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 児童扶養手当や児童手当など公的手当の多くは、数カ月おきの「まとめ支給」になっています。これが、低所得世帯の収入を不安定にし、家計破綻(はたん)の危険を高めると、昨年末に記事「ひとり親 波打つ収入、綱渡り」で指摘しました。その上で、少しずつでも毎月支給する方が、家計を安定させるのに有効だと提案しました。記事に寄せられた意見や、毎月払いを実践している例を紹介します。

■「自制心」の問題ではない 大竹文雄・大阪大特別教授

 公的手当の支給頻度を上げることは、低所得者の生活破綻を防ぐ有効な方策です。

 「自制心がないから計画的にお金を使えない」という批判もあります。ですが、「不合理」ともいえる人間の行動や意思決定について研究する行動経済学の観点で見ると、「自制心」で片付けられない問題と分かります。

 私たちが計画的にお金を使えないのは、将来より今日を優先してしまうという人間共通の性質のためです。

 1年後の1万円か、1年と1週間後の1万100円か、という選択なら後者を選ぶ人が多い。しかし、多くの人は、今日の1万円か、1週間後の1万100円か、という選択では、今日の1万円を選ぶ。遠い将来なら我慢強い選択ができても、今のことならせっかちになるのです。

 ダイエットの計画を先延ばしするのも、将来の健康より、目の前のごちそうを優先した結果。こうした行動特性は、行動経済学で「現在バイアス」と呼ばれます。

 最近の研究では、貧困状態に陥った人は、今日明日を乗り切ることにはたけるが、急を要さないことは先延ばしにする傾向が強まるということが知られています。自制心がないと言うより、私たち誰もがもつ「現在バイアス」が、困窮状態に陥ると、顕在化してくると言った方が正しいのです。

 こうした人間の性質を踏まえると、公的手当のまとめ支給が、差し迫った支払いをどうするかで頭がいっぱいの人には、どれだけ酷な制度か分かるでしょう。支給を小分けにすれば、支給前後の現金の多寡の差が緩和され、ほどほどの状態に近づきます。支給直前の現金不足の心配が減り、先々のことを考える余裕も生まれます。

 行動経済学の成果を政策に活用する動きは、海外では既に始まっています。日本でも、実証に基づいた政策づくりを本格化すべき時期です。

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 おおたけ・ふみお 61年生まれ。専門は労働経済学、行動経済学。NHK「オイコノミア」出演中。

■「毎月支給は工夫次第」 倉田哲郎・大阪府箕面市長

 補助金を毎月支給する自治体もあります。大阪府箕面市は私立幼稚園児の保護者に、年15万~30万円の補助金を毎年5月から毎月支給しています。倉田哲郎市長に話を聞きました。

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 私立幼稚園の授業料は、月2万~3万円かかります。補助金で保護者の経済的負担を軽くし、幼児教育を受けやすくすることが目的です。従来、11月と3月の年2回支給でしたが、毎月支給にできないか、自分から提案しました。

 年2回支給だと、保護者は支給月まで全額自腹で授業料を立て替えなければなりません。後で十数万円をまとめ支給されても、効果をどれだけ実感してくれているのか。年間の支給総額は同じでも、毎月口座に入った方が、市に子育て支援を受けていると、もっと実感できるだろうと思いました。

 担当部署に毎月支給を提案すると、「無理です」と言われました。6月に課税額が確定するのを待たなければいけないというのです。前年の所得で決まる課税額が、補助額を計算する根拠になります。その後も数千人もの保護者への補助額を計算する時間が必要、といわれました。

 ならば補助額の確定までは、どんな所得額でも受け取る最低額を仮払いしようと言いました。確定後、残額を分割して毎月支給すればいい。

 保護者には好評です。他市との違いが話題になるようです。

 こうした経験から、児童手当も児童扶養手当も自治体の工夫で毎月に近い頻度で支給できると思います。

 児童手当の支給事務の担当者によると、毎年6月の現況届提出後、内容の確認と全データの入力に、1、2人のアルバイトで3カ月かけているそうです。システム改修と入力機器の買い増しが前提ですが、アルバイトを3倍にすれば、人件費はほぼ変わらず、1カ月に短縮できます。

 自治体が独自に支給頻度を上げるには、法改正が必要です。各手当の支給月は、条文に「2、6、10月」(児童手当法)、「4、8、12月」(児童扶養手当法)とかっちり書き込まれているからです。

 条文を「毎月」と変えるには、合意形成に非常に時間がかかります。であれば「年3回以上の支給」などの表現に改めてはどうでしょう。それだけで各自治体の判断で、支給頻度を増やす根拠が生まれます。先駆けて始めた自治体での効果や手法を共有すれば、他自治体にも広がっていくでしょう。

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 くらた・てつろう 74年生まれ。総務省課長補佐などの後、08年初当選。10年、16日間の「育休」取得。

■皆さんからの意見は

 「まとめ支給」と家計のやりくりについて、ひとり親の方々から経験談が寄せられました。

 昨年離婚した佐賀県の40代女性は、同年12月、最初の児童扶養手当を受給しました。ひとまず2カ月先の家賃と子どもが通う保育園の保育料が確保できて一息つく一方で、4カ月に1度しか入ってこないことをつい忘れてしまい、上手に使いこなせず、苦慮しています。「臨時収入のような感覚になり、財布のひもが緩んで、いつもより買い物をしてしまった。せめて隔月支給にしてもらえたら、家計を把握しやすいし、気持ちの面でもかなり楽でしょう」

 中高生の子ども2人と暮らす千葉県の女性(44)は「手当のまとめ支給を見越して収支をとらえ直すのは、1人でやるのはなかなか難しい。ましてやパートなど、仕事の収入が不安定な状況ならなおさら」といいます。

 偶数月に児童扶養手当や児童手当を受給していますが、入金直後に別の銀行口座に移し、大きな出費の時以外はなるべく手を付けません。月々の生活費は、パートの給料11万~13万円と元夫の養育費5万円で暮らすようにしています。「手当はないものと考えて家計を運営している。もうすぐ手当が入るからこれを買おう、などと出費のあてにしていると、手当のない月の赤字を埋められず、自転車操業に陥ってしまう」

 社会人と高校生の子どもがいる熊本県の女性(53)も、「子どもの学校行事や休日などで仕事が減ると、給料の手取りも減る生活。持ち家なので、月10万円の生活費の範囲で暮らしている。手当は、基本的な収入から外し、なるべく手を付けずにとっている」。一方、3人の子がいる東京都の女性(53)は「子どもの進学にあわせた唯一の貯蓄源。まとめ支給はありがたい」といいます。

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 昨年末の記事では、九州の生協グリーンコープ連合の相談員による、困窮者対象の家計再生支援事業を紹介しました。偶数月に手当が入ると封筒によけておき、手当の入らない奇数月に補う。このやり方を相談員が助言し、当事者のやりくりが改善できた事例を紹介しました。これに対し、京都市の女性は「4カ月分まとめて受給されたのなら、それを1カ月ごとに使うだけのこと。いい大人がこんなことを教えてもらわないとできないのかとあきれ果てた」という批判を書いています。

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 資金回収の仕事に携わった経験から「支給頻度を上げることは有効」と意見を寄せた方もいます。

 神奈川県の会社顧問、青木叡介さん(69)は設備機械製造会社で、世界各地の現地法人の割賦販売制度の構築や改善に取り組みました。

 欧州の現地法人では2カ月に1度、機械の販売先から購入代金を返済してもらっていました。しかし、借り手の半数以上は返済が滞りがちでした。「売り手にとっては隔月の方が手間や経費が省けます。でも、どこもぎりぎりの資金繰り。苦しくなると翌月の返済用の金をその日の運営に使ってしまっていました」。現地法人に助言し、返済と督促の頻度を隔月から毎月に変えると、延滞はほとんどなくなりました。

 「支給と返済は別ですが、小分けにすれば改善するという点で通じる。低所得世帯のやりくりは、資金の乏しい中小企業と似ています。支給や督促の頻度を増やせば、資金繰りの改善が期待できると思います」

■「収入の波」の間で暮らす人の多さに驚き

 2カ月に1度の支給もやりくりが大変、というお便りが、年金受給者から来ました。まとめ支給による「収入の波」の間で暮らす人の多さに驚きました。賃金で生活する人たちは、月1回以上の賃金払いが労働基準法で定められています。公的手当を受けるひとり親からは「(やりくりに苦慮するのは)自分のやり方が間違っているからだと思っていた」というお便りもきました。個人の財布から見える制度の課題を、様々な形で伝えていこうと思います。(錦光山雅子)

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