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世界の「残念な」ビジネスマンたち(第7回 ウズベキスタン)

2016年03月14日 公開

石澤義裕(デザイナー)

中央アジア一の働き者、なのに働けども働けどもGDPハアガラズ……

ユートピアを探し求めて道に迷った、旅夫婦です。
等身大のノマドとして、死なない程度に日銭を稼いで10年と少々。
660ccの軽自動車にベッドを取り付け、稚内からシベリアを駆け抜けて蒼きシルクロードを横断中。
氷点下の車中泊では、妻Yukoと足の裏を合わせて寝ています。

 

いまだ「ソ連」が健在な国


食堂の店主。手にしているのは、羊の焼き飯「プロフ」。一杯100円。

世界にたった2カ国しかない二重内陸国のひとつ、ウズベキスタン。報道の不自由度ランキングで、北朝鮮の次にランクインする束縛系緊縛国家です。

名だたる人権団体から、本人に無断で不妊手術する人口抑制策を諌められ、不当逮捕、信教、言論の侵害を訴えられる独裁系。

国連拷問等禁止条約に署名していますが、反体制新聞社の編集者に電気ショックをかけたり、疑わしき者を生きたまま釜茹でにしたり、イギリスのテロリストを預かって自白強要を請け負う商魂。拷問による自白でも、証拠として採用する裁判制度です。

また公務員と政治家の腐敗認識指数では、179カ国中175位の上位入賞。
腐臭ぷんぷんたる政治家の号令のもと、いまだにソ連に押し付けられた綿花栽培に励みます。

そもそも綿花栽培に向いていない、降水量の少ない土地。アラル海を干上がらせてでも強引に水を引っ張ったため、あの「20世紀最大の環境破壊」と相成ったのですが、あまり気にしている様子はありません。

綿花の収穫時は、学生、教師、公務員が「ボランティア」として働く国家総動員態勢です。1日の収穫ノルマは、最低60キログラム。

ボランティアの粉骨砕身が実を結び、綿花の生産量は世界第6位に輝きます。
児童強制労働のかどで、100社を超える企業から「ウズベキスタン産の綿を使用しない」とボイコットされています。

 

「対立候補すら投票してしまう」無敵の大統領


干上がったアラル海。船の墓場と牛。

拷問と強制労働で自由のないウズベキスタンにおいて、自由奔放に人生を謳歌しているのが、大統領のイスラム・カリモフ氏です。

アメリカから5億ドルもの援助を受け取っても、干渉されればすぐに米軍を追い出すアグレッシブな外交力。
独立してから25年、その座を「狙われた」ことすらありません。

居眠りを放映されて国営テレビの総裁をクビにする大人げない面がありますが、ユネスコから表彰されたほどのジェントルマンです。

ほぼ満場一致の国民投票で、任期が延長されること2回。対立候補ですら投票してしまったと告白する、無敵の大統領です。

2007年1月に任期が終了したときは、選挙すら開催されないポピュリズムの真骨頂。後任が決まらないイスラム・カリモフ氏が、そのまま11ヶ月間も大統領の椅子に座り続けますが、むしろ「体制」に影響はありません。

神経質な西側諸国なら、不戦勝居座り大統領とはいかがなものかと、マスコミやら国民やら対立候補が騒ぎ立てるものですが、波ひとつ立たない天下太平ぶりなのです。

つい昨年の選挙では、大統領の3選は禁止されているにもかかわらず、これまた誰にツッコまれることなく4選連続当選。ギネス級の快挙を成し遂げます。

欧米は八百長選挙を疑いますが、それは冤罪です。
そもそも「体制派の野党」しか登録を認めないので、どうして対立候補の妨害や票のごまかしが必要でありましょうか。感謝すべきは、対立候補なのですから。

ちなみに信教の自由を保証しますが、異教、邪教は認可しないので、そこのところよろしくお願いします。

 

「10秒の仕事を3人で15分」究極の分業システム


中央アジアで人気の串焼き「シャシリク」。

ウズベキスタンは天然資源に恵まれ、ウランの生産量は世界第7位。金は8位。天然ガスの埋蔵量15位。石炭19位。綿花の輸出は自然破壊級の強制労働で、第5位。
中央アジアの人口の半分を牛耳り、中央アジア一の働き者とおだてられています。

しかしながら一人あたりのGDPは、トルクメニスタンの4分の1。カザフスタンの6分の1。世界平均の20%しか稼ぎしかありません。

働けども働けども、リソースに反比例する生産性の悪さ……。
その秘密を国境事務所で目撃します。

多くのスタッフが「さも」忙しそうに右往左往していますが、反面、電池が切れたように呆けているスタッフも少なくありません。

仕事をタスク数で分けず、職員数で割っていると見ました。仕事をケーキでも切るように平等に分けあい、誰ひとり失業しないシステムです。

このウズベク流分業制は、細分化したぶんだけ混乱しているように見えますが、書類が行方不明になっても、あるいは迷宮入りしても、誰の仕業だかわからないという長所があります。

お陰さまで、旅行者の倍以上もスタッフがいるのに、事務手続きはコマ送り級のスローペース。しょっちゅう巻き戻っています。

国境ゲートでは、アサルトライフルを下げた迷彩服の兵士が車両を撮影し、別の職員がコンピュータでナンバープレートを自動テキスト化。三人目が、そのナンバーを車両書類に印刷します。

しかしなぜか何回撮影し直しても、ナンバーを読み取れません。

手で書けば10秒とかからない作業に、3人もの人員が割かれて15分。効率よりも「連帯」を大切にするのが、元ソ連組みの矜持です。

車の荷物検査に立ち会った職員は、5人。
一人が荷物をまさぐったり揉んだり透視している間、残りの4人はお喋りか、携帯電話か、煙草か、欠伸をして待機。

半分も検査しないうちに、任務は遂行したという様式美を残して、つまりは最後の30秒だけはテキパキと立ち振る舞い、挨拶もなく自由解散。

たかが軽自動車だし、まったくもってひとりで十分です。

 

営業マンは偉い人!?

  
ウズベキスタンでは、闇両替えを利用します。20米ドルを両替えすると、200枚のお札になり、これを夜道で数える恐怖。

唯一英語の話せる職員が、保険の手続きをしなさいと電話番号をくれました。

「この番号に電話して、英語が通じるの?」

「No!」

彼の役目は電話番号の連絡だけ。
心の通わぬ分業制ですから、川下に関心はありません。

宿に到着後、スタッフが友達の勤める保険会社を紹介してくれました。

1時間も遅刻してきた営業マンは、詫びることなく愛想もない鉄仮面氏。
10カ所くらいしか記入欄のない書類に、たっぷりと1時間もかける慇懃無礼な仕事ぶりです。

保険代を支払うと、宿のスタッフが、

「200円ほどタクシー代を払ってやってください。わざわざ来てくれたのですから」

営業マンにタクシー代っ?

460円の契約に200円っ!

その泥棒に追い銭的優しさは、ウズベク流ですか?

会社勤めをしたことのない一般的なウズベク人は、営業マンなる人と商談をすることがありません。意味もなく彼らを崇めたてまつり、チップをはずみたくなるようです。人のお金で。

後日、1行書くのに5分くらいかけた保険証書ですが、日付が間違っていてエラい目に遭いました。
拷問も辞さないウズベキスタンの国境で、不法滞在の嫌疑です。

 
シルクロードの古都「ヒヴァ」の旧市街。毎日、結婚式。気温10度。薄着の花嫁さんは、さぞかし寒いことでしょう。

著者紹介

石澤義裕(いしざわ・よしひろ)

デザイナー

1965年、北海道旭川市生まれ。札幌で育ち、東京で大人になる。新宿にてデザイナーとして活動後、2005年4月より夫婦で世界一周中。生活費を稼ぎながら旅を続ける、ワーキング・パッカー。

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