〜IS機竜の世界に迷い込んだ夏〜 作:厄災の剣帝
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主は投稿初で誤字脱字があるかもしれませんが許してください。原作は流し読みでアニメは全話見てますがそれ以降は分かりません。申し訳ないです。
プロローグ1インフィニット・ストラトス。通称"IS"。
それは、宇宙空間での活動を想定して開発されたマルチフォーム・スーツ。
開発された当初は全く注目されなかったが、ISの生みの親篠ノ之束が日本を射程距離内とするミサイルの配備された全ての軍事基地のコンピュータを一斉にハッキングし、2341発以上のミサイルを日本に向けて発射。その約半数を搭乗者不明のIS《白騎士》が迎撃した上、捕獲もしくは撃破しようと各国が送り込んだ大量の戦闘機や戦闘艦等の軍事兵器の大半を無力化。後に『白騎士事件』と呼ばれる事件により、従来の兵器を凌駕するISの圧倒的な性能が世界中に知れ渡り、宇宙進出から軍事方面へと転用、各国の抑止力の要として移行していった。
やがてその歪みは大きくなっていく。戦車や戦闘機を始めとした兵器は旧式化し、男女の地位は逆転、女尊男卑の風潮が広まっていった。
そんな世界に織斑一夏という少年がいた。
件の篠ノ之束と友人関係にある姉の千冬とあらゆる物事を十全に熟せる秋斗と春斗を兄に持ち、両親に捨てられた不遇な環境でもそれなりに幸せだった。
だが、ISが広まりだした頃からだろうか。次第に彼はこの歪んだ世界を憎悪するようになっていた。
俗に言う天才肌の姉や兄達の足手纏いになりたくないと思い、彼は勉学も家事も恐ろしいほどに努力を積んできた。そんな彼を姉は褒めてくれた。だからこそ、彼はその想いに応えるべく更に上を目指し努力を続けた。
だが、千冬がISによる世界大会モンド・グロッソで総合優勝及び格闘部門で優勝し、ブリュンヒルデ
世界最強の女性
の称号を得たのと同時期に、周りの人間全員が一夏の事を『織斑千冬の付属品』としか見なくなった。
「お前は本当に織斑なのか?」「織斑の面汚し」「姉や兄を見習え」「あんたなんか消えてしまえばいいのに」などいろいろな言葉を言われてきた。
良い結果を出そうとも悪い結果を出そうとも、周囲の評価は結局は同じ。時には付属品どころか『織斑家の出来損ない』と罵倒され、暴力を振るわれる事さえあった。
それでも一夏は努力を続けた。周りの評価など関係ない。愛する家族さえ認めてくれれば。
だが、現実はそれまでしてきた努力さえも無残に踏み躙る。それを第2回モンド・グロッソにて千冬の応援の為にドイツまで訪れた時に思い知らされた。
千冬は順調に勝ち進み、後一歩で優勝という所まで来ていた。だが、決勝戦開始前に一夏は突如現れた男達の手によって誘拐される。手や足を手錠や縄で縛られ身動きが取れない一夏の前で、男達は『織斑千冬の優勝阻止』という依頼が成功した事に歓喜した。3人しかいない肉親の一人である一夏を誘拐した事でその依頼は成功したも同然だった。
男達は嬉々とした表情で互いに成功を祝福し、時に娯楽と称して一夏に暴行を加えながら、後から来た依頼人だという女も交えて祝杯を上げていた。だが、その歓声は唐突に破られる。
「 おかしいぞ! 日本代表の織斑千冬が決勝戦に出てやがる!」
そう言って誘拐犯の一人は小型テレビを仲間の前に差し出す。
画面には、男が言っていた通り、決勝戦に出場して戦っている千冬の姿が映し出されていた。
「おい! ちゃんと伝えたんだろうな!」
「あ、あぁ、勿論だとも! ……まさか弟より名誉を選んだってのか」
この不測の事態に誘拐犯達は一様に動揺し、冷静な判断が出来なくなっていた。
そしてそれは、今まで信じてきた者に裏切られた一夏も同じだった。
『お前達は私の大事な家族の1人だ』
(何が大事な家族の1人だよ。やっぱり自分の名誉が大事なんじゃないか……!)
その時彼は家族に、この世の全てに絶望した。
今まで家族の事を思って生きてきたというのに、その想いはあっさり切り捨てられた。
女がそう言うと同時にその右腕が一瞬光り、機械の腕と人間に向けるには巨大過ぎる銃が出現する。
素人でも分かる、あれは間違いなく世界最強の兵器ISの武装だ。
だが、不思議と一夏の胸には哀しみなどの感情は沸いてこなかった。これで自分を戒めていた全てから解放されると、寧ろ安堵していた。
「さぁ、お祈りは済んだかしら?」
ガシャ! という金属音と共に銃口が向けられ、女の指がその引き金に掛かる。
対する一夏はせめて最後は痛みなく逝きたいと願い、瞼を閉じてその時を待つ。
だが、その直前、
「な、何だ、ありゃ!」
誘拐犯の一人が突如驚愕の声を上げ、同時に引き金に掛かっていた女の指が止まる。
「何よ? 折角良いところだったのに……」
「そ、それどころじゃねえよ! あ、あれ!」
困惑した声を上げながら、一夏達が立つ位置の更に奥の方を指差す男。
苛立ちを覚えつつも、煩わしげに女が其方に視線を向けると、
「……え? な、何、あれ……?」
彼女の視線の先にある景色、空間が歪み、ブラックホールの如き漆黒の渦が発生していた。
加えて、それは次第に大きさを増しながら、周囲に存在するもの全てを中心へと呑み込み始める。
「ちょ、マジでヤバいってこれ!? に、逃げろ!!」
「言われねえでもそうするよ!」
「あ、アンタ達、何私を置いて逃げ……ってきゃああああッ!!」
後方の仲間になど目もくれず我先にと逃げ出す男達だったが、そんな抵抗も虚しく何人かが渦の中に消えていく。
ISを展開していた女までも姿を消していき、やがて、
「う、うわぁあああああああああああああッ!!」
拘束されていた一夏までも渦は呑み込み―――彼はこの世界から姿を消した。
♞
とある世界にもまた、世界最強を謳う兵器が存在した。宇宙進出から軍事転用されたものとは違う、正真正銘の兵器が。 装甲機竜。対となる機攻殻剣を抜剣する事で召喚され、伝説の竜を模した機械装甲を身に纏い、一騎当千の戦力を得られる古代兵器。
世界に7つ発見された遺跡から発掘されたそれは、転送を始めとした原理が解明されいないものの、過去数百年で培ってきた戦争概念を一瞬にして覆した。
発見当時の世界の覇権を握っていたアーカディア帝国が男尊女卑の風潮と制度を強いてきた事で使用は殆ど禁じられていたが、5年前のクーデターにより帝国が滅び、後にアティスマータ新王国が設立されたのを境にその認識は一変。女性の方が遥かに相性適性が上というデータが報告され、以後専門の育成機関を設立、他国に劣る事のない機竜使いの士官と揃えるべく、その育成に力を注いできた。
その機竜使い育成機関が、十字型の城塞都市『クロスフィード』の中心部一番街区に立てられた王立士官学園だ。
そして現在、敷地内に設けられた旧時代の円形闘技場
を彷彿とさせる装甲機竜の演習場には、士官候補生である少女達と特別措置によって入学した一人の少年がいた。
「それでは、これより装甲機竜の実技演習を執り行う」
旧帝国時代には唯一の女性機竜使いとして活躍し、現在は教官を務めるライグリィ・バルハートの言葉を受けた生徒達は迅速に各々の班を作っていく。
そんな中で誰とも相談する事なく自然と集まり、更には一段と目立つ班があった。
「あ、ふぁあああ……」
「リーシャ様、ひょっとしてまた明け方まで作業していたんですか?」
「ああ、装甲機竜の新実験でちょっとな」
一部を黒のリボンで括った金髪が特徴の少女が欠伸をしたのを見て、黒の首輪を嵌めた白銀の髪を持つ少年が心配そうに覗き込む。
少女の名はリーズシャルテ・アティスマータ。その名の通り旧帝国に対してクーデターを起こした亡きアティスマータ伯の娘である。"朱の戦姫"の異名を持つほどに戦闘方面の才覚を見せる上、新たな機竜を作るレベルの改造などの技術者としての実力も併せ持っている。
そして彼女と話す可愛らしい顔立ちの少年はルクス・アーカディア。こちらもその名が示す通り旧帝国の生き残りの皇族であり、首輪は新王家の恩赦を受けた『咎人』の証である。
悪い言い方になってしまうが、簡単に表現するなら奪った側と奪われた側。一般の人間からすれば仲睦まじく話す仲ではないだろうと思われるかもしれないが、彼等の間にそのような溝はない。これまで幾度か巻き込まれてきた事件の中で育まれた絆と言うものだろう。
「大丈夫ですか? 僕で良ければ何時でも力になりますよ。一人で作業するより、2人の方が捗りますから」
「う、うん、そうだな。じゃあ今日の夜にでも早速……」
「あら駄目よ。今夜はもう私との勉強会の予定が入ってるんだから」
そう言ってルクス達の会話に割って入ったのは、新雪を思わせる白い肌と蒼い長髪が神秘的な美しさを醸し出す少女―――クルルシファー・エインフォルク。北の大国ユミル教国からの留学生であり、学問・実技共に優秀な成績を収める才女。
幼少の頃にとある事情で宮廷を追い出されたルクスは技術的な事を学ぶ事は多かったが、学問に触れる機会は少なかった。学園では機竜関連だけでなく武官や文官になる為の授業もあり、クルルシファーは時折勉強会を開いてはルクスの力になってくれている。
「なッ!? よ、夜の勉強会だと……!?」
「それだと何だか卑猥に聞こえるから、夜に勉強会と表現すべきよ。でもそうね、この機会にルクス君が前々から興味を持っていた性に関する事でも……」
「変な言い方は止めてよ!? 別にクルルシファーさんが言うほど興味がある訳じゃないし……!」
「全然? これっぽっちも?」
ルクスの腕に自分の腕を絡めながら尋ねるクルルシファーを前に、う……! とルクスは言葉に詰まる。
彼も健全な17歳である為、そこまで突っ込まれると否定する事が出来ない。
「え、ええい、離れろ2人共! 此処は学園内だぞ! それに言っておくがクルルシファーよ。前にも言ったが私はルクスとはもうデートで手を繋ぐほどの仲だ! その程度では私を追い越すなど夢のまた夢だぞ!」
「だから、恋愛において手を繋ぐのは特に凄い事ではないわよ? せめてキスが出来るくらいに積極的になって、初めてリードしたと言うべきね」
「き、キキキキス!!? あ、ああ、するとも! これから幾らでもしてやるとも!!」
「私はもう、ルーちゃんと昔、キスした事あるけど?」
ぐはぁッ!? と横合いから放たれた衝撃の事実を前に、リーシャは吐血しかねない勢いで吹き出した。
その間延びした言葉を紡いだのは、ふわりとした桜色の髪を2つのリボンで纏めているフィルフィ・アイングラム。大商家アイングラム財閥の次女にしてルクスの幼馴染み、更に実姉のレリィ・アイングラムはこの学園の学園長を務めている。
ちなみに彼女は気に入った相手に対しては愛称で呼び、呼ばれる仲を求めてくる。ルクスがこの学園に入学した初日に彼女と再会した際、彼が『フィーちゃん』と呼ばなかっただけで不機嫌になるほどだ。
「ちょッ!? ふ、フィーちゃん! それは今言わない方が……!?」
「どうして?」
「ど、どうしてって……」
「お前達、そろそろ演習を始めようか。それとも私が組んだ特別メニューに挑みたいか?」
女性の悲しむ顔に弱いルクスは何と答えれば良いか困惑していると、そこに救いの手が差し伸べられた。
否、それは果たして救いだったのだろうか。例え王女のリーシャであろうと容赦しない女教官
ライグリィ
を前に、ルクス達は思わずその身を縮こませる。
「ら、ライグリィ教官……!」
「い、いえ! 直ぐに始めさせていただきま……!」
最後まで言い切ろうとしたリーシャだったが、それは叶わなかった。
―――ドンッッッ!! と腹の底から響くような爆音が突如発生し、同時に周囲を土煙が覆い尽くす。
「な、何!? 何なの!?」
「まさかまた幻神獣がッ……!?」
「落ち着け! 下級階層の生徒は機攻殻剣を抜くな! 慌てずに校舎に退避しろ!」
士官候補生と言えどもまだ年端もいかない少女達。突然の緊急事態に迅速に対応出来るほどの技量も精神もまだ持ち合わせてはいない。故にライグリィの指示を受けた一部の生徒達は即座に校舎内へと消えていく。
残ったのはルクスや学園の遊撃部隊『騎士団』に所属するリーシャを始めとした面々。彼等は次に何が起きても良いよう、既に刀身に銀線が走った機攻殻剣を抜いていた。
全員が距離を置きながら静かに見据えていると、次第に立ち込めていた粉塵が晴れていく。其処には額から血を流した明らかに重傷な少年と、拳銃を握った強面の男性数名、そして装甲機竜にも似た機械鎧を纏う一人の女性がいた。
「お、おい! 何だ、何処だよ此処は!?」
「俺が知るか!」
男達の方も突然の事態に困惑しているようだが、こちらを惑わす為の演技の可能性もある為に油断は出来ない。
だが、そんな考えなど一瞬で吹き飛ばすような行動を男の一人が起こした。
「取り敢えず囲まれてるみてぇだし、このガキを人質に……!」
(マズい……!)
そう判断すると同時にルクスは地面を蹴っていた。既に鞘から抜いた機攻殻剣の切先を正面に向け、身体を伸ばし切ると共に鋭い突きを放つ。
今まさに傷だらけの少年―――一夏に向けて拳銃を構えていた男だったが、一瞬の間に放たれた突きにより彼の掌から武器が弾け飛んだ。
「んなぁッ!?」
「彼を置いて早急にお引き取りください。出来れば穏便に済ませたいので」
「な、嘗めるなよ! このガキ!」
逆上して叫ぶ男に合わせるように、周りにいた他の男達も拳銃やナイフを抜いて多方向からルクスに攻撃を仕掛ける。
だが、一撃たりともそれらはルクスの身体に傷を付けるには至らなかった。音速を超えて飛来する弾丸を銃声が聞こえた直後に僅かに身体を反らす事で躱し、迫り来る凶刃は機攻殻剣で受け、いなしていく。
(す、凄い……!)
意識は朦朧としているが、その光景はしかと一夏の目に焼き付いていた。
刃も銃弾も決して彼には届かず、相手がナイフを振り下ろした瞬間や弾切れを起こした一瞬の隙を見逃す事なく、次々と機攻殻剣の柄を用いた打撃によって意識を刈り取っていく。
舞踊と見間違うほどの流れるような動作に目を奪われていると、凶弾が飛び交う中を誰かに連れ出された。
「大丈夫?」
「え、あ、はい。何とか……。あ、ありがとうございます」
先程まで受けた暴行により身体の節々が痛むが、一応生きてはいる。
自分を乱戦の中から救助してくれたフィルフィに礼を言った後、一夏は再びルクスのいる方に視線を向けた。其処にあったのは、十人近くいたはずの男達を全て地面に叩き伏せたルクスの姿だった。
「何だ、私達の出る幕はなかったか」
「当然ね。この程度の相手じゃ、彼にとって脅威にならないもの」
声のした方に視線を移すと、リーシャとクルルシファーが彼に向けて感心と何処か恋慕の色を帯びた視線を送っていた。あれほどの動きが出来て当然と評価する2人の言葉に、彼が本気を出せばこれ以上の事が出来るのだろうかと一夏は勘繰る。
だが、そんな彼の思考に苛立ちの交った女の声が割って入る。
「これだから男は駄目ね」
ハッ! と一夏は慌ててその音源を見ると、今まで状況を傍観していたISを纏った女が臨戦態勢に移っていた。
「貴方、ちょっとは出来るみたいだけど……男風情が調子に乗ってんじゃないわよ!」
武器は遠距離戦の銃から、接近戦用の大剣へ。何方
どちら
にしても人間を殺すには過剰な武装。
だが、当の女は生死に関する道徳など全く気にする様子も見せず、躊躇いなく大剣をルクス目掛けて振り下ろした。対する彼はバックステップでその一撃を回避したが、ISと生身の人間ではやはり戦力差が大き過ぎる。
「あ、あの、早くあの人を助けに行かないと! 生身でISの相手なんて出来るはずが……!」
「そのアイエス……? というのが何かは知らないけど、あんな大振りで隙だらけな攻撃じゃルクス君に傷一つ付けられないわよ」
それに……、と一夏の必死の訴えにクルルシファーは微笑で応え、
「流石の彼も、あれを相手に生身で相手をするつもりはないわ」
彼女がそう呟くのと同時、戦況は動いた。
ISを纏った女から大きく距離を取ったルクスが、機攻殻剣の柄にあるボタンを握りながら押し、機竜を目の前に転送する為の詠唱符を叫ぶ。
「―――来たれ、力の象徴たる紋章の翼竜。我が剣に従い飛翔せよ、《ワイバーン》」
同時に契約者の声を認識した刀身の銀線が青白い光を帯び、キィン! と短い音と共に高速で光の粒子が集束。
やがて人間を二回りほど大きくしたような、蒼の機竜がルクスの前に姿を現す。
「ッ!? あれは……!」
「接属・開始」
呆気に取られる一夏の眼前でルクスがそう呟くと、流線型の機械が内側から開き、無数の部品へと展開される。
それらはルクスの両腕、両足、胴体、頭部へと向かい、高速で連結―――装着され、彼の身体を覆う装甲と化した。
「え、ちょッ!? な、何で男の貴方がISを使えるのよ!?」
「これはISというものじゃありませんよ。装甲機竜です」
驚愕と共に発せられた女の疑問に律儀に返答しながら、機竜牙剣を構えたルクスの《ワイバーン》は高速で肉迫する。
「ッ! は、速い……!」
汎用機竜の中でも特出した飛翔能力を持ち、機動性に優れる《ワイバーン》。ルクスが扱うものは装甲強化のパーツを付け、防御特化の改造が施されている為に多少その速度は落ちているが、それでも女を驚かせるには十分な機動力を誇っていた。
一瞬呆然としていた女だったが、直ぐに我に返ると大剣を拡張領域に仕舞い、新たに人間の腕程の大きさを持つ銃を量子変換する。
馬鹿正直に真正面から来るのなら、こちらはそれを悠然と迎え撃てば良い。後に残るのは勝者の女と敗者の男という、女尊男卑の正しい社会の姿だと女は確信していた。
「くたばれ! 間抜けな男風情がッ!」
ドン! ドドン! と立て続けに発砲音が炸裂し、ルクスの眼前に恐ろしい速度で弾丸が迫る。
「……!」
だが、彼は至近距離で放たれた弾丸を、エネルギーを纏わせたブレードの切っ先で逸らし、回避する。
その後も角度を変えて何発か撃ち込みはしたが、全ては徒労に終わる結果となった。
「何で!? 何でそんな正確に、たかが剣で……!」
「どれも急所を狙った単純な銃撃だったので。銃口の向きで狙いは分かりましたし、あとは発砲音を聞いた瞬間に動いただけです」
簡単に言ってのけるルクスだが、言葉にするのと実際に行動するのとでは訳が違う。今まで見下してきた男に言い様にされている事に女は苛立つが、実はルクスはこの時点で全く本気を出してはいない。
普段の彼は相手のスタミナ切れを狙った防御に主眼を置く戦闘スタイルを取っている。月に一度王都のコロシアムで行われる公式模擬戦においても同様の戦術により彼は無敗を誇っているが、結果は全て引き分け。それ故に付いた異名が『無敗の最弱』。
そんな戦闘スタイルを取るのには理由があるのだが、それを差し引いても彼がこうまで前に出て先手を取る姿は珍しい。だが、仮にこの場にいる誰かに理由を尋ねたとすれば、その答えは容易く返ってくる事だろう。
『あんな大振りで隙だらけな攻撃じゃルクス君に傷一つ付けられないわよ』
先程のクルルシファーの言葉。この事から導き出される結論は、『無敗の最弱』としての技量で挑む必要がないほどの―――圧倒的な力の差。
それもそのはず。ISには絶対防御という機能が付いている為、操縦者が死ぬ事は絶対にない。だが、ルクス達の駆る装甲機竜は障壁こそ展開出来るものの、そんな都合の良い機能は備わっていない。
戦場にて奪う覚悟しか持たぬ者と、奪い奪われる覚悟を持ち合わせている者。何方の技量がより優れているかなど分かりきっている。
「舐めないで!!」
銃撃戦は意味を為さないと判断した女は改めて大剣を呼び出し、近接戦闘へと切り替える。だが、やはり彼女と今までルクスが戦ってきた公式模擬戦の対戦者達では実力が違い過ぎた。
『無敗の最弱』としての技量がここで初めて、僅かにだが発揮される。まるでどの方向から振るわれるのか分かっているようにブレードで女の大剣を防ぎ切り、その際に出来た一瞬の膠着を見逃さずに切り付ける。それにより徐々に、それでいて確実に女が纏うISのシールドエネルギーが減少していく。
自分は選ばれた強者であり、男達は不様に地を這うだけの存在。そんな絶対の方程式までも崩れていく音が聞こえ始め、冷静な判断力を失った女は、
「こ、こんのォオオオオオオオオオッ!!!」
細かな戦術を立てようという思考すら頭の中から消え去り、ただ大上段に構えた大剣を力任せに振り下ろした。
対するルクスもまた、迫り来る刃を見据えながらブレードを構え、
―――ドンッ! と。
目で追う事も出来ない神速のブレードが、ISの装甲を打ち砕いた。
「そ、そん、な……!?」
最強無敵と信じてきた兵器が、自分の力が砕かれたという事実を認識した直後、女の意識が薄れていく。
『神速制御』。肉体制御と精神制御、異なる二系統からの操作を一連の動作に完璧に重ねる事で、一動作のみ目にも止まらぬ攻撃を繰り出す絶技。嘗ての帝国軍に伝わる、
ルクスが編み出した機竜使いの三奥義の一つである。
「あ……」
自分の世界で広まっていた女尊男卑。一夏の前に広がる光景は、その悪しき風潮をルクスが断ち切ったように見えた。
そんな彼の姿に一夏は驚愕と共に尊敬の念を抱く。だが、元々出血が酷かった事もあり早々に体力の限界が訪れ、彼の意識は闇へと沈んでいった。
………
……
…
「う、うぅん……。 あれ、此処は……?」
次に目覚めた時、一夏は全身に包帯を巻かれた状態でベッドの上で寝ていた。
消毒液特有の臭いがする事から考えるに、恐らくは医療に関連した施設なのだろう。自分が知っているような白壁ではなく、やけに高級感漂う石造りな事が気になるが。
「あ、目が覚めた?」
そんな声が聞こえてきたかと思うと、一夏の視界に明らかに自分より年上であろう白いの髪を持つ少年が覗き込んできた。
見間違えるはずがない。それは大勢の男達とISに乗った女を一人で撃退した人物だった。
「大量出血で危険な状態って言われてたけど、意識が戻ったのなら大丈夫そうね」
「ああ。折角ルクスが助けたのに死なれたのでは寝覚めが悪いしな」
続けて少年の背後から聞こえてきた声にも聞き覚えがあった。
何とか首を動かして其方を見ると、やはり先程まで一緒だった7人の少女達が其処にいた。
「気分はどう? 何処か痛むところはある?」
「いえ、大丈夫です。おかげさまで何とか……」
「寝てて良いよ。まだ動いて良い状態じゃないんだから」
「あ、ありがとうございます」
痛む身体に鞭打って起き上がろうとしたが、少年が一夏の肩を掴む事で制止させる。
そのままベッドの上に戻された後、少年達が自己紹介を始めた。
「自己紹介がまだだったね。僕の名前はルクス・アーカディア。よろしく」
「リーズシャルテ・アティスマータだ」
「私はクルルシファー・エインフォルク。よろしくね」
「フィルフィ・アイングラム……」
「YES.ノクト・リーフレットです」
「私のことはシャリスとよんでくれ」
「私のこともティルファーでいいよー♪」
「セリスティア・ラルグリスです」
「織斑一夏です」
髪色から分かってはいたが、全員外国人。悲しきかな、道を尋ねようとする外国人が声を掛けてきただけで膠着してしまうのが日本人。
幸い彼等は日本語が達者なようだが、美男美女に囲まれている事もあって嫌でも緊張してしまう。
「それでいきなりだけど、君に何があったか教えてくるかな?」
「……はい」
無理はしなくて良いよ、とルクスは気遣ってくれたが、怪我を除けば体調も良い方な上に隠す必要も無い為、今までの出来事を全て話した。
姉の織斑千冬の応援にドイツへ来た事、その最中で千冬の優勝を阻もうとする者達に誘拐された事、そして家族に見捨てられた事に絶望しているた時に謎の黒い穴に呑み込まれた事を。
時折『ISとは何か?』等のような自分にとっては常識である事を尋ねられた事に驚きはしたが、全て話し終えた頃には全員思案顔にはなったが何とか納得してもらえたようだ。
「あの……俺からも一つ聞いていいですか?」
彼等の思案している様子も気になるが、自分も先程からある事が気になっている為、意を決して質問する。
「ん? 何?」
「此処は何処ですか? 見た感じ日本じゃないし……」
「あー……うん、そうだね。それを教える前に、ある大前提を話すよ」
ゴホン! とルクスは軽く一度咳払いした後、
「この世界に、君の言う"日本"っていう国はない。ついでに言うとISも存在しない」
「………………へ?」
「で、それらを踏まえて考えると……信じられない事だけど、君は異世界に来てしまった……って事になるのかな?」
頬を掻きながら苦笑するルクスの口から告げられた事実に、本日二度目の石化を一夏は体験する。
あまりに突拍子もない事に気絶しなかった自分を心の底から褒め倒したいと思う。
「い、いやいやいや! まさかそんな……!」
「うん、その気持ちは分かるよ。僕達もまだ信じられないし。まぁ、取り敢えず君の世界の事を話してくれた訳だし、今度はこの世界の事を教えてあげるよ」
とは言っても、今自分達がいる国の事を話すだけでも最低5分は費やしそうだが。
そんな事を思いながらも、クーデターによって滅んだ帝国と新たに生まれた新王国の事、装甲機竜についてなどを出来る限り掻い摘んで話した。
「えっとつまり……ISと同じような装甲機竜っていう古代兵器がこの世界には有って、その圧倒的な軍事力を背景にルクスさんの父親が皇帝だったアーカディア帝国は男尊女卑の圧制を敷いていた。
けど、5年前のクーデターで帝国は滅んで、今俺がいる此処はリーズシャルテさんの叔母が女王に就いた新王国……。凄いな」
「うん。取り敢えずそれだけ分かってくれれば良いかな」
驚愕と同時に感嘆している一夏に、思わず後ろに控える少女達は苦笑を漏らす。その顔は欲しかった玩具を買ってもらった子供のように輝いて見えるのだ。
だが、次第にその輝きは薄れていき、その顔に影が差した。謎の穴を通って異世界に来たは良いものの、その穴の正体が不明なのだから戻る方法も分かるはずがない。落胆するのも当然だろう。
「おい、大丈夫か……って、そんな訳ないよな。いきなり異世界に来て、帰る家族とも会えなくなったんだから」
「あ、いえ。その事については何とも。……寧ろ、これで良かったのかもしれないなって」
ん? と何処か安堵した様子を見せながら紡がれた一夏の言葉に、一同は首を捻る。
「さっきも言った通り、俺の世界はISが登場してから歪みました。周りも千冬姉の弟だからって、俺の存在を否定して……。最終的にはその姉にまで見放されました。
だから、いっその事この世界で新しい人生を謳歌するのもアリかなって……」
自虐的に笑っている中に含まれた憎悪の感情に、彼がどれだけ虐げられてきたのかが簡単に想像出来る。
だが、そうは言っても今の一夏は身寄りのない子供。帝国時代とは違って新王国は人々の笑顔溢れる良い国だが、そう簡単に順応出来るとは思えない。
「あのさ、一夏君。君さえ良ければだけど……取り敢えずはこの学園にいたらどうかな?」
「「「「「「「…………えっ?」」」」」」」
ルクスの唐突な申し出に、その場にいた一同の目が点になった。
逸早く我に返ったのは、普段から冷静沈着であるクルルシファーだ。
「ルクス君。簡単には言うけど、貴方がこの学園にいるのだって『将来の共学化を検討しての試験入学』というかなり特別な措置よ。それなのに2人目なんて……」
「1人よりも2人の方が有意義なデータは取れますよ。それに雑用や警備には男の人が採用されてますし、年齢を問題にされても別の道があります」
「大丈夫、だよ。もしもの時は、私がお姉ちゃんを、学園長を説得するから」
「ありがとう、フィーちゃん」
それに……、とルクスは一夏の方に視線を向け、
「いざとなったら彼を弟として迎え入れるくらいの覚悟はありますよ」
「カッコよく言ってるところ悪いが、恩赦で釈放された『咎人』のお前が兄では義弟になるコイツも苦労するぞ」
「だ、だから! それくらいの覚悟って事ですよ!」
一夏を誰が引き取るかについてはまだ問題があるだろうが、少なくともこのルクスは自分を受け入れてくれた。
今まで誰からも虐げられてきた一夏は、何故彼がそこまでしてくれるのかが分からない。
「い、良いんですか? 俺は出来が悪いから、迷惑なんじゃ……」
「迷惑なんかじゃないよ。それに出来が良い悪いなんて、人それぞれなんだし」
「そうよ。ルクス君だってこんな純朴そうに見えて、実は覗き魔な上に下着泥棒だったりするのよ?」
「まだそのネタ引っ張るつもりなの!? あれは誤解なんだってば!?」
喧騒が医務室に響き渡る中、一夏の目には涙が溜まっていた。
こんな優しい言葉を聞いたのは何年ぶりだろうか。もしかしたら初めてかもしれない。それを当たり前のようにしてくれるルクス達の行為が、嬉しくてたまらない。
「ありが………とう、ご……ざい…………ます」
それは、宇宙空間での活動を想定して開発されたマルチフォーム・スーツ。
開発された当初は全く注目されなかったが、ISの生みの親篠ノ之束が日本を射程距離内とするミサイルの配備された全ての軍事基地のコンピュータを一斉にハッキングし、2341発以上のミサイルを日本に向けて発射。その約半数を搭乗者不明のIS《白騎士》が迎撃した上、捕獲もしくは撃破しようと各国が送り込んだ大量の戦闘機や戦闘艦等の軍事兵器の大半を無力化。後に『白騎士事件』と呼ばれる事件により、従来の兵器を凌駕するISの圧倒的な性能が世界中に知れ渡り、宇宙進出から軍事方面へと転用、各国の抑止力の要として移行していった。
やがてその歪みは大きくなっていく。戦車や戦闘機を始めとした兵器は旧式化し、男女の地位は逆転、女尊男卑の風潮が広まっていった。
そんな世界に織斑一夏という少年がいた。
件の篠ノ之束と友人関係にある姉の千冬とあらゆる物事を十全に熟せる秋斗と春斗を兄に持ち、両親に捨てられた不遇な環境でもそれなりに幸せだった。
だが、ISが広まりだした頃からだろうか。次第に彼はこの歪んだ世界を憎悪するようになっていた。
俗に言う天才肌の姉や兄達の足手纏いになりたくないと思い、彼は勉学も家事も恐ろしいほどに努力を積んできた。そんな彼を姉は褒めてくれた。だからこそ、彼はその想いに応えるべく更に上を目指し努力を続けた。
だが、千冬がISによる世界大会モンド・グロッソで総合優勝及び格闘部門で優勝し、ブリュンヒルデ
世界最強の女性
の称号を得たのと同時期に、周りの人間全員が一夏の事を『織斑千冬の付属品』としか見なくなった。
「お前は本当に織斑なのか?」「織斑の面汚し」「姉や兄を見習え」「あんたなんか消えてしまえばいいのに」などいろいろな言葉を言われてきた。
良い結果を出そうとも悪い結果を出そうとも、周囲の評価は結局は同じ。時には付属品どころか『織斑家の出来損ない』と罵倒され、暴力を振るわれる事さえあった。
それでも一夏は努力を続けた。周りの評価など関係ない。愛する家族さえ認めてくれれば。
だが、現実はそれまでしてきた努力さえも無残に踏み躙る。それを第2回モンド・グロッソにて千冬の応援の為にドイツまで訪れた時に思い知らされた。
千冬は順調に勝ち進み、後一歩で優勝という所まで来ていた。だが、決勝戦開始前に一夏は突如現れた男達の手によって誘拐される。手や足を手錠や縄で縛られ身動きが取れない一夏の前で、男達は『織斑千冬の優勝阻止』という依頼が成功した事に歓喜した。3人しかいない肉親の一人である一夏を誘拐した事でその依頼は成功したも同然だった。
男達は嬉々とした表情で互いに成功を祝福し、時に娯楽と称して一夏に暴行を加えながら、後から来た依頼人だという女も交えて祝杯を上げていた。だが、その歓声は唐突に破られる。
「 おかしいぞ! 日本代表の織斑千冬が決勝戦に出てやがる!」
そう言って誘拐犯の一人は小型テレビを仲間の前に差し出す。
画面には、男が言っていた通り、決勝戦に出場して戦っている千冬の姿が映し出されていた。
「おい! ちゃんと伝えたんだろうな!」
「あ、あぁ、勿論だとも! ……まさか弟より名誉を選んだってのか」
この不測の事態に誘拐犯達は一様に動揺し、冷静な判断が出来なくなっていた。
そしてそれは、今まで信じてきた者に裏切られた一夏も同じだった。
『お前達は私の大事な家族の1人だ』
(何が大事な家族の1人だよ。やっぱり自分の名誉が大事なんじゃないか……!)
その時彼は家族に、この世の全てに絶望した。
今まで家族の事を思って生きてきたというのに、その想いはあっさり切り捨てられた。
女がそう言うと同時にその右腕が一瞬光り、機械の腕と人間に向けるには巨大過ぎる銃が出現する。
素人でも分かる、あれは間違いなく世界最強の兵器ISの武装だ。
だが、不思議と一夏の胸には哀しみなどの感情は沸いてこなかった。これで自分を戒めていた全てから解放されると、寧ろ安堵していた。
「さぁ、お祈りは済んだかしら?」
ガシャ! という金属音と共に銃口が向けられ、女の指がその引き金に掛かる。
対する一夏はせめて最後は痛みなく逝きたいと願い、瞼を閉じてその時を待つ。
だが、その直前、
「な、何だ、ありゃ!」
誘拐犯の一人が突如驚愕の声を上げ、同時に引き金に掛かっていた女の指が止まる。
「何よ? 折角良いところだったのに……」
「そ、それどころじゃねえよ! あ、あれ!」
困惑した声を上げながら、一夏達が立つ位置の更に奥の方を指差す男。
苛立ちを覚えつつも、煩わしげに女が其方に視線を向けると、
「……え? な、何、あれ……?」
彼女の視線の先にある景色、空間が歪み、ブラックホールの如き漆黒の渦が発生していた。
加えて、それは次第に大きさを増しながら、周囲に存在するもの全てを中心へと呑み込み始める。
「ちょ、マジでヤバいってこれ!? に、逃げろ!!」
「言われねえでもそうするよ!」
「あ、アンタ達、何私を置いて逃げ……ってきゃああああッ!!」
後方の仲間になど目もくれず我先にと逃げ出す男達だったが、そんな抵抗も虚しく何人かが渦の中に消えていく。
ISを展開していた女までも姿を消していき、やがて、
「う、うわぁあああああああああああああッ!!」
拘束されていた一夏までも渦は呑み込み―――彼はこの世界から姿を消した。
♞
とある世界にもまた、世界最強を謳う兵器が存在した。宇宙進出から軍事転用されたものとは違う、正真正銘の兵器が。 装甲機竜。対となる機攻殻剣を抜剣する事で召喚され、伝説の竜を模した機械装甲を身に纏い、一騎当千の戦力を得られる古代兵器。
世界に7つ発見された遺跡から発掘されたそれは、転送を始めとした原理が解明されいないものの、過去数百年で培ってきた戦争概念を一瞬にして覆した。
発見当時の世界の覇権を握っていたアーカディア帝国が男尊女卑の風潮と制度を強いてきた事で使用は殆ど禁じられていたが、5年前のクーデターにより帝国が滅び、後にアティスマータ新王国が設立されたのを境にその認識は一変。女性の方が遥かに相性適性が上というデータが報告され、以後専門の育成機関を設立、他国に劣る事のない機竜使いの士官と揃えるべく、その育成に力を注いできた。
その機竜使い育成機関が、十字型の城塞都市『クロスフィード』の中心部一番街区に立てられた王立士官学園だ。
そして現在、敷地内に設けられた旧時代の円形闘技場
を彷彿とさせる装甲機竜の演習場には、士官候補生である少女達と特別措置によって入学した一人の少年がいた。
「それでは、これより装甲機竜の実技演習を執り行う」
旧帝国時代には唯一の女性機竜使いとして活躍し、現在は教官を務めるライグリィ・バルハートの言葉を受けた生徒達は迅速に各々の班を作っていく。
そんな中で誰とも相談する事なく自然と集まり、更には一段と目立つ班があった。
「あ、ふぁあああ……」
「リーシャ様、ひょっとしてまた明け方まで作業していたんですか?」
「ああ、装甲機竜の新実験でちょっとな」
一部を黒のリボンで括った金髪が特徴の少女が欠伸をしたのを見て、黒の首輪を嵌めた白銀の髪を持つ少年が心配そうに覗き込む。
少女の名はリーズシャルテ・アティスマータ。その名の通り旧帝国に対してクーデターを起こした亡きアティスマータ伯の娘である。"朱の戦姫"の異名を持つほどに戦闘方面の才覚を見せる上、新たな機竜を作るレベルの改造などの技術者としての実力も併せ持っている。
そして彼女と話す可愛らしい顔立ちの少年はルクス・アーカディア。こちらもその名が示す通り旧帝国の生き残りの皇族であり、首輪は新王家の恩赦を受けた『咎人』の証である。
悪い言い方になってしまうが、簡単に表現するなら奪った側と奪われた側。一般の人間からすれば仲睦まじく話す仲ではないだろうと思われるかもしれないが、彼等の間にそのような溝はない。これまで幾度か巻き込まれてきた事件の中で育まれた絆と言うものだろう。
「大丈夫ですか? 僕で良ければ何時でも力になりますよ。一人で作業するより、2人の方が捗りますから」
「う、うん、そうだな。じゃあ今日の夜にでも早速……」
「あら駄目よ。今夜はもう私との勉強会の予定が入ってるんだから」
そう言ってルクス達の会話に割って入ったのは、新雪を思わせる白い肌と蒼い長髪が神秘的な美しさを醸し出す少女―――クルルシファー・エインフォルク。北の大国ユミル教国からの留学生であり、学問・実技共に優秀な成績を収める才女。
幼少の頃にとある事情で宮廷を追い出されたルクスは技術的な事を学ぶ事は多かったが、学問に触れる機会は少なかった。学園では機竜関連だけでなく武官や文官になる為の授業もあり、クルルシファーは時折勉強会を開いてはルクスの力になってくれている。
「なッ!? よ、夜の勉強会だと……!?」
「それだと何だか卑猥に聞こえるから、夜に勉強会と表現すべきよ。でもそうね、この機会にルクス君が前々から興味を持っていた性に関する事でも……」
「変な言い方は止めてよ!? 別にクルルシファーさんが言うほど興味がある訳じゃないし……!」
「全然? これっぽっちも?」
ルクスの腕に自分の腕を絡めながら尋ねるクルルシファーを前に、う……! とルクスは言葉に詰まる。
彼も健全な17歳である為、そこまで突っ込まれると否定する事が出来ない。
「え、ええい、離れろ2人共! 此処は学園内だぞ! それに言っておくがクルルシファーよ。前にも言ったが私はルクスとはもうデートで手を繋ぐほどの仲だ! その程度では私を追い越すなど夢のまた夢だぞ!」
「だから、恋愛において手を繋ぐのは特に凄い事ではないわよ? せめてキスが出来るくらいに積極的になって、初めてリードしたと言うべきね」
「き、キキキキス!!? あ、ああ、するとも! これから幾らでもしてやるとも!!」
「私はもう、ルーちゃんと昔、キスした事あるけど?」
ぐはぁッ!? と横合いから放たれた衝撃の事実を前に、リーシャは吐血しかねない勢いで吹き出した。
その間延びした言葉を紡いだのは、ふわりとした桜色の髪を2つのリボンで纏めているフィルフィ・アイングラム。大商家アイングラム財閥の次女にしてルクスの幼馴染み、更に実姉のレリィ・アイングラムはこの学園の学園長を務めている。
ちなみに彼女は気に入った相手に対しては愛称で呼び、呼ばれる仲を求めてくる。ルクスがこの学園に入学した初日に彼女と再会した際、彼が『フィーちゃん』と呼ばなかっただけで不機嫌になるほどだ。
「ちょッ!? ふ、フィーちゃん! それは今言わない方が……!?」
「どうして?」
「ど、どうしてって……」
「お前達、そろそろ演習を始めようか。それとも私が組んだ特別メニューに挑みたいか?」
女性の悲しむ顔に弱いルクスは何と答えれば良いか困惑していると、そこに救いの手が差し伸べられた。
否、それは果たして救いだったのだろうか。例え王女のリーシャであろうと容赦しない女教官
ライグリィ
を前に、ルクス達は思わずその身を縮こませる。
「ら、ライグリィ教官……!」
「い、いえ! 直ぐに始めさせていただきま……!」
最後まで言い切ろうとしたリーシャだったが、それは叶わなかった。
―――ドンッッッ!! と腹の底から響くような爆音が突如発生し、同時に周囲を土煙が覆い尽くす。
「な、何!? 何なの!?」
「まさかまた幻神獣がッ……!?」
「落ち着け! 下級階層の生徒は機攻殻剣を抜くな! 慌てずに校舎に退避しろ!」
士官候補生と言えどもまだ年端もいかない少女達。突然の緊急事態に迅速に対応出来るほどの技量も精神もまだ持ち合わせてはいない。故にライグリィの指示を受けた一部の生徒達は即座に校舎内へと消えていく。
残ったのはルクスや学園の遊撃部隊『騎士団』に所属するリーシャを始めとした面々。彼等は次に何が起きても良いよう、既に刀身に銀線が走った機攻殻剣を抜いていた。
全員が距離を置きながら静かに見据えていると、次第に立ち込めていた粉塵が晴れていく。其処には額から血を流した明らかに重傷な少年と、拳銃を握った強面の男性数名、そして装甲機竜にも似た機械鎧を纏う一人の女性がいた。
「お、おい! 何だ、何処だよ此処は!?」
「俺が知るか!」
男達の方も突然の事態に困惑しているようだが、こちらを惑わす為の演技の可能性もある為に油断は出来ない。
だが、そんな考えなど一瞬で吹き飛ばすような行動を男の一人が起こした。
「取り敢えず囲まれてるみてぇだし、このガキを人質に……!」
(マズい……!)
そう判断すると同時にルクスは地面を蹴っていた。既に鞘から抜いた機攻殻剣の切先を正面に向け、身体を伸ばし切ると共に鋭い突きを放つ。
今まさに傷だらけの少年―――一夏に向けて拳銃を構えていた男だったが、一瞬の間に放たれた突きにより彼の掌から武器が弾け飛んだ。
「んなぁッ!?」
「彼を置いて早急にお引き取りください。出来れば穏便に済ませたいので」
「な、嘗めるなよ! このガキ!」
逆上して叫ぶ男に合わせるように、周りにいた他の男達も拳銃やナイフを抜いて多方向からルクスに攻撃を仕掛ける。
だが、一撃たりともそれらはルクスの身体に傷を付けるには至らなかった。音速を超えて飛来する弾丸を銃声が聞こえた直後に僅かに身体を反らす事で躱し、迫り来る凶刃は機攻殻剣で受け、いなしていく。
(す、凄い……!)
意識は朦朧としているが、その光景はしかと一夏の目に焼き付いていた。
刃も銃弾も決して彼には届かず、相手がナイフを振り下ろした瞬間や弾切れを起こした一瞬の隙を見逃す事なく、次々と機攻殻剣の柄を用いた打撃によって意識を刈り取っていく。
舞踊と見間違うほどの流れるような動作に目を奪われていると、凶弾が飛び交う中を誰かに連れ出された。
「大丈夫?」
「え、あ、はい。何とか……。あ、ありがとうございます」
先程まで受けた暴行により身体の節々が痛むが、一応生きてはいる。
自分を乱戦の中から救助してくれたフィルフィに礼を言った後、一夏は再びルクスのいる方に視線を向けた。其処にあったのは、十人近くいたはずの男達を全て地面に叩き伏せたルクスの姿だった。
「何だ、私達の出る幕はなかったか」
「当然ね。この程度の相手じゃ、彼にとって脅威にならないもの」
声のした方に視線を移すと、リーシャとクルルシファーが彼に向けて感心と何処か恋慕の色を帯びた視線を送っていた。あれほどの動きが出来て当然と評価する2人の言葉に、彼が本気を出せばこれ以上の事が出来るのだろうかと一夏は勘繰る。
だが、そんな彼の思考に苛立ちの交った女の声が割って入る。
「これだから男は駄目ね」
ハッ! と一夏は慌ててその音源を見ると、今まで状況を傍観していたISを纏った女が臨戦態勢に移っていた。
「貴方、ちょっとは出来るみたいだけど……男風情が調子に乗ってんじゃないわよ!」
武器は遠距離戦の銃から、接近戦用の大剣へ。何方
どちら
にしても人間を殺すには過剰な武装。
だが、当の女は生死に関する道徳など全く気にする様子も見せず、躊躇いなく大剣をルクス目掛けて振り下ろした。対する彼はバックステップでその一撃を回避したが、ISと生身の人間ではやはり戦力差が大き過ぎる。
「あ、あの、早くあの人を助けに行かないと! 生身でISの相手なんて出来るはずが……!」
「そのアイエス……? というのが何かは知らないけど、あんな大振りで隙だらけな攻撃じゃルクス君に傷一つ付けられないわよ」
それに……、と一夏の必死の訴えにクルルシファーは微笑で応え、
「流石の彼も、あれを相手に生身で相手をするつもりはないわ」
彼女がそう呟くのと同時、戦況は動いた。
ISを纏った女から大きく距離を取ったルクスが、機攻殻剣の柄にあるボタンを握りながら押し、機竜を目の前に転送する為の詠唱符を叫ぶ。
「―――来たれ、力の象徴たる紋章の翼竜。我が剣に従い飛翔せよ、《ワイバーン》」
同時に契約者の声を認識した刀身の銀線が青白い光を帯び、キィン! と短い音と共に高速で光の粒子が集束。
やがて人間を二回りほど大きくしたような、蒼の機竜がルクスの前に姿を現す。
「ッ!? あれは……!」
「接属・開始」
呆気に取られる一夏の眼前でルクスがそう呟くと、流線型の機械が内側から開き、無数の部品へと展開される。
それらはルクスの両腕、両足、胴体、頭部へと向かい、高速で連結―――装着され、彼の身体を覆う装甲と化した。
「え、ちょッ!? な、何で男の貴方がISを使えるのよ!?」
「これはISというものじゃありませんよ。装甲機竜です」
驚愕と共に発せられた女の疑問に律儀に返答しながら、機竜牙剣を構えたルクスの《ワイバーン》は高速で肉迫する。
「ッ! は、速い……!」
汎用機竜の中でも特出した飛翔能力を持ち、機動性に優れる《ワイバーン》。ルクスが扱うものは装甲強化のパーツを付け、防御特化の改造が施されている為に多少その速度は落ちているが、それでも女を驚かせるには十分な機動力を誇っていた。
一瞬呆然としていた女だったが、直ぐに我に返ると大剣を拡張領域に仕舞い、新たに人間の腕程の大きさを持つ銃を量子変換する。
馬鹿正直に真正面から来るのなら、こちらはそれを悠然と迎え撃てば良い。後に残るのは勝者の女と敗者の男という、女尊男卑の正しい社会の姿だと女は確信していた。
「くたばれ! 間抜けな男風情がッ!」
ドン! ドドン! と立て続けに発砲音が炸裂し、ルクスの眼前に恐ろしい速度で弾丸が迫る。
「……!」
だが、彼は至近距離で放たれた弾丸を、エネルギーを纏わせたブレードの切っ先で逸らし、回避する。
その後も角度を変えて何発か撃ち込みはしたが、全ては徒労に終わる結果となった。
「何で!? 何でそんな正確に、たかが剣で……!」
「どれも急所を狙った単純な銃撃だったので。銃口の向きで狙いは分かりましたし、あとは発砲音を聞いた瞬間に動いただけです」
簡単に言ってのけるルクスだが、言葉にするのと実際に行動するのとでは訳が違う。今まで見下してきた男に言い様にされている事に女は苛立つが、実はルクスはこの時点で全く本気を出してはいない。
普段の彼は相手のスタミナ切れを狙った防御に主眼を置く戦闘スタイルを取っている。月に一度王都のコロシアムで行われる公式模擬戦においても同様の戦術により彼は無敗を誇っているが、結果は全て引き分け。それ故に付いた異名が『無敗の最弱』。
そんな戦闘スタイルを取るのには理由があるのだが、それを差し引いても彼がこうまで前に出て先手を取る姿は珍しい。だが、仮にこの場にいる誰かに理由を尋ねたとすれば、その答えは容易く返ってくる事だろう。
『あんな大振りで隙だらけな攻撃じゃルクス君に傷一つ付けられないわよ』
先程のクルルシファーの言葉。この事から導き出される結論は、『無敗の最弱』としての技量で挑む必要がないほどの―――圧倒的な力の差。
それもそのはず。ISには絶対防御という機能が付いている為、操縦者が死ぬ事は絶対にない。だが、ルクス達の駆る装甲機竜は障壁こそ展開出来るものの、そんな都合の良い機能は備わっていない。
戦場にて奪う覚悟しか持たぬ者と、奪い奪われる覚悟を持ち合わせている者。何方の技量がより優れているかなど分かりきっている。
「舐めないで!!」
銃撃戦は意味を為さないと判断した女は改めて大剣を呼び出し、近接戦闘へと切り替える。だが、やはり彼女と今までルクスが戦ってきた公式模擬戦の対戦者達では実力が違い過ぎた。
『無敗の最弱』としての技量がここで初めて、僅かにだが発揮される。まるでどの方向から振るわれるのか分かっているようにブレードで女の大剣を防ぎ切り、その際に出来た一瞬の膠着を見逃さずに切り付ける。それにより徐々に、それでいて確実に女が纏うISのシールドエネルギーが減少していく。
自分は選ばれた強者であり、男達は不様に地を這うだけの存在。そんな絶対の方程式までも崩れていく音が聞こえ始め、冷静な判断力を失った女は、
「こ、こんのォオオオオオオオオオッ!!!」
細かな戦術を立てようという思考すら頭の中から消え去り、ただ大上段に構えた大剣を力任せに振り下ろした。
対するルクスもまた、迫り来る刃を見据えながらブレードを構え、
―――ドンッ! と。
目で追う事も出来ない神速のブレードが、ISの装甲を打ち砕いた。
「そ、そん、な……!?」
最強無敵と信じてきた兵器が、自分の力が砕かれたという事実を認識した直後、女の意識が薄れていく。
『神速制御』。肉体制御と精神制御、異なる二系統からの操作を一連の動作に完璧に重ねる事で、一動作のみ目にも止まらぬ攻撃を繰り出す絶技。嘗ての帝国軍に伝わる、
ルクスが編み出した機竜使いの三奥義の一つである。
「あ……」
自分の世界で広まっていた女尊男卑。一夏の前に広がる光景は、その悪しき風潮をルクスが断ち切ったように見えた。
そんな彼の姿に一夏は驚愕と共に尊敬の念を抱く。だが、元々出血が酷かった事もあり早々に体力の限界が訪れ、彼の意識は闇へと沈んでいった。
………
……
…
「う、うぅん……。 あれ、此処は……?」
次に目覚めた時、一夏は全身に包帯を巻かれた状態でベッドの上で寝ていた。
消毒液特有の臭いがする事から考えるに、恐らくは医療に関連した施設なのだろう。自分が知っているような白壁ではなく、やけに高級感漂う石造りな事が気になるが。
「あ、目が覚めた?」
そんな声が聞こえてきたかと思うと、一夏の視界に明らかに自分より年上であろう白いの髪を持つ少年が覗き込んできた。
見間違えるはずがない。それは大勢の男達とISに乗った女を一人で撃退した人物だった。
「大量出血で危険な状態って言われてたけど、意識が戻ったのなら大丈夫そうね」
「ああ。折角ルクスが助けたのに死なれたのでは寝覚めが悪いしな」
続けて少年の背後から聞こえてきた声にも聞き覚えがあった。
何とか首を動かして其方を見ると、やはり先程まで一緒だった7人の少女達が其処にいた。
「気分はどう? 何処か痛むところはある?」
「いえ、大丈夫です。おかげさまで何とか……」
「寝てて良いよ。まだ動いて良い状態じゃないんだから」
「あ、ありがとうございます」
痛む身体に鞭打って起き上がろうとしたが、少年が一夏の肩を掴む事で制止させる。
そのままベッドの上に戻された後、少年達が自己紹介を始めた。
「自己紹介がまだだったね。僕の名前はルクス・アーカディア。よろしく」
「リーズシャルテ・アティスマータだ」
「私はクルルシファー・エインフォルク。よろしくね」
「フィルフィ・アイングラム……」
「YES.ノクト・リーフレットです」
「私のことはシャリスとよんでくれ」
「私のこともティルファーでいいよー♪」
「セリスティア・ラルグリスです」
「織斑一夏です」
髪色から分かってはいたが、全員外国人。悲しきかな、道を尋ねようとする外国人が声を掛けてきただけで膠着してしまうのが日本人。
幸い彼等は日本語が達者なようだが、美男美女に囲まれている事もあって嫌でも緊張してしまう。
「それでいきなりだけど、君に何があったか教えてくるかな?」
「……はい」
無理はしなくて良いよ、とルクスは気遣ってくれたが、怪我を除けば体調も良い方な上に隠す必要も無い為、今までの出来事を全て話した。
姉の織斑千冬の応援にドイツへ来た事、その最中で千冬の優勝を阻もうとする者達に誘拐された事、そして家族に見捨てられた事に絶望しているた時に謎の黒い穴に呑み込まれた事を。
時折『ISとは何か?』等のような自分にとっては常識である事を尋ねられた事に驚きはしたが、全て話し終えた頃には全員思案顔にはなったが何とか納得してもらえたようだ。
「あの……俺からも一つ聞いていいですか?」
彼等の思案している様子も気になるが、自分も先程からある事が気になっている為、意を決して質問する。
「ん? 何?」
「此処は何処ですか? 見た感じ日本じゃないし……」
「あー……うん、そうだね。それを教える前に、ある大前提を話すよ」
ゴホン! とルクスは軽く一度咳払いした後、
「この世界に、君の言う"日本"っていう国はない。ついでに言うとISも存在しない」
「………………へ?」
「で、それらを踏まえて考えると……信じられない事だけど、君は異世界に来てしまった……って事になるのかな?」
頬を掻きながら苦笑するルクスの口から告げられた事実に、本日二度目の石化を一夏は体験する。
あまりに突拍子もない事に気絶しなかった自分を心の底から褒め倒したいと思う。
「い、いやいやいや! まさかそんな……!」
「うん、その気持ちは分かるよ。僕達もまだ信じられないし。まぁ、取り敢えず君の世界の事を話してくれた訳だし、今度はこの世界の事を教えてあげるよ」
とは言っても、今自分達がいる国の事を話すだけでも最低5分は費やしそうだが。
そんな事を思いながらも、クーデターによって滅んだ帝国と新たに生まれた新王国の事、装甲機竜についてなどを出来る限り掻い摘んで話した。
「えっとつまり……ISと同じような装甲機竜っていう古代兵器がこの世界には有って、その圧倒的な軍事力を背景にルクスさんの父親が皇帝だったアーカディア帝国は男尊女卑の圧制を敷いていた。
けど、5年前のクーデターで帝国は滅んで、今俺がいる此処はリーズシャルテさんの叔母が女王に就いた新王国……。凄いな」
「うん。取り敢えずそれだけ分かってくれれば良いかな」
驚愕と同時に感嘆している一夏に、思わず後ろに控える少女達は苦笑を漏らす。その顔は欲しかった玩具を買ってもらった子供のように輝いて見えるのだ。
だが、次第にその輝きは薄れていき、その顔に影が差した。謎の穴を通って異世界に来たは良いものの、その穴の正体が不明なのだから戻る方法も分かるはずがない。落胆するのも当然だろう。
「おい、大丈夫か……って、そんな訳ないよな。いきなり異世界に来て、帰る家族とも会えなくなったんだから」
「あ、いえ。その事については何とも。……寧ろ、これで良かったのかもしれないなって」
ん? と何処か安堵した様子を見せながら紡がれた一夏の言葉に、一同は首を捻る。
「さっきも言った通り、俺の世界はISが登場してから歪みました。周りも千冬姉の弟だからって、俺の存在を否定して……。最終的にはその姉にまで見放されました。
だから、いっその事この世界で新しい人生を謳歌するのもアリかなって……」
自虐的に笑っている中に含まれた憎悪の感情に、彼がどれだけ虐げられてきたのかが簡単に想像出来る。
だが、そうは言っても今の一夏は身寄りのない子供。帝国時代とは違って新王国は人々の笑顔溢れる良い国だが、そう簡単に順応出来るとは思えない。
「あのさ、一夏君。君さえ良ければだけど……取り敢えずはこの学園にいたらどうかな?」
「「「「「「「…………えっ?」」」」」」」
ルクスの唐突な申し出に、その場にいた一同の目が点になった。
逸早く我に返ったのは、普段から冷静沈着であるクルルシファーだ。
「ルクス君。簡単には言うけど、貴方がこの学園にいるのだって『将来の共学化を検討しての試験入学』というかなり特別な措置よ。それなのに2人目なんて……」
「1人よりも2人の方が有意義なデータは取れますよ。それに雑用や警備には男の人が採用されてますし、年齢を問題にされても別の道があります」
「大丈夫、だよ。もしもの時は、私がお姉ちゃんを、学園長を説得するから」
「ありがとう、フィーちゃん」
それに……、とルクスは一夏の方に視線を向け、
「いざとなったら彼を弟として迎え入れるくらいの覚悟はありますよ」
「カッコよく言ってるところ悪いが、恩赦で釈放された『咎人』のお前が兄では義弟になるコイツも苦労するぞ」
「だ、だから! それくらいの覚悟って事ですよ!」
一夏を誰が引き取るかについてはまだ問題があるだろうが、少なくともこのルクスは自分を受け入れてくれた。
今まで誰からも虐げられてきた一夏は、何故彼がそこまでしてくれるのかが分からない。
「い、良いんですか? 俺は出来が悪いから、迷惑なんじゃ……」
「迷惑なんかじゃないよ。それに出来が良い悪いなんて、人それぞれなんだし」
「そうよ。ルクス君だってこんな純朴そうに見えて、実は覗き魔な上に下着泥棒だったりするのよ?」
「まだそのネタ引っ張るつもりなの!? あれは誤解なんだってば!?」
喧騒が医務室に響き渡る中、一夏の目には涙が溜まっていた。
こんな優しい言葉を聞いたのは何年ぶりだろうか。もしかしたら初めてかもしれない。それを当たり前のようにしてくれるルクス達の行為が、嬉しくてたまらない。
「ありが………とう、ご……ざい…………ます」
あーやっぱきついですねw
次回も早く投稿できるようにがんばりますw