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高木浩光@自宅の日記

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2016年03月14日

治外法権のeLTAX、マルウェア幇助を繰り返す無能業者は責任追及されて廃業に追い込まれよ

ここ数年、不正送金の被害がインターネットバンキングの法人口座で急増しているという*1。その原因は今更言うまでもなく、Java実行環境(JRE)やAdobe製品の古いバージョンの脆弱性を突いてくるマルウェアである。しかしそれにしても、法人口座を扱うパソコンがなぜ、Java実行環境やAdobe製品をインストールしているのだろうか。インストールしなければ被害も起きないのに……。

その謎を解く鍵が、eLTAX(地方税ポータルシステム)にあるようだ。eLTAXでは、インターネットバンキングの口座を用いた納税ができることから、インターネットバンキング用のパソコンでeLTAXの利用環境も整えるということが普通になっていると思われる。そのeLTAXが、昨日までは、Java実行環境のインストールを強要していた。eLTAXはこの危険性を認識していたのか、3月11日の時点では、トップ画面に赤字で以下の注意書きを掲示していた。

画面キャプチャ
図1: eLTAXが利用後はJavaを最新版にせよと指示していた様子

これに関してTwitter界隈の様子を調べてみると、案の定、阿鼻叫喚が渦巻いていた。

これはけしてJavaが悪いわけではなく、アップデートしたくらいで動かなくなる(メジャーバージョンが変わったわけでもないのに)ようなeLTAXのアプレットの実装なり設計なりが悪い。おそらくは、起動時に「u73」のところのバージョン文字列をチェックして、所定の番号でない限り動かないように業者がわざと作り込んでいたのだろう。こういう話は2007年までに散々書いており、もうお腹いっぱいだった。

こうした類の問題は、国の政府機関についてはとっくに解決済みである。この2007年の報道で、厚労省の脆弱性放置が大々的に報じられ、当時の内閣官房情報セキュリティセンターが対応をとったことによる。現在の「政府機関の情報セキュリティ対策のための統一基準」では、以下の事項が規定されており、これに違反すれば政府機関は対応を迫られることになる。

遵守事項

6.3.1 (2) アプリケーション・コンテンツのセキュリティ要件の策定

(a) 情報システムセキュリティ責任者は、府省庁外の情報システム利用者の情報セキュリティ水準の低下を招かぬよう、アプリケーション・コンテンツについて以下の内容を仕様に含めること。

(オ) 提供するアプリケーション・コンテンツの利用時に、脆弱性が存在するバージョンのOSやソフトウェア等の利用を強制するなどの情報セキュリティ水準を低下させる設定変更を、OSやソフトウェア等の利用者に要求することがないよう、アプリケーション・コンテンツの提供方式を定めて開発すること。

解説

遵守事項6.3.1(2)(a)(オ)「脆弱性が存在するバージョンのOSやソフトウェア等の利用を強制する」について

行政サービスを提供する情報システムの提供において、当該情報システムを利用するために、府省庁外の事業者等が作成した汎用のソフトウェアやミドルウェアのインストールが利用者の端末で必要となる場合がある。この場合、利用者は府省庁から指示されたソフトウェアを自身の端末にインストールせざるを得ないが、指定されるソフトウェアのバージョンが古く、脆弱性が存在するものであると、利用者の情報セキュリティ水準を府省庁が低下させることになる。したがって、脆弱性が存在するバジョンのOSの利用やソフトウェアのインストールを府省庁が暗黙又は明示的に要求することにならないよう、アプリケーション・コンテンツの提供方式を定めて開発しなければならない。

(略)例えば、当該行政サービスを利用するために、第三者が提供している汎用のソフトウェアのインストールを必要としていたとする。このとき、当該ソフトウェアに脆弱性が発見され、それを修正した新バージョンのソフトウェアが公開された場合に、当該新バージョンのソフトウェアをインストールすることで当該行政サービスに不具合等が生じて利用が不可能になるような事態が発生すると、利用者は、当該ソフトウェアを新バージョンに更新することができなくなる。結果として、府省庁の行政サービスが利用者の脆弱性回避を妨げることになってしまう。こうしたことが起きないよう、行政サービスを提供するシステムは、第三者の汎用ソフトウェアの併用を前提とする場合は、当該汎用ソフトウェアが新バージョンに置き換わっても、正常に動作するように設計する必要がある。予期せず不具合が発生する事態が発生した場合にも、行政サービスを提供するシステムを修正することができるよう、迅速に新バージョンのソフトウェアに対応することを保守契約に盛り込んでおくことが望ましい。

(略)

なお、開発時に公開されているバージョンだけでなく、例えば、利用を想定しているブラウザの次期バージョンについて、ソフトウェアの配布前に情報が公開された状態又は試用版ソフトウェアが配布され動作検証可能な状態にあれば、前もって利用可能かどうかを検証するなど、その後に公開が想定されるバージョンにも対応できるよう、構築時に配慮することが望ましい。

遵守事項6.3.1(2)(a)(オ)「情報セキュリティ水準を低下させる設定変更を、OSやソフトウェア等の利用者に要求する」について

行政サービスを提供する情報システムを利用するために、利用者の端末にインストールされているソフトウェア(府省庁が直接提供していないソフトウェア(例えば、端末のOSやウェブブラウザ等))の設定変更を必要とするとき、その設定変更が情報セキュリティ水準の低下を招くものである場合、そのような設定変更を要求してはならない。必要があって利用者に設定変更を求めるときは、そのOSやブラウザの標準設定(初期設定)に変更することのみを求めるものとすること(略)

政府機関の情報セキュリティ対策のための統一基準, 内閣サイバーセキュリティセンター

しかし、この基準は地方公共団体には適用されない。日本国憲法92条がいう「地方自治の本旨」により、「地域のことは地方公共団体が自主性・自立性をもって、国の干渉を受けることなく自らの判断と責任の下に地域の実情に沿った行政を行っていくこと」とされているからである。eLTAXは地方公共団体が寄り集まって運営(組織概要参照)しているので、誰も彼らに指図することはできず、10年経ってもこのザマだった、というわけである。

Twitterにはこんな悲痛の叫びもあった。

これは、eLTAXが、JRE(Java実行環境)の開発者向けテスト用バージョンのインストールを一般人に強制していたからのようだ。eLTAXは去年の時点では以下の説明をしていた痕跡がある。

「Archive」とあるように、これは過去分の保管用のものであり、一般人向けのインストーラではない。URL中に「technetwork」とあるように、このページ自体がそもそも開発者向けのコンテンツである。そのため、「ダウンロードするには「Oracleプロファイル」が必要です。」という事態になっている。つまり、eLTAXは、一般人の利用者たちに、Java開発者の登録をさせていたのである。このばかげた手順は、以下の手順書にガッつり書かれている。

この手順書の指示通りに、http://www.oracle.com/technetwork/java/javase/downloads/java-archive-javase8-2177648.html#jre-8u66-oth-JPR のURLにジャンプすると、ページの途中へジャンプしてしまい目にすることはないが、このページの冒頭には、ちゃんとこういう注意書きがある。

画面キャプチャ
図2: eLTAXの指示通りにジャンプすると目に入ってこないページ冒頭部分の警告と注意書き

赤字のあたりに、「「警告:この旧バージョンのJREとJDKは、開発者が古いシステムのデバッグするのを補助するために提供されるものです。これらは、最新のセキュリティパッチが適用されておらず、実際の製品での使用は推奨されません。」とあり、下のところに、「Only developers and Enterprise administrators should download these releases.」つまり、「開発者及び企業の管理者以外の者は、これらのリリースをダウンロードしてはならない。」とある。eLTAXは、これを無視して一般人にインストールさせたばかりか、事もあろうに、この警告が目に入らないようにページの途中にリンクさせて一般人を騙し、Oracle開発者登録させ、インストールさせていたのである。これはもはや犯罪行為に等しい。

この話も10年前にもう書いていたので、正直お腹いっぱいだ。2005年には最高裁がこれをやらかしていた。(この当時は開発者登録は不要だったが。)

そのeLTAXが、今日からJavaのインストールが不要になったというので、冒頭の警告メッセージを以下のものに差し替えている。

画面キャプチャ
図3: eLTAXの本日からの画面

「Java実行環境をアンインストールしてください」としているが、Oracleプロファイルの会員登録削除も促して然るべきだろう。無論そのためには、開発者向けのことを一般人にさせていた己の不明を詫びなければ、理由の説明にならない。

それにしても、10年間怠惰に徹してきたeLTAXが、ここにきてJava実行環境を必要としない方法に改めた背景には何があるのか。脆弱性のあるJREをインストールさせていたことが、銀行の不正送金被害を許す原因となっていたことが判明して、シャレで済まなくなったのではないか。*2

この仕様変更のお知らせが、2月2日から出ていた。

「ActiveXコントロールのインストールが必要」とのことで、Twitter界隈はまたまた阿鼻叫喚で溢れていた。

そして、この変更に伴い、「初めてのeLTAXをご利用の方はこちら」のボタンから進むと出てくる「必要な設定」のページの「STEP3」が次のものに差し替えられていた。

嗚呼、これはシャレにならない。「署名済みActiveXコントロールのダウンロード」を「有効」に設定しろだと? 2016年にもなって新たにこれを書かなくてはならなくなるとは思いもよらなかった。以下の表を示したのはもう10年も前のことだ。どうしてこんな簡単なことがわからないの?

そもそも、実際にやってみればわかることだが、2006年にIE 7が出たときに、こうした危険な設定をしようとすると、設定画面がオレンジ色になって、警告が出るようになっている。*3

画面キャプチャ
図5: eLTAXが指示する設定をしようとするとIEが警告を発する様子

これまで脆弱性のあるソフトを入れろと指示し、利用者は皆それに従ってきたのだから、このような理不尽な設定でも従順に従う人が続出するだろう。そして、次は、日本の法人口座を狙う不正送金マルウェアは、eLTAX利用者がこの設定をしていることに目をつけ、ActiveXコントロールを用いたマルウェアで攻撃してくることになるだろう。

いったいいつまでこういう阿呆なことを繰り返すつもりか。法人口座から不正送金マルウェアでお金を盗まれたら、eLTAXを疑うとよい。eLTAXの指示に従ったせいで被害が出たことを示して、損害賠償を求め地方税電子化協議会を訴えよう。それ以外、誰にもこの無能どもを反省させる術はない。

*1 参考検索例:「法人口座 不正 送金 被害

*2 昨年6月に、日本税理士会連合会が「電子申告に関する要望事項(eLTAX編)」を地方税電子化協議会に提出しており、そこに「Javaを利用しなくても利用可能なシステムとすること。」が要望として出ていた。

*3 2006年5月13日の日記参照。


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