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沖縄に是正指示  円満解決が遠のくだけ

 急転直下の和解からわずか3日後の手続き着手は性急で乱暴すぎる。しかも、文書を郵送で送り付けたという。膝をまじえた話し合いなしに難題解決はありえない。
 沖縄の米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設をめぐり、石井啓一国土交通相が翁長雄志沖縄県知事に対し、名護市の辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消した処分を是正するよう指示した。
 是正指示は代執行訴訟の和解条項に基づく手順とはいえ、和解で合意した国と県の再協議は一度も開かれていない段階での指示は高飛車とのそしりを免れない。
 普天間飛行場の辺野古移設では昨年から三つの関連訴訟が相次いでいた。このうち、前知事が行った辺野古沖の埋め立て承認を翁長知事が取り消したことに対し、国が取り消し撤回を求めていた代執行訴訟で4日に和解が成立した。国が辺野古の埋め立て工事を中止し、県との訴訟合戦を収束させて話し合いを仕切り直す内容だ。
 和解の定義は、当事者が互いに譲歩して双方の間にある争いをやめることとされる。争いを棚上げした静かな環境の中で、双方が対話によって再び解決の道を探るのが本来の姿であるはずだ。円満解決に向けた協議を行うことも、和解に盛り込まれている。
 解決が不可能な場合は第三者機関「国地方係争処理委員会」による審査に委ねる。審査を経て最終的に高裁に提訴し、双方は確定判決に従うことでも合意している。
 石井国交相による是正指示は、いずれ想定されたというものの、政府との対話に期待した沖縄県民を失望させたことは間違いない。翁長知事が「結論をいい方向に出そうという(協議の)入り口でこういう形でやるのは大変残念な気持ちだ」と反発するのは当然だ。
 和解が6月の沖縄県議選や夏の参院選を見込んだ政権の対話ポーズだったとの疑念が残る。頭ごなしに手続きを急ぐ姿には辺野古への移設を「唯一の選択肢」と繰り返す安倍政権の強権的な手法が見隠れする。
 一方で、基地の「県外移設」は沖縄県民が翁長知事に託した民意でもある。和解を契機に、地方自治の在り方を問う論点をもっと深めるべきだ。
 普天間飛行場の返還について、日米両政府が合意して4月で20年になる。この間、沖縄の基地負担は軽減されていない。和解について、裁判所は「オールジャパンで最善の解決策を示し、米国の協力を求めるべき」と説明している。見せかけの和解は許されない。

[京都新聞 2016年03月09日掲載]

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