[PR]

 5年前の3月14日、原発事故の影響で静まりかえった福島県いわき市の駅前で1軒の洋菓子店に明かりがついていた――。そうつづった投稿が今月11日の朝日新聞生活面「ひととき」に掲載された(東京、名古屋本社版)。その店は今も同じ駅前でケーキを並べ、人々の心を和ませている。

 「このお菓子、売ってくれるんですか」

 「もちろんです、今日はホワイトデーですから」

 その日、投稿者の井坂美誉(みよ)さん(51)に笑顔で答えたのは、JRいわき駅前にある「アンジェリーク」の伊藤志保さん(41)だ。

 伊藤さんは9年間の修業を経て念願の店を地元に開いた。それから6年後の3月11日、震災に襲われた。

 店は水道管が破裂し、皿や酒瓶が割れて散乱。3月12日には東京電力福島第一原発の1号機が爆発。南方40キロの所にあるいわき市も一時は人通りが途絶えた。

 「お店どうしようか」。夫の亨(とおる)さんと相談した。ホワイトデーの予約が十数件入っていたが、電話はつながらず、家を探して訪ねても無人だった。

 「もし来てくれた時に、店を閉めていたら迷惑がかかる」と考えた。3月は卒業や門出の季節。お祝いする気になれなくても、少しでもお客さんの気持ちが明るくなればと思った。