ドイツに操られるECB
3月10日、ECB理事会は投資家の期待を上回る包括的な追加緩和策を発表した。それにも拘わらず、記者会見でドラギ総裁が更なる利下げの可能性を否定する発言をしたことが投資家の失望を買い、金融市場は初動の動作として、ECBの意図と反対のユーロ高、ドイツ等の金利上昇の方向に進んだ。
今回のドラギ総裁の発言は、中央銀行がマイナス金利の悪影響を警戒していることを示している。それ以上に重要なことは、総裁自ら今後の利下げに否定的な姿勢を示したことだ。その発言によって、投資家の期待を利用して金融政策の効果を高めようとする“ドラギマジック”が限界を呈したことだろう。
今回、ECBは大きく5つの追加緩和措置を発表した。具体的には政策金利を0.05%から0%に引き下げ、中銀預金金利は-0.4%に引き下げられた。また、量的緩和策の規模を200億ユーロ増額し、月当たり800億ユーロとした。そして、金融機関以外の投資適格級社債の買い入れ、長期資金供給策(4年)も組み入れたのである。
この発表は、金利、量、質の3次元から物価安定を強力に支える考えを示している。特に、社債の購入や量的緩和の200億ユーロ積み増しは投資家の予想を上回る内容だった。そのため、追加緩和の発表直後、市場はECBの政策を好感してユーロ安や欧州金利の低下が進んだ。
問題は、記者会見でドラギ総裁が物価安定に強い決意を示しつつも、更なる利下げを否定したことだ。これは、今後の追加緩和(利下げ)がユーロ安圧力を高めるという、市場の見方を後退させた。そして、多くの投資家は、ECBが追加緩和に反対してきたドイツの意向に左右されているという懸念を高めたはずだ。
ドラギ総裁がマイナス金利の拡大を否定する姿勢を示したのは、2月上旬にドイツ銀行の信用リスクが急上昇したことへの懸念があったからだろう。マイナス金利が深まるほど、国債の保有は容易ではなくなり、市場では短期の売買によるマネーゲームが横行している。
その結果、多くの金融機関は少しでも効率的に収益を得ようとして、デリバティブや証券化スキームを用いた事業を重視してきた。ドイツ銀行の業績はこうしたリスクの高いビジネスでの損失が原因だ。そのため、ドラギ総裁は際限なくマイナス金利が拡大し、金融機関の収益基盤が悪化することを恐れたとみられる。