〜IS機竜の世界に迷い込んだ夏〜   作:厄災の剣帝
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今回が最弱無敗のバハムート編の最終話ですw
やっと一夏の新たな相棒が出て来ますが自分で考えましたw
センスがないかもしれませんが神の名を借りましたw
それではプロローグ2、バハムート編最終話をどうぞ!


プロローグ2

 王都ロードガリア。
 旧帝国が滅んだ後に再建され、その名も街並みも変わった新王国最大の都市。巨大な王城へと続く城下町である首都は、城塞都市
クロスフィード
より遥かに多い17の区画に分けられ、自給自足が可能なように、工業、農業、商業、そして軍の拠点が綿密に配置され、不思議な規則性を持って並んでいる。
 この地では現在、数ヶ月に一度開催される遺跡を発掘する為の調査権を賭けた国家間の校外対抗戦―――全竜戦が行われていた。遺跡からは装甲機竜の他に、古代の貴重な技術や歴史などが記された古文書が未だ眠っている。それらが名目上は平等に国家に行き渡るよう、数年前に国家間の協定により形式化されたのがこの対抗戦だ。
 一夏も選抜メンバーの荷物持ちと護衛を任される形でこの地を訪れ、各国の実力者の戦いを驚嘆しながら観戦していたのだが、現在彼の眼前に広がる光景はそれらを一瞬にして忘れさせた。

「何だ、これッ……!?」

 全竜戦最終日である3日目。本来なら装甲機竜を纏った戦士達が闘技場で試合をしているはずだが、彼等を含めて全員が呆気に取られていた。
 そこにいたのは鋼の巨人。山と見間違うほどの脚部に王城を二回りほど大きくした腰、その上に逆三角形の胸部が乗り、大型の軍艦のように突き出た左右の両肩の表面には無数の砲口が見受けられる。
 王都を無機質な瞳で見下ろすそれの正体は、ヘイブルグ共和国に鎮座していたはずの鋼の城塞の姿を持つ第五遺跡―――『巨兵』。
 自分の産まれた世界でもこの世界でも常識外れな光景は何度も目にしてきた一夏だが、こんな怪獣映画のような出来事が起こるとは夢にも思わなかった。

『―――警告する』

 何処か無機質で虚ろな気配を帯びた声が、『巨兵』の頭部から発せられる。だが、当然ながら遺跡が言葉を紡いでいる訳ではない。
 声の正体は、『巨兵』の頭頂部付近に立ち、旧帝国の血族である事を示す銀髪に左右非対称の灰と蒼の瞳を持つ小柄な少女―――ヘイブルグ共和国軍師、ヘイズ。

『既に勝敗は決した。新王国及び女王とその配下は速やかに平伏して投降の意思を表明せよ。さすればこれ以上の攻撃は止め、我々の統治という安息を与えよう』
「何が統治という安息だ……! こんなの、ただの虐殺じゃないか!」

 護衛の為に渡されていた《エクス・ワイバーン》を駆る一夏は、無数の節がある細く長い『巨兵』の腕、正確にはその五指が幾つもの家屋を押し潰す光景を見ながら歯噛みする。
 迎撃及び防衛に向かった新王国軍の機竜使いも、その半数が『巨兵』の砲撃とヘイズの神装機竜によって撃墜された。戦力は分散され、防衛ラインを突破された新王国に抗う術は残されていない。
 混乱する執政官達も打開策を見出せない中、ヘイズの悪魔の宣告が響き渡った。

『残念ながら、貴様等の城主達は返答しなかった―――。よって、攻撃を再開する!』

 主の命を聞いた『巨兵』が駆動し、両肩に備わった巨大な砲口が眼下に向けられる。
 そして、今まさに凶弾が逃げ惑う人々を蹴散らそうとした時、―――ガキィィイ!! と尖塔のような巨人の腕の片方が突然傾き、体勢が前のめりに崩れた。
 直後に肩と胸部から放たれた光弾が緑地区画に降り注ぎ、その正体を表に引き摺り出す。

『何……!?』

 ヘイズだけでなく、一夏の目にもそれは映った。そこにいたのは濃紫の神装機竜《テュポーン》を纏ったフィルフィ。
 その特殊武装である《竜咬縛鎖》のワイヤー数本が『巨兵』の腕に絡み付き、下方向へ引っ張る事でバランスを崩させたのだ。

『下らん真似を……! エル・ファジュラ、奴を潰せ!』

 遺跡を管理する自動人形
オートマタ
にそう指示を出すと、『巨兵』は残った巨大な腕を引いてフィルフィに狙いを定める。
 だが、その注意が眼下に向けられた隙を突いたように、振りかぶった左腕の下で光弾が撃ち出された。

『これは、まさか……!?』
「《星光爆破》」

 新たに現れたのは、遊撃部隊『騎士団』の団長にして学園最強の称号を持つ金髪の少女―――セリスティア・ラルグリス。
 先程の攻撃は彼女が纏う金色の神装機竜《リンドヴルム》から発射された圧縮光弾。広範囲爆破の特殊武装による一撃は『巨兵』の左腕を弾き飛ばし、同時に無数の砲口を砕いて一気に脅威の攻撃力を削ぎ落とした。

「どいつもこいつも無駄な悪足掻きを……!」
「無駄なんかじゃない!」

 苛立ちの声を上げるヘイズの横から、ブレードを構えた一夏の《エクス・ワイバーン》が迫っていた。
 対する灰銀の神装機竜《ニーズヘッグ》を纏ったヘイズは舌打ちをしながら、通常のブレードより数倍長い刀身が柄の両端から伸びた剣―――両翼刃剣で彼と真っ向から打ち合う。

「どんな些細な事でも絶対に無駄なんかじゃない。軍師のくせに『蟻の一咬み象をも殺す』って諺
ことわざ
を知らないのか?」
「ほざけ! 何を企んでいようと、『巨兵』で全て破壊するまでだ! エル・ファジュラ、奴等は無視して王城を先に踏み潰せ!」

 彼女の指令を受けた『巨兵』の山のような足が動き、強烈な地鳴りを起こしながら進軍を始める。
 それを見た大勢の市民が悲鳴を上げながら逃げ惑う中、遂にその足が城壁付近にまで到達し、

「神の名の下に平伏せ! 《天声》―――!!」

 紅の神装機竜《ティアマト》を駆るリーシャが立ちはだかり、機攻殻剣を『巨兵』に向けた直後に異変が生じる。
 彼女の機竜に備わった重力操作の神装の効果で巨大な右足の一点に重力場が形成され、その動きが鈍くなった。

「また性懲りもなく恥じを晒しに来たのか、お姫サマよ!」

 つい先程リーシャは彼女の計略に引っ掛かり、全竜戦の最中にヴァンハイム公国の要人が座る観客席を砲撃してしまった。
 当然彼女が意図した事ではなく、全てヘイズとヘイブルグ共和国が仕組んだ事だ。

「黙れ、この似非軍師が! この国と私への借りは返させてもらうぞ!」

Prologue.2
連続投稿、【最弱無敗の神装機竜】5巻を下にした話です。
一夏が纏う事になる神装機竜が登場します。


 王都ロードガリア。
 旧帝国が滅んだ後に再建され、その名も街並みも変わった新王国最大の都市。巨大な王城へと続く城下町である首都は、城塞都市
クロスフィード
より遥かに多い17の区画に分けられ、自給自足が可能なように、工業、農業、商業、そして軍の拠点が綿密に配置され、不思議な規則性を持って並んでいる。
 この地では現在、数ヶ月に一度開催される遺跡
ルイン
を発掘する為の調査権を賭けた国家間の校外対抗戦―――全竜戦が行われていた。遺跡からは装甲機竜の他に、古代の貴重な技術や歴史などが記された古文書が未だ眠っている。それらが名目上は平等に国家に行き渡るよう、数年前に国家間の協定により形式化されたのがこの対抗戦だ。
 一夏も選抜メンバーの荷物持ちと護衛を任される形でこの地を訪れ、各国の実力者の戦いを驚嘆しながら観戦していたのだが、現在彼の眼前に広がる光景はそれらを一瞬にして忘れさせた。

「何だ、これッ……!?」

 全竜戦最終日である3日目。本来なら装甲機竜を纏った戦士達が闘技場で試合をしているはずだが、彼等を含めて全員が呆気に取られていた。
 そこにいたのは鋼の巨人。山と見間違うほどの脚部に王城を二回りほど大きくした腰、その上に逆三角形の胸部が乗り、大型の軍艦のように突き出た左右の両肩の表面には無数の砲口が見受けられる。
 王都を無機質な瞳で見下ろすそれの正体は、ヘイブルグ共和国に鎮座していたはずの鋼の城塞の姿を持つ第五遺跡―――『巨兵
ギガース
』。
 自分の産まれた世界でもこの世界でも常識外れな光景は何度も目にしてきた一夏だが、こんな怪獣映画のような出来事が起こるとは夢にも思わなかった。

『―――警告する』

 何処か無機質で虚ろな気配を帯びた声が、『巨兵』の頭部から発せられる。だが、当然ながら遺跡が言葉を紡いでいる訳ではない。
 声の正体は、『巨兵』の頭頂部付近に立ち、旧帝国の血族である事を示す銀髪に左右非対称の灰と蒼の瞳を持つ小柄な少女―――ヘイブルグ共和国軍師、ヘイズ。

『既に勝敗は決した。新王国及び女王とその配下は速やかに平伏して投降の意思を表明せよ。さすればこれ以上の攻撃は止め、我々の統治という安息を与えよう』
「何が統治という安息だ……! こんなの、ただの虐殺じゃないか!」

 護衛の為に渡されていた《エクス・ワイバーン》を駆る一夏は、無数の節がある細く長い『巨兵』の腕、正確にはその五指が幾つもの家屋を押し潰す光景を見ながら歯噛みする。
 迎撃及び防衛に向かった新王国軍の機竜使い
ドラグライド
も、その半数が『巨兵』の砲撃とヘイズの神装機竜によって撃墜された。戦力は分散され、防衛ラインを突破された新王国に抗う術は残されていない。
 混乱する執政官達も打開策を見出せない中、ヘイズの悪魔の宣告が響き渡った。

『残念ながら、貴様等の城主達は返答しなかった―――。よって、攻撃を再開する!』

 主の命を聞いた『巨兵』が駆動し、両肩に備わった巨大な砲口が眼下に向けられる。
 そして、今まさに凶弾が逃げ惑う人々を蹴散らそうとした時、―――ガキィィイ!! と尖塔のような巨人の腕の片方が突然傾き、体勢が前のめりに崩れた。
 直後に肩と胸部から放たれた光弾が緑地区画に降り注ぎ、その正体を表に引き摺り出す。

『何……!?』

 ヘイズだけでなく、一夏の目にもそれは映った。そこにいたのは濃紫の神装機竜《テュポーン》を纏ったフィルフィ。
 その特殊武装である《竜咬縛鎖
パイル・アンカー
》のワイヤー数本が『巨兵』の腕に絡み付き、下方向へ引っ張る事でバランスを崩させたのだ。

『下らん真似を……! エル・ファジュラ、奴を潰せ!』

 遺跡を管理する自動人形
オートマタ
にそう指示を出すと、『巨兵』は残った巨大な腕を引いてフィルフィに狙いを定める。
 だが、その注意が眼下に向けられた隙を突いたように、振りかぶった左腕の下で光弾が撃ち出された。

『これは、まさか……!?』
「《星光爆破
スターライト・ゼロ
》」

 新たに現れたのは、遊撃部隊『騎士団
シヴァレス
』の団長にして学園最強の称号を持つ金髪の少女―――セリスティア・ラルグリス。
 先程の攻撃は彼女が纏う金色の神装機竜《リンドヴルム》から発射された圧縮光弾。広範囲爆破の特殊武装による一撃は『巨兵』の左腕を弾き飛ばし、同時に無数の砲口を砕いて一気に脅威の攻撃力を削ぎ落とした。

「どいつもこいつも無駄な悪足掻きを……!」
「無駄なんかじゃない!」

 苛立ちの声を上げるヘイズの横から、機竜牙剣
ブレード
を構えた一夏の《エクス・ワイバーン》が迫っていた。
 対する灰銀の神装機竜《ニーズヘッグ》を纏ったヘイズは舌打ちをしながら、通常のブレードより数倍長い刀身が柄の両端から伸びた剣―――両翼刃剣
ツーブレーデッド・ソード
で彼と真っ向から打ち合う。

「どんな些細な事でも絶対に無駄なんかじゃない。軍師のくせに『蟻の一咬み象をも殺す』って諺
ことわざ
を知らないのか?」
「ほざけ! 何を企んでいようと、『巨兵』で全て破壊するまでだ! エル・ファジュラ、奴等は無視して王城を先に踏み潰せ!」

 彼女の指令を受けた『巨兵』の山のような足が動き、強烈な地鳴りを起こしながら進軍を始める。
 それを見た大勢の市民が悲鳴を上げながら逃げ惑う中、遂にその足が城壁付近にまで到達し、

「神の名の下に平伏せ! 《天声
スプレッシャー
》―――!!」

 紅の神装機竜《ティアマト》を駆るリーシャが立ちはだかり、機攻殻剣
ソード・デバイス
を『巨兵』に向けた直後に異変が生じる。
 彼女の機竜に備わった重力操作の神装の効果で巨大な右足の一点に重力場が形成され、その動きが鈍くなった。

「また性懲りもなく恥じを晒しに来たのか、お姫サマよ!」

 つい先程リーシャは彼女の計略に引っ掛かり、全竜戦の最中にヴァンハイム公国の要人が座る観客席を砲撃してしまった。
 当然彼女が意図した事ではなく、全てヘイズとヘイブルグ共和国が仕組んだ事だ。

「黙れ、この似非軍師が! この国と私への借りは返させてもらうぞ!」
「調子に乗るなよ、代用品の王女風情が! 貴様に何が出来る!? この『巨兵』をそんなチャチなもので止められるとでも思ったか!?」

 嘲笑と共に放たれたヘイズの言葉通り、『巨兵』は重力場による負荷など物ともせずに進軍を再開する。
 リーシャ一人の抵抗など無駄だと断じるように、更に『巨兵』が踏み出そうとして、

「―――《暴食
リロード・オン・ファイア
》」

 ドオォォォォォンッッッ!!! と。
 轟音と共に『巨兵』の片足が石畳と地面を砕き、その下の大地までも踏み抜いた。

「何ッ……!?」

 《暴食》。現象やエネルギーを数分の一にまで軽減させ、後の5秒でその力を爆発的に解放する、圧縮強化の神装。
 その能力を持つ神装機竜を操る人間を、一夏はこの世界で一人しか知らない。
 尚もヘイズと切り結んだ状態のまま見上げると、そこには『無敗の最弱』ではなく、嘗て革命時にアーカディア帝国軍の装甲機竜約1200機を破壊した『黒き英雄』―――漆黒の神装機竜《バハムート》を纏ったルクスがいた。

「ルクスさんッ!」

 一夏が歓喜の声を上げる中、ヘイズは得心いったというように表情を歪める。

「そうか……! 《バハムート》の神装で重力場を圧縮強化し、『巨兵』が踏み出した瞬間に元々の数倍の威力となって重力が襲いかかったという訳か。
だが何故だ!? 何故こんな所の下に空洞がある!? これは一体―――!?」
「この辺りの地下には、旧帝国時代に掘られた坑道があるんだってさ。百年以上前に作られたものらしいから、ルクスさんやリーズシャルテ様みたいな一部の人しか知らない」

 坑道があると知りつつ城下町を造ったという事は、それなりの負荷と重量に耐えうる強度はあるはず。
 だが、ルクスの《暴食》により《天声》の重力負荷を倍加させ、超重量の『巨兵』がそこに足を乗せた瞬間を狙って地盤を踏み抜かせる落とし穴に仕立て上げたのだ。
 舌打ちをしながらヘイズは『巨兵』の埋まった足を引き抜くべく、両腕を地面に付こうとしたが、

「えいっ」

 フィルフィが纏う《テュポーン》の各部から《竜咬縛鎖》が再び射出され、『巨兵』の豪腕を捕縛した。
 同時に推進装置を最大出力で駆動させながら街路を走り、腕を牽引する事でバランスを崩しにかかる。

「そう何度も同じ手が……!」
「その妨害は―――不許可です」
 
 残る左腕でフィルフィを叩き潰そうとする『巨兵』だが、飛翔したセリスの《リンドヴルム》の突撃槍
ランス
による一撃がそれを逆に撃ち落とす。
 関節の継ぎ目を狙った、最大電圧を纏った刺突。それにより『巨兵』の左腕全体に火花が散り、一瞬だけ豪腕の動きが止まった。

「無駄だ! たかが機竜一機に『巨兵』の腕が止められるか!」

 一瞬遅れて『巨兵』の腕がフィルフィ目掛けて振り下ろされるが、既に彼女は右腕の拘束を解いて逃走していた。
 またちょこまかと……! とヘイズは悪態を吐きながら再び『巨兵』に攻撃命令を出そうとするが、直後にそ



に気付く。
 『巨兵』の右腕の関節十数ヵ所が凍結され、ほぼ完全に動きを封じられている。改めて周囲を見回すと、着弾した部分を凍らせるライフル型の特殊武装《凍息投射
フリージング・カノン
》を構えた、蒼白の神装機竜《ファフニール》を纏うクルルシファーが中空で浮遊していた。

『やられました創造主
ロード
これでは身動きが取れません』

 自動人形の繋ぎ目のない無機質で淡々とした声がヘイズにそう告げた直後、彼女は事態を完全に理解した。

「言っただろ? 『蟻の一咬み象をも殺す』って」

 未だ鍔迫り合いを続ける一夏から放たれた言葉を受け、ヘイズは彼を睨み付けるが、実際その諺通りだろう。
 砕かれた砲口は自然に新しい物へと切り替わるが、王城まで届かせるには距離がある。凍結した部分を溶かしてから足を引き抜こうにも、万全の状態に回復するまで十数分掛かるはず。
 まだ足止めを済ませただけで予断を許さない状況は続いているが、神装機竜5機と強化型汎用機竜の介入が、最大戦力である『巨兵』の進行を止めたのだ。
 そして一夏とルクス、リーシャ以外の3人が別働隊の強襲を受けている王城へ飛ぶのを見送った後、一夏達は凍結部分を溶かす為に振動を出し始めた『巨兵』の右肩に降りる。

「リーシャ様」
「……分かっている。あの外道軍師は私が相手をする。お前は元帝国王子としての責務を果たせ。私達を陥れてくれた、あの忠臣とやらをな」

 忠臣。それは旧帝国時代には『帝国の凶刃』と恐れられた、現在は帝国復興の為に動いている少女―――切姫
きりひめ
夜架
よるか
の事だろう。
 生き残った皇族であるルクスに己の骨肉全てを捧げると以前言っていたが、彼に帝国を再建する意思はない。故に彼女はヘイズと共闘して新王国を潰し、一人ででも帝国を復活させる道を選んだのだ。
 リーシャの言葉を受けたルクスは、現在自分達が立つ右肩とは逆側に飛んでいく。恐らくはその方向に夜架がいるのだろう。
 そんな事を考えている隙を突かれたのか、今までヘイズと拮抗していた一夏の剣が弾かれ、リーシャの近くにまで吹き飛ばされる。

「ご苦労だったな、一夏。後は私に任せてくれ」
「……いいえ。俺だってこの国を、貴方達を護りたい。出来る事は少ないかもしれないけど、お供させてください」
「ふっ、良い根性だ。だが、無茶だけはするなよ」

 リーシャは一瞬だけ嬉しそうに微笑を浮かべた後、その真紅の瞳を鋭くさせながら機攻殻剣をヘイズに向けた。

「お前をボコボコにした後だと聞けないから先に聞いてやろう。お前の正体は何者で、目的は何だ? 支配欲か、金か、それとも名誉の為か?」

 ボコボコって……、王女らしからぬ発言に一夏が苦笑している前で、ヘイズは嘲りの笑みと共に答える。

「それを聞いて何になる? お前のような、ただ誰かの代わりに据えられたような王女の代用品が、それを知ってどうする気だ?」
「代用品だからこそ、言ってるのだ。お前とは数える程度にしか顔を合わせてないが、何となく分かるぞ。きっとお前と私は全く逆の―――恐らくは似た者同士なのだ」

 何……? と眉を顰めるヘイズに対し、リーシャは続けて言葉を突き付ける。

「私は運命に翻弄され、その都度座る椅子が変わる事になり、本当の自分が分からなくなった。嘗て英傑である父に見捨てられ、新王国を裏切る事を決めた私に王女の座に就く資格があるのだろうかとな。
だが、お前は逆だ。本来の立場と正体を誰にも証明出来ないが故に、その特権である能力や秘宝を態々誇示しようとしている」
「…………………………」
「終焉神獣
ラグナレク
を操ったり、この遺跡を引っ張りだしてきた事が証拠だ。お前はこの世界の人間より遥かに優れた力を持つ人種だと、そういう存在だと証明し続けなければならないという強迫観念に駆られているであろう立場の奴なのだ」

 その言葉を聞いて、一夏にも何となくだがヘイズの気持ちを理解する事が出来た。下手をすれば自分は彼女と同じになっていたかもしれない。
 偉大な姉と天才の弟に挟まれた自分は、その存在を誰からも否定されてきた。仮に自分がこの『巨兵』のような力を最初から持っていれば、彼女のように己の存在を証明する為に躊躇いなく振るっていた事だろう。

「だから望み通り聞いてやったのだ! お前は何者か、とな! 文句があるのか、この馬鹿者め!」
「……いいだろう、俺の正体を教えてやる」

 瞬間、今まで貼り付けたような笑みを浮かべていたヘイズの顔色が変わる。
 奥歯を砕かんほどの勢いで歯ぎしりした後、彼女は《ニーズヘッグ》の武装を構えた。

「―――この国を潰し、お前達の処刑を行う時にな!!」
「来るぞ!」

 両翼刃剣を振るいながら特攻を仕掛けるヘイズを回避しながら、リーシャは鏃の形状をした16機の推進投擲兵器《空挺要塞
レギオン
》を発射し、一夏もその荒れ狂う刃と共に彼女に迫る。
 だが、対するヘイズはそんなもの何でもないと言わんばかりに投擲兵器を悉く弾き、振るわれるブレードと切り結ぶ。加えてその猛攻に晒されながら、彼女は着実にリーシャとの間合いを詰めて来ていた。

「ハッ! どうした、大口叩いておいてその程度か? そんな攻撃じゃ《ニーズヘッグ》の神装を使う必要すらないぜ?」
「違うな。―――もう少し」

 何か集中を高めた表情のままそう呟くリーシャだったが、そこでヘイズの《ニーズヘッグ》が一夏との攻防をすり抜けて加速する。

「行かせない!」

 直ぐ様体勢を立て直して刃を向けるが、機竜息銃
ブレスガン
の牽制により中々接近する事が出来ない。
 ようやく鍔迫り合ったとしても、彼女は軽々とその刃を弾いてみせた。

「強化されているとは言え、汎用機竜如きで俺の《ニーズヘッグ》に対抗出来ると思ってるのか!?」
「力の差は分かってるさ! けど、そんな事がここを退く理由にならない!!」

 優しくされたから、救ってくれたから。それだけの理由で一夏は圧倒的な力の差がある敵に挑んだのではない。
 ただ護りたい。眼下で逃げ惑う人々を、自分を救ってくれた人達を。その気持ちさえあれば、力の有無など些末な事だと一夏は知っている。
 同じ皇族だけでなく国民にまで虐げられて尚も彼等を救う為に帝国を討つ覚悟をした、そして雑用王子となった今でも自分の手が届く範囲の全てを護ろうとしている―――ルクス・アーカディアがそうであるように。

「ハッ! 気持ちの悪い奴だな!」
「ぐッ……!?」

 両翼刃剣が叩き付けるように振るわれ、《エクス・ワイバーン》の装甲が僅かに欠ける。
 後方に跳んで一端距離を取る一夏だったが、ヘイズはその隙を見逃さず、一気にこの場における最高戦力であるリーシャの《ティアマト》目掛けて斬りかかった。
 未だ集中していた為か防御に入るまでに一瞬の間があり、直撃の衝撃によってリーシャは『巨兵』の肩から空へと吹き飛ばされた。

「どうした? 技術者と機竜使い
ドラグナイト
の才能を併せ持つ王女じゃなかったのか? 随分とこの平和ボケした国に持ち上げられているようだな!」
「確かに、私には過ぎた称号だったのかもしれんな。―――だが!」

 自嘲気味に呟きながら彼女は機攻殻剣を抜き、その切先をヘイズに向けた。
 その意図を察した一夏は、直ぐに大きく距離を取る。

「お前如きに心配されるほど、落ちぶれてはいないぞ!」

 彼女の言葉と同時に2発の《空挺要塞》が射出される。
 それがどうした、とでも言うようにヘイズは両翼刃剣で弾き、―――2発目の影に潜んでいたもう一発の投擲兵器の姿を見た。

「なッ……!?」

 隠蔽狙撃
ハイドショット
。相手の位置と視線を正確に把握した上、精密な軌道操作が不可欠な高等技術による攻撃。
 まんまとその策には嵌った彼女の《ニーズヘッグ》に《空挺要塞》が直撃し、後方へと弾き飛ばされる。だが、それだけでは終わらない。

「もらったァッ!!」
「ぐ、がッぁああああああああッ!!!」

 リーシャの攻撃に巻き込まれない為に離れていた一夏が、背後からヘイズを斬りつける。投擲兵器にばかり視線が向いていた為、彼の接近に全く気付けなかった。
 そこへ駄目押しと言わんばかりに、リーシャの構えていたキャノンが火を噴く。
 直後、動きを止めた《ニーズヘッグ》にそれは着弾し、彼女の身体は爆炎に包まれた。

「よし!」
「気を抜くなよ、一夏。あの程度で終わる奴とは思えん」
「その通りだ!」

 リーシャの声に応えるように周囲に怒声が響き渡り、同時に黒煙の中から《ニーズヘッグ》が飛び出す。
 恐ろしい速度で迫るヘイズを迎撃すべく、一夏はブレスガンを放つ。だが、ヘイズが円を描くように光を帯びた両翼刃剣を振るうと、その眼前に光の壁が発生し銃撃を止めた。
 否、厳密には壁が生じた訳ではない。武装を伝達し、刀身に帯びた《ニーズヘッグ》の神装の光―――それは全てを断ち切る刃となり、その刃が通過した軌跡は切断面として残る。

「《ニーズヘッグ》の神装《切断者
アストラルライン
》。こいつの作った切断面を越えていく事は誰にも出きん。
誇って良いぞ、小僧。汎用機竜如きにこいつを使う事になるとは思わなかったぜ!!」

 狂笑と共に接近するヘイズに対し、再びブレスガンと《空挺要塞》で牽制するが、彼女が作り出した光壁が全てを阻む。
 そして光を帯びた両翼刃剣が縦に振るわれるのを見て、一夏はその斬線上から逃れる為に身体を捻り、―――《エクス・ワイバーン》の片翼が断ち切られた。
 同時に、今まで何の支障もなく飛翔していた機竜が僅かにバランスを崩す。

「しまッ……!」
「余所見とは余裕だな?」

 驚くほど近くで聞こえた声に振り返ると、そこには既に攻撃の動作に入ったヘイズがいた。
 防御の体勢を取る事も回避する暇もなかった。恐ろしい勢いで振り下ろされた両翼刃剣をその身で受け、《エクス・ワイバーン》が半壊する。
 それでも止まる事はなく、機竜の破片と共に一夏は『巨兵』の右肩に叩き付けられた。

………
……


『一夏! おい、一夏! 無事か!?』

 機竜同士の通信能力である竜声を介して、一夏の耳にリーシャの声が届いた。
 軽く見回すと周囲は瓦礫と暗闇に包まれている為、恐らく叩き付けられた衝撃で『巨兵』の右腕内部に侵入にしてしまったのだろう。

『何とか無事です……。《エクス・ワイバーン》は半壊してますけど、まだ動けます』
『無茶をするな。お前は十分よくやってくれた。後は私に任せてくれ』

 それだけ告げてリーシャとの竜声は切断された。暢気に話し込んでいる相手を見逃すはずもなく、ヘイズが攻勢に出たのかもしれない。
 リーシャにはああ言われたが、一夏の目からはまだ光が失われていなかった。それどころか機竜の機構
システム
モードを起動させて、片翼でも飛行出来はしないかと出力調整を始めた。

(まだだ……! まだ俺は戦える! あの人達と飛べる!)

 自分が生まれた世界では、虐げられてきた事もあってか『力を手にしたら誰かを救いたい』と考えていた。
 だが、それは逆に言ってしまえば『力がなければ誰も救わない』と言っているに等しい事を、この世界に来て、ルクス達に会って気付かされた。
 力は所詮は力、そんなもの後からどうにでも付いてくる。何よりも重要な事は、その力を振るう為にどれほどの覚悟を持ち合わせているか。
 だが、そんな彼の心情を嘲笑うかのように、彼の眼前に広がる古代文字や図形が浮かび上がった青白い光によって構成された窓枠は『ERROR』を示した。

「頼む……! 少し、ほんの少しで良いんだ……! あの人達を、この国の人を護る為の力を……俺に貸してくれ!!」

 ガンッ!! と苛立ちを募らせた一夏の怒声と共に、機竜の腕が瓦礫に叩き付けられた。
 その衝撃と『巨兵』自身が放つ振動が合わさったのか、彼の側にあった石造りの壁に罅が入り、やがてガラガラ! と音を立てて崩れ去る。

「……あ」

 顔を上げた一夏の視界に入ったのは、ボウリングの球ほどの大きさはあろう立方体。
 ルクスから、これが『ボックス』と呼ばれる物だと聞いた事がある。継ぎ目が固い為に機竜で破壊していくしかないこの箱の中には、古代の技術などが記された古文書や機



とその部品が納められているらしい。
 そこに一夏は僅かにだが光明を見出し、―――ガキィイイッ!! と『ボックス』を《エクス・ワイバーン》のブレードで斬りつけた。

(可能性は限りなく低い……。けど、試してみる価値はある!)

 何度も武装を叩き付けていく内に、『ボックス』にも亀裂が入っていく。だが、元々半壊した状態だった為、次第にブレードも破損していった。
 だが、決して振り下ろす手を止める事はなかった。この中に自分が求める物が存在するかは分からない。だが、億分の一であろうと可能性があるのだ。それに懸けるしかない。

「頼む……! 俺に……俺にあの人達と並んで戦う為の力をッ!!!」

 バギィイイイン……ッ!! と最後の刃が振り下ろされる。ブレードの耐久力が限界に達し、その刀身が折れたのだ。
 そして、同時に『ボックス』に走っていた罅も全体に行き渡り、彼の想いに応えるように崩れ去った。
 息を整える一夏の目に入ったのは、

「……俺と一緒に、戦ってくれるか?」

 ―――雷白の輝きを放つ機竜。

 ♞

「何時まで逃げ続ける気だ、王女サマよ。『巨兵』の全方位射撃までもう時間がないぞ。この国を見捨てる気か?」
「くっ……!」

 ヘイズの《ニーズヘッグ》が繰り出す空間切断の猛攻を、リーシャは《空挺要塞》と《天声》を使い、辛うじて致命傷を避けていた。だが、あまりこの状態を維持しておくのは芳しくない。
 現在『巨兵』はヘイズの言う通り全方位射撃の準備を整えている。そこに《ニーズヘッグ》の神装《切断者》による一撃を加えればどうなるか。その破壊力は計り知れない。
 元々彼女は王族の中でも上層の人間さえ始末すれば良かったようだが、リーシャ達の妨害を受けて逆上した事でその考えを捨て去り、王都ごと全てを消し去ろうとしているのだ。
 だが、攻撃しようにも《切断者》によって生み出された断面が光壁として残り、文字通り空間が途切れている為、その向こう側へ攻撃を通す事が出来ない。

(あの神装で造られた切断面を敵が解除しない限り、こちらの攻撃は届かない、か……)

 加えてヘイズの放った斬撃は、空間の断面を更に上から切断出来る。紙の上に書いた線を新たな線で塗り潰していくように、徐々にリーシャの退路は断たれていく。
 だが、そんな劣勢に立たされて尚、リーシャの瞳に諦めの色はなかった。
 自身が持てる全てを以て、自分の攻撃を通す事。それが彼女が『朱の戦姫』と呼ばれる所以だ。
 そして再び《切断者》による一撃が振るわれようとした瞬間、リーシャの《ティアマト》が飛翔する。

「馬鹿め! 《ニーズヘッグ》が切断した空間を越える事は誰にも―――……ッ!?」

 勝ち誇ったように放たれたヘイズの言葉が途中で止まる。それも当然だろう。
 自分が新たな斬撃を放った瞬間、その周囲に張り巡らされていた光壁の一つが、彼女の意思に反して溶けるように消えたのだから。

「戦略は中々やるが、機竜での戦術はたかが知れているな。ヘボ軍師」

 光壁が消失した事で生まれた穴を潜り抜け、リーシャは突貫する。
 防御不能の攻撃力を誇る《ニーズヘッグ》の神装だが、それは無限に行える訳ではなかった。
 一定の面積を切断した後、更に新たな斬撃を繰り出した場合、以前作った断面が最初に作った切断面から順に消えていく。故にリーシャは光壁が生み出された順序を全て記憶し、ヘイズの攻撃に合わせて消えた壁の穴を突破したのだ。
 そして、ヘイズの身を守る盾が瞬間を見計らい、《七つの竜頭》の砲口を向ける。

「覚悟しろ、ヘイズ! お前の―――負けだ!」
「―――ハッ!」

 リーシャの言葉を鼻で笑った直後、ガシィイイイッ!! と《ティアマト》と共に拘束された。

「何ッ……!?」
「甘かったな、代用品のお姫サマよ。いくら全砲門を開放した状態とは言え、『巨兵』が動けないと思っていたのか?」

 拘束具の正体は、砲撃準備を整えていたはずの『巨兵』の腕だった。
 何時の間に動いていたのか、その巨大な片腕がリーシャを掴んでいた。

「俺には大いなる力がある。この世界を嘗て治め、貴様等下賤共を屈服させていた血族の証がな! これが偽物の貴様には絶対に持ち得ない格なのだ」
「―――下らんな」
「何だと……?」

 勝ち誇った笑みを見せるヘイズに対し、リーシャは吐き捨てる。
 未だ『巨兵』の豪腕によってその身を締め付けられているが、その顔には不敵な笑みが浮かんでいた。

「それの何処が凄いんだ? 私にはさっぱり理解出来んな。お前の血筋だけで動いているようなガラクタを従えているだけで、お前は本当に満足なのか?」
「この期に及んで強がりか、偽りの姫が」
「私は《ティアマト》を手に入れた時、そんな事ちっとも思わなかったよ。いくら性能が良かろうが、そんなもの私はちっとも欲しくはなかった。
その機竜に見合うだけの実力と資格が欲しいと、昔からずっと思ってきたのだ!」

 リーシャは力を込め、自身を拘束する『巨兵』の豪腕を引き剥がそうとする。

「お前に教えてやる! 私が手に入れようと戦っているものは、貴様の力よりも格上だとな!」
「―――戯れ言はそこまでだ、砕けて死ね」

 何処までの冷たい声で命令を出した直後、『巨兵』の腕が《ティアマト》を握り潰そうと動く。
 だが、

『―――そうはさせない!』

 ビキィイイイッ!! とリーシャを掴んでいた鋼の腕に、突如亀裂が走る。
 リーシャが何かしたのではない。『巨兵』の内部に潜む何者かの攻撃が、強固な剛腕を破壊しにかかったのだ。

「なッ! 『巨兵』の内部から……!?」

 着々と進行していく事態を全く理解出来ない様子のヘイズが叫ぶ中、亀裂は更に広がっていく。
 やがて甚大な被害が掌全体にまで達した時、その部分が派手に砕け散る。
 何が起きたのかも分からないまま、ヘイズは腕で頭部を覆いながら瓦礫の雨を回避する。そんな中で彼女は見た。降り注ぐ土塊とは異なる色を。

「あれは……!」

 彼女の視界に映ったのは、所々に燃え盛る雷の如き黄の線が入った、禍々しくも美しい雷白の幻玉鋼鉄の塊。
 鋭い殺気と光沢を放つ狂竜を纏うのは、先程『巨兵』の肩に叩き付けたはずの少年―――織斑一夏だった。

「貴様は……! いや、それよりもその機竜は!?」

 汎用機竜と呼ばれる飛翔機竜、陸戦機竜、特装機竜のどれにも当て嵌まらない。先程まで一夏が纏っていた《エクス・ワイバーン》のような強化型でもない。
 その姿に肌を突き刺すような畏怖すらも覚える。間違いなく彼が纏っているのは、世界でそれぞれ一種しか存在が確認されていない希少種―――神装機竜である。

「馬鹿な! 俺が主であるこの『巨兵』内部に、俺が知らない神装機竜があったというのか!?」

 『巨兵』は以前にルクス達が倒した終焉神獣―――ユグドラシルが眠っていた遺跡である。当然それを従えていたヘイズがこの遺跡の主。
 遺跡の全権を握る統括者さえ彼女を創造主と呼び、下された命令を忠実にこなしている。
 その自分が全てを統べる遺跡の内部に、自分が知らない機竜が眠っていたとはどういう事なのか。

(待てよ……! 奴が出てきたのは『巨兵』の右腕。駆動する関係上、いくら機竜を使わなければ破壊出来ない硬度を誇っていても、破損する危険を犯してそんな所に『ボックス』を置くはずがない。
まさか、何らかの原因で右腕に滑り込んでしまった『ボックス』が有ったとでも言うのか……!?)

 限りなく低い可能性が現実に起きている事に苛立つが、何時までも思考に耽っている訳にもいかない。
 ヘイズの眼前では、リーシャの横に並んだ一夏が長剣―――《神聖剣》を構えて彼女を見据えていた。

「一夏、それは……」
「神装機竜《ゼウス・カイザー》。この国の人達を護り……そして貴方達と共に戦う為に得た力です!」

 ゴッ!! と紅い輝きを放つ特殊武装でもある翼型の推進装置から粒子が吹き荒れ、同時に高速で長剣を構えた一夏が肉迫する。

「だが、いくら神装機竜を纏おうが、《ニーズヘッグ》の神装《切断者》は越えられん!!」

 空間ごと全てを断ち切る、絶対破壊の神装《切断者》。攻防一体のこの神装の前では、如何なる機竜も無力。
 それを証明するようにヘイズは両翼刃剣を迫り来る一夏目掛けて振り下ろし、

「―――《反旗の逆鱗》」

 そう呟きながら幻玉鋼鉄の腕を剣の軌道上に伸ばし、―――ガギィンッ!! と神装の光を帯びた剣と掌が火花を散らす。

「な、にィッ!? 有り得ん!! 何故《切断者》がッ……!?」

 当然のように《ジャバウォック》の腕はヘイズの剣を受け止めたが、《切断者》を発動した状態でそんな事を出来るはずはない。確実に相手の腕を両断するはずだ。
 何故だ……!? と彼女が思考の渦に嵌る中、リーシャも竜声を介して種明かしを求める。

『おい、一夏! 今のは一体……?』
『《反旗の逆鱗》。それがこの《ゼウス・カイザー》の神装の1つです。機構モードで軽く見ただけですけど、触れた物体のエネルギーを半減させて、奪った分を自分のエネルギーに変換する能力みたいです』
『半減と吸収の神装という訳か……。能力は分かったが、それで何であの攻撃を受け止められたんだ?』
『リーズシャルテ様が《切断者》の弱点を見抜いてくれたおかげですよ』

 くすっ、と軽く笑いながら一夏は、調子を確かめるように《ゼウス・カイザー》の腕を開いたり閉じたりと動かす。

『《切断者》で作られた切断面は、新しいものが作られると一番古いものから順に消えていく。なら、新しいものが生まれるまでは切断面を維持する為に、何らかのエネルギーが使われてるんじゃないかと思ったんです』
『なるほど。《反旗の逆鱗》の効果で半減に半減を重ねていき、切断面を維持する為のエネルギーを0にしたという訳か』

 この戦況においてこれほど頼もしい能力はない。否、能力だけではない。
 一度は離脱を余儀なくされたはずの一夏だったが、何かを護りたいという意志は決して消えなかった。都合が良すぎるとも思うが、まるで機竜が彼の想いに応えてくれたようだとリーシャは思う。

「ならば一夏、目にものを見せてやろうじゃないか。この国を混乱に叩き落とし、私とお前を散々馬鹿にした―――あの似非軍師にな!」
「はい! 全力で行かせてもらいます!」
「ッッッ! 嘗ッめるなぁああああああッ!!!」

 ヘイズの絶叫と共に再び神装の光を帯びた両翼刃剣が乱雑に振るわれ、その軌道に沿って空間が切断されていく。
 その斬線上に入らない事は勿論だが、新たに生じた光壁が一夏達の行く手を阻む。
 だが、

「邪魔だ!」

 同じように《ゼウス・カイザー》の神装の光を帯びた《神聖剣》が光壁に触れた直後、次第にその面積は小さくなっていき、十秒後には硝子が割れるような音と共に消滅した。
 そんな動作を繰り返していく事で《切断者》の効果で生じた断面を無力化していく一夏だが、その表情は芳しくない。

『リーズシャルテ様! さっきはああ言いましたけど、いくら神装機竜でも碌に調整してない状態じゃ限界があります! ここは……!』
『分かっている! 悠長にこいつの相手をしてる時間はないんだ! 速攻で片を付けるぞ!』

 こうしている今も『巨兵』は全方位射撃の準備を着実に進めている。発射までの残り時間は分からないが、急がなければならない事に変わりはない。
 一夏も光壁を破壊しながら、より攻撃に苛烈さを加えていく。そしてようやく人間一人が抜けられるだけの十分な道を確保すると、一気に加速してヘイズの振るう剣と切り結ぶ。

「この盗人風情がッ! 俺の遺跡から機竜を盗んだ罪、貴様の死で償ってもらうぞ!」
「だったら、殺されるより先にお前を止める!」

 僅かな期間だが剣道を習っていた経験が活きているのか、実戦におけるヘイズの能力が低いのか。何方かは分からないが、確実に一夏の方が有利に立っていた。
 流石にヘイズも己の不利を悟ったのか、苦々しげに舌打ちをしながらその場から飛び退く。追撃を仕掛けようとした一夏だったが、唐突にその動きを止める。
 その視界に―――漆黒の神装機竜の影を捉えた故に。

「ッ!? 上か!」

 一夏の視線を追った為かヘイズは直前でそれに気付き、上に向けて咄嗟に両翼刃剣を構える。
 その直後、彼女の剣と《バハムート》を纏ったルクスの大剣《烙印剣》が拮抗した。

「お待たせしました、リーシャ様。一夏君」
「お、遅いぞ全く! あまり心配をかけさせるな……」

 姫の窮地に乱入した王子ルクスを前に、頬を赤く染めながら怒鳴るリーシャ。
 恋愛に疎い一夏だが、その御伽噺の一部のような光景に『これが恋か……』と流石に気付く。

「一夏君も大丈夫だった?」
「あ、はい。何とか……」
「何とか、じゃないだろ。お前がいなかったら、こうも有利に事は運ばなかったんだ。もっと自分の行動に誇りを持て」

 虐げられてきた故か未だ自分に自信を持てない一夏を叱咤しつつ、リーシャは眼前に浮かぶヘイズを見据える。
 そんな彼女に続くかのように、2人の男子も剣を構えながら敵を睨む。

「奴の《ニーズヘッグ》の突破口は見えた。2人共、私の策に付き合ってくれるか?」

 強がる主君の姫を見て、ルクスは優しい笑みを浮かべる。

「《バハムート》の稼働限界時間まで残り僅かです。竜声で指示をください、貴方の策を」
「何処までもお付き合いしますよ、新王国王女リーズシャルテ様」

 2人がそう言った直後、各々の武器を構えて《ニーズヘッグ》へと強襲を仕掛ける。
 その後方でリーシャが《七つの竜頭》にエネルギーを充填する様子を捉えながら、ルクスはヘイズに向けて大剣を振り下ろす。
 重さと速さを備えた一太刀だったが、それは《ニーズヘッグ》の神装が生み出した切断面に阻まれた。

「無駄だ! 貴様等にこの壁を越える事など……!」
「無駄は―――こっちの台詞だ!」

 ハッ! として振り返ると、そこには既に《反旗の逆鱗》を発動させた一夏がいた。
 そして、《ゼウス・カイザー》の握る長剣が光壁に触れた直後、パリィィィンッ!! とけたたましい音と共にそれらは崩れ去る。

「受けてみろ、ヘイズ! 私が編み出したもう一つの技を!」

 ドン! と《七つの竜頭》の中央の砲口から、揺らめく紫の光弾が発射される。
 見覚えのない攻撃にヘイズは警戒するが、その場から離脱する事で回避行動を取る。本来なら《切断者》が生み出す光壁で防ぐのだが、それを無力化する者がいる為にその策は使えない。
 早々に安全圏に退避しようとするヘイズだったが、―――ズバンッ! とその行く手を阻むように光剣が迫る。
 その出所に視線を向けると、一夏の《堕聖剣》の内部に収まっていたエネルギーが武器と化し、長大な刃となって自分の下まで伸ばされていた。

「ハハッ! 機構モードでちらっと見ただけだったけど、何とかなったな」
「こンの、盗人小僧が……!」

 恐ろしい形相でヘイズは一夏を睨み付けるが、直ぐに視線を迫り来る光弾に移す。幸いエネルギー刃を伸ばさなければ自分を止められないほど一夏とは離れている。
 この距離ならば《切断者》を無力化される心配はないと踏んだ彼女はその刃を振るうが、

「《共鳴波動》。からの―――《暴食》」
「な、にッ!?」

 ルクスが声を上げた直後、《ニーズヘッグ》自身が引き寄せられるように前に踏み出した。
 力場を形成して物質の軌道を操る事の出来る内臓特殊武装《共鳴波動》の効果を神装で圧縮強化し、本来なら機竜を動かす力までは持たないはずの力場で《ニーズヘッグ》を操作したのだ。
 このままでは自身が生み出した光壁に潰されると判断したヘイズは、直ぐに切断面を解除し、―――同時にリーシャの放った光弾が直撃した。

「ぐ、う……! だが、この程度で俺の《ニーズヘッグ》の障壁を破れるとでも……!」
「安心しろ、ヘイズ。貴様の時間は、もう終わった」

 リーシャが笑みを見せた直後、ヘイズの纏う《ニーズヘッグ》に異変が生じる。
 いくら機攻殻剣を振るって動かそうとしても、その幻玉鋼鉄の塊は全く稼動しない。それどころか装甲が激しく軋み始め、細部から順に歪み始めていた。

「何だ、これは―――!?」
「《ティアマト》の神装《天声》の応用技、重力球だ。それに一度触れたが最後、効果が切れる時まで球体の中心へと引き摺られ、押し潰されていく。つまり―――」

 リーシャは丁寧に解説し、その時を告げる為に《七つの竜頭》を彼女に向ける。
 それを防ぐ為にヘイズは《切断者》を発動して手首の動きだけで剣を振るうが、同時に彼女の前で《バハムート》と《ゼウス・カイザー》が剣を構え、

「―――《反旗の逆鱗》」
「―――《暴食》」

 2人が振るった剣の軌跡が交錯した直後、《切断者》が作り出した光壁が、ヘイズの握る両翼刃剣が砕け散る。
 全ての力を半減させて己の力とする剣と、自らの時間を最大圧縮させて放たれたルクスの『即撃』が、王女の道を切り拓いた。

「―――さらばだ、ヘイズ。名も明かせぬヘイブルグの軍師よ、朱の戦姫たる私の力を見届けて落ちていけ!」

 直後、最大出力の《七つの竜頭》の砲撃が《ニーズヘッグ》へと放射される。
 その圧倒的な威力を持つ閃光は装甲を容易く撃ち抜き、ヘイズの怨嗟に満ちた絶叫と共に光の中へと消えていく。

『何故、だ……! 何故貴様等が! 我等を裏切った……の末裔如きが……!』

 竜声を介して紡がれた彼女の声が、次第にかすれていき、遠くなる。
 眩い光に視界を奪われていた数瞬が過ぎた頃には、ヘイズの姿は何処にもなかった。

「やったな! 後は―――!」
「はい! 残るは、この『巨兵』一つ!」
「リーシャ様! 一夏君! こっちに!」

 最後の力を振り絞って、彼等はルクスの案内に従って『巨兵』の胸部から中へと侵入する。恐らくは彼が倒した夜架に教えてもらったのだろう。
 十数秒ほど一本道を進むと、管理室エリアと思しき部屋の椅子に、一人の少女が座っていた。
 否。無感情な瞳で正面を見据えている者の正体は、人間ではない。この遺跡の統括者である自動人形―――エル・ファジュラである。
 今まで『巨兵』の操作に意識を割いていたようだったが、一夏達の姿を捉えると初めて顔を動かした。

「敗北確定状況撤退不可。最終命令―――起動」

 何処までも感情を理解出来ない表情だが、その声音には敵意を感じ取れた。
 創造主の敗北を知って尚、王都を破壊する事で一矢報いてみせるという決意。

「止めろ! もう勝敗は決まったのだ! これ以上は―――!」

 制止の声を上げながら、その身を破壊する為に《七つの竜頭》を構えるリーシャ。だが、ヘイズとの死闘で精根尽き果てたせいか、《ティアマト》は全く反応しない。
 後ろに控えていたルクスと一夏が動こうとしたが、2人の機竜は稼動限界時間に達して強制的に解除された。一夏の纏う《ゼウス・カイザー》はまだ精々十分程しか動かしていないが、調整を施していない状態でよくここまで保った方だと思う。

「状況変化視認、残り数秒で目標を達成し……」
「―――それは無理ですわ」

 ドズリ……! と優勢に立っていたはずのエル・ファジュラの胸部から、黄色い火花が散る。
 その発生源に視線を向けると、一夏達にとっては見覚えのある刀型の機攻殻剣が突き刺さっていた。

「あれは……!?」

 驚愕の声を上げながら振り返ると、日本の着物にも似た異国の黒衣を着た蒼と紫の瞳を持つ少女―――切姫夜架が立っていた。
 その登場に誰もが唖然とする中、彼女は妖しく微笑み、

「契約違反ですわ、自動人形さん。この国そのものを消してしまうのは、貴方の主との契約と違いますわよ?」
「……………………」

 彼女の言葉には答えず、エル・ファジュラの胸部から火花を散らせたままルクスに視線を向ける。
 そして今までの繋ぎ目のない無感情の声とは違い、初めて己の意思を示すかのように声を放ち、口元を歪めて嗤う。

「そうか、お前が反逆者か。嘗て作った理を乱して、望んだ世界は手に入れたか?」
「何……?」
「直に思い出す。貴様が忘れてるのだとしても、何
いず
れ―――再びそれを望むなら」

 怪訝な顔でルクスは問い返したが、そう言い残してエル・ファジュラの瞳から光が消えた。
 それは同時に長かった戦いの喧騒が消え、全て終結した事を示していた。



あー疲れましたw
やっぱり投稿は作り溜めしたほうがいいんですね。
これからも頑張ります。
あと≪ゼウス・カイザー≫の神装は≪反旗の逆鱗≫.もう一つは≪全能再臨≫ですw ≪全能再臨≫つまり全ての能力や神装や単一使用などを全て使えますw つまりチートですw
これからもよろしくお願いします