- 作者: 芥川龍之介
- 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
- 発売日: 2011/04/15
- メディア: 文庫
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ここはインターネット。愛想笑いと社交辞令で塗り固められた空虚で無慈悲な現実への本音の出せる場所。上辺だけを繕った虚構だらけの残酷な現実に苦しめられている、名前も分からぬ一人の女性の悲痛な叫びを国会へも届かせる、リアルでは無残にかき消されてしまうような声が現実と繋がることもある、一筋の希望の光を見いだせる場所。
「異種交流会で名刺交kウグッ、ベンチャー企業社長のブログを読んでアウトプット力をつけて圧倒的成長しtアガッ」
石のあたる鈍い音と、それに合わせて悲鳴があたりに響き渡る。
『何をしているのですか?』
「あっ、キリスト様。アイツに石を投げているのですよ。」
『何故、石を投げつけているのですか?』
「そりゃあ、アイツが意識高い系だからですよ」
『何故、意識が高い系は石を投げつけられねばならないのですか?』
「だって、見ててなんかイライラするじゃないですか。何だかよく分からん会合に行っては人脈ができて云々とかSNSで言いふらし、変なベンチャー社長の書いた本を買ってはそれをわざわざスタバでMacBookAirも写るように撮ってインスタグラムに上げて、そういう仕事できます成長してますみたいな報告は逐一するクセに、肝心の行動に関する報告はしてこないんですよ。そのポーズだけはしてるのがなんかムカつくからですよ。」
『そうですか』
そう言って、何かを悟ったかのような顔をして、彼は石を投げつける者達の前に立ちはだかり、まくし立てた。
『あなた方がイライラするのはわかりました。ですが、あなた達とて石を投げつけられている彼らと同じではないのですか?仕事中にも関わらず、やる気がでないとかいいながら毎日のようにライフハッカーとかまとめサイトを巡回し、ライフハック記事を読み漁っては「これはすごい!」とか言いながらその記事をツイートしたりブックマークしても、肝心のライフハックは実践しない。実践どころか、次の日にはどんなライフハック記事を読んでいたかさえ覚えていない場合もあるでしょう。多くの人間にツイートされブックマークされスマートニュースに掲載されるライフハック記事は毎日のように生まれているのに、一体どれだけの人数がそのライフハックを行っているのですか。ライフハックだけではありません。月に1回は話題になる、英語を読み書きできるようになるにはこれが便利!みたいな記事だって同じです。多くの人間がその記事を賞賛しても、そのうち一体どれだけの人間が、実際にそこで紹介されているものを使って英語の勉強をしているのですか。週に1回は話題になる仕事術の本まとめだって同じです。仕事をサボりながらはてブを見て仕事術の本10選とかをブックマークしているのがどれだけ滑稽か、言わなくとも分かるでしょう。仕事に関するものにとどまりません。あなたたちは面白いマンガ100選!とか泣けるアニメ100選!みたいなのをブックマークしておいて、本当にそれらを読んだり見たりしているのですか?どうせそれらも「あとで読む」とかなんとか言ってブックマークだけはしておくのに、絶対にあとで読むことはないとか、そんな感じでしょう。あとで読むとか言って、本当に週末あたりにブックマークの棚卸しをしてい読んでいる人間はどれだけいるのですか?そうやって「あとで読む」なんてポーズだけとっておいて、本当は読まない。ライフハック記事を有難がっているくせに、実践しない。あなた達の行為とて彼らと同じではないのですか?本当にライフハック記事を試している人間だけ、彼らに石を投げなさい!本当にあとで読んでいる人間だけ、彼らに石を投げなs
「うるせえええ!!屁理屈ばっかり並べやがって!こいつも意識高い系だ、やっちまえ!!」
「「「うおおおお!!!」」」
先刻までとは違う方向から、石のあたる鈍い音と、それに合わせて悲鳴が響き渡る。
「グチグチ言ってんじゃねーよ死ね!」
「揚げ足とっていい気になってんじゃねえぞボケ!」
「そもそも論点がズレてんだよカス!」
「自分だけが正しいと思ってんなよタコ!」
「あとで読む!」
「早くインターネットやめちまえバカ!」
しばらくして、怒りの咆哮と石の嵐がおさまり、投石によって巻き上げられた砂埃も消え始める。屁理屈ばかりを並べ立てていた彼は、血みどろになりながら地面に突っ伏し、ピクリとも動かなくなった。もう彼にはリムーブやブロックをしたり、読者をやめるボタンを押す力さえも残っていない。彼に石を投げていた人間たちは、新たな石を両手にもち、別の矛先を求めて何処かへ行ってしまった。石を投げていた人間たちの一人が、突っ伏したままの彼の元に駆け寄り、捨て台詞を吐いていった。
「アンタ、よそじゃ神だのなんだのって持て囃されて偉い顔してるみたいだけど、ここじゃアンタみたいなのは神なんて呼ばねえんだよ。インターネットじゃキリストは神じゃねえ。インターネットにいるのは女神だけ。エッチな自撮りを晒してくれる人たち、それだけだ。」
彼は突っ伏したまま、その捨て台詞を聞き、最後の気力を振り絞って、わずかに動く人差し指で「退会」ボタンを押す。
ここはインターネット。罪深く、欲深く、業の深いエゴとエゴがぶつかり合う混沌の場所。その魂の争いは新たな混沌を生み出し、全てを戦火に巻き込み、全てが灰燼に帰する。唯一の希望たる一筋の光は、その争いで巻き上がった灰と砂埃によって、地に射すこともなく見えなくなった。ここは、インターネット。