になってみせます!!」
「そこは俺に勝つって言った方が格好良いと思うが……ああ、待ってるよ」
次第に小さくなっていく背中を、セシリアは熱の籠もった瞳で見つめながら自分もピットに戻っていった。
「ラルグリス、何故命令を無視した?」
管制室に辿り着いたイチカを待っていたのは、何処か怒気を孕んだ千冬の声だった。
だが、対するイチカは優美な、それでいて小馬鹿にしたような印象を与える微笑みを向ける。
「決闘の場に立つ当人同士が了承したので、外野に口出しされる筋合いはないかな? と思いまして」
「大有りだ。これはIS学園だけの問題ではない、下手をすれば世界に関わる問題になるかもしれないんだぞ!!」
「何を今更。既に男性操縦者という世界的混乱が巻き起こってるんだ。好きに混乱すれば良いさ」
元々この世界は偉大な姉を頂きに立たせる為に自分を捨てたのだ。幻神獣については今の自分が生きる世界の問題である為に引き受けるが、自分から生じた社会問題など知った事ではない。 一切聞き耳を持たないイチカに千冬も苛立ちを覚え、わしゃわしゃ! と髪を掻く。
「……兎に角、お前のISは少しだけ預からせてもらうぞ」
「残念だが、貴方達に渡すつもりはない」
「お前はこの学園の人間だ。生徒である教師の言う事には従ってもらう」
「ハッ! 教師風情に本人の意思を無視する権利があったとは驚きだ」
彼女の言葉を鼻で笑った後、イチカは管制室の出口へと足を向ける。当然機攻殻剣を渡しはしない。
「おい、ラル……!」
「どうしても調べたければウチの会社と交渉してください。もっとも、企業秘密をそう簡単に教えてくれるとは思えないが」
というよりも、企業秘密云々の前にその会社は束が作った秘密の多い会社で調べることが出来ないが。
「では、今度こそ失礼しま……」
「ま、待て!」
今度の制止の声は何故か震えが混じっており、先程とは異なる言葉にイチカの足が止まる。
チラリ、と肩越しに視線だけ向けると、何かに対して疑念を抱いているような、瞳を揺らした千冬の姿があった。
「その、お前は……お前は本当は……」
しどろもどろになりながら彼女が語りかけてきた事に、ピクリ……! とイチカの片眉が吊り上る。
彼女の言わんとしている事を察し、それ以上は語らせまいとイチカは声を上げようとして―――わぁあああああああッ!! と観客席から生徒達の歓声が聞こえてきた。
「あ……」
「熱気は最高潮みたいだな。これが終わったら次は俺の試合がまたあるし、俺はもう行く」
その言葉を最後にイチカは背を向け、管制室から足早に去って行った。
嘗ての姉との決別を暗に示すかのように。
やっと出ました神装≪支配者の神域≫
やっぱり回避には≪支配者の神域≫ですねw
ではまた次回アディオスw