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【スポーツ】

[マラソン]田中智美、日本人最高位の2位でリオ五輪代表に

2016年3月14日 紙面から

2時間23分19秒の時計の前でVサインする田中=ナゴヤドームで(佐藤春彦撮影)

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◇名古屋ウィメンズマラソン

 ▽リオデジャネイロ五輪最終選考会を兼ねた▽中日新聞社など主催▽13日▽ナゴヤドームを発着点とする42・195キロ▽出場 エリート127人、一般1万9480人▽スタート時の天候 晴れ、気温8・9度、湿度43%、北の風0・2メートル

 その差はわずか1秒だった。マラソン五輪代表選考レース史上、空前のデッドヒートを制して日本人選手最高の2位に入ったのは、2時間23分19秒で走った田中智美(28)=第一生命=だった。田中と2位を激しく争った小原怜(25)=天満屋=は2時間23分20秒で3位。すでに五輪代表に内定している伊藤舞(31)=大塚製薬=に加え、唯一、派遣設定記録を破って大阪国際女子で優勝した福士加代子(33)=ワコール=が事実上の内定となり、田中も代表の座を確実にした。代表は17日に発表される。

◆監督と抱き合い涙

 わずか1秒の明暗−。ナゴヤドームに入る直前、田中がわずかに前に出る。37キロから繰り広げたデッドヒートも、残り100メートル。サングラス越しの顔をゆがませた。

 「誰よりも私がリオに行きたい気持ちが強いんだ。絶対に勝てる」

 ぶつけたのは強い思い。リオ切符へ、まっしぐらに駆け抜けた。追いすがる小原を振り切り、1秒差で激闘を制した。

 両腕を左右に大きく広げてのフィニッシュ。ゴールの瞬間、頭に浮かんだのは「早く飛びついていきたい」の思い。探したのは山下佐知子監督(51)だ。視線を泳がせ、見つけた。「監督がうるっとしている姿を見て、私もうわーっと涙が出ました」。左手で顔を覆った。あふれる涙をぬぐった。

 山下監督と何度も抱き合い、喜びを分かち合った。すぐ、はじけんばかりの笑顔に変わった。

◆尾崎好美さんの声

 レースは30キロでペースメーカーが外れると、一気に動いた。キルワが先頭集団を抜け出す。真っ先にくらいついたのが田中だ。「目標は優勝」。最大の難所でもある33キロすぎの上り坂も一気に駆け上がった。

 逃げるキルワを必死に追った37キロ手前、粘る小原に並ばれた。「小原選手に追い付かれたときが一番きつかった。ここで絶対あきらめちゃいけない」と、気持ちを奮い立たせた。

 時折、顔をゆがめながらの激闘。支えたのは沿道からの声だった。「トモ(田中の愛称)、そのままでいい。その調子でいい」。声の主は尊敬する先輩、第一生命でアドバイザーを務める尾崎好美さんだ。田中が力をつけたのは、世界選手権銀メダリストの尾崎さんの練習パートーナーを務めてから。2012年ロンドン五輪は、現地で尾崎さんを応援した。

 陣営は尾崎さんを18キロと40キロ地点に配置。声ははっきりと届いていた。「やっぱり安心感がありました」。さらに勇気づけられたのは、自分への声援だ。「最初から涙が出そうだった」。最大の勝因は「私の応援が一番多い。絶対多かった、と思いながら走ったから」と笑顔で語った。

◆「メダルを目指す」

 ほぼ手中にしたリオ切符。「今回はもう決まったと自分の中では思ってます」と、会見で言い切った。14年横浜国際を優勝したにもかかわらず、15年世界選手権代表の座を逃した。走りが消極的と指摘された落選から1年。積極的なレースで自己記録を2分46秒縮めた。今度こそ、リオ五輪行きを確信した。

 「出るからにはメダルを目指す」。劇的なレースの末に誕生したニューヒロインが、リオでも再び主役の座を狙う。 (福沢和義)

 

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